料理洗濯から出産立会いまで。第二のお母さんができる、シニアの就労支援サービス

人生の半分以上を芸能界で過ごし、歴史アイドル「歴ドル」として活動してきた小日向えり。自身の祖母がきっかけで、シニアの方が”寝たきりや病気にならず、人生の幕引き直前までぴんぴん元気でいること”を目指し、株式会社ぴんぴんころりを設立。シニアの就労支援に注目する中で、東京にもう一人のお母さんが持てる「東京かあさん」を始めた経緯やこだわりについて聞いた。

【プロフィール】小日向えり(こひなたえり)
奈良県出身。横浜国立大学卒業。2017年7月、シニアの就労支援事業を行う(株)ぴんぴんころりを設立し、代表取締役に就任。2019年3月におせっかいなご家庭サポート『東京かあさん』の運営を開始。サンミュージック所属の歴史アイドル(歴ドル)として活動していたが、2020年5月末に芸能界引退を発表。

 

「歴ドル」から「東京かあさん」立ち上げまで

ー起業されたきっかけについて教えてください。

高齢者の支援がしたいという想いで今の会社を作りました。私の祖母は80歳近くまで仕事をしていたんですが、仕事を辞めてから元気がなくなってしまったんです。やっぱり仕事が元気の源だったんだと思い、現在は高齢者の就労支援を行う「東京かあさん」というおせっかいなご家庭サポートを運営しています。
私自身歴史が好きで、歴史アイドル「歴ドル」として15歳から芸能活動をしていました。歴ドルをする傍ら、3年前に株式会社ぴんぴんころりを設立し高齢者の就労支援を始めました。最初は歴ドルと事業の二足の草鞋を履いていましたが、タレントは出張も多くあり、大変でした。事業に対するコミット度を高めたいと思ったので、今年の5月に芸能界を引退しました。

 

ー最初から「東京かあさん」のサービスを始められたのですか?

もともとシニアのスキルシェアのサービスを行なっていましたが、ピボットして今の「東京かあさん」を始めたんです。ピボットした理由は2つあるのですが、1つ目はシェアできるスキルが色々と幅が広すぎると、利用者の方が何か困った時にそのサービスを思いつくまでに時間がかかってしまうという反省点があったからです。2つ目は、私のおばあちゃんは普通のおばあちゃんだったので、特別なスキルがない多くの普通のおじいちゃんおばあちゃんでもできる仕事がいいなと思ったからです。なので、需要のあるもの・シニアが得意なところ・伸びていきそうなところを考え、最初は家事代行にしようと思いました。他の家事代行を実施している求人に「70代の方も活躍している」と掲載されていて、70代になっても無理なくできる仕事だと思ったことも要因です。そこからシニアの方と実証実験をした際に、シニアの方は収納を綺麗するだけでなく収納グッズまで買って用意するなど、頼まれてもいないことを率先して行うホスポタリティがあると気づき、それをいい意味で活用できないかと思い「おせっかいなご家庭サポート」という風にしました。

 

ー実際に「東京かあさん」はどのように利用されていますか?

利用者の9割の方が女性で、共働きや小さいお子さんがいる30代~40代のご家庭がほとんどです。ベビーシッターや家事代行など似たようなサービスもあるのですが、ベビーシッターだと保育園や育児のサポート、家事代行だと料理や掃除と専門的に分かれているんです。東京かあさんでは保育園の送り迎えに行き、その後料理のお手伝いをするなど、専門的な資格があるわけではないけれど「第二のお母さん」として総合的に寄り添ってサポートするというのが特徴です。
利用者の方には、その日によって柔軟性を持って色々と依頼できることが嬉しいと言ってもらえています。皆さん依頼だけではなく、「お母さん」との交流を楽しみながら精神的にも寄り添ってもらい、色んな事を「お母さん」に相談しながら利用されてる方が多いですね。お母さんと利用者さんの信頼関係の上で成り立っているサービスだと実感しています。私自身も東京かあさんを利用しているんですけど、この前はベランダの掃除をどうすればいいか相談して、オススメの掃除道具を買って教えてもらったりしています。

 

サービスから生まれる信頼関係

ーどのような「お母さん」が働かれているのですか?

現在は212名の方に登録していただいていて、平均すると60代後半です。最年長の方は81歳で、その方と今朝もLINEしてたのですがめちゃくちゃ元気です(笑)。皆さんだいたい週に1回3時間、多い方で15時間程働かれています。毎日働きたいというよりも、退職してずっと夫婦で家にいるので孤独や不安を感じやすく、社会と関わりながら少しお小遣いも欲しいって方が多いですね。取り上げていただいたテレビや新聞などを見て知られた方や、お母さんを募集しているwebサイトを見て応募してくださった方がいます。

 

ーお母さんは実際に働かれてみてどのような変化があるのでしょうか?

やっぱりどんどん若返っていく方が多いですね!「東京かあさん」の仕事は、色々な家事を同時進行でしますし、決められた時間内でこれとこれをしてって頭の体操になるので、認知症予防も期待できます。お風呂掃除や掃除機かけでも適度に体も動かしますし、何より頼りにされるという心の健康にもつながるので、皆さんどんどん元気になられます。

 

ー利用者の方々から頂いた嬉しかった声や印象的だったエピソードはありますか?

最近もアンケートでたくさん嬉しい声をいただきました。「東京かあさんなしではもう生活できません!」「洗濯物や料理の下ごしらえなどいつも細かなことをしていただけありがたいです」「鍵を安心して預けられるぐらい細かなコミュニケーションが行き届いているため、安心してお願いできます」など言っていただけました。運営事務局側の迅速で柔軟な対応や、LINEで手軽にやり取りできるところも、他社さんと比較して評価して頂いています。
今まで印象的だったエピソードは、出産に付き添いしたお母さんがいたことです。他の家事代行やベビーシッターであれば、家事や子どものお願いはできるんですけれども、出産の付き添いまではなかなかできないので、そこが「第二のお母さん」という感じだなと思いました。あとは、産後うつ手前や孤独感を感じる利用者さんもいらっしゃるんですけれど、お母さんと話しながら、「自分でも料理やお掃除やってみよう」と意欲が湧いてきて最後は笑顔がすごく多くなった方もいます。ある意味ちょっと人生を変える出会いを作れるお仕事だなと思い、私もとても嬉しかったです。

 

お母さんと利用者の対等な関係を目指して

ーシニア向けのサービスを展開する上で困難だったことを教えてください。

高齢者の方特有のこだわりと、利用者の方の要望のマッチングが大変ですね。利用者さん一人にお母さん一人なので、基本的に契約したら同じお母さんに定期で依頼する仕組みになっています。お母さんの中でも、料理や掃除のみの仕事がしたいという人、子どもの世話だけがしたいという人、自転車で行ける範囲がいいという人、逆に近すぎると嫌なので30分以上離れている場所を希望する人など、色んなタイプの方がいらっしゃいます。最近だとある利用者の方からは、「重ね煮という料理と寝かせ玄米が作れる人にきて欲しい」という要望もありました。各自の特性や要望に合わせ、お母さんと利用者さんを1つ1つ自分たちでマッチングしていくのは本当に大変です。
シニアの方々がITリテラシーが高ければ、それぞれプラットフォームを作ってお互い探せるような仕組みづくりができると思うのですが、なるべくITリテラシーが低いシニアの方にも登録していただきたいのでこちらでマッチングしています。周囲には「よくやるね」と言われるのですが、私自身高齢者の方々が好きなので、そんなにしんどいって思わないんですよね。

 

ーサービス開始の肝となるマッチングを考える上で、工夫されていることはありますか?

1つ目はお母さん一人一人と面談し、スキルを細かく聞くようにしています。スキル以外にも、アクティブな方・少しシャイな方といった性格も把握します。特に必要な資格があるわけではなく、その人の得意なことをマッチングさせていただくので、こういうお母さんがいいとか、こういうお母さんが悪いっていうのはなくて相性の問題かなと思っています。面談をしてみて「この人ちょっと難しいなあ」と思うような人も、マッチングによってはすごく良い生かし方ができたりするので、そこは一般的な家事代行や他のサービスではできないところかなと。他にもシニアのお母さん達は、ビジネスマン的な感覚がない方が多く、面談でも1時間前にオフィスに来られる方もよくあります。その際もこちらの当たり前をおしつけないように、5分前まではご遠慮いただくよう丁寧にアナウンスしたり、名刺1枚とっても字を大きくしたりと、お母さんに寄り添ったコミュニケーションを日々改善しています。
2つ目は、最初に利用者さんとお母さんのお顔合わせの時間を無料で設けていることです。その際にたとえ利用者さんが「このお母さんがいい」と言っても、お母さんが嫌だと思ったらマッチングは成立せず、両者希望でないと契約ができないという形にしています。家事代行や他のサービスであれば、利用者さんとサービス提供者でどうしても上下関係ができてしまうと思うのですが、東京かあさんでは対等な関係を大事にしています。どちらが上とか下とかではなく、利用者さんが「第二のお母さん」として信頼できる関係性作りを大切にしています。

 

高齢者が元気でいられる社会を目指して

ー今後、中長期的に目指されている目標を教えてください。

どんどん東京かあさんを拡大していき、登録者数を何千、何万としていきたいですね。大阪では「大阪おかん」、福岡では「博多のおふくろ」というように他の地域にも展開できたらと思っています。同時に、最初から課題意識が高かった男性の就労支援というところも考えているところなので、将来的に男性の就労支援もやっていきたいなと思っています。
就労支援以外でも、シニアが「ぴんぴんころり」でいることが会社の理念なので、シニア向けの住宅やシニア向けのツアー事業など、みなさんが元気でいられるようなことをどんどんやっていけたらと思います。ビジネスと違って運の要素が強い芸能生活で培った諦めない忍耐力を今後も生かしていきたいですね。

 

株式会社ぴんぴんころり:https://pinkoro.co.jp/
東京かあさん:https://kasan.tokyo/

 

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    interviewer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

     

    writer

    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。

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