【久保直生×中村多伽】talikiファンド投資先Kazamidoriと語る。事業性と社会性の両方を追い求める経営とは

talikiファンドは2021年7月に、子育て家庭のゆとりを作る食をプロデュースする株式会社Kazamidoriに出資を行なった。Kazamidori代表の久保直生は創業から3年間、会社の成長と同時に社会をどうしたら良くできるかを考え続けてきたと言う。そんな彼を迎え、taliki代表の中村とともに、事業作りや組織の3年間の変化について聞いた。

【プロフィール】
・久保 直生(くぼ なお)写真、左。撮影:kaito ono
株式会社Kazamidori代表。「生まれた環境に関わらず、全ての子どもたちが人生の手綱を握れるような社会を作りたい」という想いで、2018年に起業。子どもの1番近くにいる親の精神的・時間的なゆとりを作るべく、食の分野で課題解決に挑む。離乳食ブランド「土と根」、産後のお母さん向けハーブティーブランド「Soyonoma」、子どもがいる家庭向けの宅食事業「ごはんじかん」を運営している。

 

株式会社Kazamidori代表・久保直生さんの記事はこちら:子育ての罪悪感に立ち向かう。非当事者としての商品開発のこだわり

 

・中村 多伽(なかむら たか)写真、右。撮影:岡安いつ美
2017年に京都で起業家を支援する仕組みを作るため、talikiを立ち上げる。創業当時から実施している、U30の社会課題を解決する事業の立ち上げ支援を行うプログラム提供に止まらず、現在は上場企業のオープンイノベーション案件や、地域の金融機関やベンチャーキャピタルと連携して起業家に対する出資のサポートも行なっている。

 

 株式会社taliki代表取締役・中村のインタビュー記事はこちら:経済的成功はgiveの精神から【前編】

親御さんのゆとりを作る、『ごはんじかん』

中村多伽(以下、タカ):前回のインタビュー(2020年5月)から1年。どんなことに取り組んできたの?

久保直生(以下、久保):創業時から、離乳食はそこまで長い期間使ってもらえるものではないと思っていたから、離乳食以降の展開を考えながら事業を進めてきました。その中で、子どもが幼児期から小中学生くらいになるまでの食事のサポートは、既存の離乳食事業と相性が良いと思って、宅食の事業構想を始めて。それで、子育てをしているご家庭向けの宅食サービスに『ごはんじかん』をリリースしました。

タカ:『ごはんじかん』についてもう少し詳しく教えてください。

久保:国産の有機野菜を中心に使用し、化学調味料は一切使わずに調理した食事を、子育て中のご家庭に届けています。特に働きながら子育てをしているご家庭にとって、何を食べるか・食べさせるか考えたり食事を作ったりすることは、時間的にも精神的にも負担が大きい。また、子どもに手作りじゃないものを食べさせることに罪悪感を感じてしまうという親御さんもいて。この課題を解決し、親御さんの時間的・精神的なゆとりを生み出すことで、子どもに向き合う時間が増え、その結果子どもの発育に良い影響を与えられるのではないかと考えています。

タカ:どんなメニューがあるの?

久保:毎週メニュー開発をしているから、ラインナップは毎週変わるんだけど、主菜と副菜合わせて3~5品提供しています。食事だけじゃなくて、栄養成分表なども含めたメニュー表も同梱していて。僕は食を通じたコミュニケーションは重要だと思っているんだよね。こだわりを持って作られたものを食べる、良い食事をとることは自己愛につながるはず。だから、『ごはんじかん』では使っている野菜や調味料について丁寧に説明するなど、興味を持ってもらえたり新しいことを学んでもらえたりするようなメニュー表を届けることを心がけています。

タカ:親御さんが学んだことを子どもに伝えることで、食卓でのコミュニケーションも生まれそうだね。

 

ユーザーの解像度が上がったからできる、取捨選択

タカ:2018年にKazamidori設立してからもう3年が経つんだね!創業時と今で事業作りの意思決定に変化はありますか?

久保ビジョンが組織の中に浸透してきたことで、社内でのコミュニケーションはかなり事業性に寄ってきたことは変化かな。ビジョンに共感した人が集まっているので、あえてそこについて語らなくても前提にビジョンがある上で、売り上げなど事業性に寄った意思決定が下せるようになってきたんだと思う。

タカ:それは組織として視座が変わったとも言えるのかなと思ったんだけど、なんでそういう変化が起きたの?

久保僕らが”株式会社”を選び、ビジネスで社会課題解決に取り組んでいることの意義は、会社を大きくすることで影響範囲を広げることだと思っていて。創業時は事業性よりも社会性を意識した議論が多かったし、事業性と社会性の両立に苦しんだこともあったけど、今感じるのは、会社を大きくすることで社会に還元できることもすごく多いってこと。

タカ:なるほど。ビジョンを達成する道筋に、会社を大きくするということが手段として必須だっていうイメージかな。とはいえ、経済性を追い求めることと、良いものを届けることのギャップに悩む起業家も多そうだよね。

久保:それは僕らも悩むことは多いかな。でも、”どこを攻めてどこを引くか”みたいな細かい優先順位がつけられるようになってきたと思う。ユーザーの解像度が上がったことによって、親御さんがどこまで求めているのか、親御さんにとっての”安心・安全”には何が含まれるのかっていうことをきちんと議論できるようになってきたんだよね。素材や調味料などを選ぶ際にもただ闇雲に高級品を原料にする意思決定をしてしまうと、原価率はどんどん上がってしまう。親御さんにとっての”安心・安全”という絶対的なラインを守った上で、やるべきこと、やらなくてもいいことの線引きが明確になってきたんじゃないかな。

タカ:なるほど。ユーザーの解像度が上がったからこそ、エコノミクスの改善が効果的にできるようになったっていうことだよね。

久保:原価率が上がると価格も上がってユーザーにとって良くないし、僕らにとっても継続性が低くなってしまう。今は影響範囲を大きくしていくことが優先的なので、親御さんの価値観は多様だけど、その中でも多くの家庭に共通して受け入れられている価値観や共通している不安を確実に押さえるということを意識できるようになってきたな。

撮影:kaito ono

 

ユーザーのプレッシャーになることはやらない

タカ:逆に事業作りにおいて創業時から変わらないことはある?

久保:大前提として、ユーザーさんのプレッシャーにならないことをやりたいという想いは変わらないかな。

タカ:「ユーザーのプレッシャーにならない」っていうのはどういう感覚?

久保:僕らが例えば、「もっと良い食事をとりましょう」とか「栄養のある食事を子どもに提供しましょう」みたいなことを言い始めると、それって親御さんのプレッシャーになってしまうんだよね。親御さんのゆとりを作りたいって言ってるのに、ゆとりを阻害しちゃうことになる。

タカ:面白いね。プレッシャーがないことでユーザーを幸せにするっていう感じだよね。

久保: そう。僕らが目指す社会はって、子育てにおける周りからのストレスが極力ないことだから。

タカ:なるほど。ユーザーにプレッシャーを与える、不安を煽るような広告とかって世の中にたくさんあると思うし、社会起業家でも啓蒙的になろうとする人って多いと思う。でもくぼなおは「こっちの方が良いですよ」っていう提案をするというより、「自分のこと大切にしてね」とか「家族の時間が良いものになるといいよね」みたいな、セーフティーネットのようなスタンスだなって思った。

久保:その通りで、生き方とか価値観の提示はあまりしたくないんだよね。

タカ:それは創業時から決めてたの?

久保:そうだね。創業時にメンバーみんなと合致していたのが、「子どもたちってこうなったら幸せだよね」とか、「こういう子育て実現したら幸せだよね」みたいに、子育てにおける幸せを僕らが定義するのっておこがましいんじゃないかっていうことだったんだよね。僕らができるのは選択肢を増やすくらいのことで、「これで絶対に子どもたちが幸せになります」みたいなところに責任を持つのはやめようって決めてて。「こういう子育てが正しい」という提案が増えれば増えるほど親御さんにプレッシャーがかかる。だから僕らは親御さんのゆとりを作るということにだけ絞って、ゆとりが生まれたとしても「子どもにこういうことをしてあげましょう」とか、「夫婦はこんな触れ合い方をしましょう」とかそういう言及をすることは絶対にしたくない。

タカ:なるほどね。私は多くの社会課題が”全体最適の歪み”だと思っているんだけど、全体最適って何かしらの正義の提案なんだよね。その正義が全体として都合が良かったというケースが多くて。つまり、正義の提案を続けていても社会課題ってなくならないなって思う。

久保:もちろん、正義を提案したり不安を煽ったりして啓蒙しないといけない社会課題もたくさんあるよね。例えば二酸化炭素を何%減らそう、こういう働き方にしよう、みたいなこととか。それは正義を提案することが、見えない”暗黙のルール”や慣習によって苦しんでいる人や状況を改善することに繋がると思うから。だから全ての社会課題解決が僕らのようなスタンスになればいいというわけではないと思ってはいるかな。だけど、子育てにおいてはより自由を奪わない、より選択肢を増やすというような応援しかできないかなと思うんだよね。

タカ:「こういう子育てが正解」とか「こういうママは失格」みたいなことに親御さんが苦しめられていること自体が社会課題だから、そのプレッシャーをなくすためのスタンスということだよね。

撮影:岡安いつ美

 

「社会を良くできているか」を常に考え続ける

タカ:ビジョンに対する向き合い方に変化はある?

久保:実は、自分たちのビジョンが3年間さほど進化してないことに悩んでいて。僕は、時代がこれだけ早く変化しているのであればそれに伴ってビジョンも変わっていくべきだと思っていて。社会起業家としては社会に対する解像度が上がっているのに、やっていること、言っていることが同じってどうなんだろうと不安になったり。

タカ:なるほどね。

久保:僕たちは創業時から「全ての人たちが人生の手綱を握れる社会をつくる」ということを掲げていて、その手段として食をやっている。でも、”食”というのが1つの手段にすぎないということに常に自覚的でありたいし、食以外にどんな方法があるのかということを理解した上で食を選んでいるという状態でありたいんだよね。

タカ:その悩みに対して何かアクションを起こしていたりするの?

久保:1つは会社で論文を書こうと思っているんだよね。僕らが今持っているユーザーさんたちのデータを使って、新しい価値観として社会に提示していきたくて。

タカ:危機感を持つきっかけが何かあったの?それとも元から感じてたの?

久保:元からずっと感じてたかな。”社会起業家”には、ユーザーに対して妥協せずどうやったら彼らを救えるのかを考え続ける姿勢が必要だと思っていて。じゃあ社会起業家として彼らを救う方法はもしかしたらいくつもあるかもしれないのに、1通りだけを信じて盲目的にやるのって正しいんだっけって思うんだよね。

タカ社会が変化していく中で、今の事業が主体的な選択になっているかという問いを常に持ち続けたいということだよね。

久保:やっぱり起業家は会社を大きくするための打ち手をずっと考えているけど、それに加えて社会起業家は、今の事業で本当に社会を変えられるかということも常に検討していかないといけないと思ってる。

タカ:本当にその通りだな。いち社会起業家としては持っているリソースも社会に対する影響力もとても大きいわけではない中で、今この瞬間も5年後10年後も1番にその課題の解決を進められているか、ということはずっと考えてないといけないなと思う。実際、「社会に良いことしてます」って言いながらサボることもできるじゃん。社会課題解決に特段コミットしない事業も作ろうと思えば作れるし、社会に良さそうな見せ方もできる。でもそこで満足してはいけないし、そのとき取れる最善の打ち手を選びつつもさらに上を目指す向上心を持ち続けることが真の課題解決に必須だよね。

久保:僕らは社会という大きな構造の中の1つのピースだという感覚が強くあって。社会起業家としての自分、会社、同じ課題解決に向けて事業をやっている他のプレイヤー。みんなで一体となって課題に立ち向かっていかないと、この大きな社会の構造右派変わっていかないという感覚がある。1つの事業だけで社会課題なんて解決するわけがないって思うな。

タカ:本当にそう思う。事業内容が他のプレイヤーと競合することはあり得るんだけど、結局そのサービスも必要とされなくなるくらい社会課題が解決されている状態が理想なわけで。だから社会起業家と議論するときに、競合にどう勝つかみたいな話もあるけれども、それ以上にマーケット全体やその課題解決をどう前進させるのかという観点が重要になってくる。ほとんどの社会起業家が個人としてその課題に対して何か感じることがあってその事業を始めているので、自分も会社もその領域と不可分なんだよね。だから、一般的なスタートアップの「このマーケットは儲からないので違う領域にピボットします」というような感覚は全くないなと思う。

 

サービスを愛して育ててくれる人と働きたい

タカ:どんな人と一緒に働きたい?

久保:今はビジョンに共感してくれていて働きたいと言ってくれる人に対しては基本的に、一緒に働く方法をたくさん話しながら探ってます。メンバーと話していて共通項として出てきたのは、共感力があるとか、ユーザーさんたちに対して目が向いているということかな。やっぱり僕らの事業は家族に対してどれだけ深く寄り添えるかが大事になるから、そういう素質は重要。

タカ:採用で苦労していることはある?

久保:組織を大きくしていくには、僕たちとは違う考え方を持っている人も採用していかないといけないと思うんだけど、そこが難しいな。

タカ:難しいよね。ビジョンに共感して働きたいって言ってくれる人たちってやっぱり似てくるし。こういうスキルを持っている人と働きたいっていうのはある?

久保:”サービスオタク”って感じの人が今1番ほしいかな。Kazamidoriのサービスに対して深い愛情を持って育ててくれるような人。

タカ:どんな経緯でそう思ったの?

久保:僕らは今3つの事業をやっているから、僕自身は経営者として全体的な視点を持つ必要があって。だから、僕とぶつかってくれるくらい各サービスを愛して育ててくれるような人にサービスを任せられたら、組織としてもっと成長していけると思うんだよね。

タカ:Kazamidoriのサービスはどれも素敵だから、そういう人いそうだけどな。ぜひみなさんにも体験してほしいです。

撮影:kaito ono

 

事業性と社会性両方の壁打ち相手として

久保:なんでKazamidoriに投資してくれたのかはぜひ聞きたい。

タカ:talikiファンドの方針として、課題に対しての解像度の高さ、事業の拡大性、やり続けることの3つを重視しているんだけど、それらに当てはまっているっていうのが大前提としてある。それに加えて、くぼなおとは昔から親交があるんだけど、たまに飲みに行ったときとかに、他人の痛みに寄り添える人なんだなと思ってたんだよね。自分が悲しかったことを話していたのに、いつの間にか誰かをかばう話になっていたりとか。だから個人的にもすごく応援したいと思っていて。あとは、なぜこの事業を今やっているのかという点においても違和感がなくて、事業性の面でも将来的に大丈夫だろうなと思ったので投資を決めました。

久保:ありがとうございます。大学1年生くらいから知り合いだから、結構長い付き合いだよね。

タカ:逆になんでtalikiファンドを選んでくれたの?

久保:社会起業家として、会社をどう大きくするかと、社会をどう前進させるかの両方を同時に考えられていることが理想で。事業の壁打ち相手も社会性の壁打ち相手もいるんだけど、両方同時に考えられる壁打ち相手がいなかったんだよね。それがけっこう寂しかった。だから事業性と社会性を一緒に考えてくれる人を探していて、メンバーとして入れようかなとも思ったんだけど、投資家サイドにそういう人がいた方が会社が良くなるだろうなと思っていて。その時にちょうどタカがファンド作るっていう話をしていて、ぜひお願いしたいなと思ったのがまず1つ。あと、起業家にとって投資家さんって少し気が引き締まる存在というか(笑)。素直に色々相談したり、精神的にも寄り添ってもらえるような投資家のパートナーがほしくて。タカとは長い付き合いだし、プライベートと仕事の話を分けてなんでも相談できるなと思ったからお願いしました。

タカ:そんな風に言ってもらえて幸せだな。私自身が起業家として社会性と事業性の板挟みに悩んだこともあったし、それでもどっちも追い求めたいって思っているから、その大切にしていることを評価してもらえているのが嬉しい。

 

タカ:最後に今後の事業展開について教えてください。

久保:まずは、子どもが生まれてから巣立っていくまで、家族の食事を支え続けられるサービスになりたいなと思っています。だから離乳食と宅食のシナジーをもっと強くしたいし、子育て中ずっと僕らの商品を使ってくれるような家族が出てきてくれたら嬉しいですね。さらに先の未来には、家族のやらないといけないことをアウトソースできるようなサービスを作りたくて。企業がタスクをアウトソースできるようなサービスはたくさんあるけど、家族もそれと同じように色んなことをアウトソースできるようになったらいいなと思っています。僕らはそこを目指して事業を多様化していきたいし、価値観としてもどんどんアウトソースしていいんだということを発信をしていきたいなって思います。

タカ:それぞれが思う”良い家族”を目指すためのツールとして、家族にとっての選択肢が増えていくといいな。

 

ごはんじかん https://gohan-jikan.jp/
Kazamidori HP https://kazamidori-lab.jp/

 

writer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。