生徒も先生も親も、境界を超えて関わり合う。地域に根ざした塾と学童に見出した可能性とは

京都市西院で個別指導塾『まなびのさき』、学童保育『あそびのば』を運営する合同会社なんかしたい。塾と学童が併設されており、小中高生と大学生の先生が一同に集まるこの空間では、世代を超えた関係構築を大事にしている。大学生の自身の研究の話や恋愛話などを生徒が聞いて、生徒の学校や家での悩みを大学生が聞くなど、勉強以外のコミュニケーションが至るところで生まれているのが特徴だ。生徒だけでなく親との関わり合いも大事にしており、通常の塾や学童とはひと味違うこだわりを持つ理由について、代表の清水大樹に聞いた。また、塾で働いている大学生にも、実際に働いてどう感じているか伺った。

【プロフィール】清水 大樹(しみず だいき)

合同会社なんかしたい代表。大学在学時から教育事業の創業に携わる。2019年1月に独立。現在は小中高校生対象の個別指導塾と、地域密着型の学童保育、大学生のためのコミュニティスペースの運営、学校プログラム提供やクリエイティブ制作を行っている。

清水さんの過去のインタビュー記事はこちら:学習塾から企業研修まで。世代を超えた関係性が、社会に新たな価値を創造する

「あなたとセカイをチカクする」ために、地域に根ざした運営を

ー前回のインタビューからコロナ禍が続いていますが、塾やコミュニティスペースの運営をどのように行なってきましたか?

塾に関してはオンラインと対面で並行して授業を行なっていて、教室は感染対策をしっかりしつつ、生徒の希望で授業の受け方を選択できるようにしていました。コミュニティスペース『agora』で実施する企画については、基本的にすべてオンラインに移行しました。オンラインだからこそたくさんの方に参加していただけるようになり、この2年間の参加者は2000人以上になりました。このようにオンラインも活用しながらうまく運営していたのですが、ここ1年くらいで、地域に根ざした塾と学童の可能性を強く感じるようになりました。だから、今までは世代を超えた研修や企画などいろいろやっている中の1つが塾と学童だったのですが、これからは塾と学童を主軸にしていこうと考えるようになりました。

 

ーオンラインイベントも順調だった中で、地域に根ざした塾と学童を主軸にしていこうと思われたのはなぜですか?

うちは「あなたとセカイをチカクする」というミッションを掲げています。いろいろな学びや体験を増やすことで、地球上のあらゆるものとの距離が手触り感のあるものになれば、その人にとっての豊かさの1つになると思っています。コロナ禍でオンラインワークやいろいろな企画をやって、みんなで集える場所になっている感触はありました。でも個人との関わり合いなので、プラスアルファの広がりや積み上がりが生まれるかという観点では難しかったんです。一方で塾や学童は、対個人に加えて家庭環境や親御さんへの関わり合いも持てると感じていて。そこが地域に根ざした塾や学童ができる幅の広げ方だなと改めて思うようになったので、事業の主軸に置くことにしました。

 

勉強も勉強以外のコミュニケーションも大事する塾

ー学習塾まなびのさきについて教えてください。現在の生徒数は何人ですか?

55人です。7割は近隣の学区の子で、3割は遠いところに住んでいる子です。それも東西南北いろいろなところから通ってくれています。うちの会社や僕の世界感などに共感しているのと、勉強以外のことも大事にしている塾というのが、遠くても通いたい理由だとおっしゃっていただいています。

 

ーまなびのさきの先生も同じく、なんかしたいのビジョンに共感して働かれているのでしょうか?

今7割が大学生、3割は社会人の方が働いてくれています。全員共通して、勉強を教えるのは当たり前として、勉強以外のコミュニケーションも大事にしているからこの塾で働きたいと思ってくれているようです。

うちの塾で先生に役割としてお願いをしてるのは「その子の勉強できない理由を取り除こう」「自分を主語にしゃべろう」という2つで、毎回の70分の授業内でも、先生のスピーチ5分・雑談5分の時間をとって、勉強以外の話を大切にしています。スピーチでは、「自分にしか話せない話」として大学の研究や生活の中で感じた違和感、恋愛話など、自分の喜怒哀楽をそれぞれ自由に話してもらっています。例えばある大学生の先生は「みんなに良い人生を送ってほしくて授業をしているけど、何が良い人生なのかは僕もわかりません。そんな矛盾や葛藤を感じながら、それでもみんなの幸せを願う一心で今日も授業をします」という教育パラドックスの話をしていました。大学生の先生たちが自分を主語にしゃべることで、大人もたくさんの感情を持ちながら生きていること、いろいろな生き方や価値観があることを、生徒は塾という日常の中で自然と感じることができます。

また、保護者さんとの面談も、多くの塾では塾長と親子との三者面談が一般的だと思いますが、うちは大学生の先生が親御さんと二者面談をし、お茶を飲んでもらいながら親御さんの心の声を聞かせてもらっています。雑談で大盛り上がりな場面も珍しくありません。お子さんがいると親御さんがどうしても話しづらかったり言いにくかったりすることもあるので二者面談にこだわっています。経営活動としては塾長や社員が面談をした方が”上手く”できるのですが、日頃のお子さんと接している大学生の先生たちに面談をしてもらうこともこだわりです。

 

ー大学生の先生を採用する際、大事にしているポイントはありますか?

勉強以外のコミュニケーションも大事なのですが、そもそも前提として、塾なので勉強を教えることにモチベーションがあるかどうかは採用時点でしっかり見るようにしています。勉強以外のコミュニケーションを重視して入った子は、勉強を教えることや受験合格のための指導、テストの点数を上げるための指導に対してモチベーションが上がらず、半年ぐらいでやめてしまうということがありました。「勉強以外のコミュニケーション」という特徴が前に出てしまったがゆえのミスマッチなのですが、行きたい学校に合格する、テストの点数を上げるといった塾としての機能は最低限絶対に叶えたい部分なんです。だから、今では説明会や採用面談のときに、その部分についてしっかり伝えるようになりました。

 

ー働いている大学生の方からはどのような声がありますか?

今ちょうど近くにいるので聞いてみますね。(近くのスタッフに)うちで働く中で、どんなことを感じる?

スタッフの方1:小学生から中学生まで見ているんですけど、勉強についていけなかったり、学校で少し嫌なことがあったときに塾を居場所としてくれているのを感じられて嬉しいです。勉強以外のことでも相談に乗ったり、学校や家での悩みも聞けたりするのがこの塾のの楽しいところでもあり、難しいところでもあると感じながら、生徒と一緒に成長していける場所だなと思っています。

スタッフの方2:塾って最初は先生が生徒に教えるのがメインだと思っていたんですけど、ここでは生徒とたくさんコミュニケーションできるので一緒に頑張ろうと思えるし、親御さんとも関わりが持てるので、塾のイメージが変わりました。生徒の学校での様子、不安や悩み、家庭環境の話とか、生徒たちはもちろん親御さんからの相談にも乗れるので、それがすごくいいなと思っています。

スタッフの方3:毎日最高です。成績を上げることだけを大事にするのではなく、先生たちが生徒たちに「最近調子どうやった?」とか「楽しかった?」とか聞く環境ができていて、すごくあったかい塾だと思います。その分難しいなと感じることもあります。成績を上げるだけならどんどん課題を課すなど、厳しい指導をすればいいけど、本当にその子のことを思ったらそうじゃないですよね。その子自身の特性とか今のメンタル状況とか、授業の理解度とかも踏まえてどう教えてあげたらいいかを考えないといけないのが楽しくもあり、大変な部分でもあります。だから、まなびのさきは勉強以外のコミュニケーションもたくさんとれるのがすごくいいところだなと思っています。

 

ー先生のマネジメントはどのようにしていますか?

曜日ごとにチームを作って、1人隊長を決めます。先生は授業が終わったら「確認テストや宿題はどうだったか」「どれくらい進んだか」など今日の記録を書いて、それを隊長が日報として教室長に報告するというマネジメントになっています。何かイレギュラーなことがあれば隊長に相談して、隊長が難しいと判断したら教室長に相談するという体制になっています。授業の進め方自体はしっかり固めていて、マニュアルと研修もあります。でも生徒への声かけやペース配分などは、生徒の様子を見たうえで先生個人の色が出る部分でもありますね。

 

中高生・大学生の姿を見て育つ学童の小学生

ー学童あそびのばに通われている人数や、地域性を教えてください。

40人ほど通っています。地域は西院小学校の生徒に限定しています。スタッフさんたちがいつも子どもたちを学校まで迎えに行くのですが、いろいろな学校の子がいると迎えに行く時間がバラバラになってしまって大変だからです。40人中3人だけ違う学校の子がいますが、その子たちは自分たちで来てくれています。

 

ー着いたらまず宿題と自主学習の時間があるそうですが、学童と塾の先生は別なのでしょうか?また、それぞれ向いている人の特徴などあれば教えてください。

学童と塾の先生は別ですが、学童の先生も大学生が多いです。学童は、シンプルに小学生の子どもが好きという子が楽しく働ける場所だなと思います。小学校の教職課程を取っているとか、子どもの発達に興味があるような子が長く続いている印象です。塾のほうは、哲学好きな子だったり、自分の研究もしっかりやりつつ自分自身がどうやって生きていくかということをよく考えている子が多いなと思います。

 

ーあそびのばの特徴として、バラエティ豊富な創作プログラムの時間があるそうですが、具体的な内容や頻度を教えてください。

創作プログラムについては、平日、祝日や長期休み、土曜日の3パターンがあります。平日は1回15〜20分くらいのワークを週2回行なっていて、スタッフが内容を考えます。祝日や長期休みで子どもが長時間いるときは、1時間半くらい時間をとって理科の実験や謎解きなどのいろいろな企画をやっています。それから土曜日は月に1回のみですが、子どもたちが自分で企画運営してるんですよ。小学1年生とかがパソコンを使って企画内容をプレゼンしてるんです。すごいですよね(笑)。

創作プログラムの様子

 

ー創作プログラムで、より子どもたちが楽しめるような工夫はありますか?

2つあります。1つは安心感をどう作るか。みんなびっくりするくらい積極的に取り組むんですけど、積極的に楽しんでやろうとするのは1人1人があの場に安心感を持っているからだと思うんですよね。だから、日頃のコミュニケーションから子どもたちの安心を作る工夫をしています。具体的には、厚労省の基準*の2倍のスタッフを配置して、生徒とスタッフのコミュニケーションを多くしています。一緒に笑ったり、辛かったことに耳を傾けたり、何気ないけど密な関わり合いを大切にしています。あとは否定や批判をせず、「いいね!」や「面白いね!」「やってみよう!」という声かけを大事にしています。

プログラムを楽しんでもらうためのもう1つの工夫が、強制をしないということです。大人が内容を考える場合、大人も聴いてほしいから参加を促しがちな側面ってよくあると思います。でもあそびのばでは参加を強制しないので、みんなで創作プログラムをやっている中ずっと奥で絵を描いている子がいたり、そうかと思えば気づいたら1番前で楽しんでいたみたいなこともあったりで、すごく自由ですね。自由参加であることを大事にしているのですが、その代わりすごく騒がしいです。こっちではプログラムのワークをやっていて、あっちでは遊んでいて、向こうではけんかしていて、みたいな(笑)。けんかが起こってもみんなで建設的な話し合いをするし、心配の種にならないようにすべて親御さんに報告するので、そこは子どもたちや親御さんにとっても安心ポイントかなと思います。

*厚労省の基準では、支援の単位ごとに2人以上の放課後児童支援員を置かなければならないとされている。(参照:https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=10815&sub_id=1&flid=73174

 

ー前回のインタビューで、「中高生や大学生の姿を見て子どもたちが育っていく」というお話が印象的だったのですが、今でもそういったシナジーはありますか?

あります。同じ空間で大学生が活動や仕事しているのを見ているから、スマホやパソコンの使い方を小学校低学年の子が勝手にマスターしていたり、塾がすぐ隣に併設されているので中学生や小学生と大学生が一緒にTikTokを撮っていたり。あとはゼミで学んでいることを大学生が話すこともあるので、同年代のコミュニティでは出てこない話を子どもたちは聞いています。最近あったのは、外国語大学に通っている大学生が、ウクライナの友達から電話がかかってきたときの話をしていて。戦争で大変な状況にある友達との会話の中で、彼女が感じた等身大の話をしてくれました。普段楽しい話や恋愛話をしている大学生の先生からそういう話を聞くと、子どもたちにとってもメディアで得る情報とはまた感じ方が違うと思うんですよね。そういったことが日常的な会話の中で起こっていて、大学生が勉強を教えるだけじゃなくて、自分を主語にいろいろな話をしているからこそ生まれるシナジーだなと思います。

 

「物理的な豊かさ」で、幸せだと思える人が1人でも多い社会に

ー今後塾や学童でやっていきたいこと、注力していきたいことを教えてください。

勉強以外の関わり合いをどれだけ濃くできるかというのをもっと頑張っていきたいです。4月からは新しく、月1回の『まなあそ縁日』というレクリエーション企画を始めました。生徒、先生、親御さんみんなで世代を超えて一緒に遊ぶ企画です。4月はボードゲームを楽しんで、5月はハイキングに行きました。ハイキングにはなんと52名もの方が参加してくださったんです。今までは勉強も勉強以外の話もたくさんできる場所ではあったけど、「勉強すること」と「話すこと」以外関わり合いがなかったんですよね。だから、塾と学童の生徒たち小学生から高校生までと、大学生・社会人の先生たちや親御さんもみんなで一緒に体験できることを増やしていきたいと思っています。

これまでも月1回、お父さんお母さんとの座談会はやっていました。大学生や社会人の先生と親御さんだけでしゃべる会って普通の塾ではあまりないですよね。子どもたちがいないのと、子どもの話抜きでしゃべりましょうと言っているので話の内容がすごくディープで(笑)。離婚の話、介護の話、仕事の話、性の話……とにかく、みんな1人の人としての話をしてくれます。親も、家や学校、職場以外の選択肢が必要だし、コロナ禍になってより必要性が高まっているように思います。親もそれぞれ悩んでいる、抱えていることがあって、それを大学生の先生に話してすごくスッキリして帰ってもらうということもあるんです。他の塾にはない変わっているところだと思いますが、対生徒を超えて親御さんも含めた関わり合いもできるのが地域に根ざした塾や学童の可能性だと思っています。今後はその関わり合いをより広く、濃くしていきたいですね。

親御さんとの座談会の様子

 

ー事業を通じてどんな社会を実現していきたいですか?

「幸せだと思える人が1人でも多い社会にしたい」「死にたいと思っている人が1人でも減る社会にしたい」という根本の想いは前回のインタビューから変わっていません。変わった部分は、うちが提供できることは精神的な幸せではなく「物理的な豊かさ」だと思うようになったところです。例えば、ある事象がAさんにとっては嫌なことでも、Bさんにとってはありがたいことかもしれない。幸せとか精神的な部分って人によって違うので、極論、他者を幸せにしたり救ったりすることはできないと思うようになりました。でも、いろいろな経験や視点、人との繋がりや関係性を持っていることは自分が幸せだと感じられる大きな要素なんじゃないかなと思っています。僕はそれを「物理的な豊かさ」だと考えていて、その豊かさがあればあるほど人は自分で自分を幸せにできる可能性が上がると思うようになりました。だから、うちは塾や学童を通して、生徒や先生、親御さん、近所の人たちに、「物理的な豊かさ」に繋がる機会を追求して提供していきたいです。

合同会社なんかしたい https://nankashitai.com/
個別指導塾まなびのさき https://manabinosaki.com/
学童保育あそびのば https://asobinoba.studio.site/
なんかしたい!中高大学生のコミュニティサポーター募集サイト
https://nankashitai-supporter.studio.site/

 

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interviewer

張沙英

餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。