エシカルファッションとは?普及への課題と解決に取り組む事例を解説
エシカルファッションという選択肢は徐々に広がりつつありますが、選択肢が少ない、手軽に買える場所がないといった課題を感じる消費者は少なくありません。
この記事では、エシカルファッションが必要とされる背景とともに、エシカルファッションの現状と課題を解説します。
加えて、ファッション産業の社会課題の抜本的な解決を目指し、包括的なアプローチを取るブランドの事例を、消費者の視点とビジネスの視点の両面から詳しく紹介します。
エシカルファッションの必要性を確認し、エシカルファッションの課題を紹介しながら、課題に取り組むブランドの事例からエシカルファッションを実践するインスピレーションをお届けします。
もくじ
エシカルファッションとは?エシカルファッションが必要とされる背景とともに解説
本記事で取り上げるエシカルファッションの定義を紹介し、エシカルファッションが必要とされる背景に存在する大きな社会課題を解説します。
「エシカルファッション」が指す取り組みは多義にわたるため、ここで本記事におけるエシカルファッションの定義を確認します。環境省が「エシカルファッション」とほぼ同義の「サステナブルファッション」を定義しているので、本記事では環境省の定義をベースにしていきます。
サステナブルファッションの定義におけるポイントは、以下の3つです。
・生産から着用、廃棄までのプロセスを包括して考える
・地球環境に配慮する
・ファッションに関わる人や社会に配慮する
上記をまとめると、「衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組み」と定義できます*1 。
「サステナブルファッション」は、エシカルな取り組みの中でも特に環境問題に着目した言い方です*2。当記事では、サステナブルファッションの定義に当てはまるファッションを「エシカルファッション」として扱っていきます。
エシカルファッション普及の上での課題
エシカルファッションは徐々に世間のなかに普及しつつも、現状さまざまな課題があります。ここでは、エシカルファッションの普及における課題を解説していきます。
ファッション産業の問題1:環境問題
現代のファッション業界は、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした構造になっており、環境への負荷が極めて大きくなっています。
特に衣服の廃棄の問題は甚大で、世界全体で1秒ごとにトラック1台分の衣服が捨てられています*2 。1人が服を1年長く着ることで、廃棄される服を年間4万トン減らせるとも言われている*3 にもかかわらず、衣服の大量廃棄は続き、資源を浪費しています。
服を買って捨てるのが当たり前になっている消費者が多く、衣服を購入して捨てるスパンが非常に短いのが、現代のファッション消費の特徴です。
資源の浪費や焼却処分の際のCO2排出の問題だけではなく、マイクロプラスチックの問題も発生します。衣服から発生するマイクロプラスチックは毎年50万トンも海洋に放出されています。
また、ファッション産業は大量のCO2を排出しています。衣服の生産段階だけで、人間活動のCO2排出量の10%を排出していると言われます。これは航空と海運で排出されるCO2の合計よりも大きい値です*2。
衣類を生産するうえで、大量の水が消費されることも問題視されています。水不足で困窮する地域もある中、ファッション産業は年間で500万人の生活に必要な水を使用しています*1 。
このようにファッション産業は地球資源を大量消費し、環境に甚大な負荷をかける構造になっています。
ファッション産業の問題2:人権問題
衣服の生産拠点の多くは発展途上国にあり、労働者の搾取や人権の軽視といった問題を抱えています。
ある工場ではごみの粉末が工場内を舞い、工場で働く人たちは粉末や見えない化学薬品などを吸い込んでしまう環境だったといいます。また、衣類の納期が厳しく、労働時間が長くなる労働問題も発生していました*4 。
衣服生産段階での労働や賃金の問題が知られ、「エシカルファッション」に注目が集まり始めたのは2010年頃です*5 。
世界がファッション産業の問題に注目したのは、2013年に発生した「ラナ・プラザの悲劇」という事故がきっかけです。この事故では、バングラデシュのラナ・プラザというビルが崩壊し、1000人以上が犠牲になりました。
ラナ・プラザには、世界的なファッションブランドの下請け縫製工場がいくつも入居していたことから、ファッション産業が途上国の人たちに長時間・低賃金労働や児童労働を強いていることが明らかになりました*6 。
また、新疆ウイグル自治区で生産される「新疆綿」は多くのブランドが採用していましたが、中国政府によるウイグル族の強制労働の疑いがあるとして欧米で問題視されています*7 。
欧米諸国は、中国政府がウイグル族に強制労働を課している疑いがあるとして、新疆ウイグル自治区で生産される「新疆綿」の使用を問題視しています。多くのブランドが以前はこの綿を採用していました。
このように衣服の生産段階では、途上国の人々の人権を搾取して安い衣服を製造していることがあります。生産に携わる人々の人権問題や労働問題は、ファッション産業が抱える大きな課題です。
エシカルファッションが普及しない理由は?課題を解説
ファッション産業の問題が露呈しながら、いまだにエシカルファッションが普及しないのはなぜでしょうか。主な課題とその背景を解説します。
ファッション産業の問題が知られていない
先ほど紹介した「ラナ・プラザの悲劇」は、日本を含め世界中で報道されました。しかし、消費者の多くが事件をファッション産業の問題に結びつけなかったようです。
消費者庁の2021年の調査では、約6割の消費者がファッション産業の環境負荷やサプライチェーンの問題を知らないと明らかになりました 。衣服を購入するときにサステナビリティを考慮するのはわずか1.7%という調査結果も出ています*7 。
ファッション産業の裏にある深刻な搾取の問題が知られていないため、エシカルファッションを選ぶ意識が芽生えないのが、エシカルファッションが普及しない大きな原因だと考えられます。
消費者が感じているエシカルファッションの課題
消費者庁による調査の結果、エシカルファッションに関心のある消費者は、以下のような課題を感じていました*7。
・リサイクルしにくい
・リペアやリユースの情報提供が不足している
・一般的な服より価格帯が高い
上記の課題に対して、下図のような要望が実現すれば、より日常的にエシカルファッションを選択しやすくなると考えられます。
エシカルファッションに関心を持っていても、購入に至るまでに疑問を感じてしまうことが読み取れます。
店舗で購入できない
多くのエシカルファッションブランドは、通販のみで展開しており、実店舗で試着できるブランドはほとんどありません。
店舗を持たないことは、コストを削減して価格帯を下げる意味があるものの 、素材を確かめたり試着をしたりできないことは、エシカルファッションを試すハードルになっていると考えられます。
エシカルファッションを買うからには、長く着続けたいと思う消費者が多いと考えられます。しかし、実店舗がなく試着ができないと、身体に合わなかったり似合わなかったりして、「タンスの肥やし」になってしまう可能性が高まります。それではエシカルな買い物とはいえません。
また、消費者庁の調査にあったように、エシカルファッションは一般的な衣服より価格帯が高い傾向にあります。試着をせずに比較的高価な衣服を買うのに躊躇することもあるでしょう。
若者が手に取りにくい
ファッションに関心が強い若者にとって、エシカルファッションが親しみにくいことも普及を阻害しています。エシカルファッションの商品の価格帯は1万円以上であることが多く、学生や若い社会人はどうしても2000〜3000円台のブランドに流れてしまいます。また、「どうせ高価な服を買うなら有名ブランドがいい」という発想もあるでしょう。
また、多くのエシカルファッションブランドは、長く衣服を着続ける前提で流行を追わないクラシックなデザインを取り入れています。そのため、流行のファッションを楽しみたい若者とはマッチしづらい面があります。
最新のトレンドを取り入れることがおしゃれという認識が強いと、、エシカルファッションを手に取る習慣が根付きにくいと考えられます。
エシカルファッションが高価な理由
エシカルファッションを購入する大きなハードルの1つが価格です。一般的に売られている服より高価な傾向にあり、購入しづらい理由になっています。たとえば、とある大手ファストファッションブランドの白Tシャツは1,000円以下〜1500円ですが、あるエシカルファッションブランドの白Tシャツは8,000円台です。
なぜエシカルファッションの価格帯は高いのでしょうか。まず一般的な服の生産状況から解説します。
ファッション産業では大量生産が前提となっており、効率を重視して環境負荷の高い農薬や化学薬品を使ったり、大規模な工場で人権を無視した労働環境で生産されていたりします。
そして、余剰文の衣服は廃棄され、さらなる環境負荷を発生させてしまっています。
エシカルファッションでは、コストが高くなっても環境に配慮した製造方法で、余剰が発生しないように小規模生産をします。またフェアトレードを重視し、労働者に正しい対価を支払います。
つまり、一見高価に思えるエシカルファッションの価格こそが、本来の衣服の価格なのです。一般的に売られている安価な服は、環境や途上国の労働者に負担をかけることで成り立っていると言えます。
しかし、結果的に高価であることが普及のハードルとなっていることもまた、エシカルファッションに対する意識調査から読み取れる事実です*7 。
本当にエシカルなのか?「エシカルファッション」を謳う大手ブランド
近年では、大手ファッションブランドが古着の回収に取り組んだりアップサイクルをしたりなど、エシカルファッションに向けた取り組みをしています。しかし、ファッション産業の根本的な問題に取り組んでいるとは言えません。
大手ブランドはサプライチェーンが明確でなく、素材の調達から販売まで、本当にエシカルな視点で生産されているか不透明です。実際、エシカルファッションを謳いながら、製品の素材に人権侵害の疑いが指摘された大手ブランドもあります*6 。
そもそも、ファッション産業の問題は大量生産・大量消費・大量廃棄から生じています。いつでも新品が棚に並び、売り切れないように大量に製造し、余ったらセールで売り、残りは廃棄するというサイクルを繰り返している限り、本当の意味でエシカルファッションに取り組んでいるとはいえません。
しかし、消費者にエシカルファッションについて考えさせるきっかけを与える旗振り役としては機能しているのかもしれません。
エシカルファッションに取り組むブランドの事例
大量生産・大量消費・大量廃棄を避け、それぞれのアプローチでエシカルファッションに取り組むブランドを紹介します。
Enter the E
幅広いテイストと価格帯を取り揃え、エシカルでありながら手に取りやすいアイテムをセレクトするEnter the E。創業者の植月氏は元々ファッション業界で勤務し、服を買い漁り、ついには借金を抱えるまでに。そこで「目が覚めた」という植月氏は、ファッションを模索するうちにファッション産業の裏にあるさまざまな問題を知り、Enter the Eを立ち上げました 。
Enter the Eは、エシカルファッションに関心があってもアイテムを手に取れる店舗がない、着たいと思う服がないといった課題意識を背景にしています*8 。
Enter the Eの商品は高いデザイン性と手に取りやすい価格を意識してセレクトされており、幅広いテイストのファッションにフィットします。商品は環境負荷の少ない素材を利用し、フェアトレードや職人の支援で労働問題もクリアしています。
2021年に渋谷スクランブルスクエアにストアをオープンし、商品を手にとって試着できるようになったのも消費者にとって嬉しいポイントです。Enter the Eのアイテムはその場で購入できるものと受注商品となっており、在庫を抱えないことで大量生産・大量廃棄の問題に向き合っています*9 。
また、デニムをアップサイクルするプロジェクトを実施し、衣服を廃棄するプロセスでもエシカルな方法を提案しています*10 。
筆者も実際に通販でTシャツを購入してみました。包装の袋は必要最小限で、コンポスト可能なプラスチック製。誠実なこだわりに感動しました。
KAPOK KNOT
KAPOK KNOTはインドネシアで栽培されている「カポック」という植物の実を使ったダウンコートのブランドです。
創業者の深井氏は実家のアパレルメーカーで子どもの頃からファッション業界の状況に触れ、このまま大量生産・大量廃棄を前提としてファッション産業を続けていくのには無理があると感じたといいます。
KAPOK KNOTのコンセプトは「Farm to Fashion」で、カポックの生産から製品化までを一貫して行うという意味が込められています。深井氏はブランド立ち上げ時にカポック生産のサプライチェーンを確認するためインドネシアの農園を訪ね、徹底してサステナブルなファッションを追求しています*11。
カポックを利用する最大のメリットは環境への優しさです。木の実由来なので木を伐採することなく繊維を生産できます。また、一般的なダウンコートは1着あたり約30羽の鳥の羽根を使いますが、KAPOK KNOTなら動物の搾取をせず温かいコートを手に入れることが可能です。
また、KAPOK KNOTはパリコレブランドの元デザイナーを起用することで、デザイン性にもこだわっています。「機能に加えてデザインが好き」と言われるほどデザインに定評があり、おしゃれなエシカルファッションのバリエーションを増やしています*11。
coxco
「おしゃれ」にこだわるエシカルファッションブランド「coxco」は、シリーズごとにフォーカスする社会課題を決め、各課題にファッションを通じてアプローチしています。2020年の「vol.0」ではファッション業界の大量廃棄問題を扱いました。
元々ファッションが大好きだという創業者の西側氏は、世界中を回りストリートファッションを撮影するプロジェクトに取り組んでいました。その中でどの都市でもボロボロの服を着ている人に出会い、NPO法人DEAR MEを立ち上げたものの、活動を続ける中で自分のやりたいことがNPOの枠に収まらないことに気づき、株式会社coxcoで「ファッション ✕ 社会課題解決」を追求することになります。
coxcoのシリーズは社会性を一番の軸としていますが、必ず洗練された商品を作ることも重視しています。実際に、coxcoの購入者はビジョンに共感した人もいれば、商品そのものがかわいいから買ったという人もいます*12 。都会的なデザインで、スタイルそのものが好きになれるエシカルファッションを提供するブランドです。
LOVST TOKYO
LOVST TOKYOは、廃棄リンゴで作れたヴィーガンレザーでトートバッグやリュックサックを展開しているブランドです。
代表の唐沢氏は、もともtヴィーガンに対してあまり良いイメージを持っていなかったとのこと。しかし、シリコンバレーでヴィーガンがライフスタイルの一部として浸透しているのを目の当たりにしたことをきっかけに、ヴィーガンファッションブランドを立ち上げました。
食ではなくあえてファッションを選んだのは、ヴィーガンを知る選択肢を広げられるから。LOVST TOKYOのカバンを通じてヴィーガンを知ることで、自分で食べるものや身につけるものを選択できるようになって欲しいと唐沢氏は語ります*13。
LOVST TOKYOのカバンは、皮革のような手触りで強度も心配ないと評判です。現在はオンラインショップを中心に展開しているものの、ポップアップイベント等のオフラインでの販売機会も増やしています。
スマセル
エシカルファッションブランドではないものの、衣料ロスを売り切る仕組みで大量廃棄を防ぐサービスも存在します。
スマセルは、アパレル企業の余剰在庫をユーザーがお得に購入できるマッチングプラットフォームです。SDGsが浸透するにつれてアパレル企業の意識も変わってきて、在庫の廃棄を避けたいという需要が発生していることから、サービスは順調に成長しています。
購入者としてはお得に衣類を買えることはもちろん、購入時にCO2の削減量が見えるため社会貢献をした実感が得られることもメリットです。お得に買えて社会貢献もできる、その両方に魅力を感じてリピーターになる人が多いといいます。
創業者の福屋氏は、「ファッションロスをなくせた未来を100%だとしたら、まだ1%も達成できていない」と問題意識を語ります。福屋氏がスマセルを通じて目指すのは、ファッション業界全体を巻き込んでエシカルなファッション業界へと変わっていく旗振り役になることです*14。
まとめ:エシカルファッションが社会全体を巻き込む未来へ
当記事では、エシカルファッションの定義や課題の背景、そしてさまざまなブランドによる取り組みを紹介しました。
いまだにファッション産業の問題の認知度は低く、積極的にエシカルファッションを選択する消費者は少ないのが現状です。エシカルファッションの選択肢が少ない、店舗がないなどの課題の一因は、エシカルファッションを選ぶ消費者の裾野の狭さにあります。
ファッション産業の裏にある環境問題や労働問題を知ると、衣服を買うときに一瞬考え込むようになります。
ファッション産業の問題が広く知られるとともに、エシカルファッションブランドが目に入りやすく、魅力的な存在になれば、社会全体がもっとエシカルにファッションを楽しめるようになるのではないでしょうか。
参考資料
*1 サステナブルファッション(環境省)
*2 サステナブルファッション習慣のすすめ(環境省)
*3 ”今この瞬間”ではなく、“未来志向”のクローゼット。「ENTER THE E」代表、植月友美の挑戦
*4 環境に優しく、おしゃれな靴を。パーツを減らし環境配慮の素材を選択、労働面と環境面の課題を乗り越える
*5 エシカルファッションとは?取り組み事例と有名ブランドからリーズナブルな商品を紹介
*6 サステナブルファッションとは? ~ファッションとSDGsの基礎知識~
*7 「サステナブルファッション」に関する消費者意識調査(消費者庁)
*8 「10着のうち1着はサステイナブルに」。スローファッションを提案する「Enter the E」植月友美さん
*9 「Enter the E」がショールームストアを渋谷スクランブルスクエアにオープン
*10 不要なデニムを寄付して貢献! 【Enter the Eデニムプロジェクト】
*11 植物の実を使った軽くて薄いダウンコート。ブランドコミュニケーションを通じて新たな選択肢の提案を
*12 ファッションで社会課題を解決する。次世代のファッションブランドの在り方とは
*13 廃棄リンゴを使ったヴィーガンレザーバッグから、価値観が共存できる世界を目指して。
*14 年間200億着のファッションロス解消を目指して。ステークホルダーを上手に巻き込む仕掛けとは
株式会社talikiは、ファッションに留まらず、エシカル消費に取り組むソーシャルビジネスをインキュベーション・オープンイノベーション・ファンド・メディアの形で支援しています。
taliki.orgでは社会課題に取り組む起業家のエピソードを紹介しています。ぜひエシカルな生活を考えるときに参考にしてください。
X(旧Twitter):https://x.com/taliki_media
執筆
泉田ひらく
服の数を絞って、少しずつエシカルファッションのアイテムを揃えていきたい。
企画・編集
亀井郁人
生まれと育ちは京都、心は大阪。talikiがきっかけでソーシャルビジネスに興味を持ち、現在ディレクターとして関わる。運は強い方だと思ってる。