コロナ禍でも最高業績を更新。WAmazingが手がけるインバウンド消費革命

「15兆円」。これは国策における2030年インバウンド消費の目標額だ。少子化が進み人口減少をまぬがれない日本にとって、外国人旅行者は新しい人口となり、日本の消費を支えていくことになる。「日本は素晴らしい観光資源を持っているのに、売る力が弱い」と話すのは、WAmazing株式会社代表の加藤史子だ。国内インバウンド市場の衰退が日本社会へもたらす影響や、コロナ禍でも過去最高の業績を更新し続けている新規事業と既存OTA事業のシナジーについて詳しく聞いた。

【プロフィール】加藤 史子(かとう ふみこ)

慶応義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、1998年に(株)リクルート入社。 「じゃらんnet」、「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、主にネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動。 スノーレジャーの再興をめざし「雪マジ!19」を立ち上げ。 その後、仲間とともに「Jマジ!」「ゴルマジ!」「お湯マジ!」「つりマジ!」…など「マジ☆部」を展開。 国・県の観光関連有識者委員や、執筆・講演・研究活動を行ってきたが、「もう1度、本気のスケーラブルな事業で、日本の地域と観光産業に貢献する!」を目的に、2016年7月、WAmazingを創業。

日本は多くの観光資源があるのに、売る力がない

ーー加藤さんはもともとリクルートで観光事業に携わられていましたが、日本の観光産業にどんな課題を感じて独立されたのでしょうか?

日本は非常に恵まれた自然環境と、世界一の豊かな食、ユニークな文化がたくさんあります。島国として独自の進化を遂げ、素晴らしい観光資源をたくさん持っているのに、訪日外国人向けに売る力やマネタイズする力が弱いと感じていました。

コロナ前は日本国内の観光消費が27.9兆円あり、そのうち日本人による消費が23.2兆円で、インバウンド消費は4.8兆円まで伸びてきていました。しかし、国内の主要旅行会社における売上の約95%が日本人マーケットなんです。国内はほとんどシニア市場で、テレビ・新聞・雑誌・ラジオといったアナログなマーケティングを続けてきたため、日本の旅行会社はデジタルマーケティングに対応できていないのです。

そのため、インバウンド需要を取り込むことができず、Booking.comやAgodaなどの外資の旅行会社に参入されている状況です。日本の魅力を知りたいと思っている外国人旅行者は増え続けているのに、日本の魅力と外国人旅行者をマッチングできる国内旅行会社がないことに課題を感じたのが創業のきっかけです。

OTA*事業は初期投資が100億円単位で必要になります。他に成長事業がたくさんあるリクルートで新規事業として始めるのはハードルが高かったので、独立して自ら訪日外国人旅行者向け観光プラットフォームサービスを創ろうと思いました。

*インターネット上だけで取引を行う旅行会社のこと。Online Travel Agentの頭文字の略。店舗で営業を行っている旅行会社のオンライン販売はOTAとは呼ばない。

WAmazing OTA事業のサービス内容(HPより引用)

 

ーー日本のインバウンド市場が育たないと、日本社会にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

訪日外国人旅行者数は、2003年の521万人から2019年には3,188万人と約6倍に伸びており、日本における有力な成長産業でした。その一方で、コロナにより少子化は加速し、日本の人口が減っていくことは確実です。

人口減少で失われていくのは労働力、そして消費力です。労働力は、ロボットやAI、DXなどの技術である程度カバーできる部分が大きいですが、消費は人間にしかできないんですよね。だから、外国人旅行者が日本の消費力を支える唯一の代替プレーヤーになります。国策でも、2030年に15兆円のインバウンド消費を目指すと策定されていて、外国人旅行者はもう日本の新しい人口としての役割に変化してきています。日本各地の魅力を伝える日本に根付いた事業者がいないと、消費の力がすでに人気なところに偏り、分散された消費はされなくなるという影響があります。

 

もう1つの影響は、外資プラットフォームの高い手数料で各地のホテルや旅館など観光事業者の懐が圧迫されることです。じゃらんや楽天トラベルなどの国内旅行会社は手数料10%程度なのに対し、外資プラットフォームは最大30%の手数料です。コロナ禍で打撃を受けてただでさえ赤字が続いているような事業者にとっては、この手数料はとても痛手です。だから、内資基準の手数料10%程度で、かつ外国人旅行者を連れてこれるオンラインプラットフォーマーが絶対に必要だという課題感がありました。

 

素早い意思決定と行動力で、コロナ禍でも過去最高売上に

ーーコロナで2年半ほどOTA事業を止められていたとのことですが、その間はどのようにキャッシュを確保されていたのでしょうか?

2020年2月、台湾からの観光客が見込めなくなったタイミングですぐにコスト削減と新規事業の立案に動きました。お金をかけずに収益をあげる必要があったので、行政の補助事業や公募案件に応募するようになりました。いきなり方向転換することになるので、まずは私が背中を見せなければいけないと思い、毎週週末などの通常の仕事の休みの時間を使って「企画競争」と呼ばれる行政のコンペの企画書を書いては随時公募案件に応募していましたね。

2020年4月ごろから、応募したコンペが採択されて数千万の売上が立ち始めました。今後の事業の柱になりうる感触を掴めたので、4月中に地域連携部という組織を作ってコロナ禍下でも採用をしてまいりました。今では30名を超える部門になり、会社としても、コロナ禍の2020年から毎年過去最高売上、過去最高利益を更新し続けています。この新規事業は今期は6,7億円の売上を上げるまでに成長しました。

コロナ禍でも新規事業でキャッシュを稼ぎ、追加の資金調達をすることで命をつなぎ、一切リストラはしなかったので、もともと運営していたOTA担当メンバーも多くが会社に残ってくれていました。そのおかげで、この7月からOTAを再開することができ、早速香港や台湾から予約が入ってきています。

 

ーーメイン事業を止めていた中でも、初期投資がかからない新規事業で過去最高の業績を更新されているのですね。地域観光DX事業で印象的だった事例はありますか?

山形の蔵王温泉スキー場で行なった、リフト券販売のDX化です。それまでは、ゲレンデに遊びに来たお客さんたちは早朝からチケットセンターの長蛇の列に並び、現金で購入したリフト券でリフトやゴンドラに乗るという仕組みでした。この方法だと高確率でスタッフがコロナに感染してしまうので、非対面非接触の販売方法に変えましょうということで国や山形市の財政支援を得て、私たちがDXを手がけさせていただきました。

リフト券をオンライン購入して、出てくるQRコードを専用のシステムにかざすとICのリフト券が発券されます。それを持っていくと自動ゲートが開いて完全非対面非接触でリフトやゴンドラに乗れるという仕組みです。昨シーズンの蔵王温泉スキー場から始まり、今シーズンは日本国内の多くのスキー場で同様の方法が導入されます。しっかり成功パターンを作ることができ、それが他スキー場にも伝播していく印象的な事例ですね。

他にも、外国人観光客だけが利用できる鉄道各社の乗り放題チケットもDX化を進めています。従来なら空港のチケット窓口に長蛇の列ができてしまうのですが、オンライン購入と専用マシンでの24時間受け取りを可能にしました。鉄道各社の切符販売窓口は営業時間しか開いていませんが、飛行機は夜遅く、または早朝に到着することもあるので訪日外国人旅行者にとっても便利です。

 

ーーやはり仕組みを作れる人は強いですね。そもそも、行政財源事業の採択率が高いのはなぜでしょう?

OTA事業とのシナジー効果を期待されているのだと思います。例えば、観光庁の「看板商品創出事業」は、調査やモニターツアーを実施して地域の稼げる看板商品を開発する事業なのですが、結局看板商品を開発しても最終的には自分たちで売れるようにならなければなりません。

私たちはOTAプラットフォームを自社で持っているので、開発した商品の販売まで一気通貫で行なうことができます。本当に稼げる商品になるまでPDCAを回すことができるので、それが採択率の高い理由だと思います。

 

ーー地域観光DX事業とOTA事業のシナジーについて、もう少し詳しく教えてください。

採択率が高い理由である、上流から下流まで一気通貫で提供できるというのがシナジーの1つです。地域観光DX事業では、外国人観光客を自力で呼べない地域に対して、上流の調査・戦略策定からコンテンツ開発を行います。ここまでが対応可能なコンサルサービスを提供する企業はたくさんいるのですが、私たちは下流のプロモーション・販売までできるOTAプラットフォームも提供することができます。

さらに、インターネットの検閲システムが厳しい中国の主要OTAはすべて提携しているうえに、外国人スタッフによる高品質な翻訳などローカライズサービスも提供することができます。だから、私たちのOTAに載せれば中国も含めた海外市場に売ることができるんです。

もう1つのシナジーは、ネットワーク外部性の効果です。地域観光DXは受託額が伸びれば伸びるほど、いろいろな観光サービスのDX化を実現できてOTAに載せることができる。OTAのほうは品揃えが増えれば増えるほどユーザーが増えて、ユーザーが増えれば増えるほどOTAで販売してくれる事業者さんも増えていきます。

これからは地域観光DXとOTAを「ふたごの事業」として好循環を生み出し、まだマイナーだけどポテンシャルのある地域の商材をしっかり売れるように両輪で取り組んでいきます。

 

新しいアイデアはまず10人に話してみる

ーー加藤さんは、これまで周りを巻き込みながらたくさんの結果を残されてきたと思います。なかなか簡単にできることではないですが、人を巻き込むときに意識されていることはありますか?

基本的に巻き込むという意識にはなっていないですね。人間誰でもよくわからないことに巻き込まれるのは嫌だと思うので、一緒にやる相手にとってどうプラスになるのかを考え抜いて実行しています。

土日を潰して企画書を書いたり、言いにくい人に言いにくいことを言ったり、業界の既存常識では考えられないようなことをして怒られるなど、ふつうの人が億劫になることは最初に全部、自分でやります。そして果実はしっかり関係者にいくようにすると、結果的に巻き込まれた人が得をする構造になります。

 

ーー中には反対する人もいますよね。実際にリクルート時代も、反対される中でも新規事業を成功に収めたと伺っています。

やっぱりどんな新しいことにも反対意見は伴うと思いますし、まったく反対されずに価値のあることはすでに誰かがやっているんですよね。

だから私は、何か思いついたらとりあえず10人に話してみるようにしています。「10人中2人は反対、2人は賛成、残り6人がお手並み拝見」ぐらいの割合が、良い事業の筋かなと思っています。10人中8人に反対されたら考え直しますが、逆に全員に良いと言われるものは大したアイデアじゃない可能性がありますね。

 

WAmazingが介在することで地域の暮らしを向上させる

ーー今後、日本のインバウンド市場はどうなっていくと思いますか?

オーバーツーリズムを防ぎながら、2030年にはインバウンド消費を15兆円にするという国策を達成しなければなりません。だから、京都や沖縄などのオーバーツーリズムな地域では、観光客は地元住民の暮らしにネガティブな影響を与える存在ではないことを証明していく必要があります。

観光客が来ることで県民所得が上がる、東京に出ていかなくても地元で就職口があるなど、暮らしが向上することを可視化していくのが日本の1番の課題だと思っています。

 

ーーそれに伴い、WAmazingはどのように事業展開されていくのでしょうか?

2019年のインバウンド消費4.8兆円のうち、1番大きいのが買い物消費の1.6兆円、次いで大きいのが宿泊の1.4兆円なんです。だから買い物や宿泊にWAmazingが介在することで、地域の消費単価をいかに上げていけるかが重要だと思っています。

そこで今、買い物事業のDXとして免税EC事業を展開しています。免税商品のマーケットプレイスから欲しいものをオンライン購入し、帰国前に空港や空港周辺で受け取れる仕組みです。

これができれば、例えば金閣寺のパンフレットにQRコードをつけて、その地域ならではの地域産品がたくさん買えるようになる。旅館であれば、そこで提供している日本酒を気に入ってもらえたら、仲居さんがQRコードを出してその場でオンライン購入、空港で受け取りということができるようになります。さらに売上の一部が金閣寺や旅館の収益になったり、仲居さんのチップにもなったりすると、地域の消費単価を上げる、所得を増やすということができるようになると思います。

これからは、OTA事業と地域観光DX事業を「ふたごの事業」として推進しつつ、莫大な観光消費が落ちるべきところにしっかり落ちるように、免税EC事業を伸ばしていきたいです。

WAmazing株式会社 https://corp.wamazing.com/

 

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張沙英

餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

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