草ストローがペンギンの巣に。販売先から広がる新たな循環と、サボテンレザーを使った新事業
ベトナムの植物を使った草ストローを販売する合同会社HAYAMI。前回のインタビュー以降、全国に導入先を増やし、販売先による新たな循環モデルも生まれている。今回はHAYAMIの草ストローを使用している株式会社オーレックのみなさまにもお越しいただき、ストローとして使用した後の活用について伺った。また、HAYAMIが新たに始めたサボテンレザーの財布ブランドについても話を聞いている。
【プロフィール】
・大久保 夏斗(おおくぼ なつと)写真左
合同会社HAYAMI代表取締役。日本の高いプラスチック消費量に注目し、海洋生物を守るため海洋プラスチックを削減し綺麗な海、地球を維持したいと奮闘中。東京農業大学国際農業開発学科4年生。
合同会社HAYAMI代表取締役・大久保さんの記事はこちら:耐久性とデザイン性に優れた草ストロー。「小さなエコな選択」で環境問題
・大久保 迅太(おおくぼ はやた)写真右
合同会社HAYAMI共同創業者兼業務執行社員。外資系VCでも仕事をしており、革新的な新素材や材料を軸に企業の探索やサポートを行なっている。京都在住。
・佐々木 竜哉(ささき りゅうや)
株式会社オーレック経営総合部ブランディング広報グループ所属。主に、オーレックのブランド発信拠点『OREC green lab 福岡』の企画運営を行なっている。
・古賀 有沙(こが ありさ)
株式会社オーレック経営総合部ブランディング広報グループ所属。主に社外に対するPR活動を担当している。
もくじ
現地NPOとの協業で、更なる効果創出を目指す
―まずは草ストローの事業について伺います。現在は何店舗に導入されているのでしょうか?
大久保夏斗(以下、夏斗):現在、全国で220店舗ほどに導入いただいています。個人で購入いただく方も少しはいらっしゃいますが、小ロットの購入はほとんどが店舗として購入検討をされている方で、全体としては業務用としての購入が多いです。これまで営業はほとんどしていませんでしたが、最近では直接お店に伺って営業することも始めました。
大久保迅太(以下、迅太):私も他の仕事と両立しながら動けるときは動いていて、店舗に営業に行ったりオンラインでミーティングに参加したりしています。これまで飲食店さんに導入いただくことが多かったのですが、最近は、来店したお客さまにお出しする飲み物用として、ハウスメーカーや自動車ディーラーといった企業さんからの問い合わせが増えています。そういったところにアプローチしているのが、前回のインタビューからの変化かなと思います。
―2020年10月に生産国であるベトナムの農村支援NGO団体『VIRI(ビリ)』との協業をスタートされています。どういった背景があったのですか?
迅太:草ストロー自体が、ベトナムの農村地帯で栽培されている植物からできており、創業当初から持続可能な形で生産をしていきたいという想いがありました。しかし私たちだけで持続可能な農業を包括的に支援していくことは難しかったです。代表が東京農業大学の学生でもあるので、学生たちをベトナムに連れて行って一緒に勉強しながらストロー作りや持続可能な農業をやっていければと思っていましたが、コロナ禍でその実現もなかなか難しく、農業に関する専門性を持った団体と協議しながら進めていきたいと考えていたところでした。そんな折、ベトナムスタッフがVIRIを見つけてきて、コンタクトを取ったのが協業のきっかけでした。草ストローを生産する上でどうしても欠陥品が出てしまいます。そうした欠陥品をカゴや編み物に作り替えていこうとしていて、ファーストステップとしてベトナムの職人さんにレクチャーするための動画を日本語・英語・ベトナム語で作成しています。
―なかなか渡航できない日が続いていると思いますが、現地とのやりとりはどのように行なっているのでしょうか?
夏斗:ベトナムにいる弊社のメンバーが日本語とベトナム語を話せるので、彼に通訳のような形で入ってもらって、関係者とのコミュニケーションを取っています。また、日本から日本のお菓子や製品をベトナムに送ったり、そのお返しをベトナムから受け取ったりすることもありました。コロナ禍で直接コミュニケーションが取れない中、贈り物などでも互いに感謝を伝え合うことを会社としてやっています。
―VIRIとの協業に関して、今後の展望を教えてください。
迅太:今の時点では、草ストローとして商品ラインに乗せられないものの再商品化に取り組んでいますが、将来的にはそれらの商品を日本で販売したいと考えています。例えば、草ストローを使ってくださっているお店の雑貨スペースなどに置かせていただいて、売り上げの面からもベトナムの生産者に貢献できればなと思います。現地に行って直接お金を渡すような支援もありますが、彼らが本当に求めているのは何なのか、持続するモデルを作るために必要なことは何なのか自分たちの目で見て、ニーズに合った支援をしていきたいです。そのためには、直接現地に行くことが次のステップかなと思っています。
撮影:合同会社HAYAMI
草ストローが動物園で活用される循環モデル
―株式会社オーレックによる、草ストローの特色的な活用が生まれたとお聞きしました。まずはオーレックについて教えてください。
佐々木竜哉(以下、佐々木):私たちは農業機械のメーカーです。「草と共に生きる」というブランドコンセプトを掲げ、草刈機や耕運機といった農業機械を販売するだけでなく、人々の健康に関する事業など、農業を取り巻くあらゆる課題解決にも取り組んでいます*。他にも弊社のブランド発信拠点として、green labという施設を全国で3ヶ所運営しています。農業従事者が立ち寄りやすいようになっているのに加えて、農業との接点がない方にも、農業や弊社の取り組みについて知ってもらおうと運営しているものです。その1つであるgreen lab 福岡は、2019年にオープンした最も新しい施設で、そこに併設しているカフェでHAYAMIさんの草ストローを使用しています。
*株式会社オーレックの事業内容についてはこちら:https://www.orec-jp.com/about/business/
OREC green lab 福岡 2階カフェスペース
―使用済みの草ストローがペンギンの巣に活用されているそうですね。
佐々木:green lab 福岡のカフェでお客さまが使用したストローを洗浄消毒し、福岡市動物園のペンギンの巣材として2次利用していただいています。HAYAMIさんの草ストローをgreen lab 福岡に導入することを決めたときから、草ストローを使った後にごみとして廃棄することは考えていませんでした。何とかして循環するモデル、ないしは2次利用して活用できるモデルを模索していました。そのための方法を部署内で考える中で出てきたアイデアが、動物のエサとして食べてもらうことだったんです。動物園と協業できないかということで、福岡市動物園にご提案しました。
ー最初はエサとして動物たちに食べてもらう想定だったのですね。そこからペンギンの巣材に話が進んだのはどういった経緯だったのですか?
古賀有沙(以下、古賀):最初は、使った後に消毒・乾燥した草ストローを動物園に持っていって、試験的に動物たちに食べてもらう期間を設けました。食べてくれることには食べてくれるのですが、飼育員さんから消化の面で心配な部分があるという意見がありました。動物園での活用は難しいのかなと思ったのですが、草ストローがペンギンが巣材に使っているものと似ているというお話をいただき、現在の形に至りました。これまで動物園では『よしず』と呼ばれる、簾に使われるような素材を使っていたそうです。ペンギンは、抱卵の時期に巣を新しくするそうで、ペンギン自らよしずを巣に運んでその上で卵を温めるようです。
2022年3月30日に贈呈式があり、初めて福岡市動物園に草ストロー約390本をお渡ししました。まずは空きの巣穴に入れてもらい、徐々にペンギンが慣れるようにしました。今は自分の巣穴に草ストローを運び入れて使っているペンギンもいるようです。今後も定期的に草ストローをお渡ししていきます。
ペンギンが自分の巣穴に草ストローを入れて使っている様子 撮影:福岡市動物園
―オーレックとして、こういった循環を生み出す意図は何かあるのでしょうか?
佐々木:会社にとって何か利点があるというよりは、社会的な意味が大きいと思っています。これまで使っていたプラスチック製ストローから草ストローに変更し、使用済みのストローを2次利用することでごみの量を削減することに貢献できます。草ストローは「草と共に生きる」という私たちのブランドコンセプトとも親和性が高く、お客様にも受け入れてもらいやすいのかなと考えています。あとは、私たちのカフェで草ストローを知ることでHAYAMIさんへの購入に繋がったり、さらにはベトナムの農家さんの雇用創出などにも貢献できたりすると思っています。
―販売先によるこうした活用例を、HAYMAIではどのように捉えているのでしょうか?
夏斗:私たちとしても、ストローをただ販売するだけでなく、使用後まで考えていこうというのをずっと目標にしてきました。今回オーレックさんから活用についてご提案いただいて、一歩目標に近づいたと思っていますし、商品を買っていただくだけでなく循環を作り出すところまで考えてくださるのは大変ありがたいことです。最近はサーキュラーエコノミーなども話題になっていますが、社会的意義が大きいのかなと思います。
迅太:農業機械のメーカーと動物園と草ストローの会社って、一見すると関係のなさそうな組み合わせですが、全く異なる3者がひとつの目標に向かって一緒に動いているというのは、循環経済を作るとかプラスチックごみを削減するという面から社会的意義があると思います。コミュニティができると、そこから新たな取り組みにも繋がると思うので、そういった観点からも地球規模の問題解決に良い影響があるのではないでしょうか。
今回、オーレックさんからのご提案で動物園での活用事例ができて、他の動物園からもお声がけをいただいています。良い事例を横展開して、循環の仕組みを全国に広げていきたいです。
サボテンレザーを使った財布の販売を開始
―HAYAMIではサボテンレザーを使用したアパレルブランドもスタートされています。そちらの事業概要を教えてください。
迅太:メキシコのベンチャー企業が製造している、サボテンレザーを使った財布ブランド『Re:nne(リンネ)』を始めました。サボテンレザーを輸入して、日本の職人さんに加工していただき販売しています。
―草ストローの製造・販売を進めてきた中、アパレル領域に進出したのにはどういった背景があったのでしょうか?
迅太:私自身、環境問題に対する関心が昔からあって、色々と活動していく中でアパレル業界の環境負荷に課題を感じていました。この領域で何かできないかなと考えていたのが1つ目のきっかけです。もう1つは、私も夏斗もスペイン語を勉強していて、メキシコが好きだという点がありました。
世の中ではエシカルやサステナブルという文脈の商品がたくさん出てきています。一方で、エシカルやサステナブルにフォーカスが当たっており、デザインや機能性があまり良くないものもあります。そういった商品を広く一般の方が購入するのか、また使い続けることができるのかという疑問がありました。いわゆるZ世代のような若者でも日常に取り入れられるような製品を作ることが大事なのかなと思っていたので、価格を抑えながらシンプルなデザイン性と機能性のバランスを取った財布を作りました。HAYAMIとしては、日本におけるエシカルやサステナブルの選択肢を増やしていくことを目標の1つにしているので、その第一歩という感じです。
―最近は様々な代替レザーが登場していますが、サボテンを選んだのはどうしてですか?
迅太:メキシコが好きで、探しているときに見つけたというのもありますが、サボテンが育つ過程がとても環境に優しいなと思ったんです。サボテンは成長にほとんど水を必要としませんし、過酷な状況でも育ちます。メキシコでは栽培されているところもありますし、自生しているところもあります。過剰に生えてしまっているところもあるので、それらを使ってレザーを作っているところにも魅力を感じました。Re:nneの財布に使っているレザーはノバルサボテンという種類のものですが、これはメキシコでよく食されているという面白い特徴もあります。
撮影:合同会社HAYAMI
―サボテンレザーを輸入して、財布の製造は日本で行われていますね。
迅太:インターネットで20社くらい探して、サボテンレザーに対応できるかどうかやコストを見て委託先を選びました。職人さんたちがこれまで扱ってきた動物性のレザーとサボテンレザーでは、質感や処理の仕方が異なるので、断られてしまったところもありました。それでも、「これまでは動物性の革製品を扱ってきたけれどこれからは新しい素材にも挑戦していかなければいけないよね」という意識を持たれているところもあって、快く対応してくださったのでそちらと一緒に進めています。革製品も動物性ではないものが注目され始めて、従来通りではいけないという危機感を持たれている職人さんもいます。日本の革職人の伝統技術をきちんと残しながら、新しいものに生かしていける形を作っています。
―商品開発におけるこだわりや、難しかった点を伺いたいです。
迅太:サボテンレザー自体の質感などにすごく特徴があるので、思うように加工できないという難しさがありました。デザインはデザイナーに依頼して決めましたが、革の特徴を知っているわけではないので、デザインと加工にどうしてもギャップが生まれてしまう。そこをクリアしていくのは大変でしたが、職人さんのおかげで、デザイン性と機能性を保った商品が完成しました。
―どういった方が購入されていますか?
迅太:代替レザーやヴィーガンレザーといった、エシカルな財布を探している方にInstagramやGoogle検索で知っていただくことが多いです。エシカル商品はデザインが奇抜なものも多く、Re:nneはエシカルだけどシンプルで使いやすいというお声をいただいています。世代やバックグラウンドに関係なく使っていただいていますね。実際の購入は20代から30代の方が多い印象です。また、色々なシチュエーションで使っていただける財布をコンセプトにしています。例えば30代の女性ですと、お子さんと出かけることもあれば旦那さんと出かけることもある。また、社会人として会社で財布を使うこともある。そういった社会的なロールをたくさん持っている方に、どんな場面でも使いやすいと言っていただいています。
―草ストローとは大きく異なる商品ですが、草ストローの事業が生きているなと感じるところはありますか?
迅太:2つあります。1つ目は、パートナー企業の探し方です。経営を考えるともちろん安いところがいいですが、少し費用が高くても私たちの目指す社会やコンセプトに共感してくれるかどうかは結構大事でした。長期的な関係構築だったり、スムーズなやり取りを考えると、お互いに理解している会社の方が良いのだと思います。2つ目は伝え方です。どんなメッセージをどんな人に伝えたいのか。草ストローの事業で、色々なメディアに取材していただいて、的確な人に的確なメッセージを届けることを意識するようになりました。その経験がRe:nneでも生きていて、広告費などは一切かけなくてもインバウンドで注文が入ってくる形を構築できています。
撮影:合同会社HAYAMI
それぞれの会社ができること、循環社会の構築
―最後に、HAYAMIとオーレックそれぞれが今後注力していきたいことを教えてください。
佐々木:green lab 福岡として今回の草ストロー導入はSDGsの実現に向けた最初の1歩だと思っています。ストローだけでなくカップや蓋など、カフェで使用している資材を見直して、社会全体への貢献を進めていきたいです。
夏斗:草ストローをもっと普及させていくことに加えて、循環サイクルの構築に取り組みたいと思っています。今回のオーレックさんの事例を話したところ、馬術部の友人から「馬の敷き藁などにも使えるのではないか」とコメントを貰いました。今後、ストローだけに留まらない活用がもっと増えていくと思います。また、輸送コストなどを考えると、やはり地域内で循環させることが大切です。そのためには、導入店舗を増やしていく必要があるので、500店舗、1000店舗と増やしていけるように活動していきます。
左上:古賀さん、左下:佐々木さん、右上:迅太さん、右下:夏斗さん
HAYAMI 草ストロー https://www.hayamigrassstraw.com/
Re:nne https://rennetokyo.thebase.in/about
株式会社オーレック https://www.orec-jp.com/
OREC green lab 福岡 https://www.orec-jp.com/greenlab-fukuoka/
interviewer
張沙英
餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。
writer
細川ひかり
生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。
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