社会課題解決事業 × ITソリューションでさらなる社会課題の解決をめざして。日立社会情報サービスとtalikiが協創で実現したいこと
日立社会情報サービスとtalikiは、2024年8月よりパートナーシップを結び、社会課題解決型の新規事業協創に取り組み始めた*。インフラ分野でITソリューションを提供する大手事業会社と、社会起業家支援を行うベンチャー企業。普段の業務内容も、会社としての文化も全く異なるこの2社がコラボレーションすることになったのはなぜだろうか。
日立社会情報サービス(以下、日立SIS)・代表取締役 取締役社長の北川高維さんと、taliki代表・中村多伽さんの対談を通し、その背景にある想いや、両社がめざすオープンイノベーションの姿をお伝えしたい。
*詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000209.000005268.html
▼プロフィール
株式会社日立社会情報サービス 代表取締役 取締役社長 北川 高維(きたがわ たかすみ) 写真右
1989年、株式会社日立製作所に入社。
社会ビジネスユニット 社会システム事業部の事業部長を経て、2023年4月より現職に就任。34年間にわたりSEとして通信キャリアや官公庁、電力会社などさまざまな大規模なプロジェクトに従事した。社長職となった現在は、「お客さまとともに社会に対してしっかり貢献できるような、社会イノベーションを起こせる会社づくり」をめざし、さまざまなチャレンジを行っている。
株式会社taliki 代表取締役 中村 多伽(なかむら たか) 写真左
2017年に起業家を支援する仕組みを作るため、京都を拠点にtalikiを立ち上げる。創業当時から実施している、U30の社会課題を解決する事業の立ち上げ支援を行うプログラム提供にとどまらず、現在は上場企業のオープンイノベーション案件や、地域の金融機関やベンチャーキャピタルと連携して起業家に対する出資のサポートも行なっている。
もくじ
パートナーシップの背景
ーーまず、日立SISとtaliki、それぞれどんな会社なのか教えてください。
北川:日立SISは、1986年に設立された、日立グループのITソリューションの一翼を担う会社です。数十人規模で始まった会社ですが、成長・合併を繰り返して、今では約3,000人の社員が働いてくれています。
主に、公共・通信・金融の分野でドメインナレッジを生かした大規模な開発やシステム・業務の運用に携わっています。最近ではいろいろな企業と協創して、 デジタルソリューションの創出にも力を入れています。
設立当初から、「人々が生き生きと快適に暮らせる豊かな社会の実現に貢献する」という想いを抱いて運営してきました。
中村:talikiは、命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みを作ることをビジョンに掲げ、その要因となる社会課題を解決する人を増やしたり、応援したりしている会社です。 2017年に創業しました。
具体的には、「社会起業家の育成」「社会起業家への投資」「オープンイノベーション」「メディア」という4つの機能があります。
社会企業家の育成としては、過去300事業ほどの立ち上げに伴走してきました。投資に関しては計16社に投資をしています。オープンイノベーションは社会起業家と社会課題解決をめざす大手企業さんとの連携をサポートする事業で、今回の取り組みもこれに該当します。メディア事業は社会課題解決と経済合理性の両立がまだまだ難しい中で、それらのデータを蓄積するために、いろいろな社会起業家のお話を伺って記事を制作しています。
ーー今回、この2社はパートナーシップを組み、社会課題解決における協業を検討することになりましたが、どんな経緯があったのでしょうか?
北川:まず、社会課題を解決することは、企業として社会的責任を担うという意味で非常に重要な役割だと考えています。さらに、社会課題を解決するためには、イノベーションを起こす必要があると思うんですね。 そして、イノベーションを起こす=新しい技術や新サービスを提供するということ、つまりそれ自体が企業価値を上げることにつながると思います。
それから、イノベーションを起こすとか、新しいことに挑戦するとか、そういったマインドは、企業として持続的・長期的に成長するために必須のものだとも感じています。
そういった想いがあり、社会課題解決型の新規事業創出が必要だと考えるようになりました。
ーーそんな中で、日立SISが協業先としてtalikiを選び、talikiがそれを引き受けたのにはそれぞれどんな理由がありますか?
北川:私たちは、一つの会社だけでイノベーションを起こすのは非常に難しく、いろいろな業種の方々の協力や連携が不可欠だと考えています。
一方で、残念ながら私たちは、ベンチャー企業や社会起業家の方々のような、課題意識を持っている方々とのコネクションがあまりなかったんですよね。さらに、つながりができても、企業文化の差が大きく、コミュニケーションが非常に難しいだろうなという意識がありました。
そんな中で、当社の役員がtalikiの中村さんの講演を聞き、その熱意に感銘を受けたという話をしてくれました。我々が課題に感じていることも解決していただけるのではないかと思い、パートナーシップのお声がけをしました。
中村:talikiの問い合わせフォームに日立さんのお名前があるのを見たときには、すごくびっくりしました。けれど、皆さんとお話する中で、“大手だから”ということにこだわらず、社会課題解決に正面から向き合っていることがよく分かりました。そういう意味で、私たちとかなり相性が良いのではないかと思い、パートナーシップを組ませていただくことになりました。
日立SISとご一緒させていただくことは私たちにとっても大きな価値があります。例えば、気候変動や高齢化などの深刻な課題を抜本的に解決しようとすると、膨大なデータが必要になるんですよね。そういった面で、デジタルソリューションに強みを持つ日立SISとの協創は重要です。
また、日立SISは、官公庁や大手企業とのコネクションもお持ちです。社会課題解決は公共性が高いものなので、私たちのような小さな社会起業家だけではなく、それらのコネクションを生かして一緒に大きなうねりを作っていけたらいいなと考えました。
社会課題解決とビジネスの両立は長い目で見る
ーー先ほど、北川さんから「社会課題解決を担うのは、企業の責任」といったお話もありました。これまでにも、日立SISではそういったチャレンジがあったのでしょうか?
北川:はい。最近では、農業分野における新事業の検討プロジェクトを立ち上げました。市場調査から戦略立案を経て、農業の課題を整理し、その中から事業化のチャンスを発掘するといったプロジェクトです。
日立グループの農業のソリューションを提供している会社、 農業を営んでいる企業、農機を製造販売している企業、当社の4社が集まって取り組んでいます。
中村:そのプロジェクトでは、現状、どんなことをしているのでしょうか?
北川:まだ、実証実験の最中で、チャンスのありそうなものを試している段階です。ただ、現時点でもたくさんの学びがありました。一つ目はやはり、とにかくその分野について勉強するのが大切だということ。今回の場合は農業なので、 農業のことを徹底的に勉強する。いろいろなパートナーの皆様とお話するわけですが、やはり相当勉強していないと、想いが伝わりませんし、納得していただけないですから。
二つ目は熱量が非常に重要だということ。知識に加えて、「我々はこういう課題を解決したいんだ」という想いを伝えて、 心を動かさないといけない。中村さんも起業家の方々と話していて経験があると思いますが、相手と同じようなパッションを私たちも持つことが大切だと思います。
それから三つ目は、現場を知るっていうことです。机上で仮説を立て、 専門家の方々にお話をお聞きし、実際やってみようと現場でお話をしたときに、合っているところと違っているところ、両方あるんですよね。それを理解して初めてスタート地点に立てると思っています。
中村:なるほど。ちなみに、今は農業の例をお話ししてくださいましたが、 社会課題解決にはいろいろなジャンルがあると思います。 北川さんご自身のご興味としては、どんな分野への関心が高いのでしょうか?
北川:最近特に関心が高いのは、ヘルスケア領域ですね。数年前から、ウェルビーイング阪急阪神さん、阪急阪神ホールディングスさんと日立SISとで、地域包括ケア 支援サービス「阪急阪神みなとわ」というサービスを始めました。
このサービスは、要介護者の方の周りにいる、ケアマネージャーや介護事業者や医師、薬剤師などが連携を取れるよう、対象となる要介護者の情報を一元的に管理するサービスです。
実は去年、私自身が要介護者の家族になって、いろいろなステークホルダーの方々とやりとりをしたのですが、連携を取るのがとても大変だったんです。それぞれの人と契約し、打ち合わせをセッティングして……と。しかも、そんな調整をしているうちにも要介護者の体調や状況は変わってしまう。だから、タイムリーに情報共有できるこのサービスが、いかに必要か実感しました。
中村:だから先ほど、どれだけその業界を知って、きちんと現場を見るかが重要とおっしゃっていたんですね。ご自身で経験されたことだったから。
北川:そうなんです。やはり自分自身が体験しないとピンと来ないことも多いですから、積極的に知りに行くことは大切だと思います。
中村:ただ、社会課題解決とビジネスの両立が難しいことって、まだまだたくさんあると思うんです。そんな中で、最終意思決定者として、どういう風にご判断されていますか?
北川:確かに、「これは大切だけど、ビジネスとしては成り立たないんだろうな」と思うものはよくありますよね。そういう時は、「すぐに儲からなくてもいいから、時には目先の利益だけにとらわれず、長期的な視点で物事を見ていくことが重要」ということで、実行する場合があります。
過去にも、最初は赤字が出ていたけれど、5〜6年経ったらとんとんになっていたものがあります。少し長い目で見る、根気は大事ですよね。
中村:おっしゃる通りです。よく大手企業の事業開発では「3年後に10億円」などの基準が設けられることがありますよね。正直、日本でそれはかなり難しいと思っています。
北川:事業計画がしっかり作れるなら苦労しないですが、事業が良い形になるまではある程度我慢も必要ですよね。
社会課題解決のためのオープンイノベーション推進をめざして
ーー今後、このパートナーシップを生かしてどんな取り組みをしていきたいとお考えですか?
北川:まずは社会課題解決のソリューションサービスをtalikiと一緒に開発し、 必要な事業を推進していきたいです。あとは、もともとある我々のイノベーション事業に対して、 talikiの支援先企業の方々にも入っていただきながら、ブラッシュアップをするといった取り組みも、ぜひお願いしたいです。
もちろん、私たちからも社会起業家の方々のサポートをしたいです。社会起業家の方々が想いやアイデアを社会実装、システム化したいとなったときに、我々のシステム開発、DXのソリューションでご支援させていただきます。結果として、さらにその先にいるお客さまに対して、社会課題解決に向けた取り組みをご提供できればと思っています。
中村:ありがとうございます。近いうちに、何か一つでも実現できればと思います。お互いに異なる得意分野を持ち寄って社会課題解決に向かっていくわけですが、「この事業があって良かったね」「日立SISとtalikiが組んで良かったね」と喜んでくれる方が増えたらいいなと思っています。ゆくゆくはそれが大きなうねりになっていって、社会課題解決に大きく寄与したり、構造の変革につながったらすごくうれしいです。
北川:そうですね。両者の技術や経験、それぞれのお客さまの基盤を連携して、相乗効果を発揮したいですね。
ーー今回の取り組みは、「オープンイノベーション」の普及という面でも重要かと思います。オープンイノベーションの推進といった意味で、どんな未来をめざしていますか?
北川:一般的な話ですが、オープンイノベーションを推進するときの壁と言われているものの一つに、企業の自前主義というものがあります。 その根底にあるのは、企業として当たり前ではありますが、収益・利益といった経済価値が重視されている現実。しかし、社会課題解決のための取り組みには、経済価値では図れない価値があると思います。
そういった価値をしっかり作り、イノベーションを起こすためには一つの企業より、いろいろな人々の連携・協力が不可欠です。なので、日立SISとしては、経済価値以外の指標をしっかり示し、 提供することで、オープンイノベーションが広まる後押しになればと思います。
中村:確かにまだまだ経済価値に転換しないと人を説得できない、巻き込めないシーンは多いですよね。ぜひ、一緒に新しい指標を開発したいです。
それから、私たちtalikiはあくまでも黒子の役割として、日立SISのような大企業と社会起業家が事業を推進したり、社会課題解決に向き合ったりしていく上で生じるノイズを取り除く役割を担えれば良いなと思います。先ほどもおっしゃっていたように、ベンチャーやスタートアップと大企業では、別の生き物のようにカルチャーが異なるので、私たちが翻訳者として介在し、皆さんが本当にやりたいことに向き合うサポートができればと思っています。
北川:文化の面では、今回のパートナーシップが、外だけではなく日立SISの社内にも波及する取り組みになったらうれしいです。当社の多くの社員は、定常的な業務や大規模なシステム開発に従事しています。もしかしたらこの記事を読んでも、なんだか自分からは遠い話だなと感じるかもしれません。
けれど、本当は全社員に関係のある話です。社会課題を解決したい、新しいものを作っていきたいという気持ちは企業の持続的な成長には欠かせないものだからです。そういった気持ちがなければ、目の前のお客さんさえ離れていってしまいます。だから、これからtalikiとともに、ワクワクドキドキするような社会課題解決に取り組んでいけたらと思います。
中村:ありがとうございます。今日お話を伺って、一緒にできそうなことを新たに思いついたりとか、向き合っていきたいものが増えたりしました。これから、よろしくお願いします。
株式会社日立社会情報サービス https://www.hitachi-sis.co.jp/
株式会社taliki https://www.taliki.co.jp/
企画・編集
張沙英
餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。
執筆
白鳥菜都
ライター・エディター。好きな食べ物はえび、みかん、辛いもの。
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