【工藤柊×中村多伽】(後編)talikiファンド設立。資金調達で事業と社会課題解決を加速させる
対談

【工藤柊×中村多伽】(後編)talikiファンド設立。資金調達で事業と社会課題解決を加速させる

2021-03-18
#食 #環境 #ファンド

ヴィーガン事業に取り組む工藤柊と、社会起業家のサポート事業を行う中村多伽。前編では、今回の出資に至った経緯や、それぞれが出資先・出資元としてお互いを選んだ理由を語ってもらった。後編では、出資を受けることでブイクックの事業がどう進んでいくのか、また、社会課題に事業で取り組むということについて語ってもらった。

 【プロフィール】
・工藤 柊(くどう しゅう)
株式会社ブイクック代表取締役。ヴィーガン料理のレシピ投稿サイトやヴィーガン惣菜の定期宅配サービス「ブイクックデリ」を運営する。自身も高校3年生の時から、環境問題と動物倫理の観点からヴィーガンを実践。1999年生まれ。
株式会社ブイクック代表取締役・工藤さんのインタビュー記事はこちら

80年後も変わらず桜を見るために。ヴィーガン実践のビジネス

 

・中村 多伽(なかむら たか)
2017年に京都で起業家を支援する仕組みを作るため、talikiを立ち上げる。創業当時から実施しているU30の社会課題を解決する事業の立ち上げ支援を行うプログラム提供の他に、現在は上場企業のオープンイノベーション案件や、地域の金融機関やベンチャーキャピタルと連携して起業家に対する出資のサポートも行なっている。
株式会社taliki代表取締役・中村のインタビュー記事はこちら

経済的成功はgiveの精神から【前編】

人に投資し、事業を加速させたい

―今回の出資を受けて、ブイクックはどのような影響があるのでしょうか?

工藤柊(以下、工藤):お金を使いたいなと思っているのは基本的に人件費です。これまでは役員社員が僕一人という形でやってきて、他の方には業務委託として関わってもらっていました。今回の出資を受け、何名かを社員として迎え入れるつもりです。週に数時間関わってくれていた人が、今後は週5で関わってくれるのは有り難いですね。そうすることで事業の進み具合も2倍、3倍になると思います。やることはこれまでと変わらないけど、その速度を高めていきたいです。

 

―今後の事業の方向性はどうなるのでしょう?

工藤:2021年は、ブイクックの基盤となるビジネスモデルを作ることを目標に取り組もうと思っています。ヴィーガン惣菜の定期宅配サービスである「ブイクックデリ」を進めていくつもりです。メニュー数の増加やパーソナライズなどができるように、どんどん会員数が増えていくような良いサービスにしていきたいです。

 

中村多伽(以下、中村):そこにtalikiが出資することでどんな寄与ができるかについて、壁打ち相手になるとか人を紹介するということにプラスして特徴的なのが、ファンドに出資してくださっているパートナー企業さんのリソースを活用できるようになっていることです。例えば、店舗に商品を卸させていただいたり、ポップアップを試験的にさせていただいたりということも視野に入れています。もちろんブイクックの事業フェーズによって必要なリソースは変化すると思うので、そこに合わせたご支援ができればなと思っています。

 

工藤:ブイクックデリは定期購入のサービスなので、1度食べてみる経験をするのがとても重要だと思っていて。美味しいかわからないものを定期的に購入するのって、ハードルが高いじゃないですか。それを最初に試してみる場としても、助けていただきたいなと思います。

ブイクックのレシピ投稿サイト

 

問題解決の課題から新たに生まれる課題

ーお二人はまさに社会起業家ですが、社会課題にビジネスで取り組むことをどう捉えていますか?

工藤:社会課題って、もともとあった課題と、それを解決しようとしたが故に生まれた課題の連続だと思っています。例えば、人口が増えて食料が足りないという問題を解決しようとした結果、森林の伐採や農薬による汚染といった問題が生まれてしまったといった具合です。ブイクックが取り組んでいる課題の1つである環境問題もまさにそうで、これまではみんないいと思って開発してきたけれど、それによって実は地球の温度が上がったりごみが増加したりという問題が起きているんですね。じゃあ、新たに生まれてしまった問題に取り組もうということで、ブイクックではヴィーガンという切り口で環境問題にも取り組んでいます。

課題解決のプロセスから生まれる新たな課題って、予測できることもあればできないこともあると思います。でも、社会課題を解決するための事業が次の課題につながらないように気をつけています。具体的には、プラスチックゴミ問題に対して紙の容器を選択するとか、フードロス問題に対して受注生産の仕組みにするといった工夫をしています。

 

ーそういった視点は、いつ頃から意識されていますか?

工藤:ものを作り始めたタイミングですかね。ずっとwebサービスを運営してきたので、ごみが増えることなんてなかったのですが、レシピ本を作る時にはすごく考えたテーマでした。電子書籍にするか、紙媒体にするかも迷いました。結局紙の方が良いという意見が多かったので、紙媒体で作りましたが、梱包材を必要以上に使わないようにしたり、事業活動による環境負荷を考え始めるきっかけになりました。

そして何より、プラスチックごみを生み出しちゃってるとか、フードロスが発生しちゃってるとなると、僕たち自身が気持ちよく販売できないんです。自分たちが気持ちよく事業を続けるためにも、次の課題に繋がらないように配慮することは最近ずっと意識しています。

 

中村:とても大事な視点ですよね。先日、アメリカの畜産業に関するドキュメンタリーを見ました。欧米のヴィーガン志向の拡大によって、畜産農家が職を失い困窮の危機に瀕しているという内容です。食肉の生産による環境負荷を個人がよしとせず、ヴィーガンを選択する人が世界に増えれば、いまその産業にいる人を否定することになります。そういう意味では、何か課題を解決すると新しい課題が生まれるということは往々にしてあると思います。じゃあ、目の前の課題を放置するのかというと、それも違うよねと。ヴィーガンを選択することで、畜産の仕事は減ってしまうけど、それなら新しく作物を育ててみましょうとか、広い土地を使って新たなビジネスを始めましょうとか。そういった形で、新たに生まれた課題に対しても、取り組んで行ける人が必要だなと。

社会課題は人間が集まれば生まれてくるものだし、そこで歪みができるのは避けて通れないことだと思うので、talikiは新しく課題が生まれたとしても、そこに取り組み続けられる人がたくさん出てくる仕組みを作っていきたいなと思っています。

 

スタンダードを生み出す開拓者としての選択

中村:例えば容器の選び方やパートナー企業の選び方で、他の社会課題を気にしなければもっと楽に事業を進められるのにと思うポイントがあると思うんだけど、そこに対してどんな気持ちで挑んでいるのか、工藤くんに聞いてみたいですね。

 

工藤:ブイクックデリを始めるときに一番大変だったのが、皮肉にも環境負荷を下げることでした。プラスチックだと種類も大きさも選択肢が豊富ですが、紙の容器だと選択の幅が狭まってしまう。環境負荷をかけないことが、利便性とコストのトレードオフであることを改めて感じました。

でも、環境問題や社会課題を考えていなければ、そもそも事業も始めていなかったので、この事業でこの領域でやっていくと決めたからには、他の課題にも配慮するのが当たり前だと思っています。むしろ楽したいなら、最初から今の事業そのものをやらない方が楽だから。紙の容器だとコストが上がるっていうのはすごく小さな問題でしかないですし、自分たち選択で需要を示し、結果的に世の中の選択肢を増やしていきたいと思っています。

 

中村:工藤くんや他の社会起業家を見ていて思うのは、圧倒的な当事者意識を持っているなということです。自分が始めることが、世の中のスタンダードを生み出すきっかけになるという開拓者としての姿勢が素晴らしいなと思います。今の容器の話を取っても、環境負荷の少ない容器を世の中のスタンダードにしていくには、たくさん発注できないといけないわけで。要はサービス自体のユーザーを数万、数十万と伸ばしていく必要がありますよね。私たちはその過程を「ヒト・モノ・カネ・情報」でサポートすることで、投資家として間接的に課題の解決に貢献できると思っていますし、こういった想いの起業家を応援していきたいです。

 

ー最後に一言ずつお願いします。

工藤:環境問題などを考えると「なんでこんなことをしてきたんだ」と上の世代に怒る人もいると思うんです。でも、上の世代は上の世代で、その時の価値観に沿って、課題に取り組んできたわけで。その結果今の課題が生まれてしまったんだと思っています。だから、上の世代に対する健全な怒りは持ちつつも、僕たちは次の世代にそう思わせないようにしていくべきだと思っています。これからまだまだ長い人生が続くので、僕たち自身が生き続けられる環境を守ることはもちろん、子どもや孫の世代がちゃんと暮らしていける場所を継いでいきたいです。

どうして事業でアプローチするかの話にもなりますが、事業が成長していろんな方が使ってくれるようになれば、ヴィーガンである自分たちも生きやすくなりますし、環境や動物問題の解決にも繋がります。自分たちが頑張ることで、より良い環境を次の世代に引き継いでいけるんだという意識は、事業をやってる意義として大事にし続けたいです。

 

中村:世代間の話もそうだど、誰かを責めて済むなら社会課題ってとっくに解決してるというか、誰を責めても解決にはならないと思っています。環境問題や社会課題に関心のある若い子が増えているのは素敵なので、戦う相手を見誤らないようにしてほしいです。怒りや違和感といった感情を、ポジティブなエネルギーに変えて周りを変えていくアクションに移してもらえればと思います。ブイクックのようなサービスがもっと増えるといいですね。

 

工藤:僕も頑張っていきます。

 

株式会社ブイクック https://www.vcook.co.jp/
talikiファンド https://taliki.vc/

 

    1. この記事の情報に満足しましたか?
    とても満足満足ふつう不満とても不満



    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

    • ホーム
    • 対談の記事
    • 【工藤柊×中村多伽】(後編)talikiファンド設立。資金調達で事業と社会課題解決を加速させる

    関連する記事

    taliki magazine

    社会課題に取り組む起業家のこだわりを届ける。
    ソーシャルビジネスの最新情報が届くtalikiのメルマガに登録しませんか?