トイレの中のインフラに。生理用ナプキンを無料で利用できるOiTr

「なぜ生理用ナプキンはトイレの個室に常備されていないのか?」このシンプルな疑問から無料で生理用ナプキンが利用できるサービス、OiTr(オイテル)は生まれた。いつかはOiTrを全トイレに設置しインフラにしたいと語る代表の小村大一に、ビジネスモデルの着想やサービス展開方法、今後取り組みたいことなどについて聞いた。

【プロフィール】小村 大一(おむら たいち)

代表取締役社長 Founder & Co-CEOを務める。1986年東京都生まれ。18歳からアパレル企業に勤務。後に複数の会社を起業する。仕事柄、身近に女性たちも多く、性差における悩みや問題を抱えていることを肌で感じていたことからも「ジェンダーギャップという社会課題をビジネスで解決したい」とオイテルを立ち上げる。

 

ジェンダーギャップにビジネスでアプローチしたい

ーー現在の事業概要について教えてください。

OiTr(オイテル)は、女性個室トイレに生理用ナプキンのディスペンサーを設置し、利用者がOiTrのアプリ(無料)をダウンロードして画面の指示に従って操作することで無料でナプキンを受け取ることができるというサービスです。ディスペンサーにはデジタルサイネージが付属しており、広告収益を回すことで無料での利用を可能にしています。現在(2023年2月末時点)、179施設にて2500台設置しています。

 

ーーどのような経緯でこの事業を始められたのですか?

社会課題をビジネスで解決する事業をやりたいという想いからスタートし、まずはさまざまな社会課題について学んでいきました。その中でも、日本におけるジェンダーギャップの課題の深刻さが目に止まりました。これは以前、私がアパレル業界で働く中で、女性の苦労を身近に感じやすかったということの影響も大きいかもしれません。

そこでジェンダーギャップについて深く調べていったところ、主要先進国の中で日本のジェンダーギャップ指数が低いことを知り、その指標となる「政治」「経済」「教育」「健康」の4分野の1つ「健康」に行きついたんです。女性の社会進出により、男性と同じように働くことで、女性のライフスタイルが急激に変化しました。そのことにより引き起こされている大きな弊害の1つが、生理にまつわる問題です。職場で周囲の目を気にしてポーチを持ち歩くのが気分的に嫌だという悩みや、働く女性の8割以上の方が生理痛やPMS(月経前症候群)などの仕事への影響を感じていること。生理休暇の取り組みはあまり活用されていないこと。さらには仕事の評価、出世にも影響を及ぼし機会損失していることも感じました。さらに生理用品における経済的負担も大きいことなどについて知ることができました。

また、“トイレットペーパーは個室の中に常備されているのに、なぜ同じように必需品である生理用ナプキンは個室に常備されていないのか”という、ネット上の1人の女性の声に出会ったんです。トイレの個室外にナプキンの自販機が設置されていることはありますが、個室の中で急に生理がきたときにわざわざ外に出ないといけないというのでは意味がない。そこで、生理にまつわる課題はたくさんあるけれど、まずはこの課題から取り組んでみようと考え、OiTrのサービスを始めるに至りました。

 

ーービジネスモデルが特徴的ですよね。どのようにこのビジネスモデルを思いつかれたのですか?

トイレットペーパー同様に、個室で生理用品を受け取ることができること。さらに、ご利用者に無料で提供することを実現しなければならないと考えました。そこで、ナプキン代を賄うために施策を考え思いついたのが、タクシーの後部座席にあるデジタルサイネージでした。

タクシーのサイネージが広告として上手く機能している理由は2つあります。1つは、タクシーという個室空間で画面に目が向きやすいため認知率が非常に高くなるということです。そしてもう1つは、タクシーを利用している多くは会社員なので広告のターゲティングがしやすいということです。これらの特徴は、トイレという個室空間でかつ女性にターゲティングすることができるという点で、OiTrの特徴に近いと思いました。それで、ディスペンサーにサイネージを取り付けて広告を流したらいいのではないかと考えたんです。

現在のビジネスモデルではOiTrの導入費用や月額費用を施設から頂くプランになっていますが、いずれは広告収益を増やし、施設の負担を減らしていければと考えています。

 

世の中の流れとともにサービスを一気に拡大

ーー今では多くの施設に導入されているとのことですが、どのようにサービスを拡大していかれたのですか?

最初はディスペンサーとサイネージを自作して、実際にOiTrが求められているのかを実証テストしたいと思いました。そこで、企業に飛び込み営業をして、最初に共感いただいたのが三井不動産の方々でした。それでまずはららぽーと富士見様にて、プロトタイプのOiTrの実証をさせてもらうことができました。

実際に1ヶ月間運用してみたところ、お客さんからの評判が非常に良かったんです。急に生理が来ると思っていなかったから助かった、ありがたかったという声をたくさん頂くことができ、ららぽーと富士見様に製品を本導入することに至りました。

お陰様で自ら営業を行う以前に、多くの反響により施設へ設置することがほとんどですね。

 

ーー現在、どのような施設で多く導入されているのでしょうか?

ショッピングモールのような大型商業施設、大学、企業などが多いです。商業施設には、施設に対する顧客満足度が高まったり、滞在時間が増えることによる売上の貢献などを魅力に感じていただいています。

また、大学のキャンパス内では売店が限られているのでトイレを出て買いに行く負担、また経済的な負担を少しでも軽くしたいという想いで導入されているところが多いです。OiTrはディスペンサーによって広告配信の出し分けができるので、大学にだけこの広告を流すといったことも可能です。就職活動、卒業式の袴、ドライビングスクールといった大学生向けの広告を流せるというのも広告主にとってのメリットになっています。

そして、福利厚生として企業に導入いただくこともあります。従業員の満足度が向上するだけでなく、社会的意義の高い取り組みとして社外へのブランディングにもつながります。多くの企業がナプキンの無料配布をしたいと考えていますが、どうやって実施するべきか悩まれているんですよね。OiTrを福利厚生として導入していただくと、私たちがナプキンの発送なども担っているので、負担少なくご利用いただけます。

 

ーー商業施設、大学、企業など幅広く導入が進んでいるのですね。利用者の方からはどのような反応がありますか?

ショッピングモールなどの商業施設は滞在時間が長いので、OiTrがあると安心してそこに出かけられるとか、OiTrを導入しているからその施設によく行く、という声を頂くことがあります。

また、導入いただいた企業の担当者さんからは、社員の方が集まって担当者の方にお礼を言いに来られたと伺いました。それで導入した甲斐がありましたと連絡いただいて嬉しかったです。さらに、社内でOiTrの導入の議論があったことで生理について男性社員と話し合う機会が増えて生理休暇が取りやすくなった、上司が理解してくれたといった声も頂くことがあります。

 

生理について考えるきっかけに

ーー生理の課題はセンシティブな問題として捉えられがちですが、この課題を事業として扱うにあたって意識されていることはありますか?

私たちは生理がセンシティブだからといって閉鎖的になってしまっては意味がないと思っています。そもそも、私含めた男性たちが生理について話したり学んだりする機会がなかったと思うんですね。
どこまでオープンに話すことが必要かはわかりません。実際に生理のある方たちには、オープンに触れて欲しくない人もいると思います。そのため、OiTrの設置により、まずは生理について考えるきっかけを提供できればと思っています。

 

ーー創業メンバーはほぼ男性だったと伺いましたが、男性がこの課題に取り組むことにはどのような意義があると思いますか?

当事者ではないからこそ気づけることがあると思っています。例えば、女性からすると生理用ナプキンがトイレの個室内に常備されていないことが当たり前なので、トイレットペーパーと同様に設置されているべきというのは男性だからこその視点かなと思います。

もしかしたら、男性には理解できるわけがないと思っている方もいるかもしれないですが、それでいいと思っていて。分からないからこそ私たちは学びながら前に進んでいるので、みんなで生理について議論することで、生理がある人たちが暮らしやすい社会になっていくのではないでしょうか。

 

OiTrを全トイレに導入し社会のインフラに

ーーOiTrが社会の中にインフラとして広がっていくにはどのようなことが重要だと考えていますか?

例えば全国のさまざまな施設からトイレットペーパーがなくなったら私たちは大パニックになりますよね。インフラになるということは事業を継続していかないといけないということであり、私たちはあくまでもビジネスとしてやることで事業を持続可能にしていきたいと思っています。

でも本当にインフラとして広げるためには、小学校や中学校などにも導入していく必要があるとも考えています。小中学校では生理用ナプキンを持っていなければ保健室まで取りに行く必要があったり、年頃的にもそれを後ろ指さされたりといったこともあると聞きます。だから生理にまつわる社会課題解決として、小中学校にも導入するというのは私たちの1つの目的でもあります。ただ、今のOiTrはスマホのアプリが必要だったり、広告モデルが小中学校では成り立ちづらいということもあるので、別のマネタイズ方法、仕組みを考えて今後実証実験をやる予定です。

 

ーー事業の中で、今後注力していきたいことはどのようなことですか?

まずは設置台数を増やすことに注力したいです。広告収益を増やし設置施設の負担を減らすには、設置台数を増やし広告媒体としての価値を上げることが重要になります。今年の夏ごろにはディスペンサーのアップデートをして、生産台数を大幅に拡大する予定です。そして全トイレにOiTrを設置することを目指し、どこに出かけても安心できるような社会をつくりたいと思っています。

また、今後商業施設などではテナントの広告や施設に関する広告を流したいとも考えています。テナントの広告を流すことで施設の回遊が増えて売上につながります。さらに、維持管理費がかさばるトイレの中でOiTrを利用して収益を出していただくことで、その維持管理費を補填できるというところまで目指したいと思っています。

加えて、OiTrアプリは50万ダウンロードを突破しました。それだけ多くの方がアプリを利用してくださっているということで、このアプリの活用もしていきたいです。あとは、OiTrを利用してトイレにまつわるさまざまなデータを蓄積することができるので、そのデータを活用した新規事業にも挑戦していきたいと思っています。OiTrはより良い社会のためのインフラを構築する事業であると考えているので、自分たちだけで社会課題の解決を目指すのではなく、築いたインフラの上でさまざまなセクターを巻き込みながら挑戦していきたいですね。

 

ーー最後に、事業を通して社会にどのようなインパクトを与えたいか教えてください。

今まで見て見ぬふりをしていた、自分には関係ないと思っていた人たちに、少しでもこの分野に目を向けてほしいと思っています。それによって、多くの企業を巻き込み、さらには国や行政も動かすことでより大きな変化を起こすということを目指したいです。

また、この変化が目まぐるしい世の中で、国や行政だけが社会課題解決に取り組むのには限界があります。だから、どこにいようが誰であろうが、同じ価値観を持っているみんなで力を合わせて民間から世の中を良くしていきたい。私たちの事業がその1つの実例になって、新しいモノサシでより良い社会について考えることがどれだけ大事かを伝えていきたいです。

オイテル株式会社 https://www.oitr.jp/

 

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interviewer

梅田郁美

和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
猫になりたい。

 

writer

堂前ひいな

心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

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