途上国の栄養問題と貧困に持続可能な解決を。高栄養フード”モリンガ”から始める社会起業

東南アジアやアフリカ、南アメリカなどで生育し、高栄養のスーパーフードとして注目されている植物・モリンガ。More-ing(モアイング)は途上国で生産したモリンガの加工・販売を通して、農家の経済的状況の改善と途上国の栄養状況の改善を目指すために立ち上げられた。モアイング代表の本間有貴は、大学在学中にMore-ingを立ち上げ、途上国での現地調査などを重ねながら事業を推進してきた。現地調査における苦労や、ビジネスという手段を選んだこだわりなどについて聞いた。

【プロフィール】本間 有貴(ほんま あさき)

More-ing代表。高校在学中に同級生が命を落としたことをきっかけに、「命を救うことに関わりたい」という想いを持つようになる。東京理科大学の学部在学中に、世界最大規模の学生ビジネスコンテスト、Hult Prize(ハルトプライズ)に出場するチームとしてMore-ingを立ち上げた。現在は、慶應義塾大学院システムデザインマネジメント研究科で研究に携わりながら、モリンガを使った商品の開発・販売事業を行っている。

現在、『【食×社会貢献】「奇跡の木」モリンガを日本に広めたい!』として、クラウドファンディングに挑戦中!詳細はこちら。

https://camp-fire.jp/projects/view/442502

(※プロジェクトは終了しました。8/26追記)

途上国の栄養状態改善と、経済的状況の向上を目指す

ーまず初めに現在の事業内容と、事業を始めたきっかけについて教えてください。

More-ingでは現在、モリンガという高栄養の植物を扱い、途上国の栄養状態改善と経済的状況の向上を目指す事業を行っています。現在はコロナ禍で、モリンガの生産拠点にしているカンボジアに足を運ぶことができていませんが、将来的にはモリンガを生産してくれる農家さんと契約を結んで生産した分を買い取ることで、農家さんの経済状況を向上させたいと思っています。また現在は日本での販売で、消費者の方の栄養バランス低下を改善することに取り組んでいますが、海外渡航ができるようになれば現地でも販売を広げて栄養状況の改善に取り組んでいきます。

創業のきっかけは、学部2年の時に、Hult Prize(ハルトプライズ)という大学生向けのソーシャルビジネスコンテストに出場したことでした。高校のときから命に関わることがしたいという想いがあり、東京理科大学の工学部工業科学科に進学したのも生体工学や医療工学カテーテルなどの器具について学びたいと思ったのが理由だったんです。ですが「自分は研究職には向いていないかもしれない」と感じるようになり、ソーシャルビジネスで関わる方向に切り替えることにして、コンテスト出場を決めました。アイデアを検討する中で重視したのは「所得階層ピラミッドの最下層部にいる人たちに届くビジネスモデルにする」ということです。例えば医療産業で新素材を開発するようなアイデアは、高い値段を払うことができる人たちにしか届かないのではないかと。そんなことを考えていた時にモリンガに出会いました。

 

ーモリンガというのは、どんな植物なんでしょうか?

モリンガは高栄養の次世代スーパーフードと言われている食材で、バランスよく多くの栄養素を含んでいるのが特徴です。具体的にはカルシウムや食物繊維、必須アミノ酸など、90種類以上もの栄養素がそれぞれ豊富にバランスよく含まれているんです。かつ成長スピードも早く、生産をしやすいということもあって、これを使ってビジネスプランを立てられないかと考えたところから創業に至りました。そこから世界地域予選に出場することになり、クラウドファンディングで渡航費を集めて、ネパールで現地調査を行ったりする中で途上国の栄養問題などの実情を知ることになったんです。その時の体験が自分にとってはカルチャーショックで、解決のために継続的に関わっていきたいと思うようになり、現在までの2年半事業を継続してきました。

 

ーネパールでの現地調査では、どんなことが分かったんでしょうか。

もちろん国ごとの文化にもよるんですが、ネパールの一部地域ではモリンガの花や鞘を野菜として食べることがあります。しかし、高栄養なモリンガの葉っぱを食用と認識していない方も多いんです。モリンガの生育地帯は亜熱帯以南で、東南アジアやアフリカ、南アメリカなどの地域なのですが、ちょうど栄養失調の多い地域と被っています。現地でお話を聞いたときも、モリンガの葉っぱについて「そんなものは食べません」というお返事が返ってきました。栄養失調の問題とされるネパールなどの地域ではそもそも栄養を気にする文化が存在しないことも多いんですよね。それでモリンガが自生していても栄養状態の改善には生かされていないということが分かりました。

一方ネパールでは、子供たちの中でビスケットや固めのクッキーを食べる食習慣があることもわかりました。そこで葉っぱを一度粉にしてクッキーにしたものを、小学校や病院、駄菓子屋などに波及していくというアイデアが生まれました。

モリンガの葉っぱ

 

日本展開で見つけた”フルネスフード”というあり方

ー初めはネパールで現地調査を行われたとのことですが、そこから展開先をカンボジアに切り替えていらっしゃいますね。経緯や、現地調査で感じた困難や障壁などについて教えてください。

大きかったのはカースト制度の壁で、それがカンボジアに切り替えた要因でもあります。特に農村部ではカースト制度が色濃く残っていて、外国人の私たちはキッチンに入らせてもらえなかったり、「下の身分の作ったものを上の身分の人は決して食べない」という決まりがあったり。他にもインフラや衛生、言語といった障壁がありました。

それで現在は拠点をカンボジアに切り替えてやっているのですが、最終的にネパールなどの国に対してもボーダーを作るべきではないとは考えていて、現地の人を巻き込みながら取り組んでいければと思っています。

 

ー元々は途上国現地で展開する予定だったところから、コロナ禍で現地に行けなくなり、日本での販売に切り替えられたんですよね。日本での発信で意識しているところなどあれば教えてください。

日本では子供よりも、20代から40代くらいで、健康意識を持ちたいけれど本格的には取り組みきれていないような女性の方などをターゲットにしています。ブランディングという意味ではこれから組み立てていく必要があると思っているのですが、健康的なメリットを大々的に謳うのは薬機法*上難しくて、お腹と同時に気持ちを満たす”フルネスフード”という発信をするようにしていますね。フルネスというのは、More-ingでは「こばら(おなか)を満たす」「ギルトフリー/食べる幸福感を満たす」「社会貢献により気持ちを満たす」の3つの要素を併せ持つことと定義しています。例えば高栄養な食材が入っているので、ただのクッキーを食べるよりはギルトフリーに感じるという”フルネス”がありますし、自分の食べるものが途上国の経済性につながっているというソーシャルな意味での”フルネス”も感じていただけると思います。コロナ禍で動けなくなり、ひとまずトライアルという形で始まった日本での販売でしたが、”フルネスフード”や健康食品という意味でも価値を感じていただける方が一定数いるという意味ではいい販路を発見できたと思っています。

*薬機法・・医薬品、医療機器等の品質と有効性および安全性を確保する他、下記を目的に製造・表示・販売・流通・広告などについて細かく定めた法律。旧薬事法。(参考:薬機法ドットコム

粉末にしたモリンガを使って作られたクッキー

 

ー実際に食べた方からは、どんな声や反応がありましたか?

モニターとして周りの人に食べていただく際には、抹茶やよもぎに似た味と言われることが多いです。モリンガという名前はインパクトがあり、最初は警戒感があるようなのですが、1回食べると「意外と美味しい」という反応をいただきますね。

 

ビジネスというツールで、問題解決に持続性を

ー現在、カンボジアでの生産プロセスはどのようになっているんでしょうか。

有り難いことに、カンボジアで昆虫のコオロギを食用生産する事業を行うECOLOGGIE(エコロギー)という会社の代表の葦苅晟矢(あしかり せいや)さんが、現地でモリンガの製粉までを引き受けてくださっています。文部科学省のEDGE-NEXTという起業家育成事業がきっかけで、早稲田大学の知り合いの先生から葦苅さんのことをご紹介いただいたんです。現在はコロナ禍で現地に行くことができない状態が続いており、生産農家さんとのコミュニケーションなどは取れていないのですが、そうしたサポートもあり事業を推進することができています。

 

ー本間さんは、NIKKEI STYLE U22の記事で、「”社会起業家”であることにこだわりたい」ということを仰っていましたね。ビジネスでの課題解決にこだわる理由はどういったものなのでしょうか?

既存の栄養失調を解決するプロセスが、本当に持続的なのかという疑問を感じているからです。非営利モデルで子供に食料を届けるという活動はいろいろと行われています。ですがそもそも栄養状態を気にする文化がないところに、湧いてくるようにご飯を届ける活動というのは、取り組む人がいなくなれば元の状態に戻ってしまうものです。そこでビジネスというツールを使うと、持続性という要素を加えることができるというのが私の考えです。

例えば栄養という言葉を使わず、初めは「モリンガを育てて売れば、これだけのお金がもらえるよ」と伝えます。それでモリンガ農家さんの生活が改善され、「これだけ売れるものなら」ということで日常の食卓にモリンガが受け入れられていきます。このモデルなら自然と経済状況と栄養状態が改善していきますし、経済状況が改善すると教育のレベルも上がっていって、学校で栄養の知識を身につける子供も増えてきますよね。持続的に状況が改善していくモデルを作ることができるのがビジネスというツールだと思っていて、だからこそ私は”社会起業家”であることにこだわりたいと思っています。

 

ー今後、コロナ禍の収束に向けて、取り組んでいきたい商品展開や事業展開などについて教えてください。

今後としては、商品をもっとリニューアルして、ターゲティングを深めるということをやっていきたいと思っています。今のうちに日本でしっかりと受け入れられる商品を作ることができれば、途上国に持っていく時に、品質が高く評価されたりノウハウを生かすことができたりというメリットがあると思うんです。現在はクラウドファンディングを通して商品を広め、モリンガという名前以外で、何かモリンガの味や特徴が伝わる言葉を引き出そうと取り組んでいます。モリンガに関心を持ってくださる方は女性が多いだろうと思っていましたが、クラウドファンディングを通して、案外男性にも興味を持っていただいていることが分かったという収穫もありました。また新商品として、モリンガの粉から作るパスタの開発にも取り組んでいます。

今後現地に行くことができるようになれば、今よりもモリンガの生産効率を上げて、また現地の食文化の中にモリンガが受け入れられていくように一緒に取り組める農家さんを見つけたいですね。そして協力してくださる農家さんに、継続的なお返しをできるようになることが理想の状態です。

 

栄養失調や経済的理由で、子供達の未来が奪われてしまう状況を減らす

ー現在本間さんは、慶應義塾大学でご自身の研究をされながら事業を行われていますね。大学院進学を決めたのはどうしてだったのでしょうか?

大学院に入ったのは、起業をするにあたって経営の予備知識の不足を感じていたためです。もちろん経営のバックグラウンドがなくてもトライアンドエラーで進めていく人はいますが、人の命に関わるような事業では、1つのエラーが人命に関わりますよね。それに教育環境の整った日本で出来ることとして、なるべく多くを学んで還元したいという想いもありました。それで大学院に進学することを決めました。

慶應義塾大学院のシステムデザインマネジメント研究科を選んだのは、座学だけでなく自身の研究もしたかったからです。研究はすぐにはビジネスには直結しないかもしれませんが、その課題解決のプロセスを経験することは、少なからずビジネスなど何においても重要だと感じたんです。

 

ー現在はどんな研究をされているんですか?

衛星データを使って、空から栄養失調を見つけるという研究をやっています。人工衛星から地球に向かって光を照射すると、特定の地域にどんな植物がどれくらい生えているかといった情報や、水がどれくらいあるかといった情報が集められます。そういった情報をうまく組み合わせることで、特定の地域で育つ植物にどれくらいの栄養が含まれているかということが分かり、ひいてはその地域の栄養状況を把握することができるんです。

今後は研究を応用して、”栄養失調アラート”というシステムを作れないかということを考えています。土地の状況などを衛星データから把握して、「この地域の栄養状態がピンチです」といったアラートを出せるようにするというものです。研究の応用でMore-ingの事業にも生かすことができるように進めていきます。

 

ー「持続可能に、入手可能なもので人々の命と生活を救う」というビジョンを掲げられていますが、どんな想いが込められているのでしょうか。

私が高校2年のときに、大腸癌で同級生が1人亡くなったことがきっかけで、人の命を救うことをやりたいと思うようになりました。周りの大人から「君たちには未来がある」というような言葉を沢山かけられていた矢先の出来事で。その子は病気でしたが、未来があるはずの若い人たちが様々な理由で命を落としてしまうということがショックだったんです。また持続可能というところでは、どのプレイヤーにとっても無理がない範囲で、頑張りすぎることなくその人たちの生活や命が救われるようにしたいと思っています。

「慢性的な栄養失調であったり、経済的な理由で子供達の未来が奪われてしまうような状況を少しでも減らしたい」という想いで、今後も事業に取り組んでいきます。

 

More-ing https://www.more-ing.com/

クラウドファンディング挑戦中 https://camp-fire.jp/projects/view/442502(※プロジェクトは終了しました。8/26追記)

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interviewer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

 

writer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。