【中村恒星×濱田祐太×矢野龍平】若手起業家3人が事業における「インクルージョン」を考え直す。(前編)

様々な分断や排除、社会問題を解消し、あらゆる人が幸せを感じられる社会を実現するための概念として、「インクルージョン(包摂)」が注目されている。これまで分断や排除の受難者になっていた人などを対象とし、包摂的な事業に取り組む若手起業家たち。インクルージョンをテーマに対談を行い、それぞれの事業における「インクルージョン」についての考え方を話してもらった。

【プロフィール】
・中村 恒星(なかむら こうせい)
1995年生まれ。株式会社SpinLife代表取締役。富山大学薬学部を経て、北海道大学医学部に編入し現在4年生。表皮水疱症患者*との出会いをきっかけに、病気で口の中が荒れている人や食べることに制限がある人でも食べることができる、完全食チョコレート「andew」を開発。2020年4月22日に発売を開始し、2時間で100枚を完売した。
*表皮水疱症⋯皮膚がボロボロとめくれてしまう先天性の皮膚難病。

株式会社Spinlife代表取締役・中村さんの記事はこちら

完全食チョコレートを難病患者に。商品開発に込めたぶれない想い

 

・濱田 祐太(はまだ ゆうた)
1996年生まれ。株式会社ローカルフラッグ代表取締役。京都府与謝野町出身。「地方創生」に関心を持ち、大学時代には、全国の先進事例の視察や丹後地域で事業立ち上げなどを行う。2019年7月にローカルフラッグを創業。現在は天橋立で牡蠣が大量繁殖する環境課題に向き合い、牡蠣殻と地元産のホップを醸造過程に使ったクラフトビールの製造に挑戦している。関西学院大学卒業。
株式会社ローカルフラッグ代表取締役・濱田さんの記事はこちら

雇用を生み、利益率を上げる。地方創生の未来とは

 

・矢野 龍平(やの りゅうへい)
1996年生まれ。株式会社アカイノロシ代表取締役。龍谷大学卒業。タイの少数民族「アカ族」のコーヒーとの出会いをきっかけにアカイノロシを創業。世界中のヒトやモノがその価値を正当に評価される、持続可能な流通モデルの実現を目指している。2020年10月15日、京都・西陣に自家焙煎スペシャリティコーヒー専門店「Laughter(ラフター)」をオープンした。
矢野さんと株式会社アカイノロシを共同創業した、三輪浩朔さんの記事はこちら

品質にこだわり、想いをのせる。タイ産コーヒーに託すやさしい循環

 

・中村 多伽(なかむら たか)

株式会社taliki代表取締役CEO。本対談のモデレーターを務める。

「インクルージョン」を定義するのは難しい

中村多伽(以下、タカ):今回、「インクルージョン(包摂)」をテーマにした対談とお伝えしていましたが、インクルージョンと聞いて皆さんはどんなイメージを持たれましたか?


中村恒星(以下、中村):僕はヘルスケア領域に携わる人間として、医療の観点からインクルージョンを感じます。大学病院で重病を患った患者さんと接したり、僕自身も心臓の病気を抱える中で、病気を持つと「患者さん」というラベルを貼られてしまい、その方は「患者さん」以外として扱われない。でも本当に大事なのは、病気を抱えながらも、みんなと同じ1人の人間としてどう生きるかということだと思うんです。
重病者を特別な存在として扱うのではなく1人の人間として包摂して考えるということは、インクルージョンにも通じる大事な考え方です。


濱田祐太(以下、濱田):今まで、事業の中でインクルージョンを意識することはありませんでした。今もちゃんとした定義は分かっていないと思うので、今後追求して勉強しないとな、と思っています(笑)。ですが、
「排除をせず、色々な人を巻き込む」という部分では、僕たちの事業の考え方はインクルージョンに通じる部分があると思います。地方で事業をやっているとは言っても地元の人たちだけでやっているわけではありません。むしろ、都市部で過ごしている人をいかに排除せず、地域に関わってもらうかということを意識しています。


矢野龍平(以下、矢野):僕も、事業の中で意識したことはありませんでしたね。それでこの対談の前に、「インクルージョンとは」でグーグル検索をしてみたんです(笑)。いくつかインクルージョンに関する記事を読んで、
インクルージョンであること自体が目的になってきてしまっているのではないかという感想を持ちました。インクルージョンを実現するのは、その先に達成したい目標があるからだと思うんです。でも、今はこの考え方自体が大事だと注目されてしまっています。その時は「インクルージョンって何なんだろう?」とモヤモヤしたまま終わってしまったのですが、結局明確な定義は難しいものなのかな、と思うようになりました。

 

いかにして事業に人を巻き込むか

タカ:皆さんのインクルージョンの印象を伺ったところで、次に事業に関してのインクルージョンについて伺っていきたいと思います。この世の中には物理的・精神的に社会から排除されている部分がまだまだたくさんあります。社会起業家の方々はそのような分断のボーダーをなくしていく事業をされていると思うのですが、皆さんの事業はどのような部分を包摂しているとお考えですか?濱田さんが拠点にされている与謝野町は色々なところから離れていますね。


濱田:
与謝野町は都市部から距離が離れていて、基本的に人が足りない状況になっているので、いかにして外の力を借りるかが大事なテーマです。現在は2パターンのやり方で人を巻き込む取り組みをしています。


1つ目は、人が足りない作業をコンテンツ化して、外部の人たちに手伝いに来てもらうことです。
ホップの栽培体験ができるホップレンジャーという取り組みで、2020年の夏にはホップを摘んでみたい人たちが累計300時間くらい参加してくれました。京都市内から車で1時間半くらいかけて来てくれる人が多いです。それで、農家さんからはホップ摘みの作業が楽になったという声が、参加者の方からはホップという珍しい植物に触れて楽しかったという声がありました。地元の人と外部の人の双方といい関係を持ちながら、地域の困りごとを解消できる取り組みになってきていますね。2つ目は、与謝野町に関わりたいけれど、なかなか移住をするには至っていない、いわゆる「関係人口*」をメンバーとして巻き込む取り組みです。例えば関東圏で開催するイベントには、東京在住のメンバーに立ってもらっています。与謝野町でフルタイムで働ける人だけでなく、外にいる人たちも巻き込んだ事業展開を意識しています。

*関係人口・・移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。(参考:総務省


タカ:濱田さんと中村さんの場合、地域で事業を行いながら、東京にもメンバーがいらっしゃいますね。遠方のメンバーとは、どのように出会ってどのように巻き込んでいったのか教えてください。


濱田:1人は中学校の先輩でした。「地元の地域活性化をやろう」と声をかけ続けていたのですが、ようやく就職先の仕事に慣れて時間の余裕ができたということで、副業として手伝ってくれるようになりました。また2023年には自社の醸造所を作る予定のため、最近ビール醸造者の仲間を迎え入れたのですが、この人は株式会社CAMPFIREが運営していた仲間募集サービス「TOMOSHIBI」で募集したところ申し込んでくれました。
全く与謝野町には全く関係がない方なので、ビールでつながったという形ですね。


中村:弊社の場合、
パティシエとショコラティエは、Instagramで見つけた方です。僕はチョコレートが作れないので、Instagramでチョコレートのハッシュタグで作れる人を探して、「この人よさそうだな」と声を掛けたところマッチしました。どうしてマッチしたのか話を聞いてみると、お菓子作り業界はブラックで、特に若手は労働環境が悪いらしいんです。自分の生活もしっかり充実させた上で働きたい気持ちがあり、僕も無理はさせないと言っていたのでジョインしてくれました。僕たちは月に1回新商品を出しているのですが、自分で立案して作り、販売まで携わることも新鮮だそうです。規模の大きい企業で働くと、商品開発でも上から言われた物を作るだけで、自分の作ったものが売れている感覚がないということでした。SpinLifeは小さな会社ですから、案を出すところから全て自分で関わることができます。売れたときの嬉しさが大きいということで、Instagramで出会ってから継続的に関わり続けてくれています。

実はSpinLifeで医療に関心があるのは僕だけなんですよね(笑)。shopifyでECサイト構築のコーディングをやってくれているエンジニアは、shopifyでの構築に興味があってジョインしてくれました。旭川市の隣にある北竜町という田舎の出身で、人口減で同級生が10人くらいしかいないような環境で育ったそうです。ECで地方を盛り上げたいからshopifyで販売をしたいと思っていたそうなのですが、売るものがないんですよね。僕は売るものを持っていたけど、売り方が分からなかったので、声をかけて一緒に事業をやることになりました。

 

プロダクトに自分のどんなエピソードを込めるか

タカ:中村さんの「自身が病気を抱えつつ、医療者として難病患者さんとの出会い」、濱田さんの「自身のご出身からの地域創生への関心」という創業理由に対して、矢野さんの創業のきっかけは一見ご自身の所属や背景とは関係なかったように見えます。日本ではあまり知られていない「アカ族」に注目されたのは、どんな関心が背景にあったのですか?


矢野:僕はもともとコーヒーにそれほど詳しくはなく、アカ族に出会ったのもたまたまだったんです。それならなぜアカイノロシを始めたのかということなのですが、
きっかけの1つは自分の「定住したくない」という暮らし方の理想像でした。常にあちこちを飛び回っているような生き方をしたいと漠然と考えていたんです。加えて、大学の授業などで色々な土地の生産者さんと関わることが多かったことも影響しています。例えば京丹後の米生産者さんに2年ほど関わらせていただいた時は、気持ちを込めたて作ったお米が「京都府産」として一緒くたにされて価値が埋もれてしまう中で、直販のルートをどうやって作っていくかということを一緒になって考えました。そうした生活の中で、生産者さんが丹精を込めて作った作物の価値が埋もれてしまう問題は、世界中に存在しているということを知りました。


そういった経験から現地に行って自分がいいと思ったものの価値を発掘することを仕事にしたいと思うようになったんです。アカ族と出会ったのはちょうどその頃でした。
コーヒーなら境界線なく海外にも行けるので自分の暮らし方の理想像とマッチしますし、やりたい仕事もできると気付きました。


中村:僕も矢野さんと似ていて、チョコレートにはあまり詳しくありません。自分で作れないし、人から「美味しいチョコレートの食べ方を教えてください!」と尋ねられて答えられないこともあります(笑)。食品を売っている会社の代表としていかがなものか、という話をメンバー内ですることもあるのですが、「じゃあ自分が医学部生ではなくショコラティエだったら、世の中はプロダクトをどう受け止めるんだろう?」とよく思っていて。
代表が医学部生で、自身も病気を抱えているからこそ、これほど共感してくれる人が現れたんですよね。代表のエピソードがプロダクトには込められると思うので、どんなエピソードを込めるかが難しいところだと感じます。ちなみに、濱田さんはどれくらいビールにお詳しいんですか?


濱田:僕は頑張って勉強しました(笑)。元々詳しくはなかったのですが、ビールは嗜好性が高い商品で、マニアの方からも注目されることになると思ったんです。ビールについての会話が出来るように、最低限のことは押さえておこうと思い、本を読んだり色々な人に話を聞かせてもらったりしました。


中村:
ブランドにとって、創業者が元々プロダクトに詳しい人なのか、たまたま想いを表現する形がそのプロダクトだったのかという点は大きいと思っていて。クリアしていくべき壁が全く異なってくると思うので、僕も悩みどころだと感じています。

 

後編では、元々職人や生産者の立場ではない人がリーダーとなりプロダクトを生産・販売することの意味や、一人の起業家としてのインクルージョンへの考えについて語ってもらった。後編はこちら:

【中村恒星×濱田祐太×矢野龍平】若手起業家3人が事業における「インクルージョン」を考え直す。(後編)

 

【未来の変化のために「今」を耕す将来世代たちが、有楽町マルイインクルージョンフェスに出店】

3月12日(金)~3月14日(日)
11:00-20:00
有楽町マルイ1Fにて

株式会社talikiプロデュースのもと、インクルージョンフェスの3日間、さまざまな社会課題解決に取り組む企業5社が期間限定POPUPを開催いたします。20代の起業家たちが紡ぐ「未来のスタンダード」を、商品を通してのぞいてみませんか?
関東にお住いの皆様はぜひこの期間に、有楽町マルイへお立ち寄りください!
詳しくはこちら:
https://www.0101.co.jp/086/store-info/fair.html?article_id=36204

 

writer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。