妊活に悩むすべての人に寄り添い、不妊治療の選択肢をやさしく提示する。妊活コンシェルジュとは

正解のない妊活・不妊治療に取り組む中で感じる不安や孤独、悩み、迷い等に寄り添うオンラインコンシェルジュサービスを提供する石川勇介。多様な悩みに耳を傾け、アドバイスを通じて真摯に言葉を届けるサービスは、多くのユーザーの救いになっている。妊活の課題や、何度もピボットを重ねてたどり着いた現在のサービスに込めた思いを聞いた。

【プロフィール】石川 勇介(いしかわ ゆうすけ)
株式会社ファミワン代表取締役。自身の妊活経験がきっかけで、不妊治療の専門家によるLINE上の妊活サポートサービス「妊活コンシェルジュ ファミワン」をリリースする。また、企業に向けた妊活・キャリアセミナーを行うほか、夫婦の葛藤と成長を描くフジテレビのテレビドラマ「隣の家族は青く見える」の監修も経験。

わかりやすい答えはない、妊活・不妊治療の分野

―ファミワンのサービスについて教えてください。

ファミワンは、「妊活を始めたらまず登録するサービスです」と伝えています。LINEを活用した妊活サポートサービスで、登録するとファミワンから定期的に質問が届きます。妊活を始めたばかりの人でも、ファミワンから届く質問に答えることで妊活の知識を深めたり、相談したりしやすくなっています。
妊活とは、妊娠するために様々な活動をして準備をすることです。妊娠についての正しい知識を身につけたり、自分やパートナーの体が妊娠しやすい状態かチェックしたりすることを指します。

 

―LINE上では、どんなメッセージが届くのでしょうか?

最初は妊活の知識的な情報や、現在取り組んでいる妊活についての質問が届きます。身長・体重や、パートナーの状況、なぜ子どもが欲しいのかといった基本的な情報を登録して、その2~3日後に専門家からアドバイスが届きます。

また、LINEのチャット上でやりとりするのではなく、別ページに飛んで質問に答える形式を取っています。アドバイスも、「アドバイスが届きました」というメッセージを送りますが、回答は別ページに飛びます。LINEによる気軽さと、質問のボリューム感を両方大事にしていて、質問の回数はなるべく少なくして、ユーザーさんが自分で考える時間を多く取れるようにしています。こうすることにより、1回のアドバイスで数千字の文章を送ることもでき、そこに画像を差し込んでくだりすることもできます。

 

妊活・不妊治療の課題解決の難しいところは、ユーザーさんの「妊娠したい」というニーズに対し、「妊娠させます」とストレートに答えられないところです。例えば、歯が痛ければ歯医者に行って痛みをなくす治療をしたり、切り傷をして病院に行くと薬や処置でだんだん良くなる過程を見たりすることができます。でも、妊活はそうはいきません。時間が経てば経つほど妊娠率が下がることは、妊活に取り組む人なら誰でも知っているので、「今月もだめだった」と分かると、どんどんゴールから遠ざかっていく気がしてしまいます。
ファミワンでは、アドバイスの中で「よく頑張っていますね」「できることは全て取り組んでいらっしゃるんですね」「今つらいですよね」といった声がけをして、ユーザーさんに寄り添う姿勢を大切にしています。

妊活における、病院を選ぶ難しさ

―ファミワンは日本全国のユーザーから利用されているそうですが、地域によって妊活の課題も異なるのでしょうか?

統計的に見ると、東京の方が初婚年齢が高かったり、女性の就業率が高かったりして悩んでいる人数は多いかもしれませんが、地方にも地方ならではの妊活の課題があります。
田舎では子どもがいるカップルが当たり前のように思われていて、子どもができない状態かもしれないとなっても、病院に行くという選択肢がそもそもない場合があります。病院へ相談したいと思っても、住んでいるエリアに産婦人科が一つしかないという地域もあります。近所の人の目も気になりますよね。

「どこの病院に行ったらいいかわからない」という声に応えるため、ファミワンでは病院選びのサポートも行っています。最寄りのレディースクリニックでできることもあれば、1時間かけて都市部まで出て、高度生殖医療を行うところで全部検査した方がいいこともあります。妊活をしている方の話を聞くと、「新幹線で通ってました」という方もたくさんいます。地方のユーザーさんも、「それぐらいやっている人もいるんだ」と知ったら、「じゃあ一度行ってみてもいいかな」と思えるようになります。周りには「夫婦で旅行する」と言いながら、実際は検査に行ってみるという選択肢も頭の中で生まれます。
狭い選択肢の中で頑張るのではなく、選択肢を広げた上で決めてほしいなと思いますね。

 

―ファミワンで紹介する病院は、どのように選んでいるのでしょうか?

ユーザーさんの考えに沿った病院を紹介しています。診療時間や病院の所在地はHP上でもわかりますが、病院の治療方針や先生のスタンスは医療機関によってバラバラで、一般の人からするとわかりづらいです。

不妊治療としていきなり体外受精をやる病院もあれば、まずはゆっくりタイミング法*を行ってその後人工授精で…という病院もあります。仕事に対する考え方もそれぞれで、「共働きなら仕事も大事だから、仕事を優先しながら妊活を進めましょう」という先生もいれば、「本気で子どもが欲しいなら、多少は仕事をセーブしてでも本気で妊活しないと授からないよ」という先生もいます。
これって、病院の良し悪しではないんですよ。口コミだと平均のポイントが数値化されますが、どこが良い悪いではなくて、「どこが自分に合っているか」が一番大事です。仕事を辞めてもいいからいきなり体外受精をしたい人が、「タイミング法*からゆっくりやっていきましょう」という先生の方針の病院に行ってしまい、不信感をふくらませる結果になってしまうこともあります。

そうしたミスマッチを減らせるように、ファミワンでは不妊症看護認定看護師という専門のスタッフが、病院の方針や先生の経歴を調べた上で病院を紹介しています。今後、多くのユーザーさんに使ってもらうことで、「ここが良かった」「私はここが気になった」といった声が溜まっていけば、より効率的な紹介につながると思っています。

*タイミング法…女性の排卵日前後に性交のタイミングを取る方法。

 

妊活の孤独感に寄り添うサービスを目指して

―妊活に取り組む女性の、最大の課題は何でしょうか?

最大、と言い切るのは難しいですが、「孤独感」ではないでしょうか。そこにちゃんと寄り添うことができれば、多くの問題は解決に向かうと思っています。例えば、情報が溢れてわからないというときに、自分自身が知識を付けて取捨選択できれば理想ですが、現実はなかなか難しいです。そこで、ちゃんと信頼して相談できる人がいれば、アドバイスをもらって選択することができます。

子どもができないということに関しても、夫婦二人で生きていかないといけないという孤独感を感じる人もいますが、「それはそれで全然アリだよね」「それだけで自分の人生が台無しだなんて思わなくていいよ」と言ってくれる経験者がいると、孤独感はかなり解消されます。

ファミワンでは、ユーザーさんに寄り添う姿勢を大切にしています。ファミワンから届くアドバイスの言葉を目にして、「初めて褒められました」「泣いてしまいました」「自分がつらかったことがわかりました」といった声をもらうことがあります。サービスを使っていて泣く経験ってあまり経験したことがないと思いますが、それだけ追い込まれて不安になっているユーザーさんに対して価値を提供できているとわかると、やっていてよかったと思います。

 

―ユーザーからの声で、印象に残っているものはありますか?

「妊娠しました」という報告はもちろんですが、「ファミワンがあることで妊活に向き合えました」「パートナーと話し合えました」「紹介された病院に行ってみました」「病院に行く勇気をもらえて、病院を予約しました」といった声をもらうと嬉しいですね。

中でも印象的だったのは、ユーザーさんから「子どもが生まれました」という報告をいただいたことです。出産の報告って、妊娠してから10ヶ月以上ファミワンのサービスから離れていたにも関わらず、その間も忘れずにいてもらえたということなんです。
無事に子どもが生まれて、わざわざ報告してくださったというのはすごく嬉しかったです。ファミワンがちゃんときっかけを生んでいると実感することができました。

 

価値あるサービスを、まっとうに届ける

―ファミワンのサービスは、現在の形に至るまでに10回のピボットを繰り返したと伺いました。

最初にリリースしたのは、「月額2万円×10ヶ月の期間で改めてパートナーと向き合ってもらい、その期間で妊娠できなければ全額お返しします」というサービスでした。妊活って、始めた当初はパートナーと話し合えても、だんだん感情論や平行線になり、話し合いがしにくくなっていくんですよ。なので、10ヶ月の期間を区切り、まずはその期間でとことんパートナーと向き合うサポートをしようと思いました。10ヶ月経って妊娠できなければ20万円返ってくるので、検査に行く決意をしたり、あらためて体外受精に挑戦したり、夫婦で妊活から離れてちょっと豪華な旅行に行ってみたりと、次に進むためのステップを提供できるサービスだと考えていました。
しかし、実際にサービスを始めてみると、ダイエットのジムやサービスのように「妊娠させる自信があるから返金の制度がある」と思われてしまい、自分たちの提供したい価値と、ユーザーさんの期待のギャップが大きくなってしまいました。そこで、社内で「今のサービスはユーザーさんにとって本当に価値があるものか」と再検討し、全ユーザーさんに説明したり会いに行ったりして、サービスをピボットさせることを決断しました。

その後も、オンラインメディアやコミュニティ立ち上げに取り組んだり、夫婦間のコミュニケーションサービスを設計したりと様々な試行錯誤を重ねて、今のファミワンの形にたどり着きました。

 

―サービスのピボットを重ねる中でも、軸となった価値観は何でしょうか?

一番は、「まっとうにやること」です。最初のサービスでは、「10ヶ月で妊娠させます」という打ち出し方をすれば売上は伸びたかもしれません。ただし、確かなエビデンスがない中でその案内をすることは、まっとうにやるという価値観に反すると思いました。

ユーザーから見たまっとうもあれば、医療機関や企業から見たまっとうさもあります。そのバランスを考えながら、誰が見ても「まっとうなことをちゃんとやっているよね」と受け止めてもらえるかということは常に考え、サービスの提供以外にも東京大学との共同研究なども進めています。

 

―最後に、ファミワンのサービスを通じて今後目指したい社会について教えてください。

私たちは「子どもを願うすべての人によりそい、幸せな人生を歩める社会をつくる」をビジョンに掲げて取り組んでいます。妊活・不妊治療に取り組む中で、どんな結論を選んだとしても、どんな結論になったとしても、その人生を支えていく社会になってほしいと考え、小田急電鉄などの企業への福利厚生、神奈川県横須賀市への妊活LINEサポート事業の提供などを行っています。

妊活は正解がないですし、妊娠すればいいかというと一概にそうは言えません。妊娠できるかどうかは、可能性や確率の話でもあります。その数字だけを見るのではなく、これまでの妊活や、今の結果を受け止めて、パートナーとこれからどうしていきたいのかといった話し合いの方法も支えていきたいです。
そうすることで、妊活に取り組む当事者自身も少しでも納得できる世の中にできると思いますし、その選択をちゃんと支えられる社会に変えていけると考えています。

ファミワン https://famione.co.jp/

 

 

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interviewer
河嶋可歩

インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


writer
田坂日菜子

島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

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