世界中の子どもたちとミュージカルを共創する。本気で楽しむ、エンターテイメント集団とは
支援ではなく、共創を掲げ、世界中の子どもたちと一緒にミュージカルを作っている志藤大地。本気で楽しみ、夢を追い続ける彼に、フラットに子どもたちと触れ合う姿勢や、これから成し遂げたい大きな夢について聞いた。
【プロフィール】志藤 大地(しどう だいち)
NPO法人LES WORLD代表。旅するエンターテイメント集団。「国際共創」を掲げ、世界中の孤児院やスラム街を回って子どもたちと一緒にミュージカルをつくるワークショップを届けている。
もくじ
世界中にワークショップを届ける
—これまでの活動実績を教えてください。
団体としては3年、NPO法人としては1年半活動してきました。これまで訪れた国は6カ国(フィリピン、カンボジア、モザンビーク、ネパール、インド、ペルー)です。登録しているキャストは300人くらいで、ワークショップを届けてきた子どもたちは600人くらいになります。国外では主に孤児院やスラム街の子どもたちに、国内では障害のある子どもたちにワークショップを届けてきました。
1回の滞在は1〜2週間と短いですが、毎年同じ孤児院を訪れ、継続的に交流しています。
—海外だけでなく、国内でも活動されているのですね。
僕たちの活動はそもそも国内から始まったんです。3年前に僕たちが「エンターテイメント集団つくりました!」って告知したら、知り合いに「じゃあうちでワークショップしてください。」と依頼を受けたのがきっかけです。
最初の1年間は国内で障害のある子どもたちの施設5、6箇所でワークショップを行いました。その後クラウドファンディングで資金を集め、フィリピンの孤児院にも行きました。しかし、活動する中で「これ、ワークショップ届ければ届けるほどめちゃくちゃ貧乏になるやん!」って気づいたんです(笑)。お金なさすぎていつも水道水持って代々木公園のベンチでミーティングしていました(笑)。
もともとLES WORLDの活動とは別で事業を作り、得た資金を使って活動しようと考えていました。「これでいこう」と決めていた事業があったのですが、当時の恩師に「それは成功確度低そうだね。どうせ失敗するなら好きなことで失敗した方がいいんじゃない?」と言われ、LES WORLD一本に絞ることを決めました。そこから改めてどうしていくか考えていたときに、海外でワークショップをしていこうと思い立ち、それがきっかけで法人化に至りました。
年齢や人種の壁を越え、どこまでもフラットに
—言葉が通じない中で、どのように子どもたちと関係性を作っていくのでしょうか?
僕らはミュージカルを届けるのではなく、ゼロから子どもたちと一緒にミュージカルを作っていくということを大切にしています。ただ教えるのではなく、一緒に台本や歌詞を考えたり、振り付けを考えたりするところからやっています。子どもたちは最初は現地の言葉で話しかけてくるのですが、僕たちが「わかんないなあ」っていう顔をしていると徐々に子どもたちも「あ、この人たちわからへんねや」って気づき始めるんです。そのうちジェスチャーとかを駆使してなんやかんや意思疎通できるようになるんですよね。
最初にめっちゃ仲良くなることが大事で、仲良くなればあとはもうなんとかなります(笑)。最初から「ワークショップやりに来たぞ」と切り出すのではなく、「なんか面白い遊びしよう!」と。遊ぶなら本気で遊んだ方がいいし、より凝った内容で遊んだ方が楽しいから、一緒にミュージカルを作るという遊びを届けるという感じです。
—子どもたちの中には歌やダンスをしたくないという子もいるのではないでしょうか?
普通にいますよ。日本の学童や小学校に遊びに行った時と反応は同じで、やりたくないっていう子もいるし、すごい才能を持っているような子もいます。例えば、人前でダンスや歌をやりたくないっていう子には撮影班や大道具・小道具班に入ってもらうなど、何かしら全員が関わって楽しめるように工夫しています。
—参加前後で子どもたちにはどのような変化があるのでしょうか?
確かに変化は存在していますが、僕たちは何かを変えたいと思って活動しているわけではないんです。
LES WORLDは「問題解決を目的としないNPO」です。社会起業家というと、課題があってその解決策がビジネスになるというのが一般的だと思います。最初は僕たちも子どもたちの自己肯定感が低いのが問題だと思い、孤児院を回っていたのですが、「あれ?日本人の大学生の方が自己肯定感低いぞ?」と気づいて、そもそも彼らに問題なんて存在しないのでは、という結論に至ったんです。そこからは考え方が変わり、今は「信じている世界があって、それを広げていく手段としてLES WORLDがある」という方程式を持っています。僕らは「生まれたからにはその人には役割があり、その人が輝くステージが人生に存在するはずだから一緒に探していこう」というのがコンセプトで、支援活動とも言わないんですよね。「国際共創」と呼んでいるのですが、子どもたちと同じ目線でミュージカルを作るということを大事にしています。
—今までで一番「団体を立ち上げてよかった」と思った瞬間はいつですか?
ネパールの孤児院でワークショップをしたときに、チェテンという子とすごく仲良くなったんです。最後の日に子どもたちがサプライズで日本の歌を歌ってくれて。そのときにチェテンが泣きすぎて、涙がこぼれないように上を向きながら歌っている姿を見て、僕も号泣して。「また絶対帰ってくるからね」とハグして約束したときに、人種や年齢、言葉の壁とか全部とっぱらって繋がっているという感覚を味わいました。こういう瞬間に「この活動をしていてよかったな」と思いますね。
キャストが変わるから子どもたちも変わる
—海外でのワークショップはキャストの方々にとっても大きな経験になるのではないでしょうか?
僕らの活動はキャストのためにある部分もすごく大きいです。いきなり地球の裏側に現地集合・現地解散って感じなので、初めて海外に行くキャストにとってはとても大きな挑戦になると思います。
現地ではキャストそれぞれがワークショップをやるのですが、ワークショップによって子供たちの変化には差があって。その一番大きな要因はキャストの変化率なんです。キャストが変わっていくから子どもたちも変わっていくんです。
以前、すごく無口なキャストがいたんですが、子どもたちの中にもあまり喋らない子はいて、そのキャストとその子はすごく仲良くなったんですよね。そうしたら移動中にその子がそのキャストに「実は孤児院のみんなにもオーナーさんにも言えてないんだけど、私はなんでかわからないけどトイレにこもって泣いてしまうことがあるんだよね。これってなんでなんだろう。」と心の内を話してくれた瞬間があって。僕たちが「誰もが輝けるステージがある」と掲げているように、子どもたちだけでなく、キャストも全員輝けるような場になっていると思います。
支援ではなく、共創を
—志藤さんにとっての理想の「国際共創」はどのようなものですか?
まずこの考えに至ったのがモザンビークに行った時でした。子どもたちが鉄くずを集めてお金にしているようなすごく貧しいスラム街でワークショップをしました。滞在期間中、僕らの余ったペットボトルとかを、子どもたちが喜ぶのであげていたんですよね。1週間くらいたった時に、ある男の子が「あいつはテントくれるって言ったけど、大地はなにもくれないから友達じゃない。」って言い始めたんですよ。その時に、何かをあげるような支援を続けていくともらえることが当たり前になって、自分で何かを作って掴み取るという気持ちがだんだん削ぎ落とされていくんだということに気づき、ハッとしました。僕らの理想は年齢や肌の色など一切関係なく、どこまでもフラットな関係であることです。届ける側、届けられる側の境界をなくし、友達に会いにいくような感じで子どもたちに会いに行き、一緒に楽しい時間を過ごして、「大きくなったらまた一緒になんかしようぜ」という関係性が一番理想だなって思います。
でも、実際活動しているときは、自分たちのあり方が合っているか間違っているかとか、理想に近づいているのかっていうことには全然興味がなくて、子どもたちと一緒にいかに楽しいワークショップを作れるかということしか考えてないですね。
本物のエンターテイメント集団を目指して
—今後LES WORLDが挑戦していきたいことはなんですか?
今は僕たちが世界中を回っていますが、次は世界中の子どもたちを日本に招待して、一緒に一つのミュージカルを作るということをやりたいと考えています。これは実現に向けて少しずつ動き始めているところです。
そして僕たちはLES WORLDで「夢を追う」ことを決めています。その夢とは、今までワークショップを届けてきた子どもたちが大きくなったら、世界を回るようなパフォーマンス集団をみんなで一緒に作ることです。シルク・ドゥ・ソレイユという世界的なサーカス集団が倒産しかけていることを初めとして、新型コロナウイルスの影響を受けて世界から本物のエンターテイメントが消えていっていることを感じます。また、僕らは今クオリティを追うようなワークショップはしていなくて、子どもたちと一緒に作るということに重きを置いています。しかしエンターテイメントに関わっている者ならば最終的にクオリティの高い本物の作品を作りたいと思っていて、それを今まで僕らが出会ってきた子どもたちと一緒に成し遂げたいですね。
僕たちは「人生の大逆転劇」を見たいんです。孤児院やスラム街出身の子どもたちが何千人もの前でパフォーマンスをして大歓声を浴びる。いつかその景色を見るためにこれからも挑戦し続けていきます。
NPO法人LES WORLD https://lesworld.org/
interviewer
河嶋可歩
インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。
writer
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。