コーチング×カウンセリングで社会起業家の持続的な挑戦を支えるーーhal・cotree連携の狙い
対談

コーチング×カウンセリングで社会起業家の持続的な挑戦を支えるーーhal・cotree連携の狙い

2024-01-16
#メンタルヘルス

起業家のメンタルヘルスやウェルネスへの関心が高まる昨今。社会起業家に特化したコーチングサービス「Social Coaching(ソーシャルコーチング)」を展開するhal株式会社は、オンラインカウンセリング・コーチングの「cotree(コトリー)」を展開する株式会社cotreeとの連携を発表した。halのコーチングを利用中の社会起業家は、月2回まで無料でcotreeのカウンセリングを受けることが可能になる。

コーチングとカウンセリング、切り口の違う対人支援を提供する2社は、なぜ連携に至ったのか。連携の背景を伺うことで、メンタルヘルス支援にまつわる課題感と、社会起業家に求められるメンタルヘルスケアの在り方を紐解く。

【プロフィール】

山田瑠人(やまだ りゅうじん) 写真左

1996年生まれ。神戸大学在学中には教育事業などの様々な社会活動に携わってきた。デンマークへの視察渡航をきっかけに、対話や持続可能な人と社会へ関心が広がり、2021年にコーチング事業を行うhal株式会社を京都にて設立。現在は、社会起業家向けサービスSocial Coachingの運営や、NGO組織でのコレクティブインパクト促進のファシリテーター、法人向けのコーチングやワークショップの事業を行う。

山田さんの過去の対談記事はこちら:【山田瑠人×中村多伽】hal株式会社設立。コーチングなどの対話を用いて、誰もが真の安心から生きられる世界を

 

西岡恵子(にしおか けいこ) 写真右

1990年生まれ。静岡県浜松市出身。同志社大学法学部卒業後、森永製菓株式会社、株式会社サイバーエージェントを経て、コネヒト株式会社に参画。事業開発・マーケティングを強みとし、ママ向けアプリのママリの事業責任者としてビジネスグロースからサービス戦略設計に従事。大企業からベンチャーまでの経験を軸に、フリーランスとして複数社の事業戦略・マーケティング支援を行いながら、2021年cotreeに参画。2022年1月に代表取締役に就任。

 

人によって必要なメンタルヘルス支援は異なる

ーーまずはhalとcotreeの事業内容について教えてください。

山田:halは「誰もが真の安心から生きられる世界」をビジョンに掲げ、社会起業家に特化したコーチングサービス「Social Coaching」の運営や、組織開発・リーダーシップ開発などのコンサルティング事業を行っています。

 

山田:経営者としての孤独感や、社会課題に挑む難しさを感じている社会起業家に対して、「一人ひとりの相棒をつくる」という思いでサポートしているんです。そのため、伴走役となるコーチの採用・育成は、どれだけ社会変革の想いに寄り添い、共鳴できるかを重視しています。

現在25名以上のコーチが在籍し、サービス開始1年で70名以上の起業家の方に、250以上のセッションを届けてきました。

西岡:cotreeは「メンタルヘルスのインフラを創造する」をビジョンに掲げる、日本最大級のオンラインカウンセリングサービス「cotree」を運営しています。登録カウンセラーは220名以上で、様々なお悩みに向き合ってきました。

 

西岡:コロナ禍を経て、メンタルヘルスケアへの関心がかつてないほど高まる一方、「どこへ相談したらいいのか分からない」という方は少なくありません。メンタルヘルスケアが当たり前になり、助けを必要とする人が、すぐに誰かを頼れる社会にしていきたいと考えています。

 

ーーコーチングとカウンセリングを展開する両社が、連携に至った経緯を教えてください。

山田:前提にあるのは「コーチングとカウンセリングの区分けが難しい」ということです。一般的にコーチングは「未来」を扱い、カウンセリングは「過去」を扱います。抱えている問題を解決したい、不調を和らげたいならカウンセリング、ビジョンを描きたい、未来に向けて行動変容したいならコーチング、というのがよくある整理。

 

山田:しかし、どちらが自分にとって必要なのかを、自分自身で見分けるのは簡単ではありません。halのSocial Coachingを受けてくださる社会起業家のなかにも、せっかくコーチングを受けているのに、メンタルケアに終始してしまうケースなどもありました。

そこで、利用シーンをわけることにより、少しでもわかりやすくしたいと考えたのが今回の連携です。コーチングが必要なら私たちのサービスを、カウンセリングが必要ならcotreeさんのサービスを利用いただけるようにと考えました。

西岡:経緯としては山田さんのおっしゃる通りです。加えて、cotreeの視点から言えば、今回の連携は「これまでアプローチしづらかった社会起業家・起業家の方に、カウンセリングの価値を届ける」狙いがあります。

以前から「メンタルヘルスのインフラを創造する」というビジョンを実現する上で、メンタル不調に陥りやすい起業家・社会起業家の方にケアを届けたいと思っていました。2018年にアメリカで行われた研究によると、起業家は非起業家よりも、うつ病は約2倍、ADHDは約6倍、物質(アルコール薬物)依存は約3倍、双極性障害は11倍の発症率と言われています。しかし、そうした方々が自らカウンセリングに来てくださることは多くありません。

なぜなら、カウンセリングを受けることにまだ高いハードルがあるからです。自分の弱さを自分で認めたり、周囲の人や社会に知られて期待されなくなることを嫌がったりする方、悩みが解消され挑戦の原動力がなくなることを懸念する方もいらっしゃいます。

社会起業家からの信頼が厚いhalさんから勧めていただければ、本当に必要としている方にカウンセリングが届けられるのではないかと思い、連携させていただきました。

 

コーチングとカウンセリングの交互利用が効果的

ーーコーチングとカウンセリングの両方を受ける方もいるかと思います。二つを組み合わせることによる相乗効果はありますか?

山田:一言で言えば、「起業家の持続性を高める」と考えています。たとえば、本来カウンセリングによってメンタル不調を回復する必要のある方が、コーチングで無理やり前を向こうとするのは健全ではありません。どこかで限界にぶつかってしまいます。

不調のときはカウンセリングを受け、まずは心を回復させる。その後コーチングを受け、安定した心で力強く未来を描く。その繰り返しによって、メンタルヘルスを保ちながら挑戦を続けられると思います。

西岡:実際、私自身もカウンセリングとコーチングを3週間ごとに、交互に受ける生活をしています。事業を進めるなかで生まれる“もやもや”した感情を、カウンセリングによって吐き出し、とにかく聞いてもらう。頭や心を整理した後、その“もやもや”を事業や社会にどうつなげるかを、コーチの伴走のもとで考えていく。

コーチングの時間があると思うと、カウンセリングのときに安心して自分自身の話やケアに集中することができます。

そんなサイクルを続けた結果、メンタルのアップダウンはほとんどなくなりました。また、なんでも相談できる場所があるという安心感が、挑戦を後押ししてくれると感じています。

 

ーー起業家の方にとって「なんでも相談できる」相手は貴重なんですね。

西岡:起業家の相談内容は、事業やお金、人のことなど周囲の人に話しづらいテーマもあり、一人で抱え込んでしまう方も多くいます。

経営者という肩書きや、強くあろうとする鎧を脱ぎ、フラットに相談できる機会が必要なんです。なので、cotreeのカウンセリングは匿名、顔出しなしで受けられるようになっています。たとえば、有名人であっても安心してご利用いただけます。日々の役割や立場から解放されて、自分の心に素直に向き合える場所になっているんです。

山田:コーチングにおいても、肩書きや鎧を脱ぐことは大切。オープンに本音を話していただくほうがコーチも伴走しやすく、その人が本当に望む未来を描きやすいからです。カウンセリングで鎧を脱ぐ練習をすることで、コーチングを受けたときの効果が高まるといった相乗効果も考えられます。

 

原体験への執着、周囲からの期待——社会起業家ならではのメンタル課題

ーーここまでは社会起業家に限らず、起業家全般に当てはまる話だったと思います。あえて社会起業家に着目した場合、どのような特徴や課題があると思いますか?

山田:社会起業家のなかには、社会課題の当事者としてのトラウマ的な原体験による「痛みや怒り」が原動力になっている方が少なくありません。痛みや怒りは事業を推進する上での大きなパワーとなりますが、そこに執着してしまうことにはリスクがあります。

痛みや怒りを健全に受け入れた経営者と、そうでない方の経営には違いが出ます。執着している場合の基本的なOSは「自分がなんとかしなければいけない」というもの仲間を信頼することや、安心をベースにした組織運営がしづらいと悩まれる方も多いと感じます。

西岡:過去の痛みや怒りを「自分だけのもの」と思いすぎると、ビジネスに広がりを持たせづらくなるかもしれませんね。ビジネスとして他の人の課題を解決したり、社会に受け入れられたりするためには、課題認識や解決策が独りよがりにならないことが大切。

カウンセリングにより痛みや怒りを受容していくことで、自分の経験を客観的、多角的に見れるようになっていくそうすれば、自分だけではない、さまざまな人の痛みを解消するビジネスを生み出すことにつながるのではないかと思います。

 

ーー環境問題に取り組む社会起業家など、トラウマ的な体験があるわけではない方の場合はどうでしょう。抱えやすい特有の悩みはありますか?

山田:社会起業家の特徴として、創業後の早い段階から周りの期待を集めやすいという点があげられます。社会課題に取り組むこと自体が、応援されやすいからです。世間からヒーロー扱いをされる一方で、解決すべき大きな社会課題と目の前の現実とのギャップに苦しむことはよくあります。

西岡:他には、社会起業家というだけで「良い人」のラベリングをされてしまうことも、悩みの種になりそうですね。私生活から清廉潔白が求められるというか。いつ誰から見ても良い人でいようとするあまり、ストレスを抱える社会起業家は多いと思います。

山田:メンタルに不調を抱えながら挑戦を続けている社会起業家は少なくありません。そのこと自体を悪いとは思いませんが、「限界が来てしまう前に、第三者に頼る」という選択肢が、もっと広がってくれたら嬉しいです。

 

経営に「メンタルヘルス・リテラシー」を

ーー連携開始から約3ヶ月が経ちますが、手応えはいかがですか?

西岡:すでに15名以上にサービスをご利用いただいています。これは想像以上の反響で、それだけ社会起業家の方に求められている連携だったのだと手応えを感じています。

「話す」だけではなく、「書く」カウンセリングも利用できる

 

山田:早速、利用された社会起業家の方からも、よい評価をいただいています。なかには、無料カウンセリングの結果、メンタルにおける課題が明確となり、より具体的なケアのプログラムに進んだ方もいました。

 

ーー今後はどのように展開していきたいですか?

山田:今は経営者向けのサービスですが、彼らの事業が成長し、やがて会社が大きくなれば、社員の方に対するメンタルヘルスケアも実践していきたいです。経営者を中心に、メンタルヘルスケアを提供する範囲を社会全体へと広げたいと思います。

その先に、メンタルヘルス・リテラシーがファイナンシャル・リテラシーと同等に扱われる社会を描いています。事業継続のために黒字を目指すのと同じように、メンタルが赤字にならないような経営を実践していく。その考え方や手法を学ぶための環境も提供できるようにしていきたいですね。

西岡:事業のことは事業の専門家に相談するように、心のことは心の専門家に相談するそれが当たり前の社会になってほしいです。

そのため、悩みを抱えたときに誰にどう相談したらいいのかがすぐにわかる「メンタルヘルスの全体地図」を作るのがcotreeの役割。私たちだけではできることに限りがあるので、halさんとの連携をはじめ、医療機関や自治体などさまざまな分野のプレイヤーとの連携を進めていきたいと思います。

山田:メンタルヘルスケアは特別なことでも、ネガティブなことでもありません。社会起業に挑戦するすべての人に、この価値を届けていきたいです。

 

※Social Coachingでは、審査を通過するとプロボノコーチング(無償)を3ヶ月間受けていただくことが可能です。パフォーマンス向上、事業・組織の壁打ち、リーダーシップ開発等のトピックでお使いください。まずは代表山田との面談までお申し込みください。
https://socialcoaching.jp/

 

※cotreeでは2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震の被害に対する支援を行っています。被災者の皆様向けに無料でオンラインカウンセリングを提供するなど、メンタルヘルスの支援を行っています。詳細は特設ページをご覧ください。
https://mental-support.studio.site/noto_earthquake2024

 

hal株式会社:https://hal-dialog.co/

株式会社cotree:https://cotree.co/

 

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企画・編集

佐藤史紹

フリーの編集ライター。都会で疲弊したら山にこもる癖があります。人の縁で生きています。趣味はサウナとお笑い芸人の深夜ラジオ。

 

執筆

今村菜穂子
まちづくり、イベント企画、ライターなどでフリーランスとして活動中。炊き立てのお米の匂いでご飯が食べられます。

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