子育ての罪悪感に立ち向かう。非当事者としての商品開発のこだわり

親御さんのストレスを減らし、子どもの健やかな成長をサポートしたい。そんな思いで株式会社Kazamidoriを立ちあげた久保直生。結婚も子育ての経験もない。非当事者だからこそできることがあると奮闘する、彼のこだわりに迫る。

【プロフィール】久保 直生(くぼ なお)

学生時代は、若者と社会の接続をテーマに、18歳選挙権の実現、オリンピック・パラリンピック、就活と様々な分野の活動に携わる。その後、アメリカ留学中にトランプ政権誕生を目の当たりにし、根本的な社会の分断を解決するために幼児教育に関わることを決める。帰国後、2018年6月に株式会社Kazamidoriを設立。現在は国産有機野菜で作る冷凍キューブの離乳食”土と根”の販売を行なっている。

 

子どものこころの成長は6歳までが重要!?

—幼児教育に関わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

学生時代は、「どうしたら若者がうまく社会と接続できるのか?」というテーマで様々な活動に携わっていました。しかし、活動の中で次第に、より根本的な社会の分断や機会格差といった課題に対してアプローチする必要性を感じ始めました。一度じっくり考える時間が欲しかったので、色々な活動をやめ、アメリカに留学することを決断しました。

 

—アメリカ留学中はどのような経験をされたのですか?

留学していたのはちょうど2016年の大統領選挙の時で、選挙期間中には集会や演説に足を運びました。その中で、トランプ支持者とヒラリー支持者が、同じアメリカ人なのに、話すこと、生まれ育った境遇、考え方などなにもかも違うことに衝撃を受けました。これは「なにをモチベーションに政治や社会に関わっているのか」という点で両者に大きな差があるからだと思いました。トランプ政権が誕生した時はある種の納得感を覚えました。既得権益層への怒りや明日自分の生活がどうなるのかといった緊迫感の持つ力というのは大きくて。このようなネガティブな感情が社会を変えたことを目の当たりにすると同時に、社会への怒りやコンプレックスをなくすには政治だけでは限界があると感じました。そこで、残りの留学生活では、地域性、宗教、教育、家庭のあり方など様々な要因の中で、どこにアプローチすべきなのかを模索しました。その中で出会ったのが、発達心理学や幼児教育の分野でした。特に、「子どものこころの成長は6歳までに7割決まる」というジャーナルも目にし、自分の意思が介入しないこの時期に人格が形成されてしまうことへ強い危機感と不条理感を抱きました。日本で感じていた違和感もあいまって、幼児教育の分野で挑戦することを決めました。

 

親御さんの時間と精神を苦しめているものはなにか

—一見、離乳食は幼児教育とはあまり関係がないようですが、どのような経緯で離乳食に取り組むことになったのでしょうか?

離乳食の事業を始めるまでに、2回事業を方向転換しました。最初は、保育園の日誌をデータ化するサービスや、託児所のマッチングプラットフォームを検討していました。しかし、どちらの事業も自分たちのやりたいビジョンにお金がついてこなかったため、やめる決断をしました。この時、「事業性と社会性の両立」が僕らの前に大きな壁として立ちはだかっていました。子ども領域で課題解決に取り組むことは決めていましたが、果たして株式会社としてやるべきなのか、それともNPOやラボのような形態にするべきなのかで悩みました。最終的に今の株式会社Kazamidoriという形になったのは、幼児教育の分野で事業的に拡大することによって大きなインパクトを生みたいと考えたからです。そこからはまず事業としてのスケーラビリティがあるかどうかを念頭に起きつつ、ビジョンの達成を目指せるかという軸でやるべきことを模索していきました。

そのことが決まってからは、1,000人くらいのご家庭にヒアリングを行いました。この時意識していたのは、「いかに親御さんの時間と精神を苦しめているものを探し出せるか」ということです。そこで僕たちは、親御さんに1日のスケジュールを聞いて回りました。その結果見えてきたのが、どの親御さんもご飯の時間あたりで圧倒的にバタバタしていて、他のことはなにも手がつけられないということでした。この気づきが今の”土と根”の開発に繋がっています。

 

—クラウドファンディングによる先行販売、そしてその後の試作品販売では、1ヶ月で約3,600食を完売したと伺いました。4月9日より正式販売を始められたようですが、実際に多くの方に使っていただいて反響はいかがでしたか?

どのコメントも嬉しいですが、困っているお母さんが僕たちの商品を使ったことで、精神的に楽になったという意見が一番嬉しいです。現状、6~7割のお母さんが離乳食を手作りしていると言われています。なぜ手作りなのかというと、お母さんたちは手作りをしないと罪悪感を感じ、時間をかけないと愛情がないと思われるのではないかと心配しているから。僕らがこの商品を作るに当たって倒さなきゃいけない相手は競合企業ではなく、お母さんの罪悪感とうしろめたさだと思っています。そこで、「手作りよりもこっちを使っている方が絶対にいいよ」と言われるような商品を作ろうと、有機野菜を使ったり、製造過程を可視化したりと、こだわった商品開発をしています。

 

絶対に理解できないという前提の上で

—久保さんは既婚でも子育てをしているわけでもないですよね。非当事者としてヒアリングの際に気をつけていることはありますか?

自分は子供を産めないので、お母さんの苦しみって絶対に理解できないんです。そこに共感力がないと、溝が生まれてしまいます。「お母さん辛いっすよね、だから助けますよ」っていうテンションでヒアリングにいっては絶対にいけない。そこは徹底しています。僕はあくまでその人たちになれないという前提の上で、聞かせてください、教えてくださいというスタンスでヒアリングするようにしています。

また、性別的な役割分担に終着させたくないとも思っています。なので、お母さん、お父さんといった区切りではなく、「子供にとって」というような、抽象的な役割や子育てにフォーカスするようにしています。

 

—第三者的な立場である久保さんが、子育てに関する事業をやる価値とはなんだと思われますか?

まず、ヒアリングをすればするほど思うのは、家庭によって子育てのやり方や思っていることが多様だということです。「こういうことを信じていて、こういうことをやった」ということをすごく強く意見してくださる方は多いです。本当に全員が違うから、これが絶対に正しいとかこれはあきらかにおかしいといった様々な意見もいただきます。

前提として、僕はそれはいいことだと思っています。全員正解だから。親御さんが「自分はだめなんじゃないか」とか余計な不安にかられてしまって、それが子どもにとってネガティブな影響を与えるのはよくないので、自分の子育てに自信をもつというのは大事だと思います。

だからこそ、僕たちは第三者的な立場でそれを俯瞰的に見ることができるのが強みだと思います。より多くの親御さんに響くようなプロダクトを作っていきたいです。

 

子育てから子育ちへ

—今後どのような展開をお考えですか?

現在、産後のお母さんのためのノンカフェイン飲料として、お茶を作っています。ホルモンバランスをはじめとした、体調の変化が激しい時期におすすめしたいハーブティーです。これ以降もお母さんたちを助けるプロダクトは出し続けていきたいし、Kazamidoriがセレクトショップのようになっていたらいいなと思っています。

また、この領域で成功したプレイヤーはまだまだ少ないですし、子育ての市場は縮小していくとも言われています。そのような状況において、この領域でIPOやEXIT事例が出てくるということが後続の社会起業家にとっても価値のあることだと考えています。会社としても、他のプレイヤーへの影響力を意識して事業の拡大に取り組んでいきます。

 

—最後に、5年後、10年後の未来に対して久保さんやKazamidoriで育んでいきたいことはなんですか?

親も子どもも自己実現を目指すことができる社会を実現したいです。子供を産むことや子育てがなにかの選択肢を否定することになってはいけないと思うんです。現状そうなってしまっているのは、子育てのハードルの高さや子育ての関係人口の少なさに原因があるのではないでしょうか。僕たちは「子育てから子育ちへ」を掲げています。0~6歳では自身の経験を通して感情が醸成されると言われているので、それをいかにサポートできるかが大事になります。子育てというとどうしても親に責任がいってしまいます。子供の成長を考える上で、親というのは1人の登場人物にすぎない。そのことを踏まえて、子どもを主語に子育てを再定義したいと思っています。

 

Kazamidori  https://kazamidori-lab.jp/

土と根  https://tsuchitone.com/

撮影:Ayato Ozawa

 

interviewer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

 

writer
堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。