植物の実を使った軽くて薄いダウンコート。ブランドコミュニケーションを通じて新たな選択肢の提案を

ダウンコートブランド「KAPOK KNOT」を展開する深井喜翔。実家である双葉商事にてアパレル業界が抱える課題を目にしてきたことが、ブランド立ち上げの背景にあるという。カポックという植物の実を使うことで、環境に優しい商品づくりを行なっている。コンセプトづくりの過程や、消費者に向けて課題や想いを伝えるために工夫している点について話を聞いた。

【プロフィール】深井 喜翔(ふかい きしょう)
1991年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学環境情報学部でソーシャルビジネスを学ぶ。卒業後、大手繊維メーカーを経て、2017年に実家の双葉商事株式会社に入社。2020年、KAPOK JAPAN株式会社を設立し代表を務める。1日に10回以上「カポック」と発する自称カポック伝道師。

ブランドを通じて、環境問題や多様性を伝えたい

ー事業概要と起業の経緯を教えてください。

カポックという植物の実を使ったダウンコートブランドを展開しています。カポック繊維はとても軽く暖かいという特徴を持っているんです。ブランドではその特性を生かして、機能性とデザインにこだわった商品を揃えています。

起業のきっかけには、実家の双葉商事株式会社でずっとアパレル業界の状況を見てきたことがあります。このまま大量生産・大量廃棄を前提として事業をしていくことは難しいな、どうしたら解決するのかなと考えてきました。生産者の労働環境が悪かったり、消費者がエコなものを選択しようと思っても値段が高くなってしまったりと、アパレル産業が汚染産業になってしまっていることを感じていたんです。ただ、1つの切り口だけで全てが解決するとも思っていなくて。カポックという素材に出会って、こういう植物性の新しい素材を世の中に広げていくことが、サステナブルな社会の実現に向けたハードルを下げるんじゃないかと思いました。どんな人でもサステナブルをもっと身近に感じることができる。そういう社会になればいいなと思い、プロダクトだけではなくブランド全体でのコミュニケーションを通じて、人々のライフスタイルに影響を与えるようなブランドを作りたいなと思ってKAPOK KNOTを立ち上げました。

 

ーブランドを通じて、課題にどのようにアプローチしていますか?

カポックは植物性の素材なので、従来のダウンコートのように鳥の羽を使用していません。そして木の実由来なので、木を伐採する必要もなく地球環境にも優しいです。KAPOK KNOT商品が1着購入されると、約30羽の水鳥の羽を使わなくてすんだり、年間で約400gのCO2(2Lペットボトル約1,500本分)を削減できたりします。そんな素材が薄くて軽くて暖かいということで、地球にだけじゃなくって人にも優しいですよっていうところがブランドとしての大きな特徴になっています。

今はあえてクラッシックなスタイルの商品展開しかしていません。最近だと丈の短いものが流行っていたりするのですが、それだとトレンドを追いすぎてしまって、自分たちが伝えたい”サステナブルなライフスタイルの提案”というコミュニケーションができなくなる。なので、ずっと愛されているデザインで、誰でも気軽にサステナブルに参加できるようにしています。その上で、KAPOK KNOTというブランドがもっと他者に寛容な世の中に繋がるといいなと思ってるんです。例えば、今の経済は成熟しているというような表現をされることがあります。しかし本当に成熟した社会においては、経済成長という1本のはしごを全員がどれだけ早く高く登れたか競うのではなく、色々なはしごがあって、個人がそれぞれ違うものに登り、それが認められる世界に変わっていく方が幸せだと思うんです。そう考えた時にKAPOK KNOTとしては、こういうベクトルでもサステナブルを実現できるんだよ、という新たなはしごを見せていければいいなと思っています。例えば、「タクシーじゃなくて電車を使うことで環境問題に貢献した」とか、「ファストファッションのデニムではなくて国内のブランドを購入することで持続可能な社会に貢献した」とか、そういう実感を得られる1つの方法にしていただきたいです。

さらに、環境問題という枠組みだけでなく、他者を認めるという意味でLGBTQをはじめとするダイバーシティやヒューマンライツなんかの問題についても身近に捉えてもらうようになると嬉しいです。サステナブルに参加するコストを下げ、みんなが快く暮らしていける社会を実現する。そのためにKAPOK KNOTをやっています。

 

ーブランドのコンセプトはどのように作られたのですか?

「Farm to Fashion」を掲げていて、カポックの木の実から製品化までを一貫して行うというコンセプトです。コンセプトを作っていた段階ではまだサプライチェーンがどうなっているのか知るところにフォーカスしていました。最初は生産や製造の段階で人に対しても環境に対しても問題が起きているから、それらを全部可視化しようという方向で進んでいました。しかし、実際にカポックの生産地であるインドネシアに行ってみることで、可視化だけでなく、直接想いや取り組みを伝えることが大事なのではと考えるようになりました。現地の人の生活に触れたり、雑談的に彼らの思いを聞くことで、定量的なデータだけでは分からない課題にも触れることができたんです。例えばカポックを栽培しているインドネシアの農園の人たちの賃金を上げたら、他の地域からもその農園に人が集まってしまって、他の地域の環境や産業が守れなくなるという問題があるそうです。現地で色々な話を聞きながら、「問題、複雑すぎるやろ」とか「結局どうしたらええねん」と思うことは多かったですが、それでも「自分たちができることをやっていこう」となりました。それが「Farm to Fashion」で、世の中にプロダクトを提供していくことでした。現地に足を運ぶことで、コンセプトが固まり、自分たちがすべきことの整理もできました。

 

ーコンセプトを作っていく上で大変だったことはありますか?

自分たちができる仕事の領域を把握した時に、インドネシアの生産の現状を可視化する難しさを感じたり、自分たちの与えられるインパクトの小ささに悩んだりしましたが、細かいことを一つ一つプロダクトとして伝えるだけではなくて、ブランドとして大枠で捉えていけるといいなと感じました。「Farm to Fashion」には「農園からこころよい暮らしを」をという日本語訳を付けているのですが、KAPOK KNOTを通じてこう感じてくれればいいなと思っています。こころよい暮らしを感じてもらうには、必ずしもプロダクトは必要ないと思っていて、KAPOK KNOTのストーリーを理解してもらうだけでも良いのではと考えています。もちろん僕たちとしては商品を買ってほしいけれど、そうでなくても僕たちの理想や世界観を伝えていけるといいですね。

 

ークリエイティブや文言を作っていく上でのこだわりはありますか?

手触り感が届くように工夫しています。「Farm to Fashionー農園から快い暮らしをー」というコンセプトでやっているので、イベントをするにしろプロダクトを作るにしろ、自分たちの想いを伝えるのはとても重要です。こういう想いで、こうしたくて、こういうものを届けたいというのはしっかり伝えるようにしています。一歩引いて第三者的なクリエイティブになった瞬間に、お客さんには届かなくなる。洗練されたかっこいいクリエイティブや文言を作りたいですが、時には思い切って完璧ではない状態でも世の中に出す。例えば「カーボンオフセットについて、ここまでは調べて計算してみました」みたいな感じです。必ずしも正しいわけではないかもしれないけれど、こういう姿勢は大事なのかなと思っています。

スタートアップだと​​だいたい初期はビジネスサイドが強いメンバーが始めることが多いと思うんですが、僕らはクリエイティブの主力が2人おり、彼らと僕で意思決定を進めています。そんな背景もあり、クリエイティブや文言に関しては、一つ一つ高いこだわりを持って時間をかけて作っています。なので正直、クリエイティブ作成が必要なお知らせの投稿頻度などのブランドコミュニケーションは他ブランドと比べて少ない方だと思うんです。それでも多くの人が買ってくれたり、応援してくれたりするのは、僕たちのこだわりがちゃんと届いているからだと思います。

カポックの実

 

機能やデザインで選ばれる商品を

ー続いて、マーケティングでのこだわりをお伺いしたいです。クラシックなデザインへのお話もありましたが、他に工夫されていることはありますか?

僕らはプロダクト訴求の優先順位を明確にしていて、機能性→デザイン→サステナブルという風に謳っています。まず機能性は、たった5mmのカポックシートですが、とても暖かいという点です。そしてその次がクラシックで広く長く愛されるデザインであるという点です。ここまでの訴求で「買いたい」と思ってもらえるコニュニケーションを目指しています。最後のサステナブルは「サステナブルなら尚更欲しい」と思ってもらう加点要素です。これまで、サステナブルに参加するには一般的なものと比べて多くのコストを払う必要があったと思いますが、欲しいと思ったものが実はサステナブルだったという形であれば気軽に参加できますよね。これがマーケティング上のこだわりです。

 

ーもともと想定されていたターゲットはどのような方だったのでしょうか?

立ち上げ段階では自分をターゲットのど真ん中に置いていました。当時、スーツで通勤することが多かったのですが、コートだと寒いし、ダウンだと絶妙にダサいみたいなことを思っていたんです。そこで、カポックシートを使ったコートなら薄いし軽いし暖かいしダサくないしいいなと思って。自分が本当に欲しいものを作っていった形です。同じような悩みを持っているであろう人にどうやって伝えていこうかというのが、マーケティングでの課題でした。

 

ー実際はどのような方が購入されますか?

本当に購入者層が広くて、20代から50代まで20%ずつという感じです。コートは3万5千円からと、やや高い価格帯ですが若い方も意外と買ってくださいます。特にテレビや新聞といったマスメディアで取り上げていただいた時は反響が大きく、50代60代の方々に多く購入いただきます。

デモグラフィックスで共通項を見出すのは難しいですが、その他で考えると購入者さんには2つくらい特徴があるかなと思います。1つは新しいものが好きな方が多いことです。ファッションにそこまで興味があるわけではないんだけど、人がおすすめしているものや最近のトレンドであるサステナブルに関心がある人が結構買ってくださっています。もう1つはヴィーガンやオーガニックといった自分が良いと思ったものをしっかりと使い続けたいという考えの方々です。ヴィーガンの方にモデルをやってもらった際にお話を聞いてみたのですが、ブランドメッセージが結構響いているなと感じました。

 

ー購入された方からの反応を教えてください。

軽くて暖かいというお声をいただくことが一番多いですね。そして機能に加えてデザインが好きだと言っていただきます。そういう意味ではマーケティングで意識している訴求の順番(機能性→デザイン→サステナブル)が刺さっているのかなと思います。そして、機能やデザインを気に入ってくださっている方ほど、サステナブルであることに関しても評価してくださることが多い気がします。「この服を選んだ自分自身を誇れる」という風に言っていただいたこともありましたね。

インドネシアのカポック農家さん

 

クラウドファンディングが大成功されたり、消費者だけでなく関係者にも愛されるブランドに育っていたりすると思うのですが、その理由としてどのようなことがありそうですか?

本当に有難いことに多くの方にご支持をいただいています。僕らの考え方はまだまだ未熟だと思いますが、やはり機能性→デザイン→サステナブルという設計が誰にとっても受け入れやすかったというのはあるかもしれません。地球に優しいという利他的な訴求ではなく、自分のための消費という利己的なところを訴求の中心にしたのはポイントかと思います。

あとは関わっているメンバーの熱量がお客様にも伝わっているのかなと思います。メンバー全員が一つ一つのステップを大切にして、どういう答えを導き出すかを大事にしているので、ブランドとしてもその熱量を伝えられているのではないでしょうか。

 

シートの開発も工場と二人三脚で進めてきた

ーカポックシートの開発に2年かかったと伺いました。もともと扱うのが難しいと言われていたカポックに着目したのはなぜですか?

これまでは機能性とデザインに加えてサステナブルを考慮すると、事業コストがかさんでしまうという、ある種トレードオフの関係がありました。でも今は動物性のものを植物性に変えていきましょうという世界的な大きな流れがあります。レザーや食肉の分野ではある程度進んできましたが、ダウン業界はまだまだなんです。だから植物由来のものの方が安く作れるようになるとマーケットとして伸びる可能性が非常に大きいなと思っていました。そんな時にカポックに出会い、ポテンシャルがあるなと思って使い始めました。

 

ー他の素材を検討することはなかったのですか?

実はインドネシアの研究機関と契約を結んで、他の植物性素材についても研究しています。インドネシアって1000個ぐらい島があり、色んな植物があるんですよ。その島の中に生えている植物を使って、新しい素材を開発していこうと思っています。中長期的には新しい素材も展開していけるといいですね。

 

ーカポックをシートにする過程は中国の工場で行なっていますよね。どのように連携を取られているのでしょうか?

僕は前職で旭化成に勤めていたのですが、当時の先輩と一緒に加工先を探しました。正直、カポック糸ではなくシートを作るのも難しい工程でした。一口にカポックと言っても、世界中に250種類くらいある植物なんです。なので、どの品種が向いているのか特定するところから始めなければいけませんでした。そして製造においてもカポックは軽すぎて飛んでいってしまい、なかなかまとまって安定しないんです。それを乗り越えるために、例えばどういう条件で粘着剤を入れるのかといった仮説検証をたくさん繰り返しました。この過程には、先輩や中国の工場の協力が欠かせませんでした。

 

ーカポックの生産者や中国の工場の方と事業を進める上で、意識していたことはありますか?

海外とのコミュニケーションは大変なことばかりでしたが、現地に行くのは重要でしたね。彼らはおしゃべりで話が色々と飛んでしまい、なかなか議論が進まないところもありましたが、ちゃんと話を聞くのを大切にしていました。多様な考えを否定しない、日本のスタンダードを押し付けないといったところも気をつけていましたね。あとは、僕らが何に困っていてどうしていきたいかをきちんと伝えるようにしています。そして、協働の先にどんな未来があるのかを一緒に描くことは非常に大事かなと思います。コロナ禍になって、多くのことがオンラインで済むようになったけど、直接会って、見て、話してしか叶えられないものも多くあります。インドネシアでは「現地まで来て一緒にカポックを研究しようと言われたのは初めてだよ」と言われました(笑)。繰り返しになりますが、キーポイントで現地に行ってリアルなコミュニケーションを取るのは大切ですね。これは家業や旭化成で教わって大事にしてきた部分であり、これからも大事にしていきたいところです。

加工後のカポックシート

 

ーシートが完成したあとはいよいよコートのデザインですね。デザインは誰がどのように手がけているのですか?

シリコンバレーで出会った方のお知り合いがパリコレブランドの元デザイナーで、縁あって彼がデザインを担当してくれています。コートをデザインしていく上で、機能性やクラッシックなデザインを損なわずにカポックシートを使うためには、縫製や仕様で課題が出てしまうのですが、どうやったら実現できるのか縫製工場と相談しながら何度も施策を重ねてくれています。服づくりの基本や、技術的なことを分かっている人がチームにいて、関係各所と丁寧に仕事を進めてくれているのは僕らの強みの1つじゃないかなと思います。

 

全ての人にこころよい暮らしを届けたい

ー今後の目標を教えてください。

日本を代表するサステナブルブランドになりたいと思っています。それを実現できれば、世の中がよりこころよい状態になってると思っていて、そのために「Farm to Fashionー農園から快い暮らしをー」というコンセプトに沿って商品を届けていきます。プロダクトとしてサステナブルに参画するコストを下げる状態を実現するだけでなく、ブランドコミュニケーションとしても伝えていけるように、オウンドメディアも運営しています。この11月には「いいパートナー企画」というものを打ち出しました。11月22日が『いい夫婦の日』として有名ですが、実は11月8日は『いいパートナーの日』なんです。パートナーシップを夫婦に限定するのはナンセンスだと思っていて、パートナーの形を捉え直そうとしています。性別に囚われないパートナーシップや、職場でのパートナー関係など、良いパートナーを再定義できればいいですね。

 

ー改めて、事業を通じて実現したい社会はどのようなものですか?

快い生活を誰もが送れる状態にしたいと思っています。この一歩として、サステナブルに誰もが簡単に参加できるようになって欲しいです。そして、サステナブルという1つの社会的な目標だけでなく、家族内での安心感とか、自分自身とうまく向き合うセルフパートナーのような切り口からも快い暮らしを捉えられるようになるところを目指していきたいです。

KAPOK KNOT https://kapok-knot.com/

 

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interviewer

掛川悠矢

記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。