年間200億着のファッションロス解消を目指して。ステークホルダーを上手に巻き込む仕掛けとは

「アパレル産業は石油産業に次いで2番目に環境負荷を与えている」として世界各国がさまざまな施策に取り組んでいる。フランスでは2022年「衣服廃棄禁止令」が施行され注目を集めた。株式会社WEFABRIK(ウィファブリック)はサスティナブルアウトレットモールSMASELL(スマセル)を軸に廃棄ロス解決に向けて旋風を巻き起こしている。代表の福屋剛さんに「ステークホルダーを巻き込んだ循環型社会の作り方」を聞いた。

【プロフィール】福屋 剛(ふくや つよし)

繊維商社にて約10年間の勤務を経て、業界内の大量廃棄に対して疑問を感じ同商社を退職。 繊維ファッション業界が抱える課題解決のため2015年3月に起業する。2019年にはForbes Japanの「日本のインパクト・アントプレナー」にも選出され、現在、ファッションロスの解決に最も情熱を燃やす起業家として注目を集めている。

平成30年度循環型社会形成推進功労者環境大臣表彰/2018 年日経優秀製品・サービス賞日経産業新聞賞受賞。

 

「廃棄のない循環型社会」が作られる三方よしの仕組み

ーー現在の事業概要を教えてください。

私たちのメイン事業である、スマセルは最後の1点まで商品を届けたい企業とお得に商品を購入したいユーザーをつなげる共創型マッチングプラットフォームです。オンライン上でこれまで接触することができなかった両者をつなげることで、「廃棄のない循環型社会」を目指しています。現在(2023年2月時点)25万人を超えるユーザーにご登録いただいております。

 

ーーアパレル業界が抱える廃棄課題について改めて教えていただけますか?

廃棄ロスの部分で言うと大きく3つの視点から課題を捉えています。まず世界では毎年約200億着の洋服が捨てられています。そのうち半分が工業ゴミと呼ばれる法人から出るゴミ。残り半分が家庭ゴミで、我々消費者が出しているゴミです。工業用ゴミの大半はほぼ新品のまま捨てられています。法人ゴミ、家庭ゴミどちらにもアプローチしていく必要があると考えています。

加えて最近では「洋服の寄付」も問題になっていますね。企業が一部の途上国に寄付している大量の洋服。例えばガーナには毎週約1,500万枚もの古着が送られてきます。しかしその多くはファストファッションなど品質の低いものが占めるそうです。送られてきた服の4割が行き場を失い、埋立地でゴミの山となり、その一部が海に流れ出てしまっているのです。企業のイメージアップのためにやっている洋服の寄付ですが、現地でそういった課題が生まれていることも知っていただきたいですね。

 

ーーこれらの課題に対してスマセルはどのようにアプローチしているのでしょう?

私たちは課題に挙げた3つのうち、工業ゴミと家庭ゴミに対して現在アプローチをとっています。新品の工業ゴミは、ブランド企業がリーチできなかった層に、我々が販売していくことで廃棄ロスを減らしています。ブランドの顧客とスマセルユーザーは必ずしも一致するわけではないので新たな層に届けることができています。

同業他社では売れ残った服をメーカー側に返品しており、この点においても廃棄課題があると感じています。私たちは計画値に満たなかったものは返品せず、全量買取させてもらい、在庫はスマセルオリジナルショップで売り切ります。消化率100%にコミットしているのも私たちの特徴と言えるでしょう

家庭ゴミの解決策としてはブランドのショップに回収ボックスを置かせてもらい、集まった古着を弊社で買取しています。一定の品質基準をクリアした古着はスマセルで再販。捨てられる服とそれを必要としている人たち。この両者をインターネットの力を駆使して結びつけています。

さらに、スマセルで回収した古着を購入してくださったお客様へクーポンをを同封し、新たなお客様としてブランド店舗で新品を購入していただける企画なども行っています。2次流通から1次流通へ、動脈と静脈のような循環が起きているのです。

もう1つユニークな取り組みとして、スマセルで服を販売・購入することで削減されたCO2の量*を表示しています。社会に与えるインパクトを可視化することで、販売者にも購入者にも意識改革を起こすことができると思っています。

*CO2削減量はアイテムカテゴリー毎に衣類の重量や組成素材に応じて焼却時に排出されるCO2量を算出(スマセルHPより)

 

社会の追い風を利用し、選ばれるサービスへと成長

――スマセルのメインユーザーはどんな方たちですか?

買い手のユーザーさんは25歳から40歳の主婦層がメインです。まずは値段の安さに魅力を感じていただき、ご自身のレディースから子供服、また旦那さんなどメンズの服まで購入してくださっています。購入時にCO2の削減量が見える仕組みになっているので、そこでスマセルのコンセプトを知るんです。お得に買えて社会貢献もできることに価値を感じた方がリピーターになってくれています。

 

ーーディスカウントは買い手に喜ばれると思いますが、売り手側の企業の反応はいかがですか?

もちろんディスカウントに対して抵抗がある企業さんもいます。1,300社の3,000ブランドが登録していて、中にはハイブランドもありますし大々的に値引きができないなんてことも。大幅な値下げに抵抗のある企業さんは、ユーザーが会員登録をしないと商品情報を見られない仕組みを作って、ブランドの価値を落とさずに販売する工夫をしています。スマセルに登録してくれているハイブランド企業に伺ったところ、アウトレットモールに出店する感覚だと言います。オフラインのアウトレットモールでも、ハイブランドが値下げ価格で販売されていますが、郊外の現地まで出向かない限りわからないですよね。

 

ーー購入者は社会貢献の意識が生まれるとのことですが、企業側にも意識変容を感じますか?

SDGsという言葉の認知度と比例して企業側にも意識変容が起きていると思います。「廃棄ゼロをスマセルと一緒に目指したい」と言ってくださる企業さんや、スマセル立ち上げ初期は見向きもしなかった企業さんがスマセルに出店したいと言ってくれるようになりました。

ヨーロッパ諸国を筆頭に海外の人たちは環境保護の意識が高く、ファッションロスに対して規制が厳しくなっています。日本でも後追いで新たな規制ができてくるだろうと予測していて、アパレル企業のこれまで通りのやり方は通用しなくなるでしょう。少しずつではありますが、日本企業もファッションロスに対する危機意識は高まっていると感じます。

 

2度のピボットを経て唯一無二のBtoCプラットフォームへ

ーーサービス開発において苦労されたことを教えていただけますか?

実は今の形態になるまでに2回のピボットを経験しているんです。元々はリサイクルショップや大手ディスカウントショップのバイヤーが購入できるBtoBサイトでした。1ロット100万から500万の在庫を購入できるサイトでしたがなかなか成約しなくて。リサイクル業者はFAXで発注書のやり取りをしていることが多く、まだオンラインでの取引が珍しかったのです。仮説検証に1年ほどかかってしまいましたが、潔く1度目のピボットを決断しました。

次はオンラインで仕入れ販売をしている方たちにフォーカスしたところ、これが一気にヒット。当初からIPOを視野に入れており、さらなる市場拡大をしたかったのですが、バイヤー向けではマーケットが限定されていました。またブランド側も一般消費者に販売したい意向が強かったため、再度ピボットし、現在のBtoC向けプラットフォームになりました。

ピボットの度に、このままではスケールしないというデータを示して社内に説明するのですが、やはり賛同できない人は離れていき、組織の再構築に苦労しました。でも、最終的にtoCに辿り着いたことで一気にスケールできたので、やはり2度の決断は間違っていなかったなと思います。

 

ーー紆余曲折あって今のサービスになったのですね。フリマアプリなど、他の循環プラットフォームと差別化されたスマセルの強みは何ですか?

主に3つあります。まず私たちのサービスはフリマではなく、アウトレットモールであるということ。フリマサイトは基本CtoCであり、ブランド店が出品することはありません。現状サステナブル×EC版アウトレットモールというプラットフォームは私たちだけです。

2つ目の差別化ポイントは先ほどお伝えした買取機能です。従来のモール型サイトは売れ残った服を全量メーカー側に返品していました。廃棄ロスを本気でなくそうと考え、私たちは売れ残りを買い取っています

加えて私たちには歴史があります。開業時は「サステナブル」「ファッションロスをなくす」という軸でサービス展開している企業は多くありませんでした。そんな中、私たちは先行して利益を生み出してきました。世の中がSDGsに注目する前からファッションロスに向き合ってきた権威性は私たちの強みになっていると思います。

 

サステナブルな循環型社会を作り出す独自の仕掛け

ーー「スマセルを軸に循環型社会を目指す」とおっしゃっていました。オフラインでも取り組まれている具体的な施策はありますか?

「ファッションをもっと楽しく、持続可能なものに」の理念のもと、オフラインでも複合的な事業を実施しています。古着の回収事業の他に、アーティストとコラボレーションをしたアップサイクル事業、環境省を巻き込んでの物々交換イベント開催など多岐にわたります。

そして一つひとつの事業がシナジーを生み出しています。たとえばファッションスワップと呼んでいるオフラインの物々交換イベントでは、着なくなった服をスマセルユーザーに持参してもらいます。10着のいらない服を手放したら、他の人が持ち込んだ服を最大10着持って帰ることができます。スマセルユーザーだけでなく一般公開しているイベントなので、スマセルを知ってもらう場にもなっています。既存のユーザーにもスマセルのさらなる魅力を伝えることができ、ユーザーエンゲージメントを高めています

 

ーー消費者にはありがたいイベントですがコストもかかるのでは?

事業はサステナブルでなくてはいけない。なので必ずマネタイズポイントは考えていて、ボランティアや寄付は一切やりません。

ファッションスワップイベントも無料ブースと有料ブースをわけていまして。無料ブースで集客をしますが、そのブースにはファストファッションなどのリーズナブルな洋服が集まっています。一方ですぐ横にある有料ブースには、ハイブランドの洋服が集まっているので2,000円~3,000円払ってでも有料ブースに人が流れるのです。

大阪で同様のイベントを開催したときは入場料を一律3,000円頂きました。今までにコラボレーションしたことのある音楽家やDJを呼んで、音楽とお酒を楽しみながら古着の交換をするフェスのような空間にしました。楽しめる体験と組み合わせることで課金への抵抗感をなくし、イベント自体も持続可能なものとなっています

 

ーーまさに「ファッションをもっと楽しく、持続可能なものに」を体現されていますね。さまざまなステークホルダーを巻き込み循環型社会を作るために意識していることはありますか?

「競合他社とはやらない」といった視野を狭めた考えを持たないことです。どんなにいいことでも自社だけで取り組もうとすると小さなインパクトしか生み出せません。私たちは競合他社も、ブランドも業界全体ひっくるめて行動していく旗振り役のような存在でありたい

そのためにも資本力や推進力がある大企業を巻き込んでいく必要があると思っています。
プラットフォームである私たちは中立的なポジションでステークホルダーと関わっていける。その利点を利用して企業単位、個人単位ではなく想いに共感できるすべての人と一緒に進んでいくことが理想ですね。

 

「靴を履けなかった人が履けるようになる」そんな世界を目指して

ーー最後に今後の事業展開と、ウィファブリックが目指すインパクトについてお聞かせください。

私たちは日本国内だけの問題に向き合っているのではなく、ファッションロスから気候変動というグローバルな課題と戦うベンチャー企業です。まずは上場をしてグローバルビジネスへと成長させていきたいと思っています。

現状200億着以上の服が廃棄されている一方で、流通している服は2億着にも達していません。つまりファッションロスをなくせた未来を100%だとしたらまだ1%も目標達成できていないのです。

廃棄されている200億着のうち1枚でも多く流通させるために、国境を超えて商品の売買をできるサイトにしていきたいです。たとえばアメリカで大量廃棄されている服を日本人が買えるようなマーケットプレイスにしたり、中国で廃棄されている服を安価でアフリカの人が買えるようにしたり。

先進国だけで廃棄処分してきた衣類を、発展途上国の人たちが寄付ではなくて購入する仕組みを作れたらいいですよね。これまで靴を履けなかった人が自ら購入して好きな靴を履けるようになったら理想的だなって。私たちは単なるファッションのマーケットプレイスを提供するのではなく、ファッションロス解決を足がかりに気候変動や貧困格差を少しでも是正できるような媒体を目指していきます

 

サスティナブルアウトレットモールSMASELL(スマセル)https://www.smasell.jp/
株式会社WEFABRIK https://www.wefabrik.jp/

 

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    interviewer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

     

    writer

    河野照美

    スラッシュワーカー。養育里親。「楽しく笑顔で社会課題と寄り添う」がモットーです。

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