子どもたちの好奇心を解き放つオンライン上の学びの場。公教育が持つ課題をカバー
インタビュー

子どもたちの好奇心を解き放つオンライン上の学びの場。公教育が持つ課題をカバー

2021-10-12
#教育

一人ひとりがビジョンに向けて進める世界を創るべく、子どもたちの好奇心や創造性を育むオンライン教育サービスを展開するGo Visions株式会社。代表取締役の小助川将は、自分の娘が不登校になったことをきっかけに、公教育について調べ、制度の大枠が150年も変わっていないことに驚いたという。現在の公教育が担えない役割を果たし、さらに多くの子どもたちへ新たな学びの選択肢を提示したいそうだ。サービスの着想から今後の展望までを詳しく伺った。

【プロフィール】小助川 将(こすけがわ まさし)
2003年に慶應大学を卒業後、経営コンサルタントとして5年間勤務。事業再生やM&Aの戦略立案に携わる。そんな中、新規事業に関わったことをきっかけに、大学時代に抱いた「事業家をやってみたい」という気持ちを思い出し、リクルートへ転職し、新規事業の立ち上げ等へ従事。その後、GREEやLITALICOを経て2019年6月にGo Visions株式会社を起業した。

好奇心から始まる自主的な学び

ー現在の事業について教えてください。

小学生・中学生を対象としたオンライン上の学び場『SOZOW』を展開しています。オンラインライブで行うコンテンツ配信では、映像制作を学ぶ『YouTuberになろう』やビジネスを学ぶ『起業家になろう』、経済・金融を学ぶ『めざせ!お金マスター』という風にさまざまなジャンルを取り扱っており、コンテンツジャンルは8つに広がりました。また、その道のプロからお話を聞ける『プロLIVE』も月に1~2回開催しており、過去にはプロゲームクリエイターやロボットクリエーターの方にお話いただきました。人との出会いによって人生が変わることって多いと思っているので、子どもたちがいろいろな大人と出会える場所を設けています。

学校の授業と違って子どもたちは自分の興味のあるコンテンツを選んで参加するので、1コマ70分程度と、学校の授業と比べるとかなり長時間の内容となっていますが、子どもたちはみんな楽しんで参加してくれています。

その他に、slackやバーチャルキャンパスを活用して、子どもたち同士が繋がれる場所を作っています。ここでは同じ分野に興味を持つ子どもたちが会話やチャットをでき、それぞれが作った作品を展示したり、一緒にプロジェクトを始めたりもできるようになっています。最近だと『めざせ!お金マスター』で投資に興味を持った子が未成年口座を作って投資を始めました。子どもたちがここまで自発的に行動してアウトプットしている環境は、他ではなかなか無いのではないかと思います。

子どもたちの好奇心を育む多様なジャンルのコンテンツ

 

ーSOZOWならではの特徴的なコンテンツはありますか?

ビジネスや金融といった、生活に身近だけど学校では学ばないような領域です。将来何かやりたいことがあるときに、ビジネスやお金って手段になるのでぜひ学んで欲しいという想いがあります。あとは、映像制作です。都内だと映像制作を学べるスクールもありますが、全国的に見るとほとんど無い。『YouTuberになろう!』は特に人気のコンテンツです。みんな無料のソフトを使ってバンバン成果物を出してきますよ(笑)。

 

ー動画制作や金融など専門性の高いコンテンツも多いと思いますが、どのようにコンテンツ作りをされているのでしょうか?

例えばクリエイターの方など、その道の専門家の方にインタビューさせていただいて、それを私たちの方でコンテンツ化しています。各分野の知識がある人が、子どもが夢中になれるコンテンツを設計できるかというと必ずしもそうではないですよね。専門家の方々のお話などを参考に、私たちのチームのノウハウを生かして、子どもたちが楽しめてかつ本質的な学びも得られるように設計しています。

どのコンテンツでも共通することですが、子どもたちに対して「正解のない問い」を投げかけるようにしています。最初は慣れなくてなかなか答えられなかった子も、他の子どもたちのアイデアに触れることで「簡単なアイデアでもいいんだ」と感じて、積極的にアイデアを出せるようになっていきます。子どもたちの発想力にはいつも驚かされますね。また「他の人と同じ意見じゃなくてもいいんだ」と感じることで、多様性を理解していく場にもなるように設計をしています。

 

ー子どもたちの集中力やモチベーションを継続させるために工夫していることはありますか?

前提として、SOZOWでは子どもたちが自分で興味のあるコンテンツを選んでいることが挙げられます。自分で考えて、どんなコンテンツを取るか意思決定している。だからこそ、自分の好奇心をどんどん深められるようになっています。

また、子どもたちが主体的に考えたり、手を動かしたりすることのできる設計にしています。もちろんティーチング型のコンテンツもありますが、話を聞いて終わるだけではありません。各オンラインライブの最後に、毎回ホームミッションと呼ばれる課題を出題しており、自宅でさらに学びを深められるようになっています。さらに、slackやバーチャルキャンパス上での友人との繋がりや作品発表も子どもたちのモチベーションに繋がっていると思います。

slackでは友達と繋がったり、作品を発表したりできる

 

自分で考え表現する経験が、将来を切り開く

ー起業するにあたって、教育のどういった部分に課題感を持たれていたのですか?

起業する前の話ですが、娘が「学校に行きたくない」と言うようになったことがありました。そこで日本の教育システムを調べてみたのですが、日本の公教育制度って、明治維新以降150年間ほとんど変わっていないんですね。「社会はこんなにも変化してきたのに」と驚愕したのが最初に教育に対して課題感を持った出来事でした。

日本で若者の自殺率が高かったり、少子化が進んでいるにもかかわらずいじめや不登校が増加していたりする現状があります。画一性や同調圧力を正とし、知識を詰め込んでいく教育のシステムがすでに制度疲労を起こしていると思うんです。そういった価値観によって、子どもの好奇心の芽を親や社会が摘んでしまっているのではないかと思って。だからこそ、SOZOWでは「子どもの好奇心と未来の可能性が広がる社会」を作ろうとしています。子どもたちが自ら行動し、アウトプットしていく新たな学びを提供することで、しっかりと自分の頭で考えて自分の人生を切り開いていける人になっていってほしいです。

 

ーそういった課題を持たれてから、どのようにして今のサービスの形を作っていったんでしょうか?

最初はオフラインの教育事業から始めました。3Dプリンタ体験やプログラミング体験といったさまざまなコンテンツのブースを出し、子どもたちに興味のあるものを自由に体験してもらう事業です。池袋サンシャインでイベントを行った際は、5千人くらいの方に来ていただきました(実は1万2千人を超える応募をいただいたのですが会場キャパシティの関係から抽選で人数を絞りました)。イベントを通じて自分の興味を知り、未来にワクワクしたり、選択肢の多さに気付いてほしいという想いがありました。そういう意味ではオンライン事業にピボットした今でもコンセプトは変わっていません。

日本は他の先進国と比べるとデジタルリテラシーが低く、オンラインでの教育事業は難しいだろうなと考えていましたが、コロナ禍でデバイスを購入する家庭が増えたり、学校の授業もオンラインになったりしました。大規模なイベントを行うのも難しい状況だったので、新型コロナウイルスの流行を期にオフラインだったものをオンライン化したという流れです。

 

ー具体的にはどのようにして今のサービスの形が完成していったのですか?

2020年の5月くらいにオフラインの事業は一旦ストップさせて、オンラインに転換する意思決定をしました。6月から開発を始め、2ヶ月間でかなり作り込んで、8月にはトライアルを実施しています。オフラインのイベントの参加者を対象にオンラインライブを体験していただき、サービスの検証を行いました。200名ほどに体験していただいたのですが、かなり好評で手応えがありました。そこからはひたすらコンテンツを量産して、今年の1月にサービスリリースとなりました。リリース後もコンテンツは作り続けており、また既存コンテンツのもブラッシュアップしています。

オフラインイベント『Go SOZO』※2020年2月のお写真です

 

子どもたち起点でサービスが広まるように

ーどういった方がサービスを利用されていますか?

大きく3つに分かれると思っていて、1つが教育熱心なご家庭のお子様です。学習塾に通っていたり、中学受験を目指していたりするような子たちですね。受験の難関校でビジネスやプログラミングの考え方を重視するようになってきているんですね。そういった背景もあり、教育熱心なご家庭の方に利用いただいています。2つ目が、地方や海外に住まれていて、なかなか良い習い事が無いという方々です。最後に、不登校の子どもたちです。SOZOWは家から参加できますし、画面オフでも参加もOKにして参加しやすい仕組みにしています。

例えばこの作品は、小学3年生〜中学2年生の子ども、約20名が協力して作った夏祭り会場です。異学年で協力して、さらに不登校の子や、離島に住む子など多様な子どもたちが一緒に作ったものです。いろいろな環境の子どもたちが一緒に学べる場になっています。

 

ーサービスを利用されている子どもたちや親御さんの声を聞かせてください。

学校だと趣味について話せる人が居ないけれど、SOZOWで同じ興味を持つ友達ができたという話を聞いたときは、私も嬉しくなりました。あとは、ほかの子たちのアイデアや作品を知ることができるので、すごく参考になると言ってくれる子も多いです。

親御さんは、子どもたちがオンライン上で繋がって、自分たちでいろいろとアウトプットを出していることに驚かれる方が多いですかね。また、自分が子どもだったころと比べて、学びの在り方が大きく変わっていることを実感して、これまでの教育のやり方に疑問を持ち始める方もいます。「コロナ禍でリアルでの習い事がお休みになってしまったから、SOZOWを1回試してみるか」と体験される方も多いのですが、みなさん子どもたちの好奇心やオンラインの可能性に驚かれます。

 

ーリテラシーが高いご家庭には、サービスの情報が届きやすいと思うのですが、そこからさらに幅広い層にサービスを届けるために工夫していることがあれば教えてください。

子どもに向けてアプローチする方法に取り組んでいます。例えば学校で配られるフリーペーパーに広告を載せることで、それを見た子どもが興味を持って親御さんに「やってみたい」とお願いする子ども起点の集客ができます。今後はYouTube広告も始めようと思っています。サービス内容が子どもの目に触れて、興味を持ってくれた子が参加してくれるようになると嬉しいです。

また、学習塾やショッピングセンター、教育メディアなど、小中学生やその家族をターゲットにしているような企業と組んで、フランチャイズや販売代理店のような形で提供するモデルも始めようと思っています。10月に関西の大手学習塾と連携する予定です。

 

ー学習塾や教育メディアとは競合しないのでしょうか?

教育界全体が、テストの点で測れる”認知能力”だけでなく、好奇心や創造性、主体性といったテストでは測れない”非認知能力”に重きを置き始めました。大学入試も傾向が大きく変わり、推薦入試や総合型選抜入試の枠が増加しています。この流れを受けて、学習塾や教育メディアは、子どもの”非認知能力”を高めるサービスを展開していきたいという想いがあるものの、これまで経験のない領域なので難しいという課題がありました。それであれば私たちと協力して、お互いの得意分野で子どもたちの能力を伸ばしていきましょうという話になったんです。知識だけでない”非認知能力”の重要性を共通認識として持っているからこそ、連携することができました。

 

ー教育事業ならではの難しさはありますか?またその難しさをどうやって乗り越えていますか?

BtoCの教育事業の一番の難しさは、サービスを利用する人(=子ども)と、購買の意思決定をする人(=親)が違うことだと思います。親世代だと「大学に行けばなんとかなるでしょ」という価値観がまだまだ強くて。ただこれまでの偏差値至上主義に疑問を持ち始める方も増えてきて、教育業界や教育メディアなども「これからは好奇心や探究心が大切だ」「知識を詰め込むだけの教育では主体性は生まれにくい」という風に変わってきているので、親世代の価値観をアップデートすることが大事かなと思います。

 

受け皿から、新たな潮流を生み出す場へ

ー今後の事業展開について教えてください。

オンラインの通信制の高校は増えてきていますが、小中学生が対象のオンラインスクールはまだ少ないので、その領域に展開していきたいと思っています。また、自由進度という考え方があって、小中学生でも興味のある科目や分野であれば、先取りして高校や大学の範囲を学ぶことができます。実はすでに日本の著名大学などの講義を受けられる仕組みを整え始めています。

学びって、これまでの画一的な方法だけじゃなくて、内容も学び方も人それぞれでいいですよね。例えば、同じ基礎科目の勉強だとしても、本を読んで学ぶ子のが得意な子もいれば、アニメーションを見て学ぶのが得意な子もいる。もちろん進度だって各々のペースでいいんです。1万人いたら、 1万通りの学び方を提供できるサービスを作っていきたいと思っています。

 

ー現在の日本の教育システム上、公教育が占める役割がかなり大きいと思います。そんな中、私教育にはどのような役割があると思われますか?

私教育の対象や内容にもよりますが、Go Visionsでは2つの役割を担っていきたいと思っています。1つが公教育の枠からはみ出した子たちの受け皿になることです。今の公教育は、生まれた地域の公立学校へ通うのが一般的です。もしそこが合わなかったら、引っ越して転校するか、私立学校へ編入する選択肢しかありません。どちらも経済的な家庭の負担が大きくなってしまいます。私たちは、公教育の学校と違って、校舎などの設備を持たない分、授業料を安く抑えることができます。さらに、それぞれに合った学び方を選択できる。したがって、不登校の子や経済的に私立受験は難しかった子の第三の選択肢になれるのではないかと思います。

もう1つは、社会を変えていく大きな潮流を生み出す役割です。私は、時代を変える動きは、辺境の地から始まると思っています。明治維新で中心となった薩摩や長州も、時の都であった江戸からは遠く離れた地でしたよね。みんなと同じ意見では、大きく世界を変えていくことはできない。変わり者だと言われている人や、マイノリティと括られる人が世の中を変えていくと思います。今はまだ学校に行かずオンラインで授業を受けていると言うと、良く思われないこともありますが、10年後には有名私立学校と並ぶくらい、人気でスタンダードな学びの手段になっていると思います。

 

ー事業を通じて目指したい社会はどのようなものですか?

一人ひとりがビジョンに向けて進める世界を創りたいと思っています。ビジョンというと壮大に聞こえるかもしれませんが、目標ややりたいこと・好きなことに向かって踏み出せるかどうか。一歩踏み出したときに、周りの人が「いいじゃん、がんばって」と応援してくれるような社会だと素敵ですよね。応援してもらえると自信もついて、ますます自分の好奇心の向く方向に踏み出しやすくなる。それぞれが自分で意思決定をして自分の人生を切り開いていける。そんな社会を作っていきたいと思います。

SOZOW ​​https://www.sozow.net/
Go Visions株式会社 https://go-visions.com/

*記事はインタビュー時点での事業内容について記載しています

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    interviewer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

     

    writer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

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