【唐沢海斗×工藤柊×野村優妃】若手起業家3人が考える、食から始まるインクルージョンとは

3月にマルイ有楽町にて開催された丸井グループ×talikiプレゼンツのインクルージョンフェス。大好評につき、9月に第2回の開催が決定した。今回のテーマは『食』。環境問題や健康といった課題に、食を通じて取り組んでいる若手起業家たちを招き、『食とインクルージョン』をテーマに対談を行った。

【プロフィール】
・唐沢 海斗(からさわ かいと)
LOVST TOKYO株式会社代表取締役。りんご由来のヴィーガンレザーを使ったバッグを開発・販売している。アパレルの領域から、ヴィーガンを始めとする新しいライフスタイルのきっかけを提供することを目指している。
LOVST TOKYO株式会社代表取締役・唐沢さんのインタビュー記事はこちら:

廃棄リンゴを使ったヴィーガンレザーバッグから、価値観が共存できる世界を目指して。

 

 

・工藤 柊(くどう しゅう)
株式会社ブイクック代表取締役。ヴィーガン料理のレシピ投稿サイト「ブイクック」やヴィーガン惣菜の定期宅配サービス「ブイクックデリ」を運営する。自身も高校3年生の時から、環境問題と動物倫理の観点からヴィーガンを実践。1999年生まれ。
株式会社ブイクック代表取締役・工藤さんのインタビュー記事はこちら:
80年後も変わらず桜を見るために。ヴィーガン実践のビジネス

 

・野村 優妃(のむら ゆうひ)
株式会社リベラベル CEO 代表取締役。高校卒業後、フィリピンと台湾を中心に語学勉強に勤しむ。ストローの魅力を発信するためにDlink Strawというブランドを立ち上げ、その第1弾として食べられるストローを開発・販売。また、ストローの魅力を広める活動も行っている。1997年生まれ。
野村さんのインタビュー記事はこちら:
圧倒的なストロー愛から生まれた、食べられるストローブランド

 

・中村 多伽(なかむら たか)
株式会社taliki代表取締役CEO。本対談のモデレーターを務める。

ダイバーシティの実現に向けたインクルージョン

中村多伽(以下、タカ):今回のポップアップは『インクルージョンフェス』の一部として行われますが、インクルージョンと聞いてどんなイメージを持ちますか?

 

唐沢海斗(以下、唐沢):排他的ではなく、みんなで補っていくとか共有していくようなイメージがパッと出てきます。

 

工藤柊(以下、工藤):みんな仲良くみたいな感じですかね。偏見や差別がなく「あなたはあなたなんですね」といった風に受け入れてくれるようなイメージを抱きます。

 

タカ:ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(D&I)という形で使われることも多いと思うのですが、ダイバーシティとインクルージョンの違いは何だと思いますか?

 

工藤:ダイバーシティは多様な人たちが一緒にいることを指していて、インクルージョンはそれぞれ受け入れ合って仲良くしていくという方向性を目指すことなのかなという印象です。

 

タカ:なるほど〜。ダイバーシティが状態を表すのに対して、インクルージョンはそれを実現するための行動を表すイメージですかね。野村さんはいかがですか?

 

野村優妃(以下、野村):工藤さんや唐沢さんが言われたのとまさに同じようなイメージです。ちょっと前まで、ダイバーシティの重要性が盛んに言われていましたが、その中で「みんな違ってみんないい」と「みんな違ってみんなどうでもいい」には大きな差があると感じていました。みんな違うからこそ、お互いの個性を尊重してより生きやすい社会を作っていくにはどうしたらいいか、どのように支え合っていくかというところを一緒に考えていくことがインクルージョンの形なのかなと思います。

 

タカ:ありがとうございます。このインタビューを通してインクルージョンの解像度がちょっと上がったり、変わったりするかもしれないので、また最後に聞きますね。

 

次世代を意識した考え方と行動

タカ:今回の企画のテーマが『将来世代×インクルージョン』ということで、今度は将来世代について伺っていきたいと思います。 いろんなところで将来世代って使われてるんですけど、今回のイベントの場合は30代前半以下を指して使っています。ミレニアル世代の定義と近いかな。みなさん将来世代と言われることもあると思うんですけど、将来世代という言葉に対してどう思っていますか?

 

野村:少し質問とはズレるかもしれませんが、最近将来を考えるときの単位が変わってきたなと思っています。前までは1年後から2年後くらいを将来と捉えていましたが、最近では5年後から10年後を意識し始めました。同じように将来を見るときの視点も変化していて、これまでは自分の人生を中心に考えていましたが、今では未来の世の中の状況から想像して、であればそのとき自分はこう在りたいよねという風に考えるようになりました。視野が広くなったような気がします。

 

タカ:工藤くんも同年代だと思うんですけど、いかがですか?

 

工藤:そういう人もいればそうじゃない人もいるかなと思います。将来世代のイメージに話を戻すと、僕は将来世代という言葉は子どもを指して使っています。将来世代、つまり自分の子どもの世代・孫の世代には社会課題を酷くしたくないなという思いのもと、今の自分はどうしなければいけないのか考えるようになりました。これまで自分は大人の影響を受ける側だったけど、そろそろ将来世代に影響を与える側になってきているので、次の世代の人たちに悪い影響を与えないような事業や行動を心掛けてきたいです。

 

野村:テレビが白黒だった時代を私が想像するのが難しいのと同じように、おそらく現代も将来世代からすると想像が難しいものだと思うんです。そうなったときに「2021年はこんな世の中だったんだよね」って胸を張って言えるようにしたいです。逆に、将来の世の中がどうなっていくかは今の自分次第だと思うので、子どもたちにどういう風に成長してほしいか、どんな世の中で生きてほしいか考えることが今の活動へと繋がるのかなと思いました。

 

唐沢:僕がミレニアル世代(1991年生まれ)で工藤くん(1999年生まれ)と野村さん(1997年生まれ)はZ世代かなと思うのですが、Z世代の方々は僕たちの世代より「自分たちでコトを起こしてやろう」とか「自分のことだけじゃなくて社会のことにも向き合おう」という姿勢の方が多い気がします。視座が高いという言葉で片付けるのは違うと思いますが、社会の動きに敏感で世界中の情報が日常的に入ってくるし、小さい頃から社会課題などに触れてきたんだろうなと思います。僕はどちらかというと大人になってから気づきがあって考え始めた人間で、20歳前後の頃は自分ごとで精一杯だったなと。

 

タカ:唐沢さんが20歳だったくらいの時期って、ちょうど『自分らしくあろうよムーブ』が始まった頃で、リーマンショックも経て終身雇用とか大企業への信仰が薄れて、社会全体として自分軸中心で考える傾向にあったんじゃないかなと思います。YouTuberが盛んに出てきて「好きなことで生きていく」って言ってたような時期ですかね。

 

ものを売るビジネスで消費行動の変革を

タカ:次に、みなさん社会課題に対してビジネスという手段で取り組んでいると思うんですけど、それについてどう感じているか教えてください。社会課題の解決って例えば購買能力が高くない人が対象だったり、逆に環境問題みたいに課題が大きすぎて対象者が絞れなかったり単独じゃ取り組めなかったりと、難しい側面も多いと思うんですけど、あえてビジネスで向き合う理由はありますか?

 

工藤:僕はもともとNPO法人を設立して活動していたのですが、活動の形態に関わらず最終的には社会課題を解決し続けていける社会を作りたいということは変わりません。そのためには商品を作ったり情報を発信したりして、より多くの選択肢をより多くの人に届ける必要があり、それを実現するためにビジネスを選びました。

あとは、啓蒙活動や情報発信を行っている人が、社会にとって良いことしているのに、自分のお金や時間を削るばかりで、何もリターンがないという状況を変えたかったことも理由です。ヴィーガンの場合、実践する人が増えた結果利益を得るのって植物性の食品を作っているメーカーになります。そのメーカーが支援や広報を何もしていなかったとしても儲かる構造があります。それが嫌で、そうであれば自分がヴィーガンを広める活動もしつつつ、広まれば広まるほどお金が入ってくる位置に行って、儲かったお金をまた課題を解決するために使っていこうと思ったことが、事業化したきっかけの1つでした。

 

タカ:一人一人の意識を変えて行動を促すことがすごく重要なんだけど、その役割を担っている人に対して重要さに見合ったリソースが集まっていない現状に違和感を感じたっていうことかな。

 

工藤:そうですね。その人たちのエネルギーが周りの人の行動を変えているのに、その人たちに何もリターンがないと、大変で辞めてしまうなど持続性に欠けると感じることが多くありました。何もしていないところに利益だけ入ることが嫌でしたね。

 

タカ:一人一人の意識を変える行動を変えるとか知識量を増やすみたいな話だと、教育など別のアプローチもあると思うんですけど、ものの販売やサービスの提供の対価としてお金をもらう営みについてどう思っていますか?

 

野村:私はSDGsの中でも環境問題の観点でお話をいただくことが多いのですが、特に「つくる責任 つかう責任」を重視しています。ストローって消費者からするとカフェなどで無料で提供されてきたものなので、あまり価値を意識せずに消費してきたものだと思うんです。だからこそ環境問題が取り立たされている今、「もはやストローなんて無くてもいいんじゃない」という意見も出てきています。ここが私たちが一番変えていきたいと思っているポイントで、これまで無意識に使われていたものに対してあえて価値をつけることで、価値を感じて購入するという消費行動を体験してもらえると思っています。大量生産大量消費、そして大量廃棄という現場に課題を感じているので、私たちのブランドではストローの購入と消費の体験を通じて消費行動の在り方を考えてもらえればと思います。資本主義の社会だからこそ、ビジネスを通じて現状の違和感に異議を唱え、より良い社会を目指していくことに意味があるのではないでしょうか。

 

タカ:みなさん環境問題に取り組んでいるという共通点があるのかなと思っていたのですが、消費行動の変革という部分も共通していそうですね。唐沢さんは、ビジネスで課題解決に挑むことについてどうお考えですか?

 

唐沢:僕自身の原体験として、最初はヴィーガンを全然理解できませんでした。そこから徐々に知っていき自分自身が変化してきたという背景があるので、まずはヴィーガンについて知ってほしいという思いがあります。ヴィーガンと言うとバイアスを持たれている方がいたり、私にはできないからと線引きをしてしまう方がいたりするんですね。そういった方に対して、バッグをはじめとしたアパレル事業であればカジュアルに、自分たちのできる範囲で自分のできることに取り組んでほしいというメッセージを伝えていけるんじゃないかと思ったことがブランドを立ち上げたきっかけでした。

 

タカ:唐沢さんのブランドだと、バッグがおしゃれで買ってみたら、実はヴィーガンレザーの商品で環境や動物に優しい消費をしていたというケースもありそうですね。

 

唐沢:そうですね。自分のことだけじゃなくて、周りの人や社会のために努力する方がより幸せを生み出すんじゃないかと思っています。でも、自分が幸せじゃないのに人を幸せにすることは出来なんじゃないかとも思っていて。自分の幸せを確保した上で、そこから社会課題や周りの人のことに取り組もうとしている人が増えてきているように感じています。消費行動にしても同様で、自分がハッピーになる選択で、それが社会にとっても良い選択であるという消費を増やしていきたいですね。

 

ポップアップが興味の入り口になれば

タカ:みなさんECでの展開がメインで、リアル店舗での出店が初めての方もいらっしゃると思います。今回のポップアップは、リアルでお客さんに触れる機会になるのかと思うんですけど、どんな方に商品を買ってほしいですか?また来てくれた方や購入してくれた方にどんな思いになってほしいですか?

 

工藤:僕らは今回、いろんなヴィーガンのお店の商品を集めて『ブイクックモール』という形で出店する予定です。先ほど唐沢さんからもお話があったのですが、ヴィーガンに対してまだまだ偏見やハードルの高さがあります。なので、「興味はあるけど何から始めればいいか分からない」という人や、「難しそう・美味しくなさそう」と感じている人にぜひ来てもらいたいです。美味しい商品を取り揃えていますし、1度食べてみてもらえれば、未知だったものが想像の範疇に落ちてくると思うので、これをきっかけに「意外とヴィーガンの物って美味しいんだな」とか「週1程度からなら実践できそう」と感じてもらえると嬉しいです。

 

唐沢:アパレルの商品として「身につけたい」とか「こういうシーンで使えそうだな」と思っていただきたいのはもちろん、商品の背景を知って興味深さを感じてもらえると嬉しいです。環境問題やヴィーガンについてだったり、どういう経緯で商品化したのかといった部分まで知ってもらえれば、新たなライフスタイルに繋がりやすくなるのかなとも思います。前者は”funのおもしろさ”、後者は”interestingのおもしろさ”なのかなと思うのですが、どちらも感じてもらえるとベストですね。

 

野村:ポップアップを通じてストローのイメージを変えたいというのがシンプルにあります。『食べられるストロー』っていう分かりやすいワードあえて使ってるってのも同じで、「食べられるストローってなんだろう」という興味から入ってもらって、ストローの素材だったり商品に込めている思いをしっかりと伝えていきたいと思っています。私はリアル店舗で販売するのが初めてなので、すごく楽しみですし、興味を持ってもらって購入に繋げられるか、そして価値を感じながら消費してもらえるかといったところに挑戦したいと思っています。

 

お互いを受け入れ、尊重し合える社会

タカ:最後に、改めて『インクルージョンとは◯◯』ということを紙に書いていただきたいです。

 

唐沢:インクルージョンとは『複数の事象を満たす部分』です。 例えば事象Aと事象Bがあったとして、Aだから良いとか B だから良いというわけではなく、AもBも満たす部分を探っていくことが大事なのかなと思います。

 

野村:インクルージョンとは『心地の良い居場所』です。居場所って自分らしく居られるところだと思うんですけど、その空間にいる他の人や彼らによって作り出される雰囲気すべてが相まって心地良さが形成されているんじゃないでしょうか。インクルージョンって言うとすごく大きくて捉えづらいかもしれませんが、身の回りの心地の良い場所として考えるとしっくりくるなと感じたので、こういう風に表現しました。

 

工藤:インクルージョンとは『安心して生きられる世界』です。全員が受け入れられて価値を発揮できることが大事かなとも思ったのですが、人を価値で測るのもインクルージョンではないと感じて。みんながただただ生きているということを受け入れられて、安心して生きられる世界こそがインクルージョンではないかと思います。

 

LOVST TOKYO株式会社 https://lovst-tokyo.com/
Dlink Straw https://dlinkstraw.studio.site/
株式会社ブイクック https://www.vcook.co.jp/

 

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writer
細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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