第二のお母さんを当たり前に。「おせっかい」から生まれるユーザー・ワーカー・運営間の信頼関係とは。

ファミリーサポートという新しい市場を開拓する株式会社ぴんぴんころり。高齢者にずっと元気でいてほしいという思いから生まれた「東京かあさん」は、サービスを利用する若い世代の笑顔もつくり出している。ユーザーとワーカーのマッチングが肝となる本サービスでは、カスタマーサクセスが重要な役割を担っている。東京かあさんの「ほっこり」世界観はどのようにして生み出されているのか。CSチームを牽引する蛭川祐子氏に、シニアに合わせた寄り添い方や、CtoBtoCにおける三者間の信頼関係を築くための工夫を聞いた。

ぴんぴんころりは現在、カスタマーサクセスをはじめとしたあらゆる職種で採用活動を行っています。詳しくはこちら。https://www.wantedly.com/projects/1212220

【プロフィール】蛭川 祐子(ひるかわ ゆうこ)

株式会社ぴんぴんころりおやコンシェルジュ(CS)。同志社女子大学卒業後はSE業務を経てWebライターとして活動。フリーランスとして働く中でご家庭サポートサービス「東京かあさん」と出会う。高齢者と若い世代の両方を笑顔にできる事業内容に共感し、2019年10月株式会社ぴんぴんころりに入社。現在二人目の社員としてユーザーとワーカーのマッチング業務、CSチームのマネージャー、暮らしの工夫を知る情報メディア「ミソシル」の編集長を担当している。

ぴんぴんころりの過去インタビュー記事はこちら:料理洗濯から出産立会いまで。第二のお母さんができる、シニアの就労支援サービス

 

人のあたたかさ感じるお母さん出張サービス

ーーはじめに「東京かあさん」について教えてください。

「東京かあさん」は、第二の家族が持てるご家庭サポートサービスです。
さまざまな経験や知識のある“お母さん”がご自宅を訪問し、提案型のお手伝いを行います。従来の家事代行と異なるのは「おせっかい」なサポートが可能であることです。たとえば掃除、洗濯、子守といった家事にとどまらず、時には人生相談の相手になったり料理を教えてもらったりすることもできます。

 

ーー以前代表の小日向さんにインタビューさせていただいたときは、お母さん(ワーカー)の数が212名でした。現在の状況はいかがですか?

現在お母さんには1400名ほどご登録いただいています。また、私たちが“お子さん”と呼んでいるユーザーに関しては約500世帯にご利用いただいており、主に東京近郊地域(東京・神奈川・千葉・埼玉)の一般のご家庭向けにサービスを展開しています。

 

「喜んでほしい」思いから生まれる信頼関係

ーー順調に事業が伸びていらっしゃるんですね。東京かあさんは、マッチングを担当するカスタマーサクセスが重要だと伺いました。どのような役割を担っているのでしょうか?

私たちカスタマーサクセスは「おやコンシェルジュ」と呼ばれ、東京かあさんサービス内の案内・相談役といった役割を担っています。

主な業務内容は3つあり、1つ目はお母さんの面談対応です。働き手として応募してくださったお母さんとは30分の面談を行います。基本的にこの面談には合否がなく、一人ひとりの得意なことや価値観、お人柄や生活リズムなどを詳しく把握することを目的に行います。

2つ目は契約前のお子さんの対応です。お子さんが日常生活の中で困っていることをうかがい、条件に合ったお母さんとマッチングできるよう分析していきます。

3つ目は契約後の親子ペアの対応になります。親子として成立したペアからの問い合わせ対応や、サービスに対する不満や要望がないかヒアリングを行います。

 

ーーさまざまな立場の方とコミュニケーションをとるお仕事なんですね。より良いサービスをお子さんに届けるためにも、まずは運営とお母さんの信頼関係が重要だと思います。関係構築のためにどのような工夫をしていますか?

お母さんに親近感を持ってもらうための機会を頻繁に設けています。たとえば親子ペアが成立するまでの期間に、お母さんとこまめなコミュニケーションをとることで運営に頼りやすい印象を持ってもらえるようにしています。シニアの方は直接声を聞くコミュニケーションを大切にしている人も多いので、テキストで連絡すれば済む内容でも電話をかけてお互いの声を聞く時間をつくったりしています。

また、そのようなコミュニケーションの中ではビジネスワードを使いすぎないように気をつけています。かしこまった言葉をたくさん使うことはお母さんに距離を感じさせてしまう原因になるからです。運営内では「メッセージルール」というものを作成し、使ってはいけない言葉を日々意識しています。たとえば「お世話になっています」という挨拶は少しビジネス感が強く、お母さんを緊張させることになってしまいます。そのため挨拶をする際は「おはようございます」や「こんにちは」などに言い換えて、心地よい距離感でコミュニケーションを取れるようにしています。

 

ーー「カスタマーサクセス」ではなく「おやコンシェルジュ」というワードを使っているのも、親しみやすくするための工夫なんですね。

そうですね、「おやコンシェルジュ」と名付けたのは代表の小日向です。「東京かあさん」というサービス名や「ぴんぴんころり」という社名も同様で、覚えやすいようにあえてキャッチーなワードを使う小日向のネーミングセンスがすごくいいなと思っているんです。おやじギャグっぽくて少しダサいくらいのネーミングだからこそビジネス特有の堅さを和らげ、ほっこり感を生み出しているような気がします。

 

ーーおやコンシェルジュはお母さんとお子さんのマッチングを担当しているとのことですが、両者をつなぐ「仲介者」として大切にしていることはありますか?

運営として、お母さんとお子さんの声をそれぞれ代弁するようにしています。私たちおやコンシェルジュは両者の間にいる存在なので、各々がまだ言葉にはしていないけれど普段思っている気持ちを伝えることが求められます。特に「こんなことしてくれるのがすごく嬉しい」といった、面と向かって伝えることが少し照れくさいような感謝は、積極的に両者に伝えるようにしています。

また、お子さんがお母さんに改善してほしいことがあってもなかなか言いだしにくいというケースもあります。実際にあったトラブルの中には、「お母さんの作業がお願いした時間に終わっていない」とお子さんからご相談を受けたことがありました。お母さんに事情を聞くと、よかれと思って頼まれた仕事以外も並行してやっていたことが原因だとわかったんです。お子さんの要望どおりにできなかった点は改善が必要ですが、できることはやってあげたいというそのお母さんの気持ちや行動はとても尊いことのはずですよね。

運営からはその思いに感謝を伝えながらも、「こうした方がお子さんはきっと喜んでくれると思いますよ」とトラブル解決につながる提案をするようにしています。結局お母さんがおせっかいを焼いている理由は、お子さんに喜んでほしいという思いからなので、私たちの提案を受け入れてくれることは多いです。

 

ーー気持ちの「代弁」をするために重要なことは何でしょうか?

代弁する立場として必要なのは両者をフラットに捉えることです。
ご家庭の中で起こることは、何が正しいのか定義することができない場面が多いんです。
トラブルの大半はお母さんとお子さんの価値観の違いから発生しているものだと思うんですね。当たり前のことですが100の家庭があれば100のルールがあります。おやコンシェルジュのお仕事は、お母さんがこれまで生きてきた中での経験や価値観がお子さんとうまくマッチするよう一緒に落としどころを見つけていくことなんです。

私たちはどんなトラブルが起きてもフラットに捉えられるように「クレーム」という言葉も使わないようにしています。

 

ーーたくさんの試行錯誤がある中、お母さんやお子さんからもらって嬉しかったお声はどのようなものがありますか?

お母さん側のお声で印象的だったのは「もう1つの家族ができました」というものです。家庭サポートの中で、お母さんのこれまでの経験や知識が活かせるだけでなく、お子さんに親しまれ頼ってもらえることがひとつの生きがいになっていると言ってもらえて感動しました。お子さんからも「家の風通しが良くなりました。もうお母さんはいなくてはならない存在です」という意見をいただいて、本当に力強い関係が構築できているんだなと嬉しくなります。

 

ーーこれまで蛭川さんが働く中でみえてきた、おやコンシェルジュに向いている人物像はどのようなものでしょう?

「性善説」で生きている人だと思います。たとえば何かトラブルがあったときに、その人のことを少しでも疑う気持ちがあると相手に伝わってしまいますよね。だから私たちは、そのような場面では実際何があったのか、なぜそう思ったのか事実確認をしながら、お母さんやお子さんの意見を傾聴し、一旦すべて受け止めることを大切にしています。
だから、おやコンシェルジュには性善説で生きている人が向いているのではないかと思います。

 

心理的安全性が確保される社内のカルチャー

ーー次は運営内部について伺います。東京かあさんの運営メンバーには何か共通点はありますか?

メンバーみんながホスピタリティを持っていると感じます。たとえばゴミ箱にごみが溜まっていたらすぐに捨てにいってくれたり、咳き込んでいる人を心配してお水を渡したりしているメンバーを見かけました。チーム内には「あの人は何か困っているかもしれない」「このままだと誰かが困るかもしれない」といち早く異変を察知し、自分で進んで状況を改善できる人が多いです。

 

ーーすごく素敵ですね。そのようなメンバーで形成されている運営チームにはどのようなカルチャーがありますか?

人を大切にする文化が色濃くあると思います。私自身、働いている中でメンバーの思いやりを感じる場面がすごくたくさんあるんです。最近印象的だった出来事は、メンバーがケーキをオフィスに持って帰る途中で形が崩れてしまい、わざわざ買い直してきてくれたことです。何気ない日常の中で人の思いやりが垣間見えるカルチャーがとても好きなんです。

 

ーー人を気遣うことは簡単なことではないと思いますが、何かチームとして意識していることはありますか?

他人を気遣うためにはまず自分の中に余裕を持つことが必要です。人間は追い込まれている状況で他人に優しくすることはなかなかできません。たとえばチーム内に周りのことがみえなくなっている人がいたとします。そのような場合には、その人が抱えている負荷や余裕がなくなってしまった背景を考え、チームで手伝ってあげるという解決方法を取るようにしています。一人ひとりの課題をみんなで解決することは、チーム全体の大きな一歩につながる場合もあります。

しかし、まずは切り詰めた状況になるべく各々を追いやらないようにするためにも、チームのみんなで甘いものを食べるなど、自分自身に優しくする文化も大切にしています。

 

ーー蛭川さんがマネージャーとして、社内の心理的安全性を確保するためにしていることはなんですか?

報告や相談を受けたり、指導したりする場面で意識しているのは、何をするにも絶対はじめに感謝から伝えることです。まず報告してくれたことへの感謝を伝える。まずチャレンジしてくれたことへの感謝を伝える。そのうえで、今後より良くしていくためにはこうしようという話に移るようにしています。

もう1つ意識していることは、話しかけられたらその場で必ず自分の手を止めて話を聞くことです。話しかけられたときに「ちょっと待って」と言ってしまうと、次からメンバーが相談をしたいときに躊躇してしまうかもしれないからです。自分の社内での立場や役割を意識して、どういったコミュニケーションをとればよいか考えることが大切だと思います。

 

ーーすごくホスピタリティを感じる工夫ですね。今回東京かあさんはカスタマーサクセスを募集されるとのことですがメンバーとして一緒に働きたい人物像はありますか?

KPIなどの目標に対して貪欲に取り組んでいける方です。現在チームには優しくて悠々としたメンバーがとても多いです。それはほっこり世界観をコンセプトにしている東京かあさんにとってすごくいいことですが、サービスとしての成長余地がある部分だとも思っています。やはり事業拡大のためには数値に対してひたむきな方が必要不可欠ですし、チームとしてのバランス向上にもつながると考えています。

また、今のフェーズでは一人ひとりの積極的なコミットが大事なので、仕事が好きでタフに働ける方、情報を自らキャッチアップできる自立性が高い方と一緒に働くことができると嬉しいです。

スキル面では接客など営業経験のある方、状況や人の気持ちをうまく相手に伝えることができる言語化能力の高い方、テキストコミュニケーションが得意な方を求めています。

 

希望であふれた未来のために、東京かあさんが目指すもの

ーー改めて、蛭川さんから見た「東京かあさん」の魅力はどういったところにありますか?

シニアと若い世代の両方を幸せにできるサービスであることです。これはご家庭サポートによって両者が笑顔になれるだけではなく、社会の中に高齢者の生きがいや活躍の場が増えていくこと自体が、若者が向かう未来を明るくすることにつながるという意味もあります。自分たちの手によって自分たちの未来をよくできることが明らかなので、運営としてもたしかなモチベーションになっていますね。

 

ーー東京かあさんが目指す未来について教えてください。

日本全体で、ご近所に第二の家族を持つ選択肢を当たり前にしていきたいです。現在、家庭内のことを外部の人に手伝ってもらうことに対して違和感や抵抗がある人が多いように感じます。もちろん、何か困ったことが起きたときに自分たちで解決しようとすることも大切ですが、すべての負担を家庭内で背負いこむ必要はないと思っています。家族が心地よく豊かに過ごしていくためにも、「家庭外の存在に頼ってもいいんだよ」と伝えていきたいです。

 

株式会社ぴんぴんころり:https://kasan.tokyo/corp/
東京かあさん:https://kasan.tokyo/

ぴんぴんころりは現在、カスタマーサクセスをはじめとしたあらゆる職種で採用活動を行っています。詳しくはこちら。https://www.wantedly.com/projects/1212220

 

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    企画・編集

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

     

    取材・執筆

    堀井隆史

    京都の大学生。海と窓際と壷湯がすき。初めてわさびを口にした人を尊敬している。

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