【青木愛×田口愛】若手起業家2人が事業における「インクルージョン」を考え直す。

様々な分断や排除、社会問題を解消し、あらゆる人が幸せを感じられる社会を実現するための概念として、「インクルージョン(包摂)」が注目されている。これまで分断や排除の受難者になっていた人たちを包摂した事業に取り組む若手起業家たち。インクルージョンをテーマに対談を行い、それぞれの事業における「インクルージョン」についての考え方を話してもらった。

【プロフィール】
・青木 愛(あおき めぐみ)写真右
株式会社スライバル代表取締役。学生時代に起業。「誰もが今日から気軽に始められるサステナブルなライフスタイル」の普及を掲げ、プラスチックフリーやリサイクル可能な商品を展開するブランド「Sustainable.(エスドット)」の運営やSNSマーケティング事業を手がけている。

株式会社スライバル代表取締役・青木愛さんの記事はこちら
サステナブルなライフスタイルをもっと気軽に。環境問題について考えるECサイトとは

 

・田口 愛(たぐち あい)写真左
MPRAESO合同会社CEO。国際基督教大学3年生。幼少期からチョコレートが好きで、カカオ農家に会うために19歳でガーナに渡航。ガーナのカカオ豆が低価格で取引され、現地の人たちが困っている状況を知り、農家と一緒に高品質のカカオ豆を作る事業を始める。同時に日本でカカオからチョコレートを作るワークショップなども開催している。
MPRAESO合同会社CEO・田口愛さんの記事はこちら:
ガーナで起こすカカオ革命。世界の裏側に想いを馳せるカカオ取引の仕組みとは

 

・中村 多伽(なかむら たか)
株式会社taliki代表取締役CEO。本対談のモデレーターを務める。

誰にとってのインクルージョンなのか

中村多伽(以下、タカ):今回、「インクルージョン(包摂)」をテーマにした対談とお伝えしていましたが、インクルージョンと聞いて皆さんはどんなイメージを持たれましたか?

 

田口愛(以下、田口):インクルージョンという言葉は「誰もが排除されない社会」という意味で使われることがよくあると思うんですが、「”誰もが”って具体的にどんな人を指すんだろう」っていうのを考えていたら半日経っていました(笑)。そこで社会的弱者かどうかや、国籍などによってカテゴリーを分けたとしても、どれも正しくないような気がしてしっくりこなくて。

 

タカ:「誰もが」っていうのを決めることによって逆に排除になっているような感じがする。確かにおっしゃる通りですね。青木さんはいかがですか?

 

青木愛(以下、青木):最初にこのテーマを聞いた時、インクルージョンとダイバーシティの違いがわからなかったんですね。概念としてなんとなく違うということはわかるのですが、ダイバーシティという言葉の方が概念として浸透している中で、インクルージョンという言葉で新たに捉え直す意味って何なんだろうって考えました。田口さんがおっしゃっていたように、「誰か」を指定することで排除してしまうということもすごく共感します。区切ってしまうことでグレーゾーンをなくしてしまうのも良くない気がして、難しいなと思いました。

 

タカ:青木さんは海外生活が長いということで、ダイバーシティという言葉により馴染みがあると思うんですが、ダイバーシティについてはどういう風に捉えられていますか?

 

青木:私は小学校から中学校まで東京の女子校に通っていたんです。校則がかなり厳しかったんですけど、私は「みんな同じ」っていう感じが嫌でどうしても茶髪にしたくて(笑)。校則破りまくって、とにかく反抗していましたね。そんな中でアメリカに行って、様々な国籍・人種の人たちと暮らして、もちろん髪を染めただけで不良ってカテゴライズされるようなこともなくなりました。それですごく自分らしくいられるようになったと思います。また、近年日本でもLGBTQなどの言葉が広まってきていますが、アメリカで暮らしていた時は身の回りにゲイやバイセクシュアルの方がいたので、私にとってはごく自然な日常のことでした。だから日本に帰ってきて、ダイバーシティの議論が盛んになるのを見て、自然なことのはずなのに取り沙汰されなくてはいけない状況に違和感を感じます。一人一人が幸せだったらそれで良いと思っています。

 

タカ:面白いですね。「誰」っていうのが特定の人や集団を指すのではなく、一人一人全員が自分のありたい姿であれるということがダイバーシティなのかもしれないですね。

 

田口:皆さんの話を聞く中で、インクルージョンというのは「誰を包摂するのかという対象を決めるもの」ではなくて、「(全ての人が)それぞれの芽を出す」というようなイメージが浮かんできました。

 

事業を通して、マジョリティを包摂する

タカ:お二人のインクルージョンの印象を伺ったところで、次に事業に関してのインクルージョンについて伺っていきたいと思います。この世の中には物理的・精神的に社会から排除されている部分がまだまだたくさんあります。社会起業家の方々はそのような分断のボーダーをなくしていく事業をされていると思うのですが、お二人の事業はどのような部分を包摂しているとお考えですか?

 

田口:チョコレートは私たちにとってすごく身近なものですが、それを作っている人がいるというところまで考える機会はほとんどないですよね。一方で、カカオ農家さんはカカオを毎日生産しているけれど、これが何になるのか、どんな人たちが手に取るのかを知りません。そこで、サプライチェーンのみんなが主役になって、作り手と受け手を繋げることでもっと世界を身近に感じてほしいという想いで事業をしています。カカオ農家さんってどういう生活をしているんだろうとか、どういう人がいるんだろうっていうところにもっとスポットライトを当てて、私たちが作るチョコレートを通じてストーリーと共に楽しんでいただくことを目指しています。小さい頃から地球の反対側からはるばる届いた食べ物を頂くなんてすごい奇跡だとずっと思っていたんです。それを多くの人に感じていただけると嬉しいですね。

 

タカ:なるほど。ストーリーを感じてもらうための手段として、伝えるというのが一番わかりやすいですが、他に何か取り組まれていることはありますか?

 

田口:カカオからチョコレートを作るワークショップは日本とガーナの両方で実施しています。日本ではワークショップをしながらカカオ農家さんのことをお話ししたり、ガーナでは日本のことをお話ししたり、味わって体験してもらいながら紹介するということにこだわっています。「かわいそうな人たちがいるんですよ」っていう伝え方ではなく、もちろん大変な課題もあるけれど誇りを持った人たちが作っていて、チョコレートとしても本当に美味しいよねというように、作り手に対するリスペクトが伝わったらいいなと思っています。

 

タカ:すごく素敵です。ちなみにガーナの方々は、日本人に食べられていることをどういう風に捉えているんですか?

 

田口:カカオってライチのような味のするフルーツで、チョコレートにするのはカカオの種子なんですけど、日本人はカカオをフルーツとして食べたことがないっていう話をしたら、「そんなのかわいそう」って驚かれました。逆に日本でワークショップをした時は、カカオ農家さんはチョコレートを食べたことがないっていう話にみなさん驚かれていたので、不思議だなって思いますね(笑)。カカオ農家さんはチョコレートを食べると、みんな本当に喜んでくれるんです。印象的だったのは、70歳くらいのおばあちゃんが初めてチョコレートを食べた時に「人生で食べたものの中で一番美味しい」って喜んでくれて、それがすごく嬉しかったです。カカオ農家さんたちは、今までは自分たちの作ったものがただお金に還元されるところまでしか知らなかったので、それが美味しいものになって誰かを喜ばせているということに感動してくれていました。日本でチョコレートの販売をした時の写真を送って、「みんな喜んでくれているよ」って伝えています。

 

青木:例えばフェアトレードの商品って、作っている人たちはそれが消費者に届いていくところを知らないことが多いですよね。目の前のものを生産して、それが自分の生活のためのお金になっていくというところまでしか知らない。だからこそ、作り手と受け手を繋げることで買う側も嬉しいし、生産する側も自分たちの作ったもので誰かを喜ばせていると思えるのが素敵だなと思いました。

 

田口:ありがとうございます。私の事業はよくあるフェアトレードチョコレートと何が違うのかということを聞かれることがよくあります。その地域のカカオ豆を買い取って最終価格に上乗せして、現地にお金として還元するというのが一般的なフェアトレードです。私も以前はよくフェアトレードのチョコレートを購入していたのですが、美味しくて値段も手に取りやすいフェアトレードではないチョコレートがある中で、継続して買うのが難しかったんですよね。だから私の事業ではカカオの品質を向上させる農業支援に力を入れていて、日本のショコラティエがこの味ならもっと高く買い取りたいと思えるようになることを目指しています。このような自立支援を目指すことは、先ほど言った「インクルージョンは芽を出すこと」というイメージに近いのかなとふと思いました。

 

青木:インクルージョンという言葉では社会的弱者にスポットライトが当たることが多いと思うんですが、実際はマジョリティも包摂していって良いと思うんですね。例えば弊社のサービスで解決しようと考えている環境問題は特定の誰かのものではなく、誰もが考えなければいけない問題です。そこで私は事業を通してマジョリティを取り込むために「ファッション性」にフォーカスしています。環境問題については全く知らないけれど可愛いから手にとってくれる。そうすることで、より多くの人が環境問題を知るきっかけになれればいいなと思っています。

 

タカ:青木さんにお話を伺う前は、インクルージョンの取り組みとして「地球環境を排除しない」というような切り口もあるのかなと思っていました。最近は意識が変化してきていますが、環境問題に関する事業や活動は「マジョリティがわかっていないから警鐘を鳴らす」というある種理解していないマジョリティを排除するようなスタンスが多いような気がしますが、その中で「マジョリティを包摂する」という立場を取られているのは面白いですね。

 

青木:地球環境を排除しないっていう視点もすごく大事です。でもその解決に向かうためにはマジョリティを包摂していく必要があると思っています。日本ではまだまだ環境問題に目を向ける機会が少ない。環境を意識したブランドや企業は徐々に増えてきていますが、うまくパートナーシップが組めていないのが現状だと思うんですね。そこで私がサステイナブルドットで様々な事業のハブになり、よりわかりやすく簡単に商品を購入できるようにすることで、マジョリティへのアプローチがしやすくなるということを目指しています。

 

田口:可愛いから手に取ることでより多くの人にアプローチするという視点が、私が美味しいチョコレートという入り口にこだわっていることと似ているなと思いました。世の中を見ていても「可愛いしおしゃれで、かつ社会に良いことに繋がっていて、それが自分にとってもハッピーだよね」という価値観に変化しているのを感じます。

 

「女性起業家」に対する葛藤

タカ:ありがとうございます。それでは次に、起業家として、自分自身としてインクルージョンをどのように捉えるかという話を伺っていきたいと思います。私を含め全員女性ということで、私自身「女性起業家」という言葉は好きではないのですが、「女性」という言葉が枕詞として使われやすいと思っています。青木さんはご自身にとってのインクルージョンと聞いてどんなことをイメージされますか?

 

青木:私も女性経営者という言葉は嫌いで、あえて「女性」と言う必要って全くないと思っています。ただインクルージョンというテーマにおいてジェンダーは大きなトピックで、私も起業してから性別による壁を感じて悔しい思いをしたことは幾度となくあります。私の母も経営者なのですが、話を聞く限り母の時代はもっとその壁は大きかった。その時代に比べれば変化はあるものの、2021年になっても性別による壁が残っているということは信じられないですよね。そのような状況で自分が今事業をやることの意味を考えると、自分を含め今、同世代で挑戦している女性のビジネスが成長していくことが、次の世代の女性の立ち位置を決めると思っています。なので、起業家としては、リーダーとしてやりたいことをやり、自分らしくいるということがすごく大事だと思っています。

 

タカ:青木さんは事業をする上で、女性であることによって排除されていると感じるようなご経験があるということでしたが、田口さんはいかがでしょうか?田口さんは年齢で言うと私の4個下で世代として大きく違うというわけではないですが、それでもかなり状況は変化している印象があります。

 

田口:そうですね。今日「女性起業家」って言われたときに、「そういえばそうだったな」みたいな感じで不思議な感覚でした。それって普段から「女性」ということで強くハンデを感じたり、苦しめられたりしているわけではないということなのかなと思います。でも、「女の子なのにアフリカに行ってすごいね」という言葉も思い返してみると良いとは言えないですよね。「結婚したら、女の子だから結局日本に住んで事業やめるんじゃない?」みたいなことを言われて悔しかったこともあります。何かしらのハンデをずっと感じるということはなくても、ふとした他人の言葉遣いで傷ついてしまったり、カテゴライズされていることに気づいたりということはありましたね。先輩方のおかげで、女性だから成長することを止められるということは徐々になくなってきていると感じますが、どこかでカテゴライズしてしまう風潮は残っています。そこが次の世代でどうなっているかは、私たちの努力次第かなと思っています。

 

タカ:お二人はそういう心ない言葉をかけられた時、どう対応していますか?

 

青木:私は笑顔でとりあえずその場をやり過ごしていますね(笑)。でもそれは心のどこかでは良くないなと思うような葛藤もあって。例えば上の世代の方が女性のことを軽視したような発言をしたときに、その人たちの世代だからしょうがないよねっていう気持ちもありつつ、それでまとめてしまっていいのかなとも思います。以前は相手がどの世代の人だろうが、「今はそんな時代じゃないんだ」って言いたかった。でも今は世代によって時代背景や価値観が異なるし、個人単位でも考えが異なることがわかっているので強くは言わないですし、ほとんどの場合は受け流すようになっちゃいましたね。

自分がもっと成功したり幸せに見えていたりしたら、女性っていうことはあまり関係なくなるんじゃないかなと思っています。私は今27歳なんですけど、周りから結婚の話題をびっくりするくらいたくさん振られるんですよね。でも私は自分が幸せで、頑張っていることを知っているし、周りが何を言ってこようが自分軸を強く持てるようになってきたので、あまり気にしなくなったというのもあるかもしれないですね。

 

タカ:女性であることももちろん自分のカラーの一つではあるんですけど、そこに囚われない自分の在り方を持たれているのが素敵だなと思いました。田口さんはいかがですか?

 

田口:関係が深くない人だったら「〇〇さんはそういう風にお考えなんですね」みたいな感じで流していますが、身近な人からそういう発言が出た時は結構気になっちゃいますね。「今なんでそういう風に言ったの?」とか、「そこには〇〇さんの中で区別があるの?」とか、純粋な疑問として聞いてしまうことはあります。最近は自分も無意識でカテゴライズするような捉え方をしてしまっていないか、ということを考えるようにしています。先ほど話した、結婚したら事業をやめてしまうんじゃないかという話も、自分が結婚している人に「事業どうしていくの?」みたいなことを無意識に聞いてしまうこともあるかもしれない。それは自分が女性だから、相手が女性だから出てしまう言葉かもしれないので、引っかかった言葉は自分の中で反芻するように意識しています。

 

タカ:お二人とも対応が大人すぎる…。お二人に共通していて面白いなと思ったのが、なぜそれを言ったのかというバックグラウンドを一旦考えていること。これはまさにインクルージョンの発想だなと思います。背景理解というのは争いをなくすための最強の手段だと思うので、さすがです。

 

若手起業家2人にとっての「インクルージョン」とは

タカ:最後にお二人に、紙とペンを使って「インクルージョンとは〇〇」ということを書いていただきたいです。

 

青木:インクルージョンとは、「全世界の共通課題」です。今日みなさんとお話する中で、インクルージョンというのは特別な誰かやカテゴライズされた誰かのためのものではなく、みんなにとって共通の課題だと感じたので、このような言葉にしました。

 

田口:インクルージョンとは、「愛とリスペクトで皆を包み込める社会」です。女性起業家のお話の時に特に思ったんですが、何か属性があることによって生きづらさやハンデが生じてしまうことはもちろんない方がいいと思います。かといって、特別視されるのも当の本人には生きづらさに繋がることもある。じゃあ何がみんなにとって一番良いのかなって思った時に、「こういう人もいるんだ」っていうのをみんなが愛やリスペクトで包み込めるっていうイメージが一番合っているのかなと思って、この言葉にしました。お互いに敬意を払いつつ、ぶつからずに、優しい社会にみんなで向かっていけたらなっていう想いを込めています。

 

 

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writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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