生産者と向き合い、ともに挑む持続可能な農業。MAAHA × 坂ノ途中 × daidai対談

2023年3月、丸井グループと当メディアを運営するtalikiが共創するインクルージョンフェス『インクルージョン×将来世代を紡ぐ起業家feat.taliki〜地球とあなたへ 春の優しいギフト〜』が開催される。5回目の開催となる今回は、6社の社会起業家が有楽町マルイに集う。本対談では、「生産者支援」をテーマに、生産者との関係構築や、消費者に対して生産者の魅力を伝える工夫などについて聞いた。

【プロフィール】

・田口 愛(たぐち あい)写真左上

MPRAESO合同会社CEO。幼少期からチョコレートが好きで、カカオ農家に会うために19歳でガーナに渡航。ガーナのカカオ豆が低価格で取引され、現地の人たちが困っている状況を知り、農家と一緒に高品質のカカオ豆を作る事業を始める。同時に日本でカカオからチョコレートを作るワークショップなども開催している。

田口さんの過去のインタビュー記事はこちら:ガーナで起こすカカオ革命。世界の裏側に想いを馳せるカカオ取引の仕組みとは

 

・小野 邦彦(おの くにひこ)写真右上

幼少期から人間の環境負荷への問題意識を持っていたことや、大学時代のバックパッカーの経験などを通し、環境負荷の小さい農業に興味を持つ。2009年に「100年先も続く農業を」というビジョンを掲げ、株式会社坂ノ途中を設立。主に新規就農者の農産物を取り扱うEC事業や卸売事業を行なっている。

小野さんの過去のインタビュー記事はこちら:新規就農者を増やし、「100年先も続く農業」を実現。これからの農業の在るべき姿とは

 

・平戸 裕馬(ひらと ゆうま)写真下

株式会社WithFarmerCEO。果樹園地の事業承継のサポートと新規就農者の伴走支援、オランジェットブランド「daidai」の展開を行なっている。

平戸さんの過去のインタビュー記事はこちら:新規就農を最短で可能に。第3者継承を一気通貫でサポートする

 

・中村 多伽(なかむら たか)

株式会社taliki代表取締役CEO。本対談のモデレーターを務める。

MAAHA、坂ノ途中、daidai ギフトでおすすめの商品

中村多伽(以下、中村):本日は、お集まりいただきありがとうございます。最初に皆さんの自己紹介をお願いします。

 

田口愛(以下、田口):MAAHAチョコレート代表の田口と申します。地球の反対側にあるガーナに拠点を置き、カカオ農家さんの支援やチョコレート製造技術の提供、チョコレート工場の建設を行なっています。消費者にとってチョコは身近なものですが、カカオ農家さんのことはよく知らない人のほうが多いですよね。私たちは「境界線を溶かすチョコレート」というキャッチコピーを掲げて、消費者にカカオ農家さんを身近に感じてもらえるような取り組みをしています。

 

小野邦彦(以下、小野):坂ノ途中代表の小野といいます。僕らは、環境負荷の小さい農業を広げるということをテーマに、国内事業と海外事業を展開しています。国内では有機農業を志す新規就農者が多いのですが、ゼロから有機農業をスタートするのはとても過酷で経営を成り立たせるのは非常に困難です。僕らは新規就農者の農産物を自社ECや法人向けに流通・販売をしつつ、その中で得られた知見をもとに生産者にフィードバックを返すことで新規就農者が経営しやすいような体制を作っています。

海外事業は東南アジアの産地を中心に、海ノ向こうコーヒーというプロジェクトを展開しています。森を守りながらコーヒーを育てるアグロフォレストリーという手法を取り入れ、森林減少を止めながら品質の良いコーヒーを生産し、現地に安定した雇用と収入を生み出すプロジェクトです。もともとは、人口増加や貨幣経済の流入などによってラオスの森林減少が著しくなっているという相談を受けたことから始まったチャレンジでした。現在はミャンマーやインドネシア、ネパールといったアジア各国にも広がっており、各地で生産したコーヒーをスペシャルティコーヒーとして日本に輸入して販売しています。

 

平戸裕馬(以下、平戸):WithFarmer代表の平戸です。最速で簡単に新規就農ができる世界を目指して、農家さんの事業承継から独立までを一気通貫で支援しています。具体的には、農業をやめたい農家さんを探して、承継可能だと判断した園地を自社で引き継ぎます。新規就農者にはWithFarmerに入社してもらい、自社園地で2年間研修をしていただきます。その後は子会社を設立してもらい、社長として経営を学んだのちに独立していただくというようなモデルで展開しています。

また、POPUPにも出店させていただくdaidaiというブランドで、柑橘にチョコをかけたオランジェットというお菓子を生産・販売しています。

 

中村:皆さんありがとうございます。今回のPOPUPは「地球とあなたへ 春のやさしいギフト」というコンセプトで開催するのですが、自社の商品でギフトとしておすすめしたいものを教えてください。

 

田口:私たちはカカオテリーヌが一番おすすめです。けっこうずっしりと濃厚な味で、1人じゃ食べきれないから家族や友達と食べようということで購入してくださる方が多いです。みんなで一緒に食べながら、「MAAHAってこういうブランドなんだよ」という話をしたり、私の発信からガーナについて知ったりして楽しんだというお声をよく頂きます。今は大きいサイズしか出していないのですが、「誰と食べようかな」とか「最後の一切れ自分で食べちゃいたいけどあの人にもあげたいな」とか、そんな揺らぎも楽しんでいただける商品なのかなと個人的に思っています。味は、口に入れた瞬間カカオの香りがふわっと広がって、すっと滑らかに消えるもっちりした生チョコみたいな食感で、唯一無二なカカオテリーヌだと思っているので、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。

MAAHAのカカオテリーヌ

 

小野:僕らのちょっとしたギフトとしておすすめなのはシロップ系ですね。1つが生姜農家さんからレシピを引き継いだジンジャーシロップです。親生姜(種生姜として植えられるもの)を使っているのですが、親生姜ってずっと土の中にいるので水分が少なくて辛味も強いんですよ。だからそのままではあまり使い道がなくて廃棄されてしまうのですが、僕らは親生姜の辛味を活かして、カルダモンなどのスパイスを足すことでキリッとした大人向けのジンジャーシロップを作っています。炭酸で割ったり、ウイスキーに少し入れたりして大人な楽しみ方もできるし、ホットミルクでジンジャーチャイみたいにしても美味しいです。

あともう1つはカスカラシロップです。カスカラはコーヒーの果皮や果実のことなんですが、実は私たちはコーヒーの種の部分を焙煎して飲んでいて、果実や皮は捨てられることがほとんどです。でも、農家さんに完熟した実を積んでもらっているので、果実部分もフルーティーで酸味があって、あんずみたいな風味で美味しいんですよ。今はカスカラを扱う企業も増えてきていますが、僕らが扱い始めたときは日本ではまだありませんでした。先駆的な取り組みから生まれたシロップで、しかも当時このレシピを開発したのが大学生のインターンの子だったんです。だから、「年齢は関係なく、自分が地道に取り組んでいることで世界を変えることもあるんだ」ということを、このシロップを飲みながら感じてもらえたらなと思います。

坂ノ途中のジンジャーシロップ

 

中村:とても素敵なエピソードですね。daidaiでは今回ハート型のオランジェットがあると伺っています。

 

平戸:そうなんです。オランジェットはどれもギフトとしておすすめなのですが、今回はホワイトデー期間での出店ということもあり、ハート型のレモンを愛媛の農家さんから仕入れてオランジェットを作ります、オランジェットは柑橘をドライ加工するのですが、ハート型に加工しなくてはいけなくて、これまでとは違う形の加工に農家さんや社内のメンバーと気合いを入れて挑戦します。

あともう1つありまして、シンプルな「しらぬい(柑橘の一種)」のオランジェットなのですが、今回しらぬい自体も一緒に販売しようと思っています。生のしらぬいと加工したオランジェットを一緒に食べることで、柑橘の魅力を余すことなく感じていただけたら嬉しいです。そしてこのしらぬいは、WithFamer1人目の新規就農者と一緒に、荒廃した園地を復活させて1年かけて育てたしらぬいなんです。これまでは仕入れた柑橘で作っていましたが、今回は我々の手で作ったものをお届けできるので、とても感慨深いです。

daidaのオランジェット

 

生産者や消費者との関係構築で大事にしていること

 

中村:各社魅力的な商品ばかりで、とても楽しみです。さて、皆さんの共通するキーワードとして「生産者」があると思います。そこで、皆さんが生産者との関係構築で意識していることや、消費者に対して生産者や生産物の魅力をどう伝えているかといったお話を伺いたいです。

 

平戸:僕は農家さんが好きすぎるが故に、大学時代から1000軒以上の農家さんと関わりを持ってきました。だから農家さんが喜ぶことは何となく知ってはいたんですが、自分も最近生産者側になったことでわかったことがあります。自分たちが作った農作物を農家さんに食べてもらうと、味の変化に気づいてくれるんです。実際に食べてもらって、変化に気づいてもらえることがとても嬉しい。それが「去年のほうが美味しかった」というような意見でも、ちゃんと見てくれているんだと感じられて、そういう関係性って良いなと思いました。だから、自分たちも農家さんから仕入れたものは、消費者にも同じように感じてもらえるような商品設計にしようと心がけています。同じ生産者の立場だからこそできる関係構築だなと思います。

 

小野僕は全方位に対してフェアでいることをすごく大事にしています。農家さんと関わる立場として、「彼らはすごいことをしている」と必要以上に持ち上げすぎるのは違うと思いますし、農家さんのことを「農業以外のことは疎い」みたいな偏見で見下すのももちろん違います。逆に農業をやっていない人間に対して威圧的な態度をとる農家さんもいますが、それもフェアじゃない。お互いに対等な人間であるという前提で付き合うのが大事だと思っています。だから、僕たちは「農家さんが困っててかわいそうだから買ってね」みたいな売り方もしないですし、「お客様の安心安全のための有機農業」みたいな訴求もしません。環境負荷の小さい社会にシフトするために農薬や化学肥料、化石燃料への依存を減らしていくことが大事で、そうやって育てた野菜はタフに育つから結果的に美味しくなる、というような伝え方をしています。

そしてもう1つ関係性で会社として大事にしていることが、長距離走を走るということです。本当に時間をかけて、少しずつ少しずつ農地を自分の血の通ったものにしていくという農家さんの生き方から学びました。僕らも時間をかけて買い続けてくれるお客さんを増やしていきたいですし、農家さんとも「一緒に長距離を走っていこうね」というスタンスでお付き合いしています。

 

中村:全方位に対してフェアであることがすべての持続性を高めるということですね。

 

田口:私たちもフェアでいるということは大事にしています。カカオからチョコレートができるまでには本当に多くの工程があって、関係者も多いです。それ故に、生産者とショコラティエがコミュニケーションをとる機会がなかなかないですし、売り手と買い手で明確な上下関係になりがちです。私はチョコ好きが転じて日本のショコラティエさんにチョコ作りを学びに行ったり、ガーナまで行ったりしていたので、双方の声を届けたらこの業界の分断が少しでもなくなるんじゃないかと思ったんです。

実際にお互いの声を届けてみたら、カカオ農家さんはもっと高く買い取ってほしいと言う一方で、ショコラティエさんはそもそもガーナ産のカカオは品質が低いと言うのです。発酵がバラバラだったり、石を混入させて重さをカサ増ししていたりするところもあると。そこで私たちがガーナで発酵の管理をしたり不純物を取り除いたりして、最終的な品質のチェックまでやるようにしました。その結果、品質が良くなって取引価格の向上にもつながりました。それ以上に良かったことは、農家さんとショコラティエさんの間に感謝の気持ちが生まれて、お互いの状況を理解し合えるようになったことです。加えて、農家さんにチョコを食べたお客さんの声を届けるとすごく喜んでくれます。そういう嬉しい変化があると、私たちが会社として動いていて良かったなと思います。

 

中村:田口さんはいつも現地の様子をカジュアルに情報発信されていますが、それも消費者に身近に感じてもらうような工夫なのでしょうか?

 

田口:カジュアルに発信しているのは、小野さんの「かわいそうだからという理由で買ってほしくない」というお話に近いものを感じていて。私たちが活動を始める前からカカオのフェアトレードの取り組みはありましたが、フェアトレードだからと言って他と比べて品質が劣っても高い金額で買うかと言ったら、やっぱり難しいと思うんです。だからこそ、助けてくださいではなくて、しっかり品質を上げてその誇りと自信を発信することが大事だと思っています。私自身の原動力も、かわいそうだから助けようではなく、ガーナの人たちがすごく逞しくてかっこよくて、彼らに惹かれているというところから生まれていると感じています。同じようにポジティブな気持ちで彼らを好きになってくれる人が増えたら良いなと思い発信しています。

 

事業を通して包摂したいものは?

中村:今回、丸井グループが実施する「インクルージョンフェス」の一環として皆さんにもご出店いただくということで、皆さんが事業を通して包摂したいもの、取り残したくないものは何かを最後にお伺いできればと思います。

 

小野:僕は、日々生き物を食べているということを忘れてはいないかと問題提起させてもらうことがけっこうあります。野菜も生き物であり、生き物だから状況によって質や量がブレるんですね。でも野菜の流通ってブレを嫌うんです。ブレを嫌う流通に適応しようと思うと、生産に負荷がかかるし、農薬や化学肥料を使わざるを得ないし、適応できなかったものは廃棄されるので食品ロスも増えるんですよ。例えばトマト1つとっても、今日のトマトは甘いなとか、今日のトマトは酸っぱいけど青臭い香りがあってこれはこれでおいしいなとか、そうやって生き物の個性を楽しんでいるほうが豊かなんじゃないでしょうか。

包摂の反対は排他ですが、野菜のブレを受け入れられるようになったら排他的な生き方をしなくて済むようになると思うんです。まずは野菜のブレから受け入れる練習をして、そのうちだんだん人間のブレも楽しめるようになったら、みんなもう少し生きやすい世界になるんじゃないかなと思っています。

 

平戸:僕たちは2つの事業それぞれで包摂したいものがあります。事業承継では、経済合理性に合うように前の園主のやり方からガラッと変えてしまうこともあるんですよね。でも、その園主が培ってきた想いやコツはちゃんと引き継いでいきたいなと思っています。例えば、今80歳のおばあさまから引き継いだ園地を復活させて運営しているのですが、先日熊本に雪が積もったとき、おばあさまに寒波を乗り切るコツを教えていただきました。そのときに、畑と園主が一緒に歩んできた半世紀以上もの歴史を感じて、経営のやり方は変えてもそこで生まれたコツや園主の想いはしっかり新規就農者にも伝えていきたいと思いました。

オランジェットに関しては、柑橘とチョコレートという2つだけの掛け算ではあるのですが、だからこそ大量生産ではなく1つ1つマリアージュで最高のものを出せるように試行錯誤しています。関わる人全員の熱がすごく乗っていて、それが商品のクオリティにも表れていると思うので、そういったところをご来店いただいた方々には感じていただきたいなと思います。

 

田口:私は、途上国と呼ばれる国に対して、私たち日本人が先入観や固定概念を持ってしまっていることを忘れてほしくないなと思っています。例えば、ガーナのカカオ農家さんはカカオを作っているのにチョコは高級すぎて買えないという話をたまに耳にします。でも実際は金銭的な問題だけが大きな理由なのではなく、加工場がなかったり、そもそも暑い国だからチョコを食べたいとはならなかったり、そういったフラットな問題による部分も大きいんです。カカオ農家さんはチョコを買えないと日本人が思っている話を農家さんに伝えると、日本の人たちはチョコを食べるけどカカオフルーツは食べたことないでしょと逆に言われて、すごくハッとしました。どこか心の中で壁をつくったり上下関係を持って見てしまっているかもしれないと思います。

他の例で言えば、工場建設の場に現地のメンバーが連れてきた子どもが写っている写真をSNSで投稿したら、児童労働させているんじゃないかと指摘がありました。児童労働はもちろんさせていませんが、そもそもガーナでは仕事場に子どもを連れていくのも、お母さんだけでなくお父さんが面倒をみるのも当たり前で日常の風景ですし、今は政府のルールによって強制的な児童労働はほぼない状態になっています。私たち日本人に届くアフリカの情報って、寄付など彼らの大変な部分だけを切り取って発信されているものが多いので、必然的に情報が偏ってしまうなと感じます。私もガーナに行くまではそういうイメージを持っていたんですけど、実際に行ってみるとジャングルは本当に豊かですし、地域全体で子どもの面倒を見たり、村のみんなはお互いの名前を知っていて挨拶も盛んだったり。現地にしかない豊かさも素敵なところもあるので、そういうところもフラットに伝えていきたいです。

 

中村:皆さんや生産者さんの想いが、POPUPを通してご来店いただく方々にも伝わると良いなと思います。ありがとうございました!

MAAHA https://maaha-chocolate.shop/
株式会社坂ノ途中 https://www.on-the-slope.com/
daidai https://daidai-orangette.myshopify.com/

 

【インクルージョン×将来世代を紡ぐ起業家feat.taliki 〜地球とあなたへ 春の優しいギフト〜

 

場所:有楽町マルイ 1F カレンダリウム

期間:3月6日(月)~3月12日(日)

営業時間:11:00~20:00

※最終日のみ19:00閉店

 

さまざまな社会課題解決に取り組む企業6社が期間限定POPUPを開催いたします。起業家たちが紡ぐ「未来のスタンダード」を、商品を通してのぞいてみませんか?ぜひこの期間に、有楽町マルイへお立ち寄りください!

 

詳しくはこちら:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003122.000003860.html

 

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    writer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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