「すぐに引越したい」というニーズに応える新しいサービス。MOVZの事業は「COM-PJ」でブラッシュアップした
対談

「すぐに引越したい」というニーズに応える新しいサービス。MOVZの事業は「COM-PJ」でブラッシュアップした

2025-04-25
#生活再建支援

社会課題解決につながる引越しサービスと聞いて、どんなものを思いつくだろうか?talikiのインキュベーションプログラム「COM-PJ」5期生の服部鉄平さんは、これまでにない引越し事業で社会課題を解決しようとしている。

服部さんによると、日本社会の中にはすぐに引越しを必要としている人々が100万組以上いるという。いじめ、DV、災害、急な転勤……。様々な要因から今住んでいる家から、移住しなければと考える人々がいるのだ。

このような状況に対し、服部さんが取り組む事業の内容や、「COM-PJ」に参加して得られたものについて、服部さんとメンターであるtalikiインキュベーション事業部の森開汰さんに話を聞いた。

 

<COM-PJとは?>
社会起業家支援を行う(株)talikiと京都リサーチパーク(株)が共催する、社会課題の解決を目指し起業したい全国の30才以下の方(創業2年未満、起業準備中など)を対象とした、3ヶ月の支援プログラムです。仲間たちとの毎週の進捗報告会の他、経営者やVCなどの豪華メンターからのフィードバック、講演会などが毎月開催されます。

https://talikikrp.work/

 

▼プロフィール
MOVZ代表 服部 鉄平(はっとり てっぺい)

2020年北海道大学に入学後、2021年にサカイ引越センター 札幌北支店に入社。その後、2022年より制作系の会社に入社し、新規事業開発、既存事業改革・組織マネジメントなどを経験。2024年にフリーランスとして独立し、スタートアップの新規事業開発を中心とした支援を行う。2025年1月にMOVZを立ち上げる。

 

株式会社taliki ファンドキャピタリスト 森開汰(もり かいた)

京都大学大学院農学研究科を修了後、2019年に外資系コンサルティングファームに入社。2022年4月、株式会社AaaS Bridgeを創業。2022年11月、株式会社AaaS Bridgeの代表取締役を務めながら、同時に株式会社talikiへ入社。経営者とベンチャーキャピタリストとして活動。

 

緊急・夜間の引越しニーズに応えるサービスを提案

ーーまず、現在、取り組んでいる事業内容を教えてください。

服部:本来は準備期間を含めて1か月ほどかかる引越しを、約3日に短縮するサービスを提供しています。引越し前後に発生する、引越会社・エネルギー仲介会社・中古品売買業者・廃棄物処理会社・行政・公的機関などとのやり取りを代行し、引越し当日も立ち会いや作業の手伝いをします。

 

ーー引越し事業を通じて、どんな課題を解決しようとしているのでしょうか?

服部:DV被害者の方やストーカー被害に遭っている方など、急な引越しを要する人が安心して使えるサービスを目指しています。

一般的に、引越しは1か月ほど前には申込が必要で、普通の引越し業者に急に依頼してもなかなかすぐには対応してもらえません。そうなると、急に引越ししなければならなくなった人たちは自力で引っ越すか友達を頼って引っ越したり、探偵や便利屋などにかなりの金額を支払って引越しをしたりすることになります。そういった苦労をせずに利用できるサービスをつくろうとしています。

また、DVやストーカー、いじめなどが理由となる場合、最初の相談先としてシェルターやNPO法人、警察、行政を選ぶ方もいます。そういった支援者の方々とも連携しながら引越しができたら、利用者さんも安心ですし、我々もリスクの分散ができます。今後、支援者との連携もできるようにしていきたいと考えています。

 

ーー確かに引越ししようとすると意外と時間がかかるので、緊急時には困りそうです。なぜ、既存の引っ越し業者では早急な引っ越しに対応できないのでしょうか?

服部:引越し業者のリソースなど色々な問題がありますが、利用者側の準備が間に合わないという問題もあって、1か月ほどかかっているケースが多いと思います。

例えば、引越しをする際には複数の引越し業者に相見積もりを取って依頼する人が多いと思います。このシステムによって、利用者個人が手配を全て自分でやらなければならず、時間がかかっています。セキュリティの問題をクリアできれば、個人情報の入力や手配はもっと自動化・効率化できるだろうと思います。

それ以外の部分でも、ゴミの処理とか様々な業者さんの手配とか、ギュッとまとめたら3日間ほどで対応できるはずなのに、忙しくてなかなかすぐにできないという人が多いのではないでしょうか。

 

ーー夜間の引越しが難しいことに関しては、引越し業者側の体制による問題が大きいのでしょうか?

服部:そうですね。夜間の稼働を前提とした雇用形態やシフトになっていないので、働き方を変える必要が出てきます。

ただ、それ以上に引越し業者さんから聞くのは、夜間の引越しは業者にとってリスクが高いという話です。例えば、借金をしていて夜逃げする人とか、ストーカーに追われている人とか、そういった方も夜間の引越しをする可能性があると思うのですが、事件が起こる可能性もありますよね。そのような現場に、企業として従業員を送り出すのはリスクだという判断がされるのも仕方ありません。

私たちがサービスを提供するにしても、リスクがあることは変わらないので、警察や行政などとの連携が重要だと考えています。

 

インキュベーションプログラム「COM-PJ」に参加した背景

ーー服部さんは事業開発にあたって、talikiと京都リサーチパークさんの社会起業家支援プログラム「COM-PJ」にも参加くださっていましたね。当初はソーシャルワーカーの支援事業を考えられていたそうですが、引っ越し事業へと変更されたのにはどんな背景がありますか?

服部:引越しには試行錯誤の結果たどり着いたのですが、大きかったのは、結局自分が想いを持ってできる事業じゃないといけないと思ったからです。

自分自身が小学生の頃にいじめを受けていたのですが、中学受験を機にその環境から抜け出すことができて。そういった自分の原体験と重ねると、いじめやDV、ストーカーなど問題そのものは解決しないかもしれないけれど、物理的な距離を取ることも一つの手段だと思ったんですよね。それで、「COM-PJ」に参加するなかで、緊急引越しサービスに方向転換しました。

もちろん、シェルターやNPOなどに助けてもらうのも良いと思いますが、「助けを求めて良いのかわからない」「誰を頼れば良いのかわからない」みたいな中間地点にいる人たちが、すぐに利用できるサービスがつくれないかなということも考えていました。

 

ーー「COM-PJ」の最中、苦労したことや難しかったことはありますか?

服部:自分の原体験から、引越しが良さそうだという点までは絞れたのですが、そこからのブラッシュアップに苦戦しました。特に、「誰の」「どんな課題」なのか深堀する部分が大変でした。

最初は、海外のギグワーカーを使った引越しサービスなどを参考に、ソリューションのことばかり考えていたんですよね。でも、途中から、そもそもどんな課題があるんだろうということに意識が向くようになって。今の引越しサービスではできないことを解決した方が良いと気付いてから、方向性が定まってきました。

そういった考えや情報を整理するのに、メンターである森さんとの1on1の場はとても役立ちました。1人で考えているとどんどん頭の中が散らかっていってしまうところ、人に話すことで自分の考えが整理されていくことが多かったです。

:確かに、もともと参考にしていた海外の事例に詳しかった分、アイデアが発散しすぎていた時期もありましたね。どんな課題があって、そのうちどの要因にアプローチするのかがなかなか見えずに、苦戦されていたイメージがあります。でも、ある時に「環境を変えざるを得ない人たち」というキーワードが出てきて。やむを得ず環境を変えなければいけない人のためのサービスというところに着目してからは、自信を持って事業作りを進められていました。

 

全力コミットでコミュニティを盛り上げようとした理由

ーー「COM-PJ」の期間中、森さんからみて服部さんはどんな存在でしたか?

:服部さんは遠方にお住まいということで、オンラインとオフライン、ハイブリッドを併せて参加してくださっていたのですが、直接会えなくてもすごくコミュニティを盛り上げてくれる存在でした。他の参加者に対して、ご自身の持っているナレッジやアセットをすごく共有してくれて。最初は、服部さんの勢いと周りのテンションにギャップがあったのですが、それでも折れずに淡々と続けてくださったので、どんどん周りが巻き込まれていきました。

無理に頑張ってやっている感じでもなく、服部さんは自然とGiverな人なんだなと感じています。どういうモチベーションでこんな風にコミュニティ全体を盛り上げてくれているのか、気になりました。

服部:「可能性を見捨てたくない」という気持ちが強かったからだと思います。自分自身も中学受験という可能性が開かれていたことによって、その先の人生が変わったなという経験があって。

だから、そこにあるチャンスや可能性はできるだけ活かしたいし、自分だけではなく人につなげたいんです。「COM-PJ」には色々な社会課題領域に取り組む人たちが集まっているので、それぞれのテーマに参考になる情報や活用できそうな機会があったら伝えるようにしていました。

そうやって伝えた後、その情報やチャンスを生かすも見逃すのもその人次第だと思います。ただ、私にできることは全力でやろうと思っていました。

 

ーー「COM-PJ」の参加者には、taliki主催のソーシャルカンファレンス「BEYOND」でプログラムの成果を発表してもらいました。この「BEYOND」に向けた練習も服部さんが主導でやってくれていましたね。

服部:そうですね。せっかく練習するならみんなでやって、フィードバックし合えたらいいなと思いました。事業の内容が良くてもピッチが下手で評価が下がるのはもったいないですしね。だから、場所取りはもちろんみんなへの声かけもして、全体としてクオリティを上げられたらと思っていました。

 

ーーそんな風にコミットしてくださった服部さんにとって、「COM-PJ」や社会起業家のコミュニティに参加することのメリットはどこにありますか?

服部:参加者同士で、相談し合ったり助け合ったりできるのが良いところだと思います。特に「COM-PJ」はノリの良い人が多くて、私が1人で先走っても、一緒に盛り上げてくれるのですごく助けられました。

それから、逆に弱音を吐ける環境としても、こういったコミュニティに参加するメリットはあると思います。事業を前に進めることを目的に参加していますが、どうしてもうまくいかない時期もあると思うんですよ。そういう時にも正直に「うまくいっていない」とか「疲れた」とか、弱音を言える場は、精神的な安定をもたらしてくれるセーフティーネットとして機能すると感じました。

たぶん、全てのコミュニティがそうなのではなくて、talikiのプログラムに良い人たちが集っているという前提もあるのではと思います。

COM-PJ 5期生と

 

既存の引越し業者や支援者との連携が課題解決のカギ

ーー事業のお話に戻りますが、「COM-PJ」を終えて、今後はどのようなことに取り組みたいと考えていますか?

服部:まずは、私自身がトラックを運転できないと何も始まらないので、免許取得に向けて頑張っています!

それから、大きな課題としてはマーケティングです。今の引越業界のマーケテイングにおいて、どれほど広告宣伝費に資本力を投下できるかが重要になっています。でも、最初からそれはできないので、SNSなども活用してどうにかお客様に刺さる訴求ができないか模索したいですね。特に、これから3月は引越しシーズンになっていくので、勝負の時期です。

あとは、今までお話ししたような夜間・緊急の引越しに伴うリスクについては実際にやってみないとわからない部分もあるので、これから模索していくことになると思います。

 

ーーそうですよね。では、最初は事業のターゲットはシンプルに引越し作業の代行を求めている方になるのでしょうか?

服部:そうですね。正直、リスクが解消されないままサービスを展開するのは、利用者さんにも我々にも危険なので、すぐにはDV、ストーカー被害の方のサポートはできないと思います。そのため、最初は転勤など仕事上の理由で急な引越しが必要になった人などを狙って、サービスを提供していければと思っています。いずれにせよ必要な情報は変わらないので、機能的な検証としては良いのではと思っています。

その上で、支援団体の方々へ取材などを通して、本当に必要なサービスや安全にサービスを提供できるような体制作りを進めていきたいです。

 

ーーそのような体制を作るにあたって、今後、連携していきたい相手はいますか?

服部:色々あります。これまでもお話に出てきたようなシェルターやNPO、警察などとの連携は徐々にしていきたいですね。

それから、既存の引越し業者との連携も視野に入れています。今は既存の引越し業者ではできないので、私がトラックを運転してサービスを提供できればと思っています。でも、私がスキームを作って、それを既存の引越し業者に展開できたら、課題の解決には1番良いですよね。私が1人でやるよりも圧倒的にリソースがありますし。

なので、これからも試行錯誤しながら、課題解決のために誰と連携し、どんな方法を取るのが良いのかということは常に考えていきたいです。

 

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    企画・取材

    堀井隆史

    大学生インターン。最近はレイトショーにハマっている。

    好きな映画は『グーニーズ』。

     

    編集

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

     

    執筆
    白鳥菜都

    ライター・エディター。好きな食べ物はえび、みかん、辛いもの。

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