【山田瑠人×中村多伽】hal株式会社設立。コーチングなどの対話を用いて、誰もが真の安心から生きられる世界を

2021年4月、社会起業家支援を行う株式会社talikiが100%出資する形で、hal(ハル)株式会社を設立した。対話と自己理解を通して「人生を学ぶ」、生き方テラコヤを運営してきた、hal株式会社代表取締役・山田瑠人。今後も事業継続する生き方テラコヤに加え、法人向けのコーチングやワークショップの事業も展開する。株式会社taliki代表取締役・中村多伽との今回の対談では、事業によってアプローチしたい若者の心の問題や、会社設立に至った経緯について聞いた。

【プロフィール】

山田 瑠人(やまだ りゅうじん)

1995年生まれ。大学時代は塾の運営など教育に関わる様々な活動に携わってきた。デンマークでの視察から着想を得て、2019年に対話と自己理解を用いた「人生を創造する学校」がコンセプトの生き方テラコヤを創業。ワークショップやコーチングを通して自分自身を深く理解し、人生を方向付けるプログラムを運営してきた。2021年4月にhal株式会社を設立。

 

山田さんに「生き方テラコヤ」について聞いたインタビュー記事はこちら:

対話を生活のインフラに。自分らしく生きるための人生の学校とは

 

中村 多伽(なかむら たか)

2017年に京都で起業家を支援する仕組みを作るため、talikiを立ち上げる。創業当時から実施している、U30の社会課題を解決する事業の立ち上げ支援を行うプログラム提供に止まらず、現在は上場企業のオープンイノベーション案件や、地域の金融機関やベンチャーキャピタルと連携して起業家に対する出資のサポートも行なっている。

 

株式会社taliki代表取締役・中村のインタビュー記事はこちら:

経済的成功はgiveの精神から【前編】

ミレニアル世代からZ世代の若者の、心の問題にアプローチする

ーまずは、今回設立したhal株式会社で、どんな事業を行っていくのか教えてください。

山田瑠人(以下、山田):個人向けのコーチングと、法人向けのコーチング・組織開発サポートを展開し、ミレニアル世代後半〜Z世代の若者の心の問題にアプローチしていきます。まず個人向けコーチングは、「生き方テラコヤ」としてやってきたことの継続という形です。動画コンテンツやワークショップ、コーチングを通して、自分について理解を深め、今後の人生の方向づけをしていくためのサポートを行っていきます。一方で法人向けコーチングは、ワークショップやパーソナルコーチングという手段こそ似ていますが、組織開発や業績アップへの貢献という側面も強いのが特徴です。

山田さんに「生き方テラコヤ」について聞いたインタビュー記事はこちら:
対話を生活のインフラに。自分らしく生きるための人生の学校とは

中村多伽(以下、中村):瑠人が対話の事業を会社でやりたいと思ったきっかけは何だったの?

山田:これまでやってきた「生き方テラコヤ」だけでは対話が当たり前の社会を作っていけるイメージができないと思い始めたことがきっかけでした。元々個人事業として展開していたのですが、コーチングや対話に共感してくれる身内の域を出ないという危機感があったんです。元々、準備ができたら法人格を持って展開しようと考えてはいたんですが、僕自身「準備ができてから」だと永遠に準備ができないタイプで(笑)。それで何かきっかけを探している中で、2019年から生き方テラコヤと並行してtalikiのインキュベーションプログラムをお手伝いさせていただいていて。事業計画を作るという部分での対話をする中で、talikiと組んで起業家さんのコーチングができたら面白いんじゃないか、と思って多伽さんに相談させてもらったんです。talikiと協業することで、多様性のある協力者を巻き込みながら事業・会社として成長していき、対話がもっと当たり前の社会に近づくことができるのではないかと思ったんですよね。

中村:起業家さんご本人だけでなく、組織のメンバーにとってもコーチングを受けるメリットがあると考えています。組織内やステークホルダーのみとのコミュニケーションと違って、halからコーチングを受けることで、評価などと無関係かつ客観的な第三者の視点から個々人が自分の状態を把握することが出来ます。talikiのメンバー3人で試験的にhalのメンバーからコーチングを受けたことがあるのですが、第三者であるhalのコーチからの問いかけに返答をする形で、自分の状態をフラットに見つめて各々の会社の中で目指すものに気づくことができたと思っていて。スタートアップではメンバー全員が自走してくれないと困るような環境なので、内部で教えたり指摘したりすることにたくさん時間を使える訳ではないんですよね。だからこそ、対話を通して自分で気づいてもらうというのがとても大事だと感じました。

 

心理的安全性を担保し、対話の活性化を促す

中村:halのコーチングでは、全員に対してフェアに接してくれていたのも印象的だったな。従来のビジネスコーチングって経営者向けのものが多くて、上に立つ人間としての痛みを解消するものになりがちだと思うんです。その点halは会社内での役割や部門ありきでなく、全員に平等な立場で語りかけてくれていたので、心理的安全性*を担保できていたと思います。

*心理的安全性・・率直な意見や素朴な疑問、そして違和感の指摘がいつでも、だれでも気兼ねなく言える状態を指す。(参考:チームの生産性が上がる環境 「心理的安全性」とは

山田:心理的安全性はまさに意識しているところです。フィンランドの「オープンダイアログ」という心理療法を参考にしているのが大きいと思います。オープンダイアログでは専門家と患者、家族などの関係者が円になって、「専門家」「父親」などのそれぞれの殻を脱いだ状態で1人の人間同士として対話をする場が用意されるんです。全員フェアで対等になるからこそ、率直に意見を言うことができて心理的安全性につながるという考え方で、halのコーチングに大きな影響を与えています。この心理的安全性という概念は巷では「緩い」とか「ケアし合う」といった誤解をされているんですが、そうではないんですよね。率直に話し合うことが目的なので、むしろ活発な議論が巻き起こる想定で運用をしています。

中村:どうしてコーチングのサービスを作るのに心理療法を参考にしたの?

山田:僕自身が適応障害で苦しんだこともあって、健康な精神を持っていることを前提にしたコーチングには少し違和感があったんですよね。僕たち若い世代って、全体としては漠然とした抑うつ感を抱えている世代だと思っていて。生まれた時から日本社会は低成長が続いていますし、希望を見出しづらいじゃないですか。SNSネイティブの世代ということもあり、成長率の高い他国などの状況と比較をしてしまうことも避けられません。価値観が多様化している一方で、上の世代からの価値観の押しつけを感じるようなタイミングも多かったりして、不満を抱える場面も多いと思います。僕が1995年生まれの「ゆとり世代」なのでこうした不満を抱えやすいという部分はあるかもしれませんが(笑)。それで、若い世代の抱える不安感や心の問題にアプローチできる形に作り変えたコーチングをやりたいという気持ちが生まれたんです。

参考にした精神療法の「オープンダイアログ」は、コーチングに比べて人間の精神の病みを対象にしているというだけあって、人間をより重層的でゆらぎのあるものとして検討していると思います。そういった「人生全体」「人間全体」「生命全体」を扱う文化はユーザーさんからも好評ですね。深く、かつ幅のあるコミュニケーションを取れることで、自分のことを過度に押さえつけたり拡張したりすることなく自然に向き合うことができるという声をいただいています。「私がわたしである実感」とも言い換えられるのではないかと思います。

 

対話による自己理解を社会のインフラに

ー事業を展開していく上で、現時点で定められている目標などはありますか?

山田:会社設立の前から言い続けていることですが、対話を社会のインフラにしたいと思っています。そのために定性的な目標としては、サービスを利用するかどうかはさておき、「生き方テラコヤ」を4年制大学に通っている人全員が知っているようなサービスにしたいですね。それくらいの規模になれば、対話が当たり前の社会になっていくと思います。定量的な目標では、累計1万人の卒業生を輩出するというところを目標にしていきます。

また新しくスタートさせる法人向けのコーチングに関しては、まずはtalikiが運営する社会起業家向けのインキュベーションプログラムの中で実験を重ねていきたいと思っています。臨床心理士さんなどとも協力しながら、社会起業家さんが自分のストレスに気を使えるようなサービスを展開していきたいと考えているところです。

中村: 今回の子会社という位置付けにより、talikiでZ世代の社会起業家支援をする時は常に連携していきたいと思っています。

山田:そうですね。またtalikiのインキュベーションプログラムに参加される起業家さんは創業初期段階の場合が多いと思うのですが、もう少し成長して組織が固まってきた企業を対象に、20社くらい支援をできればと考えています。具体的には半年から1年くらい支援期間を定めて、組織課題を特定し、伴走しながら課題を解決していきます。

 

事業成長だけでなく、起業家の精神面リスクをケアする

ー起業家支援の会社であるtalikiが、対話の会社であるhalを子会社にすることにした意図はどんなものだったのでしょうか?

中村:起業家支援の事業をする中で、起業家の精神面の負担という課題を解決することが不可欠だと思っていたためです。例えば学生起業など若くして起業した人は、経験もなくいきなりビジネスの競争環境に飛び込むことになります。プロの経営者との競争に投げ出されると、「どうしてこんなに上手くいかないんだろう」「どうしてこんなに知識がないんだろう」といった自分を責める感情を持ってしまいがちです。加えて私たちが支援している社会起業家たちは、極めて重い「社会課題解決」というテーマも背負わなければなりません。起業家としての痛みと社会課題に向き合う痛みを同時に背負う状態って、精神的負担が大きすぎるんです。taliki創業当初は、起業家のメンタルケアに関しても私が積極的に対応していたのですが、悩みを聞く私の方まで辛くなってしまって。それで、表向きは「メンタルケアも対応します」といったメッセージを発信することはやめてしまったんです。ただメンタルケアの部分で対応する手段を持っていないことがずっと心残りになっていたんですが、今回瑠人から「対話の会社をやりたい」と相談を受け「必要だと思っていたことができる」と思い、より密な連携をするために子会社としての設立を決めました。

ファンドもあるのでそこからの出資も考えたのですが、1出資先としての会社というよりも、事業や実務のレベルで連携してお互いの効果を最大化したいという共通認識が2人の間にあり、100%出資の子会社という形になりました。先ほども少しお話ししたように、起業家の精神面の支援はtalikiの機能の一つとして持っていたいという思いがあったんです。

山田:僕は今までtalikiを見ていて、本当に素敵な起業家さんがたくさん集まってくるなと感じていて。起業家コミュニティを作ろうとされているわけではないのにコミュニティができているのは何故なのかというと、talikiが起業家さんに人として向き合ったり、寄り添ったりすることを諦めないからなんだろうと思います。一方でこれからtalikiの事業規模が大きくなっていく上で、より支援先の事業の成長という側面に向き合う時間が多くなっていくと思うので、生き方テラコヤで精神面のサポートに全振りしてきた僕が起業家に人として向き合うという部分を補完していきたいと考えています。

中村:まさにその通りで、事業面と人の面、両方を見続けるということは難しいんだよね。talikiは世間的に「優しい」会社というイメージを持たれがちだけど、それが「成長しなくてもいい」というメッセージにも取られかねないので、事業成長も大事にしていくということは言っていきたいんです。ただ、事業成長と人としての存在肯定のどちらもないと起業家は事業を続けていけないと思っていて。halなら事業成長を大事にする側面も理解しつつ、存在肯定の部分を担保してくれそうだと思ったのも、子会社という形を選んだ理由の一つかな。

山田:あとは、僕自身がtalikiの掲げている「誰もが生まれてよかったと思う世界へ」というメッセージに共感しているので100%出資以外の選択肢を考えていなかったんですよね。今まで生き方テラコヤや、個人的に接してくれたクライアントさんとの対話を通じて聞いてきた人たちの悩みは根本的に共通しているんじゃないかと思っていて。「自分はこの世界に生まれてきてよかったのか」という問いがあって、誰もが答えを見つけあぐねているのではないかと。同じ悩みがライフステージによって形を変えて現れてきているんだと思うんですよ。対話を通じて、誰もが真に安心して「生まれてきてよかったね」と祝福し合えるようにしたいです。

 

hal株式会社 https://hal-dialog.co/

writer

掛川悠矢

メディア好きの大学生。新聞を3紙購読している。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。