環境に優しく、おしゃれな靴を。パーツを減らし環境配慮の素材を選択、労働面と環境面の課題を乗り越える

「普段履けるちょっとオシャレな靴。そして環境に優しいをテーマに」を掲げるÖffen。ブランドプロデューサーの日坂さとみは、ファッション性と環境配慮の両面にこだわったと言う。シューズを開発する上での葛藤のほか、アパレル業界が抱える課題や環境問題の観点から見る靴の問題点についても聞いた。

【プロフィール】日坂 さとみ(ひさか さとみ)
株式会社Norms(ノームス)取締役。素材や製造工程にこだわったサステナブルなシューズブランドÖffen(オッフェン)のプロデューサー兼デザイナー。前職ではレディースアパレルにて、販売やVMD・バイヤー・商品企画を担当していた。その後クリエイティブディレクターを経て独立、Öffenの立ち上げ前にも子ども服やバックを扱うブランドを立ち上げてきた。

靴の背景にある社会課題

ー現在の事業について教えてください。

環境に優しいをテーマにした、気軽に履けるおしゃれな靴を販売しています。ゼロウェイストの観点からの製造方法、靴を廃棄する時点での問題を考えた商品になっています。昨年の9月に立ち上げた会社ですが、Öffenというブランド自体は2年間くらいかけて開発などを行ってきました。ブランドリリースは今年の2月と、形になるまでに時間がかかりましたが、現在は自社ECサイトを中心に販売を行うほか、兵庫県西宮市にフィッテイングサロンとして店舗を構え、全国の百貨店などでポップアップを開催しています。

 

ー靴をはじめとするアパレル業界が抱える課題にはどういったものがあるのでしょうか?

業界を代表して課題を述べることはできませんが、目まぐるしいスピードで変わるトレンド商品などを製造する工場の様子も見てきた立場から感じたことをお伝えします。工場では、生産過程で出るごみの量が多く、細かいパーツを裁断することも多くいので、ごみの粉末が工場内を舞い、工場で働く人たちは粉末や見えない化学薬品などを吸い込んでしまう環境です。働く人の健康問題はずっと課題に感じていました。大量生産で消費サイクルの早い業界ですので、納期も厳しく、労働時間がどうしても長くなってしまう部分もあることにも懸念を抱いています。

 

ー環境問題の側面から見るといかがですか?

“工場の稼働時間が長い=二酸化炭素排出量が多い”ことも大きな課題だと思います。先ほどお話した、生産時のごみの排出量も大きな問題です。特に靴はパーツが多く、それぞれ違う素材のものが使われることも多いので、消費者が購入してから使い古した靴を処分する際も、部品ごとに分解するのが難しく、また靴は汚れなども付着してしまうので、リサイクルやリユースができず焼却するという選択が多いのが現状です。

 

ーそもそも日坂さんがサステナブルなものづくりに興味を持たれたのにはどういった背景があったのでしょうか?

子どもを出産したことが大きなきっかけになりました。1日のうちのほとんどを仕事に使っていたけれど、子育ての中で、ライフスタイルが大きく変わり、少しアパレル業界との距離を置くことになりました。時間的にゆとりが持てたことで、今までは気にしていなかった環境問題について気になったり、子どもに食べさせるものや着せるものについての選択は何がいいのか考えたりするようになりました。洗剤ひとつとっても「これって本当に身体や環境にとっていいものなのかな」という事だったり。大人が自分の物を買う時の選択基準って今までも多くあったはずなのに、デザインだけに重視を置き背景まで見てこなかったと気が付きました。Öffenでは環境にも配慮し、「何を作るか」ではなく「どう作るのか?」という想いがÖffenのプロダクトなどにも反映されています。

 

素材や製造工程などで環境に配慮した靴づくり

ーÖffenでは環境配慮の側面から素材にこだわられているとのことですが、具体的にはどういった素材を使っているのでしょうか?

靴のアッパーと呼ばれる部分は、使用済みのペットボトルを回収して作った再生繊維を利用しています。一般的には合成ゴムを使っているものが多い靴底は、赤ちゃんが使う哺乳瓶に使用されるシリコン素材を使っています。焼却すると水と二酸化炭素として分解されますが、有害物質を含まないものです。日本では焼却処分されたごみの多くは埋め立てられるので、焼却され残った灰が土壌を汚染しないような素材を探しました。また、シューキーパーはトウモロコシを原料とした生分解性でコンポストできる植物性由来のプラスチックを探しました。環境に良いと言う言葉だけを鵜呑みにせず、本当に環境に良い素材なのか、どういった背景で作られているのか、信頼できる素材メーカーなのかといった点は時間をかけて調べ取り組みました。

会社の名前になっているNorm(ノーム)とはラテン語で「規範・ルールを持つ」という意味があります。これには事業の中で正しい判断のもと、やるべきこと、やるべきでない事、線引きを持って正しい選択をするという想いが込められています。そうした線引きがきっと複数あるだろうということで、複数形のsをつけてNormsとしました。

トウモロコシを原料とするシューキーパー

 

ー製造時にも環境負荷を減らす工夫をされていると伺いました。

Öffenのシューズは部品をかなり減らしています。大体30パーツくらいの靴が多いのですが、私たちの商品はその半分程度です。靴には中底や裏地がありますが、Öffenの靴にはそれもない。貼り合わせする部分が少なく、貼り合わせや吊込みの作業もないので、製造工程も縮小し、通常工程の靴のおおよそ半分くらいの時間で生産する事が可能になりました。ごみの量はもちろん、糊(のり)などの量も減らすことが可能となります。それによって工場で働く人の労働時間、工場からのCO2排出量の両方を削減することを目指しています。

 

ーすごくおしゃれでデザインや色のバリエーションも多いですよね。

サスティナブルな物作りでも、素直にファッションが好きな方々に、まずは「可愛い!」と思われることは必須だと考えます。過去のブランディングの軸には売りたいペルソナ像を綿密に考えて、その方たちに刺さるようにコンセプトや商品を設計していく方法をとっていましたが、Öffenは違いました。「どういったものを誰に向けて作るか」という議論の前に、「この素材でどう作れるか」というところから始まっています。「どう作れば環境に優しいだろうか?」「どこまで突き詰めればゴミにならないだろうか?」「どうすれば長く履いていただけるだろうか?」といったことを1番に考えました。その結果デザインはシンプルになっていますが、長く飽きのこないデザインに仕上がったと思います。ファッションが好きな方が日常に取り入れてくれそうなデザインと、開放的な履き心地を追求しました。ファッションから知ってくださった方には「普段履いている靴が実は環境にいいんだ」ということを後からでも知って貰えればいいなと思っています。

 

ー着想からリリースまでに長い時間を要したというお話もありましたが、どのようなところに苦労したのでしょうか?

最も苦労したのは、素材の仕入れ先を確定するまでの過程です。それぞれの素材が、本当に環境に良いものなのかどうかをきちんと確認することに時間がかかりました。根拠がない、情報源が不明なものは避ける。見つかるまで世界中の素材を何件も探すということが繰り返しが続きました。中国の委託工場で製造しているので、材料も近場で仕入れられたらいいなと思っていたのですが、中国国内で見つけたメーカーの素材は、そういった条件をクリアすることができず、結局アメリカのメーカーの”ペットボトルをリサイクルして作られた糸”を使用することになりました。その糸を使ってホールド感を持続させながら、耐久性にも優れた靴を作る方法も何度も何度も試してやっと実現したものです。コロナ渦で生産本拠地に行けなかったので、製造担当者に履き心地の良い感覚を共有することにも時間がかかりましたが、最後にはみんなの力で、ようやくÖffenが出来上がりました。

 

サステナビリティとファッション性

ーどんな方が購入されるのですか?

環境問題に関心のある方からファッションに関心のある方まで、幅広い方々にご購入いただいています。もともと環境問題に関心があった方は「やっとサステナブルな靴のブランドが出た」と言ってくださるし、逆に「サステナブルって何?エシカルって何?」という方もいます。今の女性たちは、暮らし方や好みも多様化していて、ターゲットを決めること自体が難しい時代です。幅広いお客様に履いていただきたいという想いがあったので、ブランドを作る際にターゲット層は絞りませんでした。娘さんが先に購入されて、お母様に勧めてくださるパターンが多くみられるなど、”大切な人に勧めていただけるブランド”になれているのは嬉しいですね。履き心地をもっと研究して、もっとたくさんの方に楽しく履いていただければと思います。

 

ー百貨店でのポップアップもたくさん実施されていますよね。

靴の試作段階で、デペロッパー様や環境活動をしている方、エシカルなマインドをお持ちの方にご意見を伺う会を開催したんです。ブランドを作った背景や想いを伝えさせていただき、実際に足入れしてもらった感想をお聞きする場になりました。ポップアップの具体的な商談もあり、これがリリース後の出展の足掛かりになりました。足の形は一人ひとり違うので、どんな靴であれまずは履いてみることが大事です。なのでフィッティングサロンとして場を提供していただけると嬉しいという話をさせていただいたことが実現に至りました。

本来はオンラインだけで売っていくつもりだったのですが、「”実際に履いていただく場所”が常設であった方がいいのでは?」と思い、地元にフィッティングサロンを作りました。ヴィンテージ家具やアップサイクルの什器などをはじめとする内装はÖffenのシューズとリンクするものであり、空間全体を通じてリデュース・リユース・リサイクルを体感してもらえるといいなと思っています。西宮のフィッティングサロンでは、お客様とエシカルな製品の情報交換を行うなど、一般的なアパレルブランドの店頭とはと違うコミュニケーションが生まれる場となっています。

その他でいうと、Öffenはデビュー当初、自分達発信のPRをそこまでしていないんです。ほとんどがご購入頂いたお客様ご自身が感じられた事を発信してくださり、エシカルウェーブを作ってくれました。なので、お店に来る方が「知ってます!ペットボトルから出来てるんですよね」という声をかけてくれることも多いです。

 

“当たり前”が続くように

ー最後に、事業を通じて叶えたい社会について教えてください。

“当たり前の生活”ができる社会を継続したいです。どういうことかというと、コロナでこれまで普通だった生活スタイルが変わってしまいましたよね。今回はコロナという感染ウィルスによって変わってしまいましたが、近い将来、環境問題などでこれまで当たり前だった暮らしが変わってしまうこともあるかと思うんです。例えば「温暖化で夏が暑くなりすぎて子どもたちが外で遊ぶことが出来なくなるのでは無いか?」「日本の美しい四季がなくなってしまうのでは無いか?」というような状況です。そういう事態を避けるために、Öffenでは工場の稼働率を下げるとか、必要なものだけを作るといったことを継続していきたいです。

現在は他社ブランドの競争社会が多いように感じますが、価格競争や効率の追求ではなくて、環境配慮を当たり前の社会にしていきたいです。環境配慮はなかなか消費者の方には見えづらい部分ですが、見えにくいところこそ可視化して明確に伝えるべきだと考えています。消費者がどれを選択しても、地球をより良い環境へ導くことができるようになるには、私たち企業がものづくりにおいて”環境にいいこと”が前提になるように進化して取り組んでいく責任があると考えています。

Öffen https://offen-gallery.com/

 

 

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interviewer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。