「妊活」を再定義し、悩む前から関わりあい、支え合う社会へ

正解のない妊活・不妊治療に取り組む中で感じる不安や孤独、悩みに寄り添うオンラインコンシェルジュサービスを提供するファミワン。2022年4月から不妊治療の保険適用が開始され、より多くの人からさらに多様な悩みを聞くようになったという。今回は、『妊活コンシェルジュ ファミワン』の変化や、企業の福利厚生における妊活・不妊治療の課題、理想の社会について代表の石川勇介と看護師でかつサービス設計を担当する西岡有可に話を聞いた。

【プロフィール】
・石川 勇介(いしかわ ゆうすけ)
株式会社ファミワン代表取締役。自身の妊活経験がきっかけで、不妊治療の専門家によるLINE上の妊活サポートサービス「妊活コンシェルジュ ファミワン」をリリースする。企業や自治体への提供のほか、東京大学との共同研究や夫婦の葛藤と成長を描くフジテレビのテレビドラマ「隣の家族は青く見える」の監修も経験。
石川さんの過去のインタビュー記事はこちら

妊活に悩むすべての人に寄り添い、不妊治療の選択肢をやさしく提示する。妊活コンシェルジュとは

 

 

・西岡 有可(にしおか ゆか)
不妊症看護認定看護師として都内の不妊治療専門クリニックで10数年勤務。不妊に悩むカップルへのケアやチームマネジメント、研究発表を経験。医療機関の枠組みを超えて、もっと身近な存在として悩める人へサービスを届けたい思いからファミワンへジョイン。現在は福利厚生セミナーやユーザー対応とともにサービス設計を担当。

不妊治療が保険適用になって見えてきたこと

前回のインタビューからどのような変化がありましたか?

石川勇介(以下、石川):まず、社会の大きな変化としては、不妊治療の課題そのものの認知が広がったことですね。前回のインタビュー(2020年10月)はちょうど不妊治療に対する保険適用の開始が発表された時期でした。そして今年、2022年の4月から保険適用が実施されています。その注目度の差はかなり大きいですね。ただ、不妊治療が保険の適用となったとしても、対象となる治療法や年齢、回数に制限があったり、医療機関によって方針に差があったりと、新しい悩みを抱える人が生まれているのも事実ですね。

 

ー不妊治療が保険適用になったことでサービスに何か影響はありましたか?

西岡有可(以下、西岡):ファミワン*では、不妊治療の保険適用に関するご相談が多くなりました。保険が適用されたことで、多くの人が今までより病院へ受診しやすくなったり、選択肢として考えていなかった体外受精を検討したりしています。不妊治療に対する経済的なハードルが下がり、身近な選択肢となったのではないかと思います。

石川:また、不妊治療の保険適用によって企業からの相談も増えました。保険適用によって具体的に不妊治療がどのように変わるのかを知りたいというご連絡をいただくことが多いですね。それに対して、私たちは企業でセミナーを行なったり、妊活ライブという妊活に関する情報をライブやアーカイブ動画でお届けする配信サービスを運営したりしています。

※妊活に取り組む夫婦を支える、LINEを活用したパーソナルサポートサービス『妊活コンシェルジュ ファミワン』

 

今までとこれからの人生を、ユーザーと一緒に歩んでいく

ー社会の妊活に対する認識も変わりつつある中で、『妊活コンシェルジュ ファミワン』に影響はありましたか?

石川:社会が変化するにつれて、ファミワンに登録してくださる人は変動しますね。コロナ禍や保険適用が発表された時、皆さん妊活に関して不安を抱えながらネットで調べたりSNSで妊活用のアカウントを作って情報を集めたりしています。確かな情報が分からない中で、多くの人が妊活に関して誰に相談をしていいのかがわからない状態になっています。お医者さんにはなかなか直接は聞けないですしね。だからこそ、自分が判断するための材料や寄り添ってくれる存在を求めて、ファミワンへ登録してくださっている方が多いのではないかと思います。

 

ー事業を続ける中で良かったことや課題と感じることはありますか?

石川:良かったことは、私たちの事業を通して妊活や不妊治療の課題の認知が広がっていることです。今では、多くの企業にサービス連携をしていただいたり、企業側から社員を支えるために何かサポートできないかというご相談をいただくことがかなり増えました。また、認知が拡大するにつれて、ネットや新聞などのメディアが不妊治療についての記事を出すときに、その内容についてご相談いただくことも増えてとてもありがたいなと思っています。

しかし、不妊治療が社会課題として取り上げられることは望ましい反面、注目されるがゆえに偏った議論がされてしまうこともあります。妊活をする人にとって選択肢が広がることが重要なのですが、一部で対立構造が生まれてしまうことはもったいないと感じています。

西岡:誰かにとって良いものがまた別の誰かにとって良いものであるとは限りません。不妊治療の保険適用の場合も、それによって経済的負担が軽くなる人がいる一方で、助成金の方が経済的負担が軽くなる人もいます。そういった現状に対して私たちができることは、ユーザーにエビデンスに基づいた正しい情報をお伝えすることだと思っています。例えば、不妊治療はドクターによってアプローチ方法が異なりますが、決してどれも間違いではありません。最終的にどの方法を選ぶかは本人とパートナーが決めることなので、メリットやデメリットなども含めて偏りなく情報を伝えることを意識しています。

 

ー現在、妊活に関する様々なサービスがある中で、ファミワンがここまで成長した理由は何だと思いますか?

石川:理由はいくつかあると思っています。

1つ目は、きちんとした専門家が揃った上で様々な活動を行なっていることです。医療機関と連携したり、大学との共同研究を行なったり、学会で登壇もしています。生殖看護学会での学術集会を看護師の西岡さんが務めたりしています。サービス内容が特別なのではなく、専門家としっかり繋がっているからこそできる活動を、きちんとまっとうに行なっていることが私たちの強みだと思います。

2つ目は、ファミワンは、ユーザーが悩む前から使えることです。不妊治療や体外受精、生理に関する相談回答アプリは数多くありますが、大抵の場合悩み始めてから利用する設計になっています。しかし、ファミワンでは、登録者の半数が未受診の方です。まだ妊活で悩んでいるわけではないけど将来に向けて知りたいという人が気軽に登録ができて、妊活チェックシートに従って答えるだけで自分の現状について知ることができます。治療しているときだけではなく、どんな場合であっても継続的に利用してもらえるようなサービスとなっています。

3つ目は、様々な業種や業態、地域への提供によるアドバイスデータの蓄積です。早くから妊活の課題に取り組んでいたことで、先行優位性により早くから実績を残すことができています。法人であれば上場企業からベンチャー企業まで、自治体であれば都道府県や中核都市都心から人口数万人の地方の市区町村まで、かなり幅広く提供してきています。その結果、企業や自治体から信頼感を得られ、スムーズに導入検討していただけるようになっています。

 

ーファミワンはユーザーに寄り添う姿勢が強い印象ですが、ユーザーとのコミュニケーションで意識されていることはありますか?

石川:まず、ユーザーの意思に合わせて選択肢を提示するということを意識しています。現状や可能性をお伝えしてアドバイスをしますが、最終的に決定するのはユーザー本人やパートナーなので、何か具体的な選択肢を勧めるようなことはしません。あくまでもそのときに考えられる選択肢の提示にとどめることで、ユーザーにとって常にフェアな関係でいるようにしています。

西岡:妊活をしている人の中には、途中で妊活をやめることを考える方もいらっしゃいます。そのようなときであっても私たちはユーザーの気持ちに寄り添って伴走するようにしています。例えば、閉経をして子どもを産めなくなったとしても、子どもが欲しい気持ちが残ることはあります。そのような気持ちとどのように折り合いをつけていくか、これからの人生をどのように歩むのかをユーザーと一緒に考えて、人生に寄り添えるように心がけています。

妊活を途中でやめる人以外にも、不妊治療で妊娠できても自分は不妊治療が必要な人だったというスティグマに苦しむ人や、友達の妊娠を心から喜べない自分に嫌気がさしてしまう人もいます。そのようにユーザーが自分が描いていた道を歩めなくなったとき、パートナーとの出会いから妊活の経過も含めた今までの人生を、ユーザーと一緒に振り返ることで、これまでの人生をもう1度なぞり、自分の中に落とし込んでいくサポートをします。病院では治療がメインなのでそのようなユーザーの気持ちに長期的に寄り添うことが難しいんです。それに対してファミワンではあらゆる専門家*が揃っており、ユーザーがどんな状態であっても継続してサポートできるので、あらゆるお悩みに寄り添えることが強みだと思っています。

※ファミワンに在籍している専門家…不妊症看護認定看護師、生殖医療相談士、公認心理師、臨床心理士、生殖心理カウンセラー、がん・生殖医療専門心理士、ブリーフセラピストシニア、キャリアコンサルタント、不妊ピア・カウンセラー

 

福利厚生サービスの存在が、自分の会社を誇りに思うきっかけに

ー福利厚生サポートの概要を教えてください。

石川:法人向けの福利厚生としての妊活サポートは大きく2つあります。

1つ目は当事者向けの個別サポートです。これは一般の方向けに月額3,980円で提供しているファミワンの有料プランを、企業の従業員や従業員のパートナーの方がいつでも無料で使うことができます。しかも、妊活の相談だけでなく、特別に生理や妊娠出産育児、更年期などの相談にも対応しています。

2つ目は、企業の中で行うセミナーや研修の提供です。妊活や不妊治療の補助だけでなく、ダイバーシティの推進など、企業によってどんなテーマを重視して取り組んでいるかは異なるので、まずは人事部の方とどのようなテーマがいいかを相談します。私たちがテーマを設定して一方的にセミナーを押し付けて開催することはありません。社内の風土をどのように変えていくかを一緒に考えていきます。実際に、管理職者研修に組み込むこともあれば、e-larningのコンテンツとして動画提供をしたりしいます。

 

ー不妊治療に関して、企業と従業員はそれぞれどのような課題を抱えてるのでしょうか?

西岡:企業側の課題としては、従業員が妊活や不妊治療と仕事の両立ができずに急に退職してしまう可能性があることです。ただ、従業員は妊活が理由で辞めるとしてもその理由を明かさずに辞めることが多く、企業側は従業員が本当はどのような理由で辞めたのか分かりません。しかし、妊活や不妊治療と仕事の両立ができずに退職せざるを得ない人は数多くいらっしゃるので、企業側は不妊治療に対していよいよ目を背けていられなくなってきている現状があります。

また、学生が就職活動で企業を選ぶときに、妊活などの福利厚生をどれくらい導入しているかを見るケースも増えてきているので、企業はなおさら無視することができない状況になってきています。

従業員側の課題としては、多くの人が妊活のことを職場には言えないことです。本当は企業にも妊活のことを知ってもらった上で、妊活と仕事を両立したいけれど、妊活は不安定な要素が多く他者に言いにくいことなので最終的に退職を選ばざるを得ないようです。

また、社内の制度を使うことができないという課題もあります。社内に福利厚生の制度があったとしても、使うこと自体がカミングアウトにつながる印象から、実際には使われていないケースが多いとお聞きします。

 

ーそのような課題に対してファミワンの福利厚生サポートはどのようにアプローチしているのでしょうか?

西岡:ファミワンの福利厚生サポートが企業に導入されると、従業員の方は企業に知られることなく、ご自身のお悩みを専門家に相談することができます。お悩みの内容は、妊活や不妊治療だけではなく月経や更年期のお悩みもあります。また、どのようにパートナーを支えることができるのかという支える側のお悩みをお聞きすることもあります。いつも手元にあるスマホを使って匿名で相談することができるので、休憩時間や寝る前など、ご自身が相談したいときに個人情報が守られた状態で相談ができることは、利用者にとって重要なことだと思っています。

 

ーファミワンのサービスを取り入れる企業さんはどのような傾向があるのでしょうか?

西岡:企業の中の女性の比率や規模などはあまり関係ありません。それよりも、企業の中で決定権のある役職の方が妊活や不妊治療などに理解があると、サービスを取り入れることに積極的で、導入するスピードも早いですね。

石川:最近は多くの企業が「妊活に関する制度を当然導入するべき」という意識を持ち始めているように感じます。企業だけではなく、自治体でもそのような意識が広まって導入する事例も増えていますし、社会にそのような価値観がもっと広まって欲しいです。

一方で、サービスの導入が進まない企業もあります。例えば、サービスを導入することによって、従業員や企業にどれくらいの数値的な効果や利益があるのかを求め過ぎてしまう社風の場合です。何人使うかや離職防止にどのくらい繋がったか等ですね。福利厚生サポートはそのような数値的な効果をすぐに示すことは難しいために、導入が進みづらくなりますね。しかし、私たちはこのサービスが企業に存在しているということが大切だと考えています。導入すればどうなるかではなく、まず導入することに意義を感じることが重要だと思います。

 

ー福利厚生サポートを利用した方の印象的だった声をお聞きしたいです。

西岡:従業員側の声では、妊活に悩んでいる人に喜ばれるのはもちろんありますが、自分が当事者でない場合でも「福利厚生サポートの存在が自分の会社を誇りに思うきっかけになった」という声をいただくことがありました。

石川:企業側の声としては、「自分たちだけではできない従業員のサポートをしてもらえてありがたい」という声をいただきます。企業として従業員をサポートできるような制度を導入したくても、妊活や不妊治療に関しては専門家ではないために、制度を整えることへの限界を感じることが多いようです。福利厚生サポートは妊活だけではなく幅広い相談ができて、社員にとって利用しやすく、企業としても従業員と良い関係性を育めているとお聞きしています。

 

どんな選択をしたとしても、寄り添ってくれるような存在に

ー今後の具体的な事業展開はどのように考えられてますか?

石川:まず、妊活と不妊治療の認知を社会にいかに早く広げていくかが課題です。私たちが何もしなかったとしても認知は広がっていくと思いますが、私たちが活動を続けることによって、少しでも早く妊活や不妊治療が社会の中で当たり前に認知されている状態を目指していきたいです。

次に、社会において『妊活』という言葉を再定義していきたいです。現在は『妊活』というと、不妊治療や体外受精などの印象を持っている人も多いと思います。でも、私たちは妊娠のことを考え始めたときから『妊活』がスタートすると思っています。『妊活』という言葉の意味や捉え方を広げ、あらゆる企業や自治体と一緒に考えていくことができればと思っています。

また、妊活をするユーザーにとって確かなエビデンスとなるような研究にも取り組んでいきたいと思っています。妊活している人がネットで調べた不確実な情報を不安になりながらも信じて取り組んでいるケースも多いです。私達は3年ほど前から東京大学やIVF JAPANグループと共同研究を行っていますが、きちんとした情報をもとに安心して動くことができるような、学術的にも意義のある活動に取り組んでいきたいと思います。

 

ーこれからユーザー一人ひとりとどのような関係性を築きたいですか?

石川:ユーザーがどんな選択をしても寄り添っていく存在になりたいです。私たちとしては、今は妊活に取り組む人がサービスの対象になっていますが、いずれは年齢や性別、時期も関係なくさまざまなユーザーと関わっていきたいです。そしてユーザーにとってファミワンは、その時々に必要な情報や選択肢を提示してくれて、自分が選んだ道を応援してくれると思ってもらえるような存在になりたいです。そのような関係性をユーザーと築ければと思います。

西岡:最近、「自分を守れるような性教育」や「プレコンセプションケア*」をテーマに学校などで性教育の講演をさせていただくことが増えました。私は社会全体が妊活の当事者であると言っても過言ではないほど、誰にとっても関係する部分があると思っています。そのため、看護師としては、その人やその家族の皆さんの人生に継続的に寄り添いながら、少しでも豊かな人生が送れるようなサポートができたらと思います。

※プレコンセプションケア(Preconception care)とは、将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと

 

ー実現したい社会について教えてください。

西岡:妊活や不妊治療はもう個人で抱える問題ではありません。パートナーや家族を含む小さなコミュニティで解決する問題でもなく、企業や自治体、それらを取り巻く社会で取り組み、解決するという意識が皆さんの中に芽生えて、それが当たり前の社会にしていきたいです。

石川:多くの人が悩む前から関わり合えることが普通になって欲しいです。悩んだら相談できるサービスや仕組みは今でもありますが、悩んでいる人が利用しづらかったり、悩んでいる時点で手遅れの場合もあります。だから、悩んでからではなく悩む前から支援できるために繋がっていられるような社会にしていきたいです。

 

ー最後に、最近公開されたF Treatment社の事業譲渡についてお聞かせください。

石川:今回、株式会社F Treatmentから事業譲渡を受け、卵巣年齢チェックキット『F check』と不妊治療情報提供サイト『不妊治療net』も、ファミワンの事業として開始することになりました。創業から7周年を迎えたことを記念して特設サイトを公開したり、住友生命やBIPROGY等からの資金調達を行ったり、色々と会社としても動きがあります。

今、フェムテックや妊活という言葉が社会で認知度が高まってきていることもあり、それにまつわるサービスを立ち上げる企業が増えてきています。あらゆるサービスが生まれていく中で、それらがきちんと集約されてユーザーにとってより良いものになっていくために、私たちファミワンも業界整備の一端を担っていけたらと思っています。

 

株式会社ファミワン https://famione.com/

 

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    interviewer

    張沙英

    餃子と抹茶大好き人間。気づけばけっこうな音量で歌ってる。3人の甥っ子をこよなく愛する叔母ばか。

     

    writer

    梅田郁美

    和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
    猫になりたい。

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