学習塾から企業研修まで。世代を超えた関係性が、社会に新たな価値を創造する
京都市西院には小学生から大学生が集まる空間がある。「小中高生の学びと、大学生の学びが同時に起こり、語り合える場を京都に創りたい」という想いから併設された、学習塾とコミュニティスペースだ。これらを運営する清水大樹に、教育事業に関わるきっかけや、世代を超えた関わりを大切にする想いを聞いた。
【プロフィール】清水 大樹(しみず だいき)
合同会社なんかしたい代表。大学在学時から教育事業の創業に携わる。2019年1月に独立。現在は小中高校生対象の個別指導塾と、大学生のためのコミュニティスペースの運営、企業の研修やクリエイティブ制作を行っている。
もくじ
人の相談に乗るうちに気づいた日常の大切さ
ー現在の事業について教えてください。
教育事業を中心に、大きく分けて3つの事業を行っています。
まず1つ目が、小中高生を対象とした個別指導塾「まなびのさき」です。同時に、学童保育「あそびのば」も運営しています。どちらも独立前から行ってきた事業ですが、個別指導塾は今年で9年目、学童保育は3年目に入りました。
2つ目は、大学生のコミュニティスペース「agora」の運営です。「ゆるく集まり、アツくなる。」をコンセプトに、場所の提とイベントの企画を行っています。「agora」を作ったのは、2019年4月に行ったクラウドファンディングのタイミングだったのですが、実は個別指導塾を始めたときから、大学生のコミュニティスペースも運営していたんです。当時は塾の中に大学生の語り場があって、3人掛けの長机に6人くらいがぎゅうぎゅうに座っているという状況でした(笑)。良い環境を整えることが大学生にとっても小中高生にとってもプラスになるだろうと思い、塾とコミュニティースペースを併設させる現在の形になりました。
3つ目は、企業の研修づくりのお手伝いやクリエイティブの制作です。個別指導塾やコミュニティスペースで関わってくれている中高生や大学生も、一緒に研修に参加したり、彼らから意見をもらってデザインを作ったりしています。
ー清水さんが今やられている事業を選ばれたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
死にたいと思って、自暴自棄になり、人を殺してしまうくらい苦しんでしまう人が、少しでも社会から減ってほしいと思ったのがきっかけです。振り返ってみたら小学生の頃から、人の相談に乗ることが多かったんです。最初は嫌われたくないとかモテたいという気持ちだったのですが、いつしか人の相談に乗ることが自分が好きなこと、そして自分が相手にできることになっていると気付きました。
特に大学では、大学の友達や先輩、社会人など、いろいろな方の悩みを聞く機会がありました。そんな中で感じたのが、みんなすごく悩んでいるんだなということと、「死にたい」って割と簡単に出ちゃう言葉なんだということでした。
一方で、「悩み」の反対に位置する「幸せ」についても考えるようになり、人って意外と日常の何気ないことに幸せを感じているという発見もありました。人が幸せであるためには、それぞれが思い描く「日常」を大事にできるかどうかが大きく関わっていると思ったんです。
でも、日常を大事にするには愛や力が必要なんですね。具体的にいうと、学んで力をつけることと、自分の味方になってくれる仲間を作ることです。その2つを行うのに、大学の4年間ってすごくいい機会だなと思って、大学生を対象に学び合えるコミュニティを作りたいと思ったのが最初のきっかけです。
ただ、大学生向けのコミュニティづくりでお金をやりくりしていくのは厳しいと思って、個別指導塾を始めました。それはどうしてかというと、単純に自分たちにできそうなことだったからです。学習塾という既存の市場でマネタイズしつつ、もともとやりたかった大学生のコミュニティづくりも一緒に始めました。そして塾とコミュニティスペースの運営を同時に行っていく中で、小中高生と大学生が一緒に学ぶことの相乗効果を実感したので、ずっと続けています。
背中で見せる、モチベーションの生み方
ー小学生から大学生までが一緒にいる空間って、他ではなかなか無いですよね。
「agora」では大学生がいる空間に、小中高生がくつろぎに来るんです。みんなゲームをしたり、漫画を読んだりしているのですが、大学生のコミュニティスペースから漏れてくる会話や議論をBGMのように聞いています。そういう環境の中で子どもたちは、大人も悩んでいることを知り、正解なんてないということを自然と理解していきます。
みんな悩みながら自分の人生を生きているというのは、説明して伝わるものではありません。でも、うちに来ている子たちには、多様な人がそれぞれに悩みを抱えていること、そして人と人が交わることで新たな価値観が生まれることが当たり前になっているんです。
ー個別指導塾の先生も、大学生が多いと伺いました。
そうですね、大学生が多いです。コミュニティスペースに来る大学生だけでなく、先生をしている大学生からも、子どもたちは生き方を吸収しています。先生たちには「あなたが語ること」を大事にしてもらっています。授業の最初には、先生たちが感動したことや学んだこと、悩んでいることをみんなに発表する時間を10分くらい設けています。就活の悩みを話す先生もいれば、ゼミで研究していることを話す先生もいます。その後、個別指導に入るのですが、そこでも生徒との対話を大切にし、自分のことも話してもらいます。モチベーションを上げるには、目標を設定し、それに向かって頑張らせるやり方もありますが、大人が熱中している姿を見せることで、その熱が生徒たちにも飛び火することもあると思うんです。大人が火をつけようとするのではなく、自分がやりたいことを、自分のタイミングで見つけてくれたらいいなと思っています。
ー他に先生方が工夫されていることはありますか?
「勉強できない理由を取り除くこと」ですかね。勉強ができない理由って、問題が難しいから、計画の立て方がわからないからだけでなく、例えば友達と喧嘩をしたとか、部活でレギュラーから外れてしまったとか、彼氏に振られたという風に、勉強に集中できない状況にいることだったりするんです。その状況に対して、生徒と先生という関係性ではなく、人と人としての対話、ある種友達や兄弟のような関係性を生かして、勉強に身が入らない障壁を取り除こうというわけです。
「まなびのさき」には、塾なんて絶対に行きたくないという子や、他の塾に通っていたけど成績が上がらなかった子が口コミで来てくれることが多いです。そういう子たちも、「塾なのに楽しい!」と言うようになり、成績も上がります。その理由は、先生たちが丁寧な対話を重ねて、勉強できない理由を取り除いてくれるからなんですよね。
世代を超えて関わることが社会を前進させる
ー3つの事業全体をみると、小学生から社会人まで、幅広い世代と関わっておられますね。事業対象の世代を絞らない理由はあるのでしょうか?
同じ世代で構成される価値観には偏りがあると思うし、同じ世代で固まって出来ることも限られていると思うからです。社会は世代を超えた人たちで構成されていますよね。社会をより良いものにしたり、正解がないことにぶつかったりするためには、各世代が協働する必要性を感じています。世代を超えて一緒に考え、社会を実装していく過程を、小さな規模からでもやり続けていきたいと思っています。
ー世代を超えて関わるからこそ生まれる面白さはありますか?
ある企業さんと、ミッションを再設定する研修を行っていたときの話です。その企業では「好き」という言葉をとても大切にされていました。研修中も社員さんから「好き」という言葉がたくさん出るんですね。それに対して、一緒に参加していた高校1年生が「好きってなんですか?」と聞いたんです。そうすると、社員さんたちが「あれ、好きって、なんだろうね。」とフリーズしたんです(笑)。高校生の純粋な疑問に対して、大人がみんなハッと気づかされた出来事でした。世代が違うとそれぞれの持っている当たり前が違うので、価値観が広がる効果があると思います。また、違いが大きすぎるので、互いにリスペクトが生まれやすく、純粋に相手のことを知ろうとする姿勢が生まれやすいのだと思います。
さらに、この出来事のように、中高生や大学生が社会人に対して勇気を持って発言することは、彼らにとっても良い機会になるんです。自分の声が大人たちに届くんだ、自分が社会を変えられるんだと実感することで、その経験が自信になって、自己効力感や自己有用感の向上にも繋がります。実際にそのあと研修に参加した小学生が勉強をがんばるようになったり、人前で発表できるようになったりしました。
「なんかしたい」なら「一緒にやろう」
ー合同会社なんかしたいという名前にはどういう想いがあるのでしょうか。
「何がしたいかわからないけど、なんかしたい」って、ポジティブな気持ちだと思うんです。夢を持ってなきゃいけない、好きなことを仕事にしなきゃいけないという空気感が強くなってきた時代ではありますが、純粋に「なんかしたいな」という気持ちが、社会の中でエネルギーになればいいなと思ってこの名前にしました。
何かをするためには、3つのフェーズがあると思っています。まずは知ること。こんな仕事あるんだ、こんな人いるんだというのを知ることです。そして、一旦やってみること。他の人を手伝ったり、乗っかって何かやってみる。そうやってゆるく関わりながら、自分の好き嫌いや得意不得意を感じるうちに、最終的に自分がやりたいと思ったことを形にしていくことにたどり着くかもしれません。どの段階にいたとしても、「なんかしたい」と思った時に、うちに来てくれたらいいな、あとは一緒に創っていこう、という想いを込めています。
ー最後に、今後の目標を教えてください。
自分自身のことを感じられて、かつ社会のことも感じられる人が増えるといいなと思っています。社会とつながっている感覚や、自分が社会の中で役割を担っているという感覚を持つ人たちが、世代を超えてお互いに学び合いながら、みんなで豊かに生きてく社会を目指したいです。企業さんの研修や会議に、中高生や大学生がバンバン入るというのは、僕が作りたい未来ですね。学生が入って一緒に考えることが、一緒に社会を作っていくことに直結すると思うし、お互いの学びの促進にもなると思います。学生が入った方が、本当にいいですよ(笑)。
あと、5年後すごく楽しみにしていることがあって、小学校1年生で塾や学童に入った子が中学生になるんです。上の世代と同じ環境にいることが当たり前になっている彼らが、中学生になった時にどうなっていて、この場所がどうなっているかというのが今からすごく楽しみです。
合同会社なんかしたいHP https://nankashitai.com/
interviewer
田坂日菜子
島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。
writer
細川ひかり
生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。
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