新規就農を最短で可能に。第3者継承を一気通貫でサポートする

農業において最も深刻な課題は、キャリアの接続がうまくいっていないことなのではないか。そう語るのは、株式会社WithFarmer CEOの平戸裕馬だ。この課題を解決するため、WithFarmerは農業をやめたい人と新規就農したい人をマッチングして事業継承をサポートし、新規就農者に伴走する事業を行なっている。なぜ日本では新規就農者が増えないのか、どのようなサポートが必要なのかについて聞いた。

【プロフィール】平戸 裕馬(ひらと ゆうま)
株式会社WithFarmerCEO。果樹園地の事業承継のサポートと新規就農者の伴走支援、オランジェットブランド「daidai」の展開を行なっている。

新規就農者の前にはさまざまな参入障壁

ーーどのような経緯で起業されたのですか?

大学では農学を研究しながら、農家さんを巡って日本を2周したり、農林水産省での経験を通じて、農業に一生を捧げるということを心に決めていました。さらに、将来は農業の中で最も深刻な課題とされているところに自分の身を投じたいとも考えていました。

それから農業に携わる仕事を数年間やり、30歳になったとき、農業界の1番の問題はキャリアとキャリアの接続点だと思うようになりました。つまり、農業をやめる人と、これから農業をやる人がうまくつながれていないということです。この課題は、私が大学に入る前からずっと言われ続けている農家の後継者不足にもつながっています。何年間も解決の兆しが見えていないこの課題に対してアプローチしたいと思い、起業しました。

 

ーー農業の中で最も深刻な課題が、キャリアとキャリアの接続ができていないことや後継者がいないことなのではないかと。これらの課題はどのような背景から生じているのでしょうか?

後継者がいない、新規就農者が増えないのは、あらゆる参入障壁が立ちはだかっているからです。

まず、農業をやりたいと思っても相談できる窓口が少ないように感じます。そして、畑を借りられたとしても条件の良い土地は基本的に地元の農家さんが抑えていて、収益化がしづらい畑が回ってくることが多いです。畑を借りる時点で、新規就農者の方が収益可能な畑かどうかを自分で判断するのはとても難しいです。

また、畑を継ぐことになったとしても、継承元の農家さんとの契約でトラブルが発生することが多いです。例えば、きちんと土地の契約をしていなかったために結局明け渡してもらえない、やっぱりやめたくないと言われてしまう、その農家さんが亡くなった後に親族の方から返してほしいと言われるなど。また、販路はここに固定してほしいと言われるようなトラブルもあります。

これらの障壁を乗り越えて無事に就農できても、地域に馴染むのが難しくてやめてしまう人もいます。例えば、消防団に入る、お祭りの手伝いをする、自治会の掃除活動に参加するなど、地域で暮らすためにやらなければいけないことはたくさんあります。それがうまくできず、地域の中で孤立してしまうのです。

そして、認定新規就農者という行政の認定を受けて補助金を受け取れるようになるまでに時間がかかるという仕組みの問題もあります。一方で、例えば果樹栽培の場合、木を植えてから実がなるまで5年くらいかかるので、その間畑から得られる収益はありません。

このように、蓋を開けてみたら参入障壁がありとあらゆるところに存在し、就農してもやめてしまう人がたくさんいます。そこで、新規就農者の方に就農前から一気通貫で伴走できる事業が必要だと考えるようになりました。

 

第3者継承を一気通貫でサポート

ーーWithFarmerの事業継承サービスの流れを教えてください。

私たちは特に、継承元の農家さんと血のつながりのない第3者に畑を継承する、第3者継承に注力しています。

最初に私たちが農業をやめたい農家さんを探します。承継元農家さんを見つけたら、財政状況や農地の状態を審査します。そして、承継可能だと判断できれば、まずは自社で承継し、今度は新規就農者を探します。

新規就農者の方にはまずWithFamerに入社いただき、2年間自社が経営している農園で修行をしてもらった後に子会社を設立してもらいます。子会社の社長として本社からサポートを受けながら、農業と経営を学び、充分な技術が身についた時点でWithFarmerから株を買い戻し、農地と共に独立するという流れです。

新規就農者の方には、農業生産の売上は全てWithFarmerに入金していただきますが、社員として毎月安定した収入を得ていただけます。

 

ーービジネスモデルがとても特徴的だと思いました。どのような経緯で現在のビジネスモデルに至ったのですか?

いくつか考えていたモデルがありました。1つ目に考えていたのは、農業法人をM&Aするというモデルでした。ただ、農業法人のM&A案件ってあまりないんですね。それは、農業法人の中の技術はその法人に固有のものであり、法人内の技術者が引退してしまうと事業を回すことができないからだということがわかりました。

そこで、新規就農者の方に技術を教えてくれる人が必要だと思い、新規就農者の方と離農される方が一緒に会社を作るというモデルを考えました。新規就農者の方にはお金を入れてもらい、農家さんからは現物出資してもらって会社を作るという形です。しかし、このモデルは成立はしますが、私たちが儲からないという問題がありました。また、さまざまな農家さんにヒアリングをしていく中で、離農される農家さんが畑に残らず、完全に畑を手放していただく方がトラブルが少ないということがわかりました。

これらのことを踏まえて、まずはWithFarmerが農地を引き継ぎ、新規就農者の方を月額給与という形でサポートしながら、農産物の売上はWithFarmerに入れていただくという事業モデルになりました。

 

新規就農者、離農者それぞれに寄り添う

ーー新規就農者の方に対して一気通貫でサポートされているとのことですが、具体的にどのような関わり方をされているのですか?

就農に向けて離農される農家さんを探したり土地の交渉をしたりというのはもちろんですが、移住後の生活のサポートも行なっています。

例えば第1号として熊本で就農された方に対しては、その方が移住される前に私が3ヶ月間移住される集落で実際に生活しました。そしてその間に、家の手配やお子さんの小学校・保育園の手配、自治会長さんへのご挨拶などを済ませ、一通り生活様式を覚えて移住のサポートができるようにしました。

そして、参入後は一緒に現地で農作業をします。私たちが現地にいないときでも毎日朝礼と終礼を一緒に行ない、日々サポートしています。加えて、全国のネットワークを活かしてさまざまな農家さんや先生に来園いただき、研修機会を創出しています。多様な方法や技術に触れることで、1つのやり方に縛られずに自分のやり方を模索することができます。

 

ーーとても手厚いサポートを提供されていると感じました。実際に新規就農者の方からはどのような反応がありますか?

やっぱり1人で農業するのってつらいし、しんどいんですよね。だからチームで一緒に作業すると効率が良くなるだけでなく、心強いんです。そして、畑をどうしていきたいかをチームで話し合いながら作っていくのはすごく意義があると思っています。新規就農者のみなさんにはチームで作り出す楽しさを感じてもらえていますね。

 

ーー継承元の農家さんに対しても何かアプローチをされているのでしょうか?

基本的に畑や農作業についてはそっと見守っておいてくださいとお伝えしています。ただ、畑の報告は適宜しますし、地域の中での関わり合いもあります。継承元の農家さんに80歳のおばあさまがいて、新規就農者の方がお茶を飲みに行って雑談したり、お子さんと遊んでもらったりと、良い関係が築けていると思います。

また、承継元の農家さんは元々その農園から収益を得ていたわけなので、承継すると収益がなくなってしまうんですよね。そこで、地代という形でお支払いしたり、畑全てを一気に引き継ぐのではなく、少しずつ引き継いでいったりしています。このような形で農家さんそれぞれに合わせて金銭的なサポートもしています。

 

ーー継承元の農家さんに対しても丁寧にアプローチされているのを感じました。農家さんからはどのような反応がありますか?

やっぱり多くの農家さんは肉親に継いでほしかったという想いを持っていると思います。しかしそれが叶わなかった場合、それでも地域の中では畑を荒らさずに生きていかないといけないし、自分の世代で畑を閉じたくないと思われています。

例えば80歳のおばあさまは、嫁がれてから半世紀以上ずっと通い続けていた農園だから、自分が生きてきた場所をどんな形であっても残して欲しいとおっしゃっていました。おばあさまが亡くなられてもその地で農業が続いていくことに価値を感じてもらえているのかなと思います。

おばあさまには、「『東京から若い夫婦が移住してきて子どもが3人もいて、地域が盛り上がった。一生懸命美味しいみかんを作ってくれている。』という声が地域の中から上がっていることが本当に嬉しい」と言っていただいてます。「自分の息子は畑を継がなかったけど、良い人に継げてよかった」と。こう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。承継元の農家さんの想いや培われた知見に合わせて最適なサポートを提供できるかが、私たちの腕の見せ所だと思っています。

 

思想のすり合わせでミスマッチを防ぐ

ーーそもそもどのように離農者と新規就農者を探されているのでしょうか?

実は僕たちの事業の中で1番難しいところが、離農者さんを探すことなんです。農業をやめたい農家さんの情報ってどこにも蓄積されていなくて。現在は、JAさんや市町村さんと連携しながら探しています。熊本では10市町村ほど回り、私たちの話に積極的に耳を傾けてくださったところから参入していきました。今後は、より効率的な探し方や可視化の方法を農林水産省など行政と一緒に模索していきたいと考えています。

一方で、新規就農者さんについては、ホームページなどは出していないにも関わらずたくさんのお問合せをいただきます。私自身がみかんサミットというみかんのコミュニティ作りに携わっていて、日本中の柑橘産地とつながっています。それで、周りから「みかん農家になりたいと言っている人がいて、みかんと言えばまず平戸かなと思って連絡した」というように紹介いただくことがとても多いです。

ただ今の形だと持続的ではないので、今後は、新規就農の相談が来ることが多い行政が、窓口で紹介しやすいような資料を作りたいと考えています。また、最近は週末農業スクールのような事業をやられている会社さんが増えてきていてます。そのため、やる気とスキルがあってすぐに就農したいという方がいるような事業者さんに向けて説明会を開催するといったことにも注力したいです。

 

ーー継承元の農家さんと新規就農者さんのマッチングが肝だと思いますが、マッチングの難しさやそれをどのように乗り越えているのか教えてください。

継承元の農家さんと性格的に合うかどうかの見極めは丁寧にしています。ただ、継承元の農家さんは畑に関してノータッチになるので、そのミスマッチよりも、新規就農者の方が農業をやめないということの方が重要だと考えています。

そこで、農業界にはさまざまな思想があるんですが、就農者の方には「私たちはこういう戦略や方法で農業をやっていきます」というのを丁寧にお伝えするようにしています。例えば、有機無農薬栽培は初心者には難しいのでやらないということや、チームサポートをこれくらいやるということなどです。

聞いた話と違うからやめるとならないように、思想のすり合わせを丁寧にやっていますね。

 

柑橘のいろんな楽しみ方を伝えたい

ーー事業継承の他に運営されている、オランジェットブランド「daidai」についても伺いたいです。どのような想いが込められたブランドなのでしょうか?

「daidai」はオランジェットの専門店ブランドとして立ち上がりました。オランジェットとは、砂糖漬けした柑橘類にチョコレートをかけたお菓子です。柑橘の一種である”だいだい”と、”代々”農園が続いていくことをかけてdaidaiというブランド名にしました。

柑橘は生産した農家さんが見える国産柑橘と、自分たちで作った柑橘を使用しています。そして、チョコレートにも非常にこだわっていて。チョコレートとオランジェットのプロフェッショナルが参画し、柑橘とチョコレートそれぞれの種類による特徴を活かした組み合わせで、美味しいオランジェットを作っています。

ーー事業継承とdaidaiの間にはどのようなシナジーがあるのですか?

私たちは現在、柑橘農家さんをメインに事業継承をしていますが、柑橘農家は年に1回しか収穫時期がないためキャッシュポイントが年に1回しかありません。また、100円のみかんが1000円になるようなことはほぼないので、収益の急増はなかなか見込めません。そのような中でも会社としては急成長して、守れる畑を増やしていくことが求められています。

これを実現するために、収穫した柑橘を加工品にして売ることと、他の農家さんが作った柑橘も販売することを考えました。そこで、自分たちで栽培した柑橘と、他の農家さんが作った柑橘をオランジェットに加工し6次産業化*することで、付加価値をつけて販売する。そしてその収益を事業継承の方に回すことで事業を加速させています。

また、普通の柑橘は甘ければ売れやすいのですが、糖度が乗らずに酸が高い、いわゆるすっぱい柑橘は青果としては値が付きづらくなります。しかし、オランジェットには酸味がある柑橘の方が向いているんです。つまり、甘い柑橘はそのまま青果で販売し、酸が高い柑橘はオランジェットにすると、お客さんにとっても美味しいオランジェットを届けられるだけでなく、柑橘のロスを減らすことができます。

このように農家さんの収益向上や、新規就農者の方の下支えとして貢献できていると思います。そして、お客さんには柑橘の消費量が年々下がっている中で、美味しい柑橘に触れ合う機会を増やし、いろんな柑橘の楽しみ方を提供できたら嬉しいです。

*6次産業化:農業を1次産業としてだけではなく、加⼯などの2次産業、さらにはサービスや販売などの3次産業 まで含め、1次から3次まで⼀体化した産業として農業の可能性を広げようとするもの(「⽂部科学省検定済教科書(⾼等学校農業科⽤) 農業経営」(実教出版))

 

誰もが新規就農しやすい社会へ

ーー今後、どのようなステップで事業継承を増やし、日本全国で新規就農者を増やしていきたいとお考えですか?

私たちのミッションは、新規就農したいと思った方が最短で新規就農して独立できる世界を作るということです。具体的には、8年後に、年商2000万規模の法人を50社作ること、グループ全体での売上が10億円を超えることを目標にしています。各都道府県に事業継承を進めるためのトレーニングができる自社園地を置き、そこを起点に新規就農者をたくさん育てて輩出していきたいと思っています。

そして、オープンナレッジになっていない継承のスキル、地域に入り就農するスキルを可視化していきたいと思っています。それらのスキルが私たちだけにとどまらず一般知として広がることで、第3者継承が当たり前になる世界を目指していきます。

 

WithFarmer Twitter https://twitter.com/WithFarmer2020

 

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    interviewer

    梅田郁美

    和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
    猫になりたい。

     

    writer

    堂前ひいな

    心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

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