廃棄リンゴを使ったヴィーガンレザーバッグから、価値観が共存できる世界を目指して。
アップルレザーを使ったトートバッグやリュックサックを販売するLOVST TOKYO。代表取締役の唐沢海斗は、もともとヴィーガンを受け入れられなかった原体験を持つ。そこからヴィーガンについて深く知り、事業化するにまで至ったのは、ファッションを入り口にヴィーガンや新しいライフスタイルをまずは知ってもらいたいからだと言う。また、商品化までの苦悩や今後の展開についても詳しく聞いた。
【プロフィール】唐沢 海斗(からさわ かいと)
LOVST TOKYO株式会社代表取締役。米国にある州立大学を卒業後、大手人材派遣会社に勤務。その後、日本初ヴィーガンファッションのオンラインストア事業で起業。 2021年、共生を纏う、未来のレザーブランド「LOVST TOKYO」を展開。リンゴ由来のヴィーガンレザーを使ったバッグを開発・販売している。1991年生まれ、栃木県出身。
もくじ
注目されているヴィーガンレザー市場
ー現在の事業について教えてください。
ヴィーガンファッションとは、動物性でないファーやレザーを用いたものを指します。その中でも僕たちはレザーに注目して、動物性のレザーではなく、より環境に優しいリンゴ由来のヴィーガンレザーを用いてバッグを商品化し、販売しています。第1弾としてトートバッグ、第2弾としてリュックサックの販売をクラウドファンディングで行いました。
ーどういう経緯でこの事業を始められたのでしょうか?
大学時代にお付き合いしていた方が、環境問題への危機感からヴィーガン生活を始めたのですが、僕自身ヴィーガンというものを全く受け入れられない時期がありました。向こうは「ヴィーガンや環境問題について教えてあげる」というスタンスだったと思うのですが、僕の食生活に対しても毎回何か言われるのが少しきつくて。田舎だったので専門のレストランもなければ、スーパーで買うヴィーガン食材もやや高く、どうして急に始めたんだろうという気持ちでした。卒業後、その方と別れてからはしばらくヴィーガンの方と関わる機会はありませんでしたが、仕事でシリコンバレーに行ったことがきっかけで、ヴィーガンに対するイメージが大きく変わりました。そこでは、ヴィーガンのレストランもたくさんあったし、友人も「今日はヴィーガンにしようかな」という感じでライフスタイルの一部としてヴィーガンがかなり浸透していました。サービスとして質が良いものがあって、かつ選択肢も多い。それまでヴィーガンに対しては良いイメージを持っていませんでしたが、環境問題や動物愛護の観点から見ると、ヴィーガンって絶対に良いライフスタイルじゃないですか。この環境ならヴィーガンも実践しやすそうだなと感じたと同時に、東京でも同じことができないかなと思ったのが起業のきっかけになりました。僕自身がヴィーガンに嫌悪的だったところから変わっていった原体験は、事業を作る上で核になっている部分でもあります。
僕たちは『共生を纏うブランド』という言葉を使っていますが、元々は、自分たちの想いだけが先行してして、こちらが一方的(半強制的)に消費者に対して想いを届けようとしていたんだと思います。でも、そのやり方だと対話が生まれないことに気がつきました。僕がヴィーガンに嫌悪感を抱いていたときと同じように感じてしまう方がいるのではないかと。そこで、こちらからもっと寄り添う形で、”強制”ではなく”共生”という言葉で伝えていこうと考えました。結局何が正義で何が間違っているかなんて、誰にもわからないじゃないですか。だから、自分たちが大切にしている”共生”というのはあくまで”対話”で、そこから自分で考えて気がついたことや納得したことを自分の答えとして表現して欲しいと思っています。それが『共生を纏う』の本意です。
ーヴィーガンの中でもファッションという領域を選んだのはなぜですか?
原体験もあって、僕はまずヴィーガンの入り口を広げたいと思っています。ヴィーガンを知らない人、ネガティブなイメージを持っている人に対して事業をすると考えたときに、食だとバイアスが大きくなるのかなと感じてファッションを選びました。新しいライフスタイルを知るきかっけをアパレルブランドとして積極的に発信し、商品を手にとってくださった方が、ヴィーガンという選択肢も知った上で自分で食べるものや身につけるものを選択できるようになれば良いなと思っています。
ーヴィーガンレザーの市場の大きさや発展性はいかがですか?
一般に販売されているレザーは、動物の皮を使った動物性レザーと、動物の皮を使わないヴィーガンレザー(合成皮革)に大きく分けられます。そしてヴィーガンレザーの中には、石油由来の合成皮革があり、その一種としてアップルレザーなど植物由来の原料を含むバイオレザーがあります。レザーは今後、動物性でないものがメインになってくると思います。例えば、エルメスは動物性レザーの使用を辞めてマッシュルームレザーを使い始めました。このようにハイブランドからこの流れが広まり、やがて一般的なブランドでもヴィーガンレザーが当たり前の選択肢になってくるのではと思っています。現在、天然レザーの代用品として、ヴィーガンレザーの市場が右肩上がりで伸びていて、世界全体で約8兆円になるというデータもあります。
ーLOVST TOKYOが主に解決していきたい課題は何ですか?
環境問題です。地球温暖化や気候変動がもう無視できないところまで来てると思っていて。僕自身、そこまでエコの意識が高い人間ではなかったのですが、それでもこれらの問題が他人事じゃなくなっているという実感があります。誰でも同じように環境問題に対して何か感じ方、考え方が変わるターニングポイントがあると思うんです。環境問題は地球規模の大きな問題ですが、気軽に取り組めるソリューションの1つとして、ヴィーガンのライフスタイルや僕たちの商品が選択肢になればと思っています。
リンゴという身近なものを用いたバッグ
ー素材にアップルレザーを選んだ理由を教えてください。
先ほど合成皮革についてお話ししましたが、合成皮革は石油由来の樹脂を多く使用しているので、環境に良いかと言えば実はそうではない面もあるんです。もともと合成皮革を使った商品を提供していたのですが、そこに疑問を感じていました。そんなときに出会ったのがアップルレザーです。アップルレザーはリンゴ由来の天然成分と石油由来の樹脂を混ぜて作られるので、合成皮革に比べて石油由来の樹脂の含有率が低く、より環境に優しい素材と言えます。僕たちは、産業廃棄物として処理されていたリンゴジュースの搾りかすを乾燥させ、パウダー状にまで分解して、ウレタン型の樹脂と合成して作ったイタリアのメーカーのアップルレザーを使っています。リンゴという身近なものがアップサイクルされているということで、メッセージ性を感じてもらいやすいかなと思ったのも大きな理由です。
ーアップルレザーの特徴にはどのようなものがありますか?
最近は、パイナップルやサボテン由来のバイオレザーがいろいろ登場していますが、これらは従来の合成素材に引けを取らないレベルで製品化され汎用性にも優れています。また具体的なその特徴として、軽量で水に強いなどの特徴があります。また、アップルレザーとサボテンレザーは手触りが似ていて皮革のような感じで、パイナップルレザーは和紙のような感じです。使用するリンゴによって多少色味が違うことはありますが、全く異なるようなことはありません。供給もある程度安定している素材となっています。
ーバッグの製造はどのように行っているのでしょうか?
デザインの原案は僕が考えていますが、もともとアパレルやデザインの分野にいたわけではないので、OEM先の方と相談しながら進めています。例えば、第2弾のリュックだと最初に出した原案を元にサンプルを作ってもらって、それを手直ししながら3〜4回ほどサンプルを作り直して、最終的な形に落ち着きました。これまで日本の企業さんに製造をお願いしていたのですが、合成皮革のOEMであれば中国の企業の方が、質が高い・安い・早いというアドバイスをいただいて、今回から中国の企業さんにお願いしています。輸送によるカーボンフットプリントなどもありますが、まずはお客さんに対して良いものを届けたいと思っています。
ー素材や工場を選ぶ際の基準があればお伺いしたいです。
僕たちはD2Cなので、お客様に対して直接メッセージを届けています。お客様にまっすぐ想いを伝え、かつ誠実であるために、原料や製造方法に関する透明性の高さは重視しています。素材のイタリアメーカーは実際にお会いしてお話を聞きました。中国の工場はまだ行けていないのですが、オーナーの方が日本人で、その方とお話しして、労働者の搾取がないかというようなところは確認をしています。10月くらいに現地に行ければいいなと考えています。
ー開発時に何か難しいことはありましたか?
デザインの面ですかね。メンバーや周りの方に相談すると、やっぱりその人の好みが出るじゃないですか。かといって相談せず僕だけで作っていくこともできないですし。僕に専門性があれば、想いとプロダクトで引っ張っていけるんでしょうけど。多くのデザイナーズブランドって、そのデザイナーさんならではのデザインだったり、このブランドといえばこれが特徴だよねというポイントがあったりするじゃないですか。LOVST TOKYOでもそういったブランド全体の一貫性を作っていきたいんですけど、苦戦している部分です。また、メッセージをどうデザインに乗せるのか、どんな戦い方をしていくのかという部分も模索している最中です。
社会課題やヴィーガンをまずは知ってもらいたい
ーターゲットを教えてください。
最初は価格や商品の内容から、ざっくりと25歳から35歳くらいの女性がターゲットになるだろうと思っていました。実際にクラウドファンディングを実施してみると、25歳から35歳の方が多いのは予想通りでしたが、男女比は4:6で男性の方も多かったのが意外でした。テレビ番組で特集を組んでいただいたことがあるのですが、そのあと一気に50代60代の方の購入が増えたのは面白かったですね。いろんなマーケティングチャネル、販売チャネルを持つことが良いのかもと思うようになりました。
ー購入された方からは、どのような声がありますか?
第2弾はまだ商品をお届けできていないのですが、有難いことに第1弾のトートバッグを買ってくださった方のリピート率が高かったです。「アップルレザーの強度を心配していたけど、全く問題なかった」という声や「可愛くて毎日愛用しています!」という声をいただいています。
ーLOVST TOKYOでは「社会課題やヴィーガンについてまずは知ってもらうこと」に重点を置いていると思いますが、そのためにどのような工夫をされていますか?
発信・露出を増やしていくことが大事かなと思っています。社内にクリエイティブチームを作って、Instagramの運用も始めました。あとは、僕自身もインタビューを積極的に受けるなど、外に出て話すようになりました。何を買うかではなく、誰から買うかという部分が、D2Cでは重視されると思うんです。だからこそ僕自身の原体験だったり、プロダクトに込めた想いだったりを知ってもらいたいです。広告に頼るマーケティングではなく、紹介ベースの繋がりを大きくしたいと思っていて、そのためには人に紹介したくなるような感動体験をしてもらう必要があると考えています。なので、自分でクラフトして作る過程を体験できるイベントを実施するなど、買って終わりじゃない消費体験を設計していきたいです。また、将来的には公式LINEでお客さん一人一人に個別化したサービスを提供できればなと思っています。
すべての価値観が共存できる社会へ
ー今後の展開や目標についてお伺いしたいです。
ヴィーガンの枠を超えて、多くの人に届けることを目標としています。その上で、売上はどれだけの人に届けられたのかという指標になると思っていて。販売はしばらくオンラインメインでやっていくつもりですが、9月にはマルイ有楽町のインクルージョンフェスでのポップアップ、11月にはThe Crafted GINZAでのポップアップを予定しています。このようにオフラインでの販売も増やしていきたいです。
投資家の方と会った時に「ヴィーガンだから覇気がないね」とか言われることがあって、悔しさしかなくて。僕はヴィーガンじゃなくてフレキシタリアン*なので、ヴィーガンとも違いますが、それに限らず「ヴィーガンだから」って言われるのが悔しくて。だからこそ見返すじゃないですけど、世の中からの信頼もあってちゃんと利益も上げてる会社なんだぞっていうのを見せるために、上場を1つの目標にしています。
*フレキシタリアン:柔軟な菜食主義者。フレキシブル+ベジタリアンからなる造語で、家では菜食だが外食ではお肉も食べるといった風に食事に対して柔軟な選択を行う。
ー最後に、目指す社会について教えてください。
すべての価値観が共存できる文化を作りたいです。文化っていうと定義が広いからわかりにくいかなと思うんですけど、最近は『もののけ姫』で例えるとわかりやすいかなと思って。あれって戦った両者が、最後にはそれぞれの場所に住みつつも、たまに会いにいくみたいな共存の形が生まれる物語だと思うんです。だから僕は宮崎駿を目指さなきゃなと思っていて。学びを経て、お互いのことを理解し、尊重しながら暮らしていける社会になるといいですね。
LOVST TOKYO株式会社 https://lovst-tokyo.com/
interviewer&writer
細川ひかり
生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。
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