80年後も変わらず桜を見るために。ヴィーガン実践のビジネス

高校生の頃からヴィーガン(肉・魚の他に、卵・乳製品も摂取しないベジタリアンの一種)を実践し、現在はヴィーガンのレシピサイトを運営する工藤柊。「食を変えることは、身近にできる社会貢献の一つ」と語る工藤に、社会に向けてヴィーガンの選択肢をフラットに提示する理由を聞いた。

【プロフィール】工藤 柊(くどう しゅう)

1999年生まれ。神戸大学を休学後、株式会社ブイクック代表取締役を務めるかたわら、NPO法人日本ヴィーガンコミュニティ代表として活動。ヴィーガンレシピ投稿サイト『ブイクック』を運営する。ヴィーガンレシピ本出版のためのクラウドファンディングも実施中。

 

ヴィーガンを選択しやすい社会をつくる

―高校生の頃からヴィーガンを実践されているそうですが、ヴィーガンを始めたきっかけを教えてください。

高校3年生のときに、交通事故でひかれてぺちゃんこになった猫を見つけたことがきっかけで、動物の殺処分や畜産の問題を知り、動物愛護や環境保護の観点でヴィーガンを始めました。以前から環境問題に関心を持っていたので、食事から環境負荷を減らせるヴィーガンを知ったからには、やらない理由がないとすぐに実行に移しました。

自分がヴィーガンを実践してみると、周りにもヴィーガンやベジタリアンの友人が集まるようになりました。そこで、ヴィーガンを実践したいけど続けるのは難しい、苦しい思いをしている人が多いことに気がついたんです。ヴィーガンを選択したいのに環境が合わず葛藤している友人たちを見て、そうした友人たちのためにヴィーガンを選択しやすい社会をつくりたいと思うようになりました。

工藤さんがヴィーガンになった詳しい経緯はこちらから。
【ぺちゃんこの猫】僕がヴィーガンになった理由。

 

―工藤さんがヴィーガンになった3年前と比べて、今はヴィーガンを実践するハードルは下がったのでしょうか?

そうですね、ヴィーガンという言葉の認知はずいぶん広がったと思います。東京や大阪などの都市部、また情報感度の高い人の間では、単語だけでなくその意味も浸透してきました。初対面の人に話す際にかなり理解してもらいやすくなりましたね。

ヴィーガン食品へのアクセスという点でも、2020年に予定されていた東京オリンピックに向けて対応が進んできました。大手外食チェーンやコンビニエンスストアでヴィーガンメニューが導入されるなど、ここ1,2年で急速に市場が伸びたと感じています。

 

株式会社ブイクック設立に込めた決意

―2020年4月に、株式会社ブイクックを設立されたとのことですが、ブイクック事業を以前のNPOから新設の株式会社へ移行したのはなぜですか?

最大の理由は、ブイクックの事業を今後さらに加速させるために、素早い意思決定が必要になるからです。NPO法人では重要な意思決定に正会員10名の承認が必要となり、日々変化し続けるブイクックの事業を進めるにはやや不向きでした。
メンバーとともにブイクックをさらに展開させるためのハコとして、今は株式会社体制がふさわしいと考え、株式会社化しました。

 

―株式会社ブイクック代表として、経営において心がけていることはありますか?

ユーザーファーストの姿勢と、一緒に事業を作るメンバーの幸せを最優先にすることです。
ブイクックのユーザーファーストとは、ユーザーに価値を届けられているか考え、サービスを継続することだと考えています。
ブイクックに1ヶ月で40投稿してくれたユーザーに話を聞いたとき、「将来、自分の子どもがお母さんのご飯が食べたいと思ったとき、母の味を再現できるようにブイクックに記録しているんです」と話してくれました。それを聞いて、これはブイクックをやめるわけにはいかない、意地でもサービスを継続するぞ、と決意しましたね(笑)。株式会社ブイクックという社名にしたのも、ブイクックのサービスを届け続けるという意思表明を込めています。

メンバーの幸せを最優先にするのは、過去の経験から学びました。サービスを立ち上げた頃は、誰よりも自分が時間をかけて取り組んできたのですが、NPOでは自分に給料を出さずに他のアルバイトで生活をつないでいました。自分だけでなく他のメンバーも知らず知らずのうちに無理を重ねるようになり、精神的に苦しくなったこともありました。

そうした経験から、メンバーの幸せを最優先にし、身近な人を幸せにする気持ちを持ち続けて会社を経営していきたいと考えています。

 

ブイクックがあったから、ヴィーガンを続けられた

―ブイクックのサービスには、ユーザーが使い続けたくなるような仕組みがたくさんあるように感じます。

ブイクックのサービスを作る上で、『お金2.0』(著・佐藤 航陽、幻冬舎)に書かれていた、「経済の仕組みをつくるために大事なこと5つ」を参考にしました。本では、インセンティブ、リアルタイム、不確実性、ヒエラルキー、コミュニケーションの5つが挙げられています。経済の仕組み=ブイクックが発展していくための仕組み、と捉えて、5つのポイントを取り入れるようにしました。

例えばインセンティブについては、いいね!やコメント数が見られるようにしたり、初めて投稿してくれた人には運営からお礼のメールをしたりしています。ヒエラルキーやコミュニケーションについては、一定数以上投稿したユーザーを認定シェフとしてLINEのオープンチャットに招待しています。オープンチャットでは、優先的に企業からの商品提供やアンケートの情報を流す他、活発にコミュニケーションが生まれる場になっていますね。ヒアリングも行うので、今ではすっかり全員と知り合いになりました。

 

―ユーザーからの声で、印象に残っているものはありますか?

そうですね、ヴィーガンを始めて1ヶ月の方からいただいたコメントが印象に残っています。

ヴィーガンを始めてしばらくは、料理が単調になりがちですごく苦しかった。でも、ヴィーガン生活を2週間続けたある日、ブイクックのサイトに出会い、自分が食べたいものが次々に出てきて驚いた。料理が楽しくなって、ヴィーガンが苦痛ではなくなった。タイムラインを見ていると、自分は一人じゃないと感じてヴィーガンを続けられた。

この声を聞いて、めちゃくちゃ嬉しかったです。このためにブイクックを続けてきたんだと思いました。ブイクックは、ヴィーガンを続けたい人が続けるための手助けになっていると知り、たしかな手応えを感じましたね。

 

ヴィーガンは選択肢の一つ。社会に向けてフラットに提示する

―工藤さんがヴィーガンという選択肢を社会に提示する上で、意識していることはありますか?

強要するのではなく、選択肢の一つとしてフラットに提示するということは意識しています。

ヴィーガンを選択肢の一つとして伝えているのは、食事をすべてヴィーガンに変えることは難しいと身を持って知っているから。より多くの人にハードル低く取り組んでほしいという思いがあるので、他の人に強制することはしたくないんです。1週間に1日でもいいから、持続可能な社会のために取り組んでみませんか?とフラットにメッセージを伝えるようにしています。

僕たち20代にとって、環境問題は現実的な課題です。人生が残り80年あるとして、80年後には気候が変わって桜が見られない、海水浴ができないというのは十分ありうる話。自分だけでなく、自分の子どもや将来の世代も笑って暮らせるように、一人ひとりができる範囲で行動を変えていくことが必要です。より多くの人にメッセージを届けるためにも、フラットに発信することを心がけています。

持続可能な社会を目指すには、食は身近なアプローチです。一つの目的を持って、今日食べるものを変えるというのは、簡単にできる社会貢献の一つ。「持続可能で平和な世界にするために、一食でも変えてみない?」と伝え続けていきたいです。選べるときに選ぶ、それぐらい気軽に取り組んでみてほしいですね。

 

次なる課題は、ヴィーガンに外食の選択肢をつくること

―現在(2020年4月時点)、ヴィーガンレシピ本出版のクラウドファンディングを実施されていますが、達成後の目標や今後の展望を聞かせてください。

ブイクックとこのレシピ本を広げることができれば、食卓におけるヴィーガンの悩みは解決できます。

次に困るのは外食。外食は、ヴィーガンの人が行ける場所が限られていたり、場所はあっても一緒に行く人の理解が必要だったりと課題が多いです。今後は、外食におけるヴィーガンの課題を解決していきます

特に、既存のレストランに、ヴィーガンコンサルとして関わりたいと考えています。既存の店舗にこだわるのは、自分たちで店舗を経営するよりも、より広い地域に関わることができるからです。現在はヴィーガンを扱っていない店舗に向けて、レシピ開発から集客サポートなどのマーケティングまで一貫して支援できる存在を目指します。様々な地域でヴィーガンの人がアクセスできるように、既存の飲食店や宿泊業者と連携していきたいと考えています。

 

株式会社ブイクック 公式ホームページ  https://vcook.co.jp/
ヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」 https://vcook.jp/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


    writer
    田坂日菜子

    島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

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