学びを「つまらない」から「楽しい!」へ。不登校の小中学生30万人の日本から、新たな教育インフラの構築を目指すSOZOWスクール

日本では不登校の子どもが増え続けている。文部科学省による2022年の調査では、全国の小・中学校で約30万人が不登校であることが報告された。勉強についていけない、いじめを受けている、教師や校則が自分に合わないなど、理由はさまざま。

そうしたなか、学校が合わない子どもたちの個性を尊重し、新たな学びの場を提供するのがオンラインフリースクールの「SOZOWスクール」。一般的なフリースクールの約40倍以上の生徒数を誇る、日本最大級のオンラインスクールだ。運営するSOZOW株式会社・代表の小助川氏に、SOZOWスクールの特徴や、今必要な教育の在り方について話を伺った。

▼プロフィール
SOZOW株式会社 代表取締役 小助川将
1980年生まれ、秋田県出身。慶應義塾大学商学部卒業後、経営コンサルティング会社、株式会社リクルート、グリー株式会社、株式会社LITALICO執行役員を経て、2019年6月にSOZOWを創業(設立当初はGo Visions株式会社)。

小助川さんの過去の記事はこちら

子どもたちの好奇心を解き放つオンライン上の学びの場。公教育が持つ課題をカバー

 

フリースクールとしては異例の生徒数が集まる理由

ーーSOZOWスクール小中等部(小学4年生〜中学3年生対象)の正式開校おめでとうございます。まずは、学校とフリースクールの違いについて教えてください。

フリースクールは民間の教育施設です。既存の学校に馴染めないお子さんに対して、興味やニーズに応じた柔軟なカリキュラムを提供しています。アットホームな環境が多く、個々の生徒に合わせた個別指導を行うことが特徴です。

ただ、国や行政から公的な学校として認められておらず、基本的に卒業資格や学位を提供することはできません。そのため、フリースクールに通うお子さんも、地域の学校には在籍していることが多いです。

一般的なフリースクールの平均在籍数は1施設で13名程度ですが、SOZOWスクール小中等部には、550名以上のお子さんが在籍しています。(2024年1月時点)

 

ーーなぜ、そんなに多くの生徒が集まっているのでしょうか?

メタバースのキャンパスを使っていることが大きな理由の一つです。

キャンパスは「過ごしたい時間」に合わせて空間が分けられている

 

全国に不登校の小中学生は約30万人いますが、そのうちフリースクールに通っているのはたった3%だと言われています。通わない理由として、「学費が高価なこと(平均学費は3万3000円)」「通える場所に存在しないこと」「対面でのコミュニケーションにハードルがあること」といった3点が大きくあります。

SOZOWスクールは、リアルな設備を持たないことで費用が抑えられ、自宅から簡単にアクセスができ、かつ顔出しせずに授業を受けることができることから、今までフリースクールに通えなかったお子さん・親御さんたちにも選んでいただけるのかなと思います。

 

ーーオンラインで通えること以外にも、他のフリースクールとの特徴的な違いはありますか?

出席認定率が高いことも特徴の一つです。出席認定率とは、フリースクールや自宅で学習するお子さんについて保護者が学校に申請し、「出席扱い」と認められた割合のこと。学校外の学習内容や時間を踏まえて、最終的な判断は各学校の校長がします。

出席認定は学校卒業資格の保証になるなど、実質的な制度上のメリットはあまりありません。しかし、「学校に通えないなんて、自分はダメな子だ」と悩むお子さんや、「私たちの教育が間違っていたかもしれない」と自分を責めてしまう親御さんにとって、「学校から認められている」という安心感が得られるのはとても大きい。当事者の精神的負担を取り除くという点で、効果的なシーンもあります。

しかし、一般的なフリースクールの出席認定率は45%*しかありません。講師の人数が限られており、お子さんを見るのに手一杯で、学習内容等を細かく報告するところまで手が回っていないという仮説があります。そこでSOZOWスクールでは、メタバース上でのお子さんの活動ログや講師からの観察コメントを記録し、活動実態がわかりやすい「個性レポート」を作成する仕組みを導入。その結果、SOZOWスクールの出席認定率は75%になっています。

*文部科学省「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」より

 

ーーコンセプトの「好きを学びに、未来を自在に」に込めた思いを教えてください。

大人もそうだと思うのですが、まったく興味のない仕事を依頼されるとやる気が出ないですよね。人間ってシンプルで、興味があるもの・好きなものなら、「学ばなければ!」と意気込まなくても学びを深められると思うんです。

しかし、従来の公教育では基礎5教科(英語・数学・国語・理科・社会)で良い点数を取らないと評価されにくくなっています。その結果、「学びは辛いものだ」「自分は勉強ができない」と感じ、自己肯定感が下がったり不登校につながることもある。その意識は大人になっても影響していると考えられ、日本における大人の平均学習時間は1日たったの7分*とも言われています。

*総務省統計局発表の令和3年社会生活基本調査より

そんな状況を変えたいと思い、SOZOWスクールは子どもの好奇心や「好き」をベースに学習できる環境づくりを目指しています。「学ぶことは楽しい」と思えたら、将来新しいことに挑戦するときも、幼少期に身につけた「ものごとを探求する力」を活かすことができる。自由自在に未来を切り開けるようになると思うんです。

“正解のない問い”が多いこともSOZOWスクールの特徴

 

「講師の多様性」と「独自の仮想コイン」。実社会の生活につながる学び

ーー「好き」を軸にして学ぶとは、具体的にどんな体験なんでしょうか?

子どもたちが自由に選べるように、ウェブデザイン、3Dデザイン、映像制作、マネーリテラシー、ビジネスなど多彩な切り口のコンテンツを用意しています。講師を呼んでライブ配信を行ったり、トークセッションを行ったり。もちろん国語、数学などの基礎5教科も学ぶことができます。SOZOWスクールは「すらら」と「スタディサプリ」と連携しており、自分に合うほうを選択できる。1人で進めるのが難しい場合には、スタッフがオンライン上で学習をサポートしています。

ライブ配信の様子

 

また、「探Q活動」というスクール生同士でグループを組んで行う活動もあります。eスポーツ好きが集まってプレーしたり、料理好きが集まって一緒に料理をしたり、乗り物好きが集まって語り合ったりと、興味でつながって学びを深めています。これらの学習コンテンツを組み合わせて、子どもたちが好きなように時間割をつくることができるんです。

 

ーーそれだけ多様なコンテンツを用意するには、プロ講師や教材作りを行う大人もたくさん必要ですよね。

200名近い大人が関わっています。しかも、これもSOZOWスクールの特徴の一つですが、関わる大人のなかで教育関係のバックグラウンドを持つ方は全体の2割以下。プロのエンジニアから、ヨガ講師、客室乗務員、漁師、起業家などまったく異なる領域の仕事をしている方々が携わってくれています。

選考プロセスでは、「子どもにこれを教えたい」といったティーチング的な関わりを大事にされている方は、SOZOWのスタンスと合わない場合が多く、残念ですがお見送りさせていただいています。また、趣味や好きなものがはっきりとしている方を採用することも意識しています。講師と生徒といった上下関係を築くのではなく、子どもの主体的な学習を引き出すサポートをしてほしいからです。ある程度厳しい採用基準を設けているため、選考の通過率は大体10%くらいになっています。

子どもに寄り添い、好きを通じて可能性を広げるオンラインメンター大募集!

また、大人だけではなくて、分野によっては子どもが講師を務めることもあります。たとえば人気ゲームの「スプラトゥーン」(任天堂)や「フォートナイト」(Epic Games)をやり込んだ子どもがレクチャーをするレッスンなど。大人と子ども、学校と社会の垣根を溶かすような学びの場にもなっています。

スタッフと一緒に「マインクラフト」をプレイするシーン

 

ーーなるほど、普通の学校よりも実社会とのつながりを感じられそうです。

他にも、スクール内の仕組みで意識していることがあります。その一つが、SOZOWスクール上で取引できる「仮想コイン」です。

たとえば、SOZOWスクールでウェブデザインを学びLINEスタンプを作れるようになった子が、スクール内で他の子にレクチャーをする。その会に参加した子どもたちは、対価として主催者の子に仮想コインを渡すことができます。そんな風に、世の中のお金の流れを学べるんです。

このコインはAmazonギフトカードに交換できます。2022年1月からα版のサービス上で実装した機能ですが、すでに累計で700万コインが発行されていて、多くの子どもが価値を生み出し、感謝と対価を受け取る経験をしています。

 

通信簿では見えなかった個性に「うちの子こんなにできたんだ!」と感動する親

ーー2021年10月に取材させていただいた際は、「オンライン習い事」のサービスを運営されていましたね。そこから新サービスのSOZOWスクールのリリースに至ったきっかけを教えてください。

実は取材いただく前の、2021年1月末にはすでに構想がありました。直接的なきっかけは、「オンライン習い事」のサービスを利用してくださるお子さんのなかで、特にクリエイティブな作品を作っている数人に興味を持ち、インタビューをしたことです。彼らのほとんどが不登校の子たちでした。

話を聞いているうちに、内向的でコミュニケーションが苦手な子どもにとって、一般的な学校よりもオンラインやメタバースの環境のほうが心地よく感じることがわかりました。チャットやスタンプを利用することで、顔を合わせなくてもよかったり、声を出さなくてもよかったり、自分のペースで参加することができます。

そういった子どもに向けて、オンラインで学びの場を提供したいと考えてスクールをつくることに。同年10月にはα版として生徒数10名でサービスを開始しました。

 

ーーα版から約2年間、改善を重ねるなかで印象的だった出来事や気付きはありましたか?

2022年1月に生徒数が30名になったタイミングで、さまざまな大人に副業でメンター(個別面談をして生徒の学習をサポートする役割)をやってもらう仕組みを導入したところ、子どもたちの学びへの姿勢が変わったのは印象的な出来事でした。

たとえば、引きこもりがちだったとあるお子さんは、プログラミングのできるメンターと出会ったことで、急に生き生きとコミュニケーションを取り始めたんです。もともとプログラミングに興味がある子でしたが、親御さんをはじめとして周りにできる人がいなかったため、今まではあまりコミュニケーションを取れていなかったようです。

その子の親御さんは「今まで未来に不安しかなかったけれど、希望に変わりました」と言ってくださいました。さらに、他のご家庭からも似たような声をいただいたんです。最初はトライアルのつもりでしたが、この取り組みは正式開校時にも続けることにしました。

顔出しを望まない子どもはアバターで参加することも可能

 

ーーメンターの存在が、保護者の方が安心して子どもを預けられる大きな要因になっているんですね。

そうですね。もちろんメンター以外にも、保護者の方が安心できるような工夫は色々しています。たとえば、偏差値やテスト結果ではなく、それぞれの子どもの個性や日々の様子がわかる「個性レポート」を親御さんに開示しています。活動のログやSOZOWコインのログから子どもの動きがわかったり、メンターやコーチ(特定の分野について一緒に学ぶ役割)など、さまざまな大人からのコメントでお子さんの強みがよくわかるんです。

活動レポートの1ページ

 

学校の通信簿では見えない一面を知った保護者の方からは「学校では叱られていたことが、実は強みだったと気づいて安心した」「こんな一面があるなんて知らなかった」といった声が寄せられています。

SOZOWスクールにお子さんを通わせる親御さんの感想

 

反響を受け高等部もオープン!SOZOWスクールはボーダレスな教育インフラへ

ーーSOZOWスクール小中等部に加えて、2024年4月にはSOZOWスクール高等部もオープンされる予定だとか。ますます注目度が高まりそうですね。

そうなんです。嬉しいことに、SOZOWスクール小中等部に在籍している中学生たちから、「高校版も欲しい」という声が多く寄せられたので、もともとの想定より1年前倒しで開校することにしました。

説明会の詳細・申し込み https://sozow-highschool.com/

 

高校を卒業すると、小・中学校の頃よりもさらに社会との距離が近づきます。子どもたちが自信を持って社会に出られるように、今後、必要とされるであろう実践的なAIスキルを身につけられるカリキュラムを用意したり、STUDIOやCanvaなどのツールを用いてポートフォリオを作ったりできるようにしています。

また、社会人と一緒に、インターンのような形で企業からのミッションに応える企画も用意しています。就職だけではなく、大学進学のために受験勉強をしたり、AO入試に使える書類をつくるといった機会も用意しています。

 

ーー子どもの教育にはまだまだ多くの課題があるかと思いますが、今後、SOZOW スクールは社会にどんな影響を与えていきたいですか?

まずは、学校が合わなくて悩んでいる子どもやその家族に対して、新たな選択肢を届け、希望を持ってもらうことを第一にしたいです。次に、今後SOZOWスクールの認知度を上げていくことで、学校に通えている子どもにとっても、公立・私立校などと並ぶ選択肢の一つにしたいと思います。

それから、人手不足と少子高齢化で成り立たなくなってきた地方の教育インフラにもなりたいと考えています。生徒も先生も少ない地域で、SOZOWスクールを活用したオンライン教育を提供できたら効率的ですよね。そのためには、カリキュラムを整えたり、出席認定の基準を作ったり、SOZOWスクールの学びが学校の成績として認定される仕組みが必要だと思います。多様な学びのかたちが認められる社会を実現していきたいです。

最後に、もう少し大きな話をすると、最終的にはボーダーを飛び越え、世界的な教育インフラを構築することを目指しています。国内だけではなく、海外のお子さんにも利用してもらったり、国内の子どもが海外の子どもや大人とつながって学べるような、次世代の学びの場を作り上げることを夢見ているんです。

 

SOZOW株式会社  https://sozow.com

 

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    企画・編集

    佐藤史紹

    フリーの編集ライター。都会で疲弊したら山にこもる癖があります。人の縁で生きています。趣味はサウナとお笑い芸人の深夜ラジオ。

     

    取材・執筆
    白鳥菜都

    ライター・エディター。好きな食べ物はえび、みかん、辛いもの。

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