品質にこだわり、想いをのせる。タイ産コーヒーに託すやさしい循環

タイの山奥で人生初めて飲んだコーヒーに心を動かされ、起業を決意したアカイノロシ三輪 浩朔。「コーヒーにこだわりはあるが、執着はない」と語る三輪が想いを伝える際のこだわりについて、そしてタイ産コーヒーを通して実現したい未来について聞いた。

【プロフィール】三輪 浩朔(みわ こうさく)
株式会社アカイノロシ共同創業者。大学4年時に起業。アカイノロシのアカは「アカ族」というタイの少数民族を表しており、彼らが生産したコーヒー豆を日本に輸入・販売している。持続可能な流通モデルを構築し、世界中のヒトやモノがその価値を正当に評価され、後世に残っていく社会の実現を目指している。

 

タイ産コーヒーに込めた想い

—アカイノロシのコーヒーはどのようなコーヒーなのでしょうか。

アカ族は、タイの山岳地帯で麻薬を作っていた少数民族です。40年ほど前にタイ王室と国連主導のロイヤルプロジェクトによって、アカ族は麻薬栽培をやめ、コーヒー栽培に切り替えました。そこからタイの北部ではコーヒー栽培が盛んに行われていたのですが、現金収入に繋がらない場合も多いという現状があります。

僕はたまたま大学3年生の時、このコーヒーに出会い心動かされたので、このコーヒーを日本に輸入し、現金という形でタイの農園に直接還元したいという想いで、事業をスタートしました。コーヒーで現金収入を得ることができればアカ族はまた麻薬栽培に戻ることもないです。
また、このコーヒーは自然に優しい方法で栽培されているため、環境を傷つけることもないですし、この事業を通してコーヒー栽培の文化・伝統を紡ぐこともできます。
コーヒーを糸口に、消費でやさしい社会を作りたいと思っています。

 

詳しい創業ストーリーはアカイノロシ公式noteや三輪さんの公式noteから。
株式会社アカイノロシ | note

みわこうさく@株式会社アカイノロシ | note

 

—どのような方がこのコーヒーを購入されているのですか。

現状、うちの会社は実際の店舗がなくてオンラインショップを中心に販売しているので、元々アカイノロシという会社を知っている方が多いですね。私たちが登壇したイベントでビジョンに共感してくださった方が一番多いです。最近はSNSでの発信にも力を入れているのですが、それをきっかけにタイという国自体が好きな方なんかも購入してくれています。

 

—リピートして購入される方も多いんでしょうか。

リピートしてもらうのがなかなか難しくて。コーヒーを本当に好きな人って一つのものを買い続けるというより、旅をするような形でいろんなロースターさんを回って様々な銘柄のコーヒーを買う人が多いんです。だからコーヒーが大好きな人は意外と定着しづらくて、アカイノロシという会社をいいなと思ってくれた方がリピートしてくれますね。
ただ、コーヒーという糸口からリピートしてもらうにはどうしたらいいかを模索しているところです。その一つとして定期便のサービスがあって、これをもう少し伸ばしていけたらなと思っています。

 

「おいしさ」と「想い」。バランスの取れた発信を

—ユーザーに「アカイノロシのコーヒー」の価値を理解してもらうために、どんな工夫をされていますか。

新型コロナウイルスの流行を受けて、イベントなどの出店機会が少なくなったことを機に、会社公式のnoteを始めたり、SNSでの発信に力を入れ始めました。
そこで
改めて感じるのが、味だけではなく、ストーリーや想いを伝えることの大切さですなぜ会社を始めたのかということや、なぜタイ産コーヒーなのかを言語化するということは、自分たちにとって創業時から何万回も繰り返してきたことだったので、そのような発信が少しおざなりになっていた気がしています。

自分たちにとってストーリーや想いが「当たり前」のものになっていた分、アカイノロシのコーヒーを売ろうとするとき、「このコーヒーはこんなふうに美味しいんですよ。」と、味の良さを一番に伝えたくなってしまう。でもお客さんにとっては、コーヒーの「味」は、実際に飲んでみないとわからない価値ですよね。なので、まずは興味を持って飲んでもらうために、創業のストーリーやブログ記事の内容を伝えるなど、「見えない価値」を理解してもらうことが大切だと最近改めて思います。

 

—商品の良さを伝える際に、美味しさとストーリーのバランスを意識されているということでしょうか。

そうですね。ほんとにこれが難しくて。社会性のあるストーリーばっかり押し出されても重いじゃないですか。コーヒーってそんなに難しく考えて飲むものじゃないですよね(笑)。コンビニコーヒーでも美味しいと思って飲むならそれで全然いいと思っています。ただ、アカイノロシのコーヒーは味だけで勝負するのももったいないなと思うんです。だから押し付けがましくない程度にストーリーや想いについて伝えていきたいです味がわからないんだったら買わなくていいですとは思わないし、ストーリーに共感してかわいそうだから買ってくださいというのも違う。面白いなと思ってもらえたり、また買おうと思ってもらえたりするように、発信のバランスを意識しています。

 

—商品を発送する際に一人ひとりに当てた手紙を同封していると伺いました。このように丁寧なコミュニケーションを心掛けられているのはなぜですか?

お客さんの立場になって考えたら、こんな無名の会社のコーヒーを買ってくれることに感謝しかないんです。全国どこから見つけてきてくださったんだろう、という方もたくさんいます。「たくさんのコーヒーの中から、うちの商品を買ってくれてありがとう」という感謝の気持ちでいっぱいです。まずその気持ちを伝えつつ、ストーリーやビジョンについてもお伝えして、より興味をもってもらい、リピート購入につながればいいなと思います。

 

—アカイノロシのコーヒーを購入したユーザーからはどのような反響がありますか?

購入者にアンケートをとっているのですが、「添付してくれたお手紙がありがたかった」という声はよくいただきます。初期から手紙の添付はしていたのですが、パンプレットを同封して商品の紹介をすることがメインでした。それがユーザーの感想を聞いているうちに、パンフレットだけでなく、創業のこともわかるようなストーリーとかを添付するのも良いかなと思うようになりました。「ストーリーがよかったです」とか、

「ストーリーに共感したので、今後も購入したいです」という声をいただくので、嬉しいですね。

タイの農園にて。

 

「誰が作ったコーヒーなのか」が見える拠点づくり

—どのように事業や認知の拡大に取り組まれているのですか。

これまでは四条河原町のスペースに毎週出店したり、会議やイベントでサーブしたりして、認知を広げてきました。今は、コロナウイルスの流行で出店やイベントはなくなっている状況です。
ただ、自分たちのお店を持ちたいという想いはずっと変わらず持っています以前は、「コーヒーショップを作って、夜はバーにして…」みたいなことを考えていましたが、この情勢においてその実現は今後2~3年難しいだろうなと思います。現在考えているのは、店の中で飲食をしてもらうというよりは、店舗内で製造を行って、そこにふらっと買いに来てもらうというイメージのお店を作りたいと思っています。製造拠点であり、かつ遊びに来てもらうような、自分たちに会いに来てもらうような感覚の店舗になる予定です。

世の中にコーヒー屋はたくさんあって、主流な産地の豆はどこのコーヒー屋でも扱われています。その上で差別化の要素として、焙煎している人の顔が見えるであったり、農園に根ざしたコーヒーの買い取りを行なっていたりという付加価値があり、それで他と差をつけているんです。
僕はコーヒーの消費は「ヒト消費」だと思っています僕らが急に今エチオピアの豆を使い出したとしても、これまでしっかりと地域や農園に根ざしたコーヒー豆の買い取りを行ってきた方たちに売り上げが勝ることはないと思います。品質や味がいいことも大事ですが、「誰が作っているのか」が見えることはもっと大事です。僕たちにはそのような拠点づくりが求められているのかなと、コロナ禍を通して強く実感しました。

また、新型コロナウイルスの流行によって働き方など人々の生活様式が大きく変化したことで、これまで当たり前のようにやってきたけれど実は無駄だったことや、もっと効率的にできることがあるかもしれない、というような状態が明らかになった気がします。でも、無駄がない人生って疲れるなと逆に思ってしまって。
アカイノロシがこれから作ろうとしている「会いに行けるファクトリー」がコンセプトの店舗は、人生における「余白」のような時間を彩れる場所にしたいですね。

 

やさしい消費の循環を目指して

—最後に5年後、10年後にどのような未来を目指しているのか聞かせてください。

今後3~5年間は、タイ産コーヒーといえば「アカイノロシ」と思ってもらえるように、コーヒーの販売を拡大していきます。

僕は、最初から起業したいという気持ちがあったわけではないし、コーヒーも大学3年生まで一切飲んだことはなかったんですよね。なのに、いろんなご縁でタイの山奥で飲んだコーヒーが美味しかったという心の揺れ動きがきっかけとなり、コーヒーで起業を決めたので、個人的にも会社としてもコーヒーにこだわりはあるけど執着はない、というスタンスです。
コーヒーだけを取り扱う会社ではもったいない。最終的にはいろんな商品を扱い、「アカイノロシのものを買っているとなんか社会にも環境にも良いらしいよ」っていうようなやさしい消費の循環を作りたいです。

生活サイクルの中で最も身近なことって、商品を買うことじゃないですか。そこになにかストーリーや付加価値のような要素が加わっていたら面白いことになるだろうなと思っていて、アカイノロシの商品を買うことで意識せずともその利益が誰かに還元されているような仕組みをつくりたいです
僕がタイの山奥でコーヒーに心動かされたのと同じように、5年、10年先も誰かの心を揺れ動かすものを取り扱い続けたいと思います。

 

アカイノロシ https://akhainoroshi.com/

 

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interviewer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

 

writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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