地域を巻き込んだ商品開発で、北海道浦幌町に多様な働き方を生み出す。ciokayが手がけるお花のスキンケアブランド「rosa rugosa」
地域資源を活用した商品開発により、地域活性化を目指す取り組みは全国各地に存在する。株式会社ciokayの森健太氏が手がける、北海道浦幌(うらほろ)町原産の花「ハマナス」を活用したスキンケアブランド『rosa rugosa』もその一つ。
森氏の活動がユニークである点は、商品開発の各工程で地域の人たちを巻き込み、ブランドへの愛着を育むとともに、新しい働き方を生み出しているところだ。スキンケアブランドを広げる先に、どのような浦幌町の未来を理想としているのか。起業や商品開発の背景、地域住民の巻き込み方、今後の展開について聞いた。
【プロフィール】森 健太(もり けんた)
1994年三重県出身。大学卒業後、新卒で地域おこし協力隊制度を活用し、北海道十勝郡浦幌町に移住。2017年株式会社ciokay設立。2018年スキンケアブランド「rosa rugosa」販売開始。
もくじ
地域住民が主体となって行なう町づくり
——まず、森さんは三重県のご出身ですが、どのようなきっかけで北海道の浦幌(うらほろ)町にて活動することになったのですか?
大学時代に日本全国を回っていて、地方で暮らしを作っている人への憧れがあったので、将来は地方で働きたいと考えていました。大学3年生のときにインターンとして浦幌町の町づくりを学ぶ機会があり、初めて浦幌町を訪れました。このインターンをきっかけに、地域おこし協力隊として浦幌町に来てみないかと声をかけてもらい、大学卒業後に移住しました。
——地域おこし協力隊として移住されたのですね。日本全国を回られた森さんにとって、浦幌町のどのようなところが魅力的だったのでしょうか?
浦幌町に移住した2012年ごろは、地方創生や地方移住などが話題になっていたタイミングでした。いろんな地方の町が地方創生の文脈でメディアに取り上げられる中、浦幌町は大きく話題に取りあげられることはなく、移住者も全然いませんでした。しかし実際は、地元の方たちが主体となって浦幌町を盛り上げるためにさまざまなことに取り組まれていたんです。
特に、町のさまざまなセクターが協働し、うらほろスタイル推進地域協議会として、子どもたちが町に愛着や誇りを持てるようにと教育の面からアプローチされていました。地元の方たちが積極的に町を盛り上げようとされているのがすごく面白いなと思い、そのような環境で地元の方たちと一緒に挑戦してみたいと思ったのが決め手になりましたね。
移住やUターンだけではない“多様な関わり方”ができる地域へ
——浦幌町に移住されてから、どのような課題に取り組まれてきたのですか?
浦幌町が抱えている大きな課題に、人口減少があります。6年前に私が移住してきたときは5500人だった人口も、今では4200人に減ってしまいました。年間200人ほどがどんどん減っていて、町が1つなくなってしまうということが目の前に迫っているような状況です。
——かなりのスピードで人口が減ってしまっているんですね。そのような状況を住民の方はどのように捉えられているのでしょうか?
10年前に町唯一の高校が廃校になり、子どもたちが進学のために地域外に出ていかなければいけなくなってしまったんですね。それが1つのきっかけとなり、多くの方が「なんとかしなければいけない」と感じていると思います。一方で、やっぱり自分の子どもには良い暮らしをしてほしいというような想いから、多くの方が、若い人は町の外に出た方がいい、町の外で働いた方がいいとも思っているようです。
だからこそ、子どもたちには浦幌町に対して愛着や誇りを持ち続けてほしい。そんな想いがうらほろスタイルの活動にもつながっています。
——なるほど。うらほろスタイルが教育の面からアプローチする中、森さんはさらにどのような要素が浦幌町に必要だと考えられたのでしょうか?
うらほろスタイルでは、小・中学校の総合学習の時間を使い、地域学習を実施していて、実際に子どもたちの町に対する愛着や誇りが育まれていると感じます。しかし、その子どもたちが成長して、浦幌町で働きたい、浦幌町に貢献したいと思ったとしても、その受け皿がないのが現状です。
うらほろスタイルとしても、教育だけではなく産業や仕事の面からもアプローチする必要があると考えているタイミングで、私が移住をし、ciokayを立ち上げてチャレンジさせてもらうことになりました。
——教育と産業の2つのアプローチが重要だと。子どもたちにとっての受け皿や、浦幌町に帰ってくることの理想のイメージをもう少し具体的に伺いたいです。
私がイメージしている理想は、子どもたちがいろんな選択肢を選べる環境を作るということです。全員に浦幌町に帰ってきてここで働いてほしいというよりは、帰る、帰らない以外の選択肢もある状態が理想です。例えば、違うところに住んでいるけど浦幌町に関わる仕事ができる、浦幌町に週に何回かだけ帰ってくるなど、隙間をデザインすることが大事だと思っています。
浦幌町は人口減少のために基本的に人手不足ではあるんですよね。でも、第一次産業や福祉、建設・土木系が中心で、それ以外の求人はなかなかありません。雇用があればいいというわけではなく、多様な働き方を選ぶことができ、それぞれの想いを形にできる。選択肢が増えて多様化することが町の魅力につながるのではないかと考えています。
地域原産の花“ハマナス”の魅力を詰め込んだスキンケアブランド
——ここまで、事業の背景にある森さんの想いを伺ってきました。ここからは、スキンケアブランド「rosa rugosa」について、より詳しく伺いたいと思います。ブランドの概要を教えていただけますか?
rosa rugusaは、浦幌町の町の花である「ハマナス」というバラを主原料に、天然由来成分にこだわったスキンケアブランドです。栽培・収穫した花びらを蒸留し、ハマナスのフローラルウォーターを抽出する原料化まで、自分たちで一貫して行なっています。
——スキンケアとしての商品の魅力はどのようなところにあるのでしょうか?
ハマナスには、美白効果や抗酸化作用のようなアンチエイジングに効果がある成分が多く含まれています。rosa rugosaの商品には、このハマナスの魅力をぎゅっと凝縮して詰め込んでいます。例えば化粧水1本あたり、ハマナスの花びらがだいたい100〜150輪分ほども入っているんです。また、化粧水は一般的に主原料の80%程度が水なのですが、rosa rugosaの化粧水には、水ではなくハマナスから取れたフローラルウォーターのみを使用しています。
ハマナスの素材そのものの良さを実感いただける点が大きな魅力です。
——地域発であるというストーリーだけではなく、スキンケア商品としての品質の高さもとても魅力的ですね。実際に購入される方はどのような方が多いですか?
幅広い年代の方にお買い上げいただいていますが、30〜50代の方が最も多いです。いろんなスキンケアを試したけど合うものがなかなか見つからなかった中でrosa rugosaは肌に合ったという方や、国産のものが好きとおっしゃる方などさまざまですね。
——購入されたお客さんからはどのような声が届いていますか?
まずは、使用感の気持ちよさや、香りを多くのお客さんに評価いただいています。商品の品質の高さを気に入っていただいた上で、さらに背景にあるストーリーを知ったという方が多いです。
世の中にはたくさんのスキンケアブランドがありますが、私たちの強みは私たちが産地であることだと思っています。産地だからこそ、品質にこだわり素材の良さを凝縮して詰め込むことができる。それで効能を実感いただいた上で、さらに生産の現場についてもより深く知っていただくことができます。収穫体験なども実施しているので、現場まで来ていただくことも可能です。
実際にお客さんから、「すごく私の心にフィットする」と言っていただいたことがあります。使い心地が良いということだけでなく、その裏側にある生産過程や生産者のイメージができるということがすごく気持ちいいんだとおっしゃっていました。私たちが産地だからこそ感じていただける魅力だと思いますね。
——rosa rugosaのブランド以外にも事業を運営されているんですよね。
ハマナスの畑を活用したイベント事業や、企業向けにフローラルウォーターの販売も行なっています。
企業向けの販売は、ハマナスを使った商品を増やすことを目指したいと考えて始めました。実はハマナスは、北海道の花と聞いてイメージされるラベンダーやハッカなどと比べても、特に歴史が古いんです。それなのにあまり知られていないのはハマナスを使った商品が少ないからだと考えました。そこで、まずは企業向けの原料販売を通してハマナスを使った商品を増やす。ハマナスという花をより多くの方に知ってもらい、「ハマナスと言えば浦幌町だね」という認知につなげていきたいです。
地域に寄り添う商品開発が、愛されるブランドを生む
——地域に密着して事業を運営されていますが、地元の方からの反応はいかがですか?
おかげさまで、地元でもブランドや事業の認知はかなりあると感じます。浦幌町では毎年中学3年生が地域活性化のためのアイデアを発表するという授業があるのですが、rosa rugosaのブランド自体そこでのアイデアから生まれたんですね。それで面白かったのが、そこからさらに一昨年の発表会で、中学生がrosa rugosaの活用についてのアイデアを提案してくれたことです。「もっとこんなこともできるのではないか」というアイデアを中学生たちが自ら考えてくれたのはすごく嬉しかったですし、もっと頑張らないといけないなと思いました。
rosa rugosaは商品作りの段階から地元の方々にたくさん協力いただいたこともあり、みなさんにすごく応援していただいています。また、「浦幌町と言えばこれ」という特産品がないというところから商品の開発がスタートしたという背景もあって、今ではrosa rugosaを地域外の人へのお土産として持っていくという方もいるのが、嬉しいですね。
他にも、ハマナスの畑では最高齢80歳くらいの方にもパートさんとして働いていただいて。これまで定年を迎えて家にこもりがちだったという方も、「お花を採りながら知り合いとおしゃべりできて、たまに若い子が収穫体験に来たら若い子ともお話しできるし、それでお給料ももらえるってすごく良いんだわ〜」とおっしゃっていました。こうやって働き方をどんどん作り出していくことで、少しずつ町全体の変化につながればいいなと思いますね。
——地元の方々との素敵な関係が目に浮かびました。商品開発の段階から地元の方をたくさん巻き込み、応援してもらっているとのことですが、その秘訣は何だと思いますか?
前提として、自分が作りたいものを0から作ったのではなく、地元の方たちの想いを一緒に形にしていったということは重要だったと思います。
それに加えて、意識していることは2つあります。1つ目は、地元の方たちにどんどん頼ることです。町には、世話好きなおじいちゃん、おばあちゃんがたくさんいて、そういう方たちに小さなことでもいいので「これちょっとお願いします〜」と頼る。そうすると多くの方は「仕方ないな〜」と言いながらやってくれるんです。この積み重ねで信頼関係を築き、その上で「自分はこういうことをやりたいんです」と伝えると応援していただけるかなと思います。
そして2つ目が、地元の方たちに向けた情報発信をすることです。私自身は全国でポップアップに参加するなど浦幌町にいないことも多いので、「あの人は何をしているのかわからない」と地元の方に思われてしまうこともたまにあります。
そこで、地元の方たちに向けた情報発信と、プロダクトやブランドとしての情報発信を区別し、どちらもやるように意識しています。地元の方はWebメディアなどはあまり見ないので、地元の新聞に取り上げていただいたり、ブランドとしての発信というより活動そのものについて発信したりと、地元の方にも伝わりやすい情報発信を心がけています。それで、「最近見かけなかったけど、頑張ってそうだね」などと声をかけていただくこともよくありますね。
「田舎だから無理」をなくし、地域の働き方に多様性を作る
——rosa rugosaのブランドとしてや、会社として今後取り組んでいきたいことはありますか?
rosa rugosaは現在、100店舗ほどで取り扱ってもらっていますが、その数をさらに増やし、日本全国に広げていきたいと思っています。また、私たちは1ヘクタールの畑で1000株ほどのハマナスを栽培しているのですが、その10分の1程度しか活用できていないのが現状です。原料の販売を増やすことでハマナスの活用を進めていきたいです。
他にも、地方での働き方の多様性を作りたいと考えています。自分たちが生まれ育った町に「帰る」か「帰らない」の2択だけではなく、その間にある働き方を作りたいと思っていて。実際にこれまで、浦幌町出身で東京在住の方などをPOPUPのスタッフに採用することもあり、そのような多様な働き方を作る取り組みを今後はもっと増やしていきたいです。
——今後の展開が楽しみです。最後に、事業を通して目指したい社会を教えてください。
「田舎だからできない」ということをなくしていきたいです。そのためには働き方の選択肢を増やすということに加えて、チャレンジしている大人が身近にいることも大事だと思っています。
自分も含め、浦幌町にいる周りの大人たちがいろんなチャレンジをしているのを小さい頃から目の当たりにしていれば、子どもたちは「浦幌町でもこんなことができるんだ」と思ってくれると思うんです。これから浦幌町で育った子どもたちが成長していくのを見るのがとても楽しみですし、彼らが地元に戻ってきたときに「森さん何もやってないじゃん!」と言われないように、挑戦し続けたいなと思います。
rosa rugosa https://rosa-rugosa.jp/
interviewer
梅田郁美
和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
猫になりたい。
writer
堂前ひいな
心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。
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