【久保直生×本間有貴】若手起業家2人が考える、食から始まるインクルージョンとは

3月にマルイ有楽町にて開催された丸井グループ×talikiプレゼンツのインクルージョンフェス。大好評につき、9月に第2回の開催が決定した。今回のテーマは『食』。環境問題や健康といった課題に、食を通じて取り組んでいる若手起業家たちを招き、『食とインクルージョン』をテーマに対談を行った。

【プロフィール】
・久保 直生(くぼ なお)
株式会社Kazamidori代表。「生まれた環境に関わらず、全ての子どもたちが人生の手綱を握れるような社会を作りたい」という想いで、2018年に起業。子どもの1番近くにいる親の精神的・時間的なゆとりを作るべく、食の分野で課題解決に挑む。離乳食ブランド「土と根」、産後のお母さん向けハーブティーブランド「Soyonoma」、子どもがいる家庭向けの宅食事業を運営している。

株式会社Kazamidori代表・久保直生さんの記事はこちら:
子育ての罪悪感に立ち向かう。非当事者としての商品開発のこだわり

 

・本間 有貴(ほんま あさき)
合同会社Socii代表。東京理科大学の学部在学中に、世界最大規模の学生ビジネスコンテスト、Hult Prize(ハルトプライズ)に出場するチームとしてMore-ingを立ち上げた。モリンガという高栄養の植物を用い、途上国の栄養状態改善と経済的状況の向上を目指している。慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科修士1年。

合同会社Socii代表・本間有貴さんの記事はこちら:
途上国の栄養問題と貧困に持続可能な解決を。高栄養フード”モリンガ”から始める社会起業

 

・中村 多伽(なかむら たか)
株式会社taliki代表取締役CEO。本対談のモデレーターを務める。

境界線とインクルージョン

中村多伽(以下、タカ):まずは、『インクルージョンフェス』と聞いてどのような印象を持ちましたか?

 

久保直生(以下、久保):丸井グループという大きな会社が、SDGSやソーシャルビジネスに注目してくれていることが嬉しいですし、社会の変化を感じました。大企業の行動が社会にもたらす影響の大きさを日々痛感しているので、一緒に取り組んでくださっている感覚を持てることがとても嬉しいですね。

 

本間有貴(以下、本間):最近、インクルージョンや多様性など色々な言葉を使いながら、選択肢に溢れる、それぞれを否定しないような社会を目指している人が増えていて、そのような動きが大企業の取り組みにも表れているんだろうなと感じました。あと、『フェス』という名前が素敵ですよね。インクルージョンというものを、お客さんも巻き込んで一体となって楽しむフェスティバルにしちゃおうというネーミングがいいなと思いました。

 

タカ:確かに、自分たちだけでなく、一般消費者も巻き込んでいこうという意気込みが感じられますね。お2人は現時点で『インクルージョン』とは何だと思いますか?

 

本間:私たちは日頃から、男性・女性、健常者・障害者、国籍などで他人を勝手にカテゴライズしてしまうことがあります。そのようなカテゴリーのボーダーをなくすのではなく、違いがある状態を認める。その人のありのままの状態を受け入れようという姿勢が、インクルージョンなのかなと思っています。

 

久保:僕らの世代って、より人と繋がりやすい世の中で育っているし、インターネット上で色々な人たちの生活や考えを覗ける中で、カテゴライズというものができなくなっている時代に生きているのかなと思っています。だから、インクルージョンとは境界線を完全になくすというより、そもそも境界線という概念が薄れていくような事象なのかなと感じます。

 

タカ:そもそも「この人はこういうカテゴリー」みたいな定義づけができなくなってきたことや、多様な人が含まれているカテゴリーに対して偏ったラベリングをしてしまうことに、みんなが違和感を感じやすくなったのかな。

対談の様子

 

変化する社会の中で、未来に目を向ける『将来世代』

タカ:今回の企画は『将来世代』にフォーカスしています。私たちtalikiは未来のスタンダードを作っていく若い人を応援したいと思っています。加えて、丸井グループも中期経営計画で将来世代をサポートしていくことを明言しています。久保さんが1995年、本間さんが1998年の代の生まれで『将来世代』と括られているわけですが、『将来世代』という言葉についてはどう思いますか?

 

本間:私たちが年齢的に若いということは事実ですが、それだけでなく未来のことを考える人が増えているということがポイントなのかなと思います。例えばSDGsは2030年の目標ですが、2030年ですら短いって言われるほどに遠い未来のことを考えるような社会になってきています。さらに先の50年後、100年後どうなるんだろうということが考えられていますよね。この傾向は若い人に特に顕著で、例えばデータを用いたシミュレーションで未来の状況への実感が持ちやすかったり、より長いスパンで自分のキャリアについて考える必要が出てきたりしているからなのかなと思います。時系列を長く持って考える人たちがこの世代に増えているからこそ、『将来世代』と呼んでいるのではないでしょうか。

 

久保:『将来世代』という括りの中でも、中高生など僕ら以降の世代と触れ合うと、僕たちとは全然価値観が違うなって感じる瞬間も多いです。今の時代は社会の変化が加速していて、それに伴って社会のスダンダードと言われるような価値観も目まぐるしいスピードで変わり続けています。そして僕たちはそのような変化の中で「今後の人生あなたたちは何をしますか?」という問いを投げかけられている世代です。だから自分でしっかり考えないと流されてしまったり、気づかないうちに変なところに行き着いてしまったりするような生きづらさも抱えています。そのような時代におけるリーダーには、何か一つの価値観に固執するのではなく、色々な人たちの価値観を柔軟に受け入れつつ、みんなで前に進もうとする調整力・交渉力が求められていると感じています。

 

タカ:なるほど。圧倒的なスタンダードを見せるというよりも、交渉したり調整したりすることが求められているんですね。これは、社会起業家にもすごく当てはまるなと思っていて、例えば投資家には財務的な話をして、お客さんにはどうやって生活に取り入れてもらうかとかお客さんがどう幸せになるのかみたいな話をしますよね。どれも社会課題解決という同じ目的のための交渉や調整です。

 

社会起業家にとって、対象の課題解決が何よりも最優先

タカ:お2人は社会課題に対してビジネスで向き合うことの意義について、どのように考えていますか?

 

久保:最近は特に、どんな企業でも社会的な課題に取り組む姿勢は持っていると思うんですよ。だからこそ僕ら社会起業家の立ち位置は難しいなと思います。でも、僕が1つこれは社会起業家の存在意義だと思うことは、救いたいと思った対象から目を逸らさないということです。構造的に社会課題がたまたま解決することもあれば、大きく社会が動いていく中でその人たちの社会的な階層が変化することもあると思います。しかし、その変化の中でもその人たちを幸せにするために、寄り添い続ける、課題に向き合い続けるということが社会起業家にできることだと思っています。

 

タカ:すごくわかります。私も「社会起業家って何ですか」って聞かれたとき、他の起業家と社会起業家の線引きをあえてするのであれば、その対象者の課題解決の優先順位が何よりも高いかどうかだと思っています。社会起業家にとって「この領域は儲からないのでやめます」というような経営判断はありえないんですよね。

 

本間:私は人の命に関わることがしたいとずっと思っていて、それを継続的に叶えるツールがビジネスだったんです。だから、別に起業以外の選択肢でもよかったと思うんですが、私にとっては自分でやりたくなったときにそれができる手段がたまたまビジネス、起業でした。社会起業家と他の起業家の違いを問われるとしたら、お2人が話していたように常にユーザー視点で課題に向き合っているか、ということだと思いますね。仮にピボットをするとしてもその理由がその対象者である。例えば私はモリンガを扱っていますが、もしモリンガで栄養改善があまりできないことがわかったら私はピボットをするかもしれないです。でもそれは儲かるから違う事業をやるのではなく、解決したい課題がうまく解決できないから新たに問いを立て直さなければいけなくなりピボットするということです。そのような考え方が利益追求を最優先にしているビジネスとは異なると思います。

 

タカ:ビジネスなら継続的な仕組みが作れると感じたのはなぜですか?

 

本間:現地調査でネパールに行った際、ネパールの農村では言葉が通じづらかったりカースト制度があったりして、それぞれの村やポジションによって文化が大きく異なることを体感しました。その中でどうやって栄養というものを広めようかと考えた時、例えば教育という手段もあったかもしれませんが、私にとってすごく難しく思えたんです。私のような知識もあまりない第三者が他人の文化に入り込んで、「これが栄養です」と言い始めても意味があるとは思えませんでした。そこで、何かみんなに共通しているものを使おうと考えたのがお金だったんですね。お金が増えるということはみんなにとって良いことで。お金を使えば、モリンガを生産する人が増えて、それで稼ぎが増え、自然と食事に取り入れられるようになって、栄養状態が改善するんじゃないかと考えました。お金というものがみんなに共通して価値のあるものだと改めて捉え直したのが、ビジネスで課題に向き合おうと思ったきっかけです。

 

食ならではの力とは

タカ:そもそも、久保さんは幼児教育という切り口から、本間さんは命を救うという切り口から入って食にたどり着いているわけですが、食を扱うに至った背景や、食ならではの力だと感じていることがあれば教えてください。

 

久保:僕は幼児教育や家庭支援をしたいと思い、とにかく1000人くらいのお母さんや家族に会いに行って気づいたのが、子育てにおける唯一解はないということでした。教育理念や子ども・パートナーに対する感情など、全部の家庭で異なっていたんです。一方で、親御さんにとって食事は時間的にも精神的にもウェイトを占めているということは、どの家庭でも共通していました。また、良い食事を子どもに提供することは親御さんの自己愛につながるということにも食の重要性を感じました。話を聞く中で、自分が一番愛する我が子のために何か良いことをしているという実感が、親御さんの自己愛や自己肯定感を高めているといった声をたくさん頂いて、すごく意義を感じました。食事って生きるためにはただ取ればいいものかもしれないけど、プラスアルファとして自分の命や生活を大事にしている感覚が味わえるものでもあって、そこに食事の可能性を感じています。

 

タカ:私は本当に食事しないタイプなので響きます。適当にご飯食べると自己肯定感下がりますよね。

 

久保:僕らにとっても、何か美味しいご飯を食べに行った日ってすごく気分が上がるし、そうやって食事で自分を大切にする感覚を得ることが日常レベルであるだけで大きな幸せにつながると思っています。

 

本間:私はある程度似通った人たちに囲まれて育ってきたこともあり、大学2年生くらいまで井の中の蛙状態でした。でも大学時代にベースオブピラミッド*にある人たちの生活に興味を持ち、彼らの生活の中でも想像しやすかったのが食だったんです。その後、栄養失調を改善したいという思いでネパールに行きました。でもそこで、栄養失調だからって不幸せな人はそんなにいないし、むしろみんな今の状態で楽しく暮らしていて、栄養失調で若くして死んでしまうことにもあまり違和感がないということを知りました。でもやっぱりちゃんと栄養を取れば病気にかかりにくなるし、その人の人生が変わっていくと思うんです。だから、久保さんがおっしゃっていたように食は楽しむものだし私たちを幸せにするものでもあるけど、現地ではまず、食は子どもにただ食べ物を与えて育てるためのものではなく、しっかりと健康に育てるためのものという側面も含んだものになってほしいなと思っています。
*ベースオブピラミッド:所得階層別人口ピラミッドの最底辺に位置する人々

 

タカ:お2人とも食を通じた子どもの発育という点で、共通するものがありますね。
現在は日本国内の健康や食に対するリテラシーの高い消費者層からアプローチしていると思いますが、今後拡大していく層に対して商品を通じて感じて欲しいことはありますか?

 

久保:僕は現在、沖縄で貧困家庭やシングルマザーの支援も携わっています。確かに食のリテラシーが高い人には良い食事をとったことによって幸せを感じてもらいやすいですが、それを感じる余裕もないようなご家庭ってたくさんあるので、そういう人たちにどう向き合うべきかはすごく悩んでいるところです。以前、農家さんから野菜を仕入れるときに、「君たちは大好きな子どもたちが成長するために大事な食事を提供していると思うんだけど、僕ら農家も同じように汗水かいて作った野菜を君たちに渡している。まさに子どもを育てているようなものなんだよ。」って言われたことがあって。農家さんとその野菜を食べる人との間には中間卸がたくさんいるので、なかなかお互いの声って届きづらいじゃないですか。そこで僕たちができるのは、農家さんたちが愛情を込めて作った野菜のそのストーリーをエンドユーザーまで伝えていくことかもしれないと思ったんです。「これだけ愛情を持って作られた食事があなたの手元にあるんだよ」ということは、食に関心がない人も含めて誰にとっても心が温まるものになるのではないかと思っています。だから、宅食の事業では農家さんの紹介や食べ物の背景にあるストーリーの紹介を入れるようにしていますね。

 

タカ:「お母さんが準備したよ」っていうだけじゃなくて、その後ろにも生産者の想いがあって、それらを含めて受け取ってほしいということですよね。

 

久保:やっぱり色んな人に支えられている感覚はすごく大事で。他者への共感力って愛情から育まれると思うので、そういう他者の愛情を意識できる瞬間を作りたいと思っています。

 

本間:私はベースオブピラミッドの人たちに影響を与えられるような事業をしたいという想いがずっとあるので、日本で所得の高い方や食への意識が高い方からアプローチすることに正直すごく葛藤しました。しかし葛藤の中でもそう決めた理由は、どうしてもモリンガという新素材に対しての見る目の余裕の違いを感じたからです。新しいものや社会貢献に興味を持つには経済的、時間的に余裕がないと難しいので、まずはそのような層にアプローチすることにしました。でも、今後は日本でも栄養不足で困っている方や嚥下障害などでどうしても栄養が取りづらい方などにリーチしていきたいと思っています。

 

タカ:社会起業家の多くがこの悩みにぶつかると思います。社会課題の当事者は購買能力が高くないことが多くて、だからこそ自分で解決するのが難しいんですよね。なので、私は高所得の方を巻き込むのも戦略の1つだと思っています。有楽町マルイにくるお客様に持って帰ってほしいものはありますか?

 

本間:日本では、特にこのコロナ禍、国境を超えてそこに住んでいる人の食を考えるという機会がほとんどないですよね。身近な人が栄養失調ということも日本ではそんなにないです。だからこそこの商品を通してそういう人たちに思いを馳せていただきたいですし、商品を手に取るだけでも現地の課題解決につながるということを知っていただきたいです。あとは、純粋にモリンガという新しい素材の味を楽しんでらって、その裏にある社会課題や現地のストーリーに後から気づくでもいいんです。楽しい食を通じて考えを馳せていただけたら嬉しいです。

 

久保:今回出店するブランドさんの商品はどれもすごく想いがこもった商品じゃないですか。だから、その想いを感じながら食べる、身につけるという体験をしてもらうだけでも良い効果が伝播すると思っています。自分が食べるもの、身につけるものを大切にするというのは自己愛の最初のステップだと思うんです。所得が高いからと言って必ずしも自分を愛せているわけではなくて。特に「自分本位の行動が悪だ」という風潮はコロナ禍で加速している気がしていて、人の自由を奪う自分勝手は良くないかもしれませんが、自分自身を大切にする自分勝手はもっと肯定されるべきだと思っています。だから、より多くの人が自分自身を大切にする経験をすれば、社会はもっと優しくなれると僕は信じています。

 

タカ:自分のことを大切にする、自分に良いことをする経験を作るために、ぜひ来てほしいですね。

 

自分を愛し、他者を受け容れる

タカ:最後に、お2人に『インクルージョンとは◯◯』ということを紙に書いていただきたいです。

 

本間:インクルージョンとは、『人のそのままを受け容れること』です。この『受け容れる』は『受容』から来ているのですが、自分の心を広くして相手を受け入れるというような意味があります。相手を否定せずに、その人に対する自分の理解をちゃんと噛み砕いてその人を受容することがインクルージョンおいて大事な要素だと思いました。

久保:僕にとってインクルージョンとは、『まずどんな自分でも愛するということ』です。対談を通して、そもそもこの文脈で語られる境界線は、何か自分の立場や存在意義を守るためや、傷つくことから避けるために引かれることが多い気がしていて。だからまずは自分がどんな欠けている状態でも自分のことを大切にするということが境界線をなくすことに繋がるのではないかなと思いました。まずはどんな自分でも愛するということがインクルージョンの最初のステップだと思います。

 

株式会社Kazamidori https://corp.kazamidori-lab.jp/

More-ing ​​https://www.more-ing.com/

 

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堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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