LES WORLD、コロナ禍で国内事業を展開。子どもたちとの約束を果たすまで
インタビュー

LES WORLD、コロナ禍で国内事業を展開。子どもたちとの約束を果たすまで

2022-03-19
#教育 #国際協力 #カルチャー

世界中の孤児院やスラムを訪れ、共にミュージカルを作るエンターテイメント集団LES WORLD。コロナ禍で海外での活動が制限されたため、国内事業に舵を切った。LES WORLD代表の志藤大地に国内での活動へのこだわりや、海外の子どもたちへの想いを聞いた。

【プロフィール】志藤 大地(しどう だいち)
NPO法人LES WORLD代表。旅するエンターテイメント集団。「国際共創」を掲げ、世界中の孤児院やスラム街を回って子どもたちと一緒にミュージカルをつくるワークショップを届けている。日本国内では、無人島100FES、表現教育プロジェクトSHOW-TIMEなどのイベントを開催。

志藤さんの過去インタビュー記事はこちら:世界中の子どもたちとミュージカルを共創する。本気で楽しむ、エンターテイメント集団とは

コロナ禍で資金が枯渇

—前回のインタビューでは海外ワークショップについて伺いましたが、コロナ禍ではどのような影響があったのでしょうか?

僕たちは新型コロナウイルスが流行し始める直前まで、ペルーでワークショップをしていました。2チームのうち1チームは空港がロックダウンされる前になんとか緊急帰国できたのですが、もう1チームはペルーから出国できなかったんです。ワークショップも中止になって、しばらくペルーに滞在することになってしまいました。ロックダウンの期間は当初2週間と言われていたのですが延び続け、そろそろ帰国しないとまずいことになるような切羽詰まった状況になってきて。通常の航空券の10〜15倍の値段を支払って臨時チャーター便を使い、なんとか無事に帰国することができました。この交通費と、ワークショップの中止による参加者への全額返金によって、僕たちはあえなく資金が底をついてしまったんですね。これがコロナ禍が始まった2020年4月ごろでした。

僕たちは海外ワークショップがメインの活動だったので、その後も海外に行けずやることもないし、キャッシュアウトしたから給料もないという状況。コロナ禍が終わるまで待つという選択肢もありましたが、メンバーで話し合い、国内への事業に舵を切ることに決めました。さらに、LES WORLDのワークショップはその場の空気の影響が非常に大きいので、オンラインでは同じ感動を届けるのが難しいとも思いました。それで、世間から反対されるだろうし人も集まらないかもしれないけど、コロナ禍でもオフラインで活動を続けようということになったんです。

 

無人島にて100人で作るミュージックビデオ

—国内で実施された、無人島100 FESについて教えてください。

「人生最後の日」をテーマに、無人島にて3泊4日で実施したワークショップです。参加者には、3泊4日を通して、人生最後の日に向き合ってもらいます。例えば、人生最後の日にたった1通だけ誰か1人に手紙を出すことを想像して実際に手紙を書くワークショップや、人生最後の日に自分の魂が身体から離れていくときにかける言葉を叫ぶワークショップなどを実施します。加えて、LES WORLDと親睦の深い『幸あれ』というバンドの『人生最後の日』という曲をテーマに、歌、ダンス、アート作品を作っていきます。最終日には、『人生最後の日』を全員で1つの作品として作り上げる5分間の本番を迎えるという流れになっています。これまで、2020年と2021年の夏に2回開催しました。

 

—この企画はどのように作っていったのですか?

最初に、無人島に大勢の人が集まって『人生最後の日』を歌っているというビジョンが僕の中に浮かんだんですよね。そこから、このビジョンを実現するにはどうしたらいいかを考えて、ワークショップのコンテンツを作っていきました。LES WORLDのワークショップは基本的に僕が1人で作っています。他のメンバー2人も当日までコンテンツを知らなくて、本番は空気を読みながら音響や照明をやってくれています(笑)。

 

—ワークショップを全て1人で考えられているのには何か意図があるんですか?

僕はワークショップデザイナーとしてずっと活動しているんですが、ワークショップは1つのアート作品だと思っています。そのアート作品としてのワークショップの世界観をすごく大事にしたいんですよね。だから、みんなで話し合って最大公約数的に良いものを作るのではなく、誰かの尖った世界観を最大限表現して、そこにみんなに来てもらうということを意識しています。

 

—100FESはどのような参加者が多いのでしょうか?

大学1〜3年生がメインですね。今回やってみて面白かったのは、本当は海外留学に行くはずだった、世界一周に行くはずだったけど、コロナ禍で行けなくなってしまったという人がすごく多かったことです。学外で何かアクティブに活動していたり新しい刺激を求めていたりする人がたくさん参加してくれました。

 

—どのように集客されたのですか?

全体で80人くらいの参加者がいましたが、30〜40%がInstagramなどのSNS経由で知ってくれて、それ以外は口コミで参加してくれました。1年目に実施した時に、最終日に「こんな素敵な空間に友達を呼んで来なかったことをすごく後悔している」って言って泣いている子がいて。2年目はその子が友達5〜6人連れてきてくれました(笑)。そんな感じで口コミで参加してくれる人が多いです。

 

自分を表現することの面白さを伝えたい

—国内で実施しているもう1つのプロジェクト、表現教育プロジェクトSHOW-TIMEについても教えてください。

小学生から社会人まで年齢に関係なく参加できて、ミュージカルなど1つの作品をみんなで作り上げていく3ヶ月間のワークショップです。SHOW-TIMEは、表現教育の習い事教室を作りたいという想いから始まりました。日本人って自分を表現することが苦手な人が多いなと思っていて。歌やダンス、アートを通して、もっと自分を表現することの面白さを伝えたいと思ったんですよね。また、小学生から社会人までいろんな年齢の人が参加する中で、年齢関係なくフラットな関係を作ることも目指しています。普段あまり関わることのない人たちがステージの上で同じ立ち位置になることで、お互いから学び合うことがたくさんあるんじゃないかなと思います。

—こちらも志藤さんが1人でコンテンツを作っているんですか?

SHOW-TIMEは、LES WORLDのキャストの中から一緒に表現教育を作りたい人を募集して、集まったメンバーで作っています。100FESはLES WORLDの世界観をすごく重視しているんですが、SHOW-TIMEはもっと日本全国に広げていきたいと思っているので、みんなで作り上げることを意識しています。

 

—参加される方も100FESとは違うんでしょうか?

100FESでは誰かの知り合いというような参加者が多いのに対して、SHOW-TIMEの参加者は、僕たちとの元々の繋がりが全くないような人が多いんですよね。SNSなどをたまたま見つけて参加してくれる人が多いようですが、やっぱり小・中学生の参加者を増やすには親御さんにアプローチしないといけないので、まだまだノウハウがなくて苦戦中です。でも、参加してくれた小学生の親御さんが校長先生を紹介してくれたり、学校でチラシを配ってくれたりと、すごく助けてくださっていてありがたいです。

 

—3ヶ月間で具体的にはどのようなワークショップをされたのですか?

僕らがよくやっていたのは、ダンスや歌に意味をつけるワークショップです。例えば、リリカルダンスというワークショップがあります。「ダンス踊って」と言われると困るけど、「遠くにある自分が欲しいものをつかむようなふりをして」と言われると動けるじゃないですか。こんな風に1つ1つの動きに意味をつけて、それを繋げていくことでダンスが完成するんですね。歌も同じように、「目の前に困っている人がいるから伝えるように歌う」など、意味をつけることで表現が広がります。このワークショップでは、ダンスや歌が恥ずかしくて出来ないという人も気づいたらできるようになっていたという変化が見られました。

 

—SHOW-TIME参加者の印象的だったエピソードはありますか?

特に小学生は変化が大きくて面白いんですよね。例えば、参加者の中に小学2年生の女の子がいました。僕たちは小学生も社会人もフラットに扱うので、円になって感想を共有するみたいな時も、みんなに感想を言ってもらうんですね。最初その子は全然感想が言えなくて、ずっと固まっているという感じだったんですよ。でも3ヶ月間終えたころには、たくさん感想を言えるようになっていて。たった3ヶ月間でも特に小学生はすごく成長するなと感じました。最初は全然喋れなかった子が最後にはみんなの前で歌えるようになったり、棒読みだったセリフも心を込めて言えるようになったり。ステージの上でもそれ以外でも大きな変化があって面白いなと思います。

 

—他にも参加者が年齢関係なくフラットに関わるための工夫があれば教えてください。

兄妹制度という仕組みを作り、年齢の違う2人がペアになって話したり一緒に練習したりするという時間を多く取っています。また、「SHOW-TIMEの場では年齢は関係ない」というメッセージを何度も伝えるようにしています。

 

—3月には3日間の『SHOW-TIME』を開催されるんですよね。

表現教育のワークショップを2泊3日に詰め込みました。今回は、LES WORLDのメンバーであなごんというミュージシャンの『龍と紅茶』という曲に合わせて、みんなでミュージックビデオを作ります。表現のワークショップや自己内省のワークショップに加えて、歌、ダンス、演技の練習など盛りだくさんです。LES WORLDのワークショップの良さは参加したら絶対にわかってもらえると思うんですが、参加するハードルが高いっていう声もあって。今回3日間で開催することで、とにかく多くの人に来て欲しいという想いで企画しました。

 

海外の子どもたちとの再会を願って

—国内でのワークショップ開催に注力される中で、何か新たな発見はありましたか?

正直、言葉が通じるのは楽だなと思いました(笑)。海外でワークショップをやると細かいニュアンスを伝えるのが難しいんですよね。日本語だったらワークショップのクオリティをいくらでも高められるなと感じています。同時に、この日本での経験をどのように海外ワークショップに活かし、海外の孤児院の子たちにも同じ体験をしてもらえるようにするのかということは常に考え続けています。これまでは、ワークショップに決まった型はなくて孤児院ごとに作っていたのですが、今後はもう少しマニュアル化もしていきたいと思っています。この2年間の経験ですでにこれは海外でも使えそう、使えなさそうという気づきがたくさん出てきているので、それらをマニュアルに落とし込み、マニュアルと個別化をバランスよくやっていきたいと考えています。

 

—コロナ禍で大変な想いをされながらも、活動を続けられている原動力は何ですか?

LES WORLDは、「いつか孤児院やスラムの子たちと一緒に世界的なパフォーマンス集団を作りたい」という夢に向かって活動しています。だから、今まで出会った子どもたちとは1回きりの関係ではなく、これからも一緒に共創していきたいと思っています。僕たちは毎回ワークショップが終わったら「また来年ね」って言って帰るんですよ。この子どもたちとの約束を嘘にしないために、また海外に行けることになったときに「遅くなったけどまた戻ってきたよ」と子どもたちに言えるように、そこまで生き残ろうという想いが1番強かったですね。

僕たちは昨年LES WORLDファンドを立ち上げました。僕たちが国内でやっている全てのイベントの利益の10%をファンドに寄付し、これまでワークショップを開催した孤児院やスラムに寄付しています。現地にいけない期間にも、子どもたちと繋がり続けているし、絶対にまた行くからねという想いがこもったファンドです。

海外ワークショップにて

—個人の活動にも変化はありましたか?

僕は、もう1つ会社を始めてファシリテーターの養成講座を運営したり、劇団を作ったりといろんなプロジェクトを立ち上げて活動しています。他の2人のメンバーも、個人の活動を頑張っています。アーティストのかずは画家としての活動を頑張っていて、東京やロンドンで絵の展示会や個展を開催しています。そして、ミュージシャンのあなごんは、いろんなライブに参加したりワンマンライブを開催したりもしています。LES WORLDの活動をしていない時は、個人の活動に力を入れるようにしていて。個人の活動を応援してくれる人が増えると、その人たちがLES WORLDも応援してくれるようになるし、その逆もあるので、個人にとってもLES WORLDにとっても良い循環が生まれています。

 

—今後の事業展開を教えてください。

まずは、SHOW-TIMEを日本全国に広げていきたいと思っています。そして国内での新たなイベントとして、無人島 100FESの対になるイベント国創りFESを作りました。『人生最初の日』をテーマに、3泊4日で自分たちの国を創るというイベントです。こちらは第1回を5月に開催予定です。

あとは、とにかく海外ワークショップが再開できることを祈りつつ、海外の子どもたちを日本に招待する企画もいつかやりたいと思っているので、コロナ禍が終わったら海外での活動にまた舵を切っていきたいです。

 

NPO法人LES WORLD https://lesworld.org/

 

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    interviewer

    掛川悠矢

    記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

     

    writer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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