信頼と相互成長を続ける企業パートナー。京都リサーチパークとtalikiの起業家支援における共創のあり方とは

2020年より京都リサーチパーク(株)(以下、KRP)と(株)talikiで共催している社会起業家支援プログラム「COM-PJ(コンプロジェクト)」。4期目の終了を迎えた2023年秋、改めてKRPとtalikiが築いてきたCOM-PJのコミュニティやその変遷について【KRP×taliki】の対談を行った。

両社が信頼関係を築きながら相互成長を続ける「パートナー」として、起業家ファーストなプログラムを共創し続けられているのはなぜか。お互いの共創への想いを語り、そこから繋がる今後の展望について一つひとつ紐解いていく。

【「COM-PJ(コンプロジェクト)」について】
社会起業家支援を行う(株)talikiと京都リサーチパーク(株)が共催する、社会課題の解決を目指し起業したい全国の30才以下の方(創業2年未満、起業準備中など)を対象とした、3ヶ月の支援プログラムです。仲間たちとの毎週の進捗報告会の他、経営者やVCなどの豪華メンターからのフィードバック、講演会などが毎月開催されます。
HP:https://talikikrp.work/

【京都リサーチパークについて】
・全国初の民間運営によるサイエンスパークとして1989年に開設。京都府・京都市の産業支援機関などを含めて520組織・6,000人が集積。オフィス・ラボ賃貸、貸会議室に加え、起業家育成、オープンイノベーション支援、セミナー・交流イベント開催など、新ビジネス・新産業創出に繋がる様々な活動を実施。「ここで、創発。~Paving for New Tomorrow~」をブランドスローガンとして、イノベーションを起こそうとする世界中の方々に、魅力的な交流の舞台、事業環境を提供することを通じて、世界を変える新たな事業が生まれることに貢献します。
・2020年からtalikiと社会起業家育成プログラム「COM-PJ(コンプロジェクト)」を共催
HP:https://www.krp.co.jp/

【プロフィール】

・井上 雅登(いのうえ まさと)

商工中金で約5年間法人融資等に従事した後、京都リサーチパーク(株)に入社。スタートアップ支援を担当する他、京都のU35世代と共創するコミュニティ「U35-KYOTO」の運営など、社内外と連携してイベントやプログラムを多数開催。

 

・杉山 智織(すぎやま ちおり)

同志社大学大学院 総合政策科学研究科修士課程を修了後、京都リサーチパーク㈱(KRP)に入社し、現在5年目。たまり場やGOCONCなどイベントスペースの企画・運営の他、大学連携業務に従事。同志社大学や立命館大学との共同授業や、企業と学生の共創プログラム「MOVE ON」を担当。

 

・宇都宮 里実(うつのみや さとみ)

株式会社talikiインキュベーションマネージャー。新卒でnote編集アシスタントをする傍ら「日本橋CONNECT」にて店舗立上げ、エリアリーダー担当。2020年10月株式会社taliki入社。現在は社会起業家支援プログラム運営や新規事業立ち上げ、人事業務に携わる。

 

・張 沙英(ちょう さえ)

株式会社talikiメディア事業部編集/ファンド事業部コミュニティマネージャー。本対談のモデレーターを務める。

 

2020年からスタートした「COM-PJ」の始まり

張沙英(以下、張):本日は社会起業家プログラム「COM-PJ(コンプロジェクト)」の魅力を紐解きながら、KRPとtalikiの起業家支援における共創について伺っていきたいと思います。まず最初に、COM-PJのこれまでの経緯を教えてください。

井上雅登(以下、井上):COM-PJを開始したのは2つのきっかけからでした。

1つはtalikiさんの活動に共感したことです。2018年の夏、当時KRP地区に集まる人の多くがビジネスマンであったという課題があり、もっと多様な属性の方々が集まれる場を作ろうと、「たまり場」というイベントスペースを立ち上げることに。

まさに同じ時期にtalikiの中村さんと出会いました。そのとき中村さんが若手起業家が集まる場として「タリキチ」を運営されていて、集まる方々のまっすぐに社会課題解決に向き合い続けている姿にものすごく共感したんです。私達も何か一緒に活動することで、見習える部分があるんじゃないかと。

2つ目のきっかけはKRPの活動で見えてきた課題です。KRPは2019年にIPO型の起業を目指す「miyako起業部」というアクセラレーションプログラムを立ち上げており、その中で非常に大事だと感じたことがプレシードステージにおける支援でした。

ただ、これ以上KRP単独で広げていくには当時はマンパワーが足りませんでした。加えて、利益が出るまでに時間がかかるビジネスモデルや、ビジネスにしづらい社会課題解決領域の取り組みは、miyako起業部だけでフォローアップしていくのは難しいと感じていたんです。

社内でも社会課題解決領域向けの支援プログラムの必要性を感じており、talikiさんとだったら共催でプログラムを作れるんじゃないかということで始まったのがCOM-PJでした。

張:ありがとうございます。私が想定していた以上に深い歴史があってとても感銘を受けました。

コロナ禍に行ったCOM-PJ第1期の様子(2021年1月)

 

運営の改善と成長を繰り返しアップデートされるプログラム

張:ここ数年さまざまな起業家支援プログラムが生まれていますが、COM-PJだからこそ届けられていると思う価値や特徴はありますか?

宇都宮里実(以下、宇都宮):1つポイントは「事業立ち上げフェーズの支援」をしている点かなと思います。事業立ち上げフェーズだと、やりたいことや強い課題意識は持っているけど起業意思がまだ固まってない方や、自分が事業構築をできるかどうか不安に感じている方もいらっしゃいます。そういった方々が自走できるように伴走し、フォローアップしていきたい想いは運営内に通じていることだと感じます。

杉山智織(以下、杉山):今、宇都宮さんが言ってくださったところは私も同じ考えです。その他で言うと徹底的な伴走支援体制に加えそこに「メンタルサポート」が含まれているところがCOM-PJの強みかなと思っています。起業家がプログラム卒業後も継続して進んでいけるように、という点に重きを置いているのが特徴です。

他にも、質の高い講義や、メンター陣によるフィードバックなど他のプログラムにないような手厚いサポートもtalikiさんのおかげで提供できていると思います。その講師やメンター陣にも特徴があり、ベテランの起業家ばかりではなく、プログラムの卒業生や少し先を行く先輩起業家など、等身大でお話いただけるような方をKRPのネットワークでも協力しながらアサインしています。そのような直近で参考にできる目線の近い経験談を聞けることや、寄り添ってもらえるような温かさがあるのがCOM-PJならではだと思っています。

 

張:そんなCOM-PJに集まる参加者には、どのような魅力や特徴がありますか?

杉山:まず、選考段階で全員に丁寧に面談をしているからこそ、というのももちろんあるんですが、社会課題解決や自分がやりたいことに対して前のめりに真っ直ぐに向き合っているところです。

また、プログラムの三原則*の一つである「giverであろう」を体現できているコミュニティだなと思っていて。最初から全員が実践できるわけではないですが、コミュニティを通じてみんなどんどんgiverになっていくんですよ。

プログラム中にお互い協力しあったり、卒業後も連携してイベント開催したり、メンターとして帰ってきてくれたり。お互いgiveしあうということが自然にできる、そんな人たちが集まってくるのがCOM-PJの素敵なところだなと思っています。
*プログラムの三原則:talikiプログラムで毎回掲げている、起業家コミュニティで大切にすべきスタンスを言語化したもの

 giveしあう参加者の様子

 

張:ありがとうございます。COM-PJならではの価値を模索するなかで、初回から大切にしてきた軸と、回を重ねるごとに改善してきたことの両方があるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

井上:そうですね、初回から変わらず大事にしてることは、やはり「起業家ファースト」なところでしょうか。こういったアクセラレーションプログラムは最終ゴールが「起業」である場合も多いと思うのですが、COM-PJは「どう成長してもらうか」にもフォーカスを当てています。なので、「giverであろう」「とにかく出してみよう」「妥協しない」など毎回違う三原則を設定し、参加者の成長に重点を置くというのは軸としてずっとぶれていないのかなと思っています。

改善については年々改善しかしていないような気がするんですけど(笑)。確かメンタルサポートの話も1期目にはなかったはずなんですよ。コーチングやメンタルヘルスサービスを運営するhal*の山田瑠人さんに途中から運営メンバーとして入っていただき、起業家向けの「自己理解ワークショップ」やコーチングを始めるようになりました。その他にも、1on1フローシートを作成したり、運営内で勉強会を開催したりと試行錯誤しましたね……。

*hal株式会社:https://hal-dialog.co/

 

張:初回からかなり改善されているんですね。年々運営方法の改善は重ねつつも、COM-PJを通して感じる支援の難しさや葛藤などもあるのでしょうか?

杉山:「社会起業家」と「事業の立ち上げフェーズ」の2つの側面で難しさを感じています。「社会起業家だからこその難しさ」は、さまざまな痛みと向き合うことが多く事業構築においてハードルがあることです。当たり前ですが、事業の起点が社会課題のため、自身が経験した過去の痛みやターゲットの痛みと向き合うことでつらさが伴ったり、検証がうまく進まずに壁に直面したりしているケースが多い点が原因にもなっていると思います。

またその他にも、「事業の立ち上げフェーズ」の側面だと、自分自身のあり方や自分が本当にやりたいこと、事業性があるのかなど不安要素が多く孤独な思いを抱える方も多いように思います。答えはないので、私たちも悩みながら一緒に考えコミュニティ内で知見を交換しあっています。

 

張:運営として一緒に考える余地があると感じたときは、どんなことを伝えるのでしょうか。

宇都宮:そこも悩みどころで、起業家が事業検証が上手くいかず一旦とどまりたいと思ったときに彼らの背中を押し続けるか、とどまりたい彼らのペースを尊重するかとても迷います。本人の意思を尊重しながらも、接し方や対応策も運営内で考え、一人で孤独に判断するよりも「相談してよかったな」と思ってもらえるような選択を一緒にできたらと思っています。

 

単なる受発注ではなく、「パートナー」として共創できている理由

張:KRPさんとtalikiのインキュベーションチームからは、ただの「受発注の関係」ではなく「チーム」のように感じます。同じ方向に向かうためのすり合わせや意識づけなどはどうしているのでしょうか。

宇都宮:前提として、初回プログラム開始前からのtalikiや代表の中村との関係性があるおかげで、KRPさんのtalikiのスタンス理解に深くつながっているんだなと思っています。

でも、個人的にPM(プロジェクトマネージャー)の立場で考えると意思疎通やスタンス浸透の部分では反省点が多いです。コミュニケーションの取り方や、新しいメンバーが入った場合のビジョン共有等は改善が必要だと思っているので、KRPさんの懐の深さと、talikiに賛同してくださるスタンスに助けられていると思います。

 

張:杉山さんはtalikiとの関わりについて、どのように感じられますか。

杉山:KRPと私個人のスタンスでお伝えすると、talikiさんの目指す世界や、起業家に対する姿勢に対する圧倒的信頼があるので、基本的に何を言っていただいても受け入れられるような関係性の土壌があると感じます。talikiさんの紹介者や新しいメンバーの方は皆さんどこか似ていると思うことがあったり、talikiさんの考えや、おっしゃいそうなことが少しわかるようになってきた部分もあったり。人選や皆さんのやりたいことに対する違和感や不信感がいい意味でまったく無いような関係性ができているのかなと思います。

プログラム開始前から井上が築いてきた関係性が社内にも浸透していて、一緒に応援したいし、「KRPとしてもできることを精一杯しないと」というスタンスがあるんですよね。そういった共通意識があるためチームとしてもやりやすいのかなと思っています。

COM-PJ4期グループワークの様子

 

張:お互いの信頼関係が厚く、改めて両社が築いてきた時間と関係性の深さを感じました。KRPさんに、talikiとだからこそできていると感じることがあったらお聞きしたいです。

井上:大きく2つあると思っています。一つは受発注という関係性を超えて「パートナー」のような表現がフィットしますね。両社のミッションは違えど、起業家が健やかに成長を遂げる環境をつくるという最終的な目的が一致しているからなのかなと感じます。

二つ目は、talikiさんの周りに集まる起業家の皆さんが、talikiさんのことが本当に好き過ぎること。これを理由に挙げる背景として、弊社もtalikiさんを見習わなければなと思うことが多いんです。

KRPは「集交創」という集まって交わることで何かを創り出すという社是を掲げており、どうやったら集まって交わることで新しい何かを創り出せるのかを日々模索しています。talikiさんの元にいろんな起業家が集まって、卒業後も関係性が続いたりプログラム運営に協力してくれたりするのは、起業家に対して本当に価値あるサポートをし続けているからだと思います。

だからこそ「私達なりにできることって何なんだろう」と、ものすごく考えたり、学ばせていただいたりすることが非常に多いなと感じております。

 

張:逆に、talikiはKRPさんとだからこそ実現できていると感じる瞬間はありますか?

宇都宮まさにパートナーという立場で起業家ファーストで一緒に走ってくれているからこそ、運営チームとして成り立ってるんだとつねづね思っています。それに加え、プログラムの企画や設計を毎年やりながら検証して試行錯誤しながら進められているのも、毎回KRPさんがtalikiの提案を柔軟に受け入れ賛同してくださっているからできていることなんですよね。スタートアップのスピード感を受け入れてくださるのは本当にありがたく思っています。

対談の様子(左上:taliki宇都宮・右上:KRP井上さん・下:KRP杉山さん)

 

COM-PJを起業家がいつでも帰ってこれる場に

張:最後に、これからのCOM-PJを通して実現していきたいことはありますか?

杉山:まずは起業家のコミュニティを作っていけるといいなと思っています。どうしても起業家はひとりで孤独に戦わないといけない場面があったり、日々、目の前にある沢山の壁を乗り越えていかなくてはなりません。何かあっても何も無くても、いつでも帰ってくることができるような場を作って、卒業した後も起業家が安心して頼れるコミュニティとして、存在し続けたいなと思っています。

井上:個人的な想いですが「起業家に必要な支援というのはこういうこと」と体現できるようなプログラムに成長していくといいのかなと思っています。今の時代、支援者が何を起業家に提供できるかを考え、こういう支援の方法もあるんだよ・大事なんだよ、と社会に提示していくのも大事な気がしています。その輪を広げ、より多くの人が加わり、起業家が極論悩まなくてもいいようなサポートを再現性高くしていけたらいいのかなとはずっと思っています。

宇都宮:今お二人がおっしゃってくださったことは両方すごく必要だなと思っています。プログラムとしてより良い支援はできるだろうと思いますし、そのためにも自分自身ももっと支援者として成長していかなければいけないと思っています。

コミュニティについては、起業家がどういう状況になっても、「おかえり」と言える場所にしていきたいです。事業成長し続けていることがすべてではなく、COM-PJやtalikiプログラムの卒業生、関係者がつながり続けることで社会課題解決に向き合ってる人たちがいつでも帰ってこれる。そしてお互いに頼ったりナレッジを共有しあったりと、関わっていることでより成長しあえるようなコミュニティにしていきたいなと思います。

張:両社や起業家同士がリスペクトし合っているからこそ成り立つ、温かいコミュニティなのだと感じました。持続的な関係構築を行うことが起業家にとっても心強く、コミュニティ自体がセーフティネットとして機能していきますよね。社会課題解決の輪が広がっていく未来が楽しみです。

京都リサーチパーク株式会社 https://www.krp.co.jp/
株式会社taliki https://www.taliki.co.jp/
COM-PJ https://talikikrp.work/

 

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    企画・執筆・編集

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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