明日へつながる、やさしい暮らし。サステナブルなプロダクトで実現。hap×GOOD COFFEE FARMS×ODD FUTURE対談
2022年9月、丸井グループと当メディアを運営するtalikiが共創するインクルージョンフェス、『インクルージョン×将来世代を紡ぐ起業家feat.taliki~明日へつながる、やさしい暮らし~』の開催が決定した。第4回目となる今回は「食と暮らし」をテーマに、6社の社会起業家が有楽町マルイに集う。本対談では、サステナブルな取り組みを行なう3社が、環境負荷や人的負荷を減らすための工夫や、POPUP来場者に向けたアピールポイントなどについて対談した。
【プロフィール】
・鈴木 素(すずき もと)写真、左。
hap株式会社CEO。大学卒業後、繊維の商社に7年間勤め、2006年にhap株式会社を設立。世界初の快適多機能性素材「COVEROSS®シリーズ」を手掛け、オリジナルアパレルブランドBLUEYの展開、ファッションの提案・企画・生産管理も行う。2019年にフィンランドにCOVEROSS株式会社を設立し、サーキュラーエコノミー開発団体『telaketju(2022年からtelavalue)』に日本企業で唯一加盟している。
鈴木さんの過去インタビュー記事はこちら:
世界から評価されるCOVEROSS®、アパレルから世界を変えていく
・空賀 啓輔(くが けいすけ)写真、右。
GOOD COFFEE FARMS株式会社 事業開発責任者。大学卒業後商社に入社し、ニューヨーク駐在などを経験。コーヒー生産の貧困や環境汚染の課題に輸入商社の立場で取り組む限界を感じる中、CEOのカルロスに出会い、2021年にGOOD COFFEE FARMSに入社。現在は、流通側の統括をしている。
・長田 竜介(おさだ りゅうすけ)写真、中央。
株式会社ODD FUTURE CEO。新卒で繊維商社に入社し、そこで業界の大量生産大量廃棄や労働環境の課題を知る。人にとって最も密接な食の分野でサステナブルなビジネスを行なうことで、社会へポジティブなインパクトを生みたいという思いから2020年にODD FUTUREを創業し食用コオロギを用いたフードテック事業を展開する。
もくじ
サステナブルな食と暮らしを支える
中村多伽(以下、タカ):本日はお集まりいただき、ありがとうございます。まずは、それぞれの事業や商品についてご紹介いただけますか?
鈴木素(以下、鈴木):hap株式会社代表の鈴木素です。私たちは、環境に配慮した多機能性素材『COVEROSS®️』シリーズを開発し、さまざまなアパレルブランドさんの商品をOEM/ODMで製造しています。
具体的には、『COVEROSS®️』の技術を使って、吸水拡散、接触冷感、UVカット、透け防止、汗染み軽減、抗菌、消臭、抗花粉、セルフクリーニング、光触媒など、さまざまな機能を衣服に付加することが可能です。加えて、日本、中国、ASEAN諸国、バングラデシュなどに工場があり、児童労働や環境汚染などの問題にも配慮した商品開発・製造を行なっています。
また、最近では一般消費者向けの事業展開として、洋服のリサイクルやアップサイクルを体験できるワークショップを実施しています。今回のPOPUPでも、3階のスタジオにて、その場で古着などに好きな機能(COVEROSS®️)を付けるアップサイクルのワークショップなどを実施予定です。
空賀啓輔(以下、空賀):GOOD COFFEE FARMSの空賀啓輔です。私たちは、グアテマラでコーヒー生産者団体を運営していて、コーヒーの生産から加工、輸入、日本などでの卸売、小売販売まで一貫して行なっています。消費者にとって美味しいコーヒーであることはもちろん、生産者にとっても自然環境にとってもGOODである、三方良しのコーヒーを届けることを目指しています。
コーヒー農家の7割ほどは小規模農家であり、彼らはコーヒーの原料である赤い実(コーヒーチェリー)を生産し販売しているだけなので、付加価値のない金額で買い叩かれてしまっています。しかし、コーヒーはサプライチェーンが長く、国をまたいで多くの中間業者が関わっているため、日本にいる消費者にとって、生産側で何が起きているのかはブラックボックスです。そこに対して、私たちは、小規模農家が自分たちで加工して生豆を作れるように、設備を整えたりノウハウを伝えたりしています。その結果、彼らにとっても経済合理性のある仕組みを作り、かつ、トレーサビリティ、サステナビリティの担保されたコーヒーを販売しています。
コーヒーの他にも、アップサイクルの1種として、コーヒーの実の皮と果肉部分を乾燥させたカスカラを使って作る、コーヒーチェリーティーもご用意しております。
長田竜介(以下、長田):ODD FUTUREの長田竜介です。私たちは、新しいサステナブルな食の選択肢として、食用コオロギを使った事業を展開しています。具体的には、コオロギを使った自社ブランドINNOCECT(イノセクト)と、コオロギの原料を食品メーカーさんに販売したりOEM製造をしたりする事業の2つを運営しています。
INNOCECTでは、粉末プロテインと、プロテインバーを作っています。粉末プロテインは、水や豆乳などに溶かして飲んでいただけます。一般的なプロテインの多くは牛の乳から作ったホエイプロテインで、最近では植物性のソイプロテインも人気です。これらの既存商品と比較すると、コオロギのプロテインはホエイと同じ動物性のタンパク質でありながら、乳製品を使っていないためにお腹を下しづらいという点が特徴です。また、タンパク質量はホエイと同等もしくはそれ以上提供することができます。
プロテインバーは40g/本あたりコオロギ50匹に値する12gのタンパク質が詰め込まれています。また、添加物を一切使用していないというところも特徴です。
コオロギは牛と比較して約3倍のタンパク質量を含んでいて栄養価が高いです。加えて、約1kgのタンパク質を約牛の30分の1のCO2排出量で生産することができるというメリットもあります。今回のPOPUPを通じて、より多くの方に、栄養価も高く、サステナブルである食材としてのコオロギを知っていただきたいと思っています。当日は、試食も用意しています。
タカ:ありがとうございます。当日みなさんの商品を体験したり試食したりするのをとても楽しみにしています。
環境負荷、人的負荷を小さくするためには?
タカ:みなさん共通して、人々のサステナブルな食と暮らしを支える商品を作られていますが、事業を運営する上で、環境負荷や人的負荷とは常に向き合われているのではないかと思います。環境負荷や人的負荷を下げていくための工夫はどのようなことをされていますか?
空賀:コーヒーは環境負荷や人的負荷の観点で、矢面に立たされやすい飲み物です。生産国と消費国がすごく離れているので輸送コストがかかりますが、その割に生産効率は良くありません。また、生産過程における炭素排出もありますし、人件費もかなりかかります。グアテマラではコーヒーに依存している率が高い地域ほど貧困率が高いという現状もあります。これらのことから、コーヒーを生産すること自体がサステナブルではないという見方もできるかもしれません。コーヒー農家がコーヒー生産をやめ、アボカドやコカなどの生産に切り替えていくという流れも実際に起きています。
一方で、世界におけるコーヒーの消費量はどんどん伸びています。そのため、このままでは供給量が追いつかなくなってしまいます。そこで、既存のコーヒー生産のやり方をいかにサステナブルにしていくか、ということがコーヒー業界にとっても重要であり、私たちもスタートアップとして業界を引っ張っていきたいと思っています。
これらの背景を踏まえて、サステナブルなコーヒー生産をするために、私たちが取り組んでいることは2つあります。1つは、自転車脱穀機の導入です。グアテマラのコーヒー農家に、自転車を使ってコーヒーチェリーを脱穀できる機械を提供しています。この自転車脱穀機は通常の大きな脱穀機の10分の1以下の価格で導入することができます。小規模農家の収穫量であれば、この自転車脱穀機で十分な生産効率を確保することが可能なんです。また、燃料や電気を全く使わず、かつ通常の生産過程では使用する大量の水を使用しますが、それも10分の1以下に抑えることできます。
もう1つが、日本の働き方をグアテマラの生産者団体に導入しているということです。代表のカルロスはグアテマラの出身で、18歳のときから日本に住んでいます。彼が日本で学んだ働き方、例えば朝礼をする、白いユニフォームを着るなどを、グアテマラのコーヒー農家さんにも取り入れてもらっています。その結果、朝礼によってチームの団結力が高まったり、綺麗なユニフォームを身につけることで綺麗なコーヒーの実を取ろうと品質へのモチベーションが向上したりしています。
これらの取り組みによって、GOOD COFFEE FARMSで働いていることに誇りを持ってくれたり、お父さんがいきいきと働いている姿を見て子どもたちが刺激を受けてくれたり、というポジティブな流れも生まれています。
鈴木:アパレル業界もコーヒー業界と似ていて、環境負荷や人的負荷の観点では改善すべきところがとても多いです。
私たちの取り組みとしては、まず、さまざまなOEM先のブランドさんに対して、ブランドさんが求めようが求めまいが、自分たちが開発したサステナブルな素材を一定の割合入れるということを決めています。5年ほど前にこの取り組みを始めたときは、ブランドさんが興味を持ってくださることはほぼなかったのですが、今ではいろんなブランドさんがサステナブル素材を使用していることをプレスリリースで発信してくださるようになりました。特に、現在デニムを年間約100万本生産しているのですが、その9割以上にサステナブル素材が使われています。
さらに、最近ではデニムの生産過程におけるサステナビリティの程度をできる限り数値化していくことにも取り組んでいます。
また、生産過程における取り組みだけでなく、実際に購入していただくのは一般消費者の方々なので、一般消費者の意識改革にも取り組む必要があると思っています。「なるべく安く買って、使い捨てる」というような意識は、業界と一般消費者が一緒になって変えていくべきです。
この課題意識から、私たちは一般消費者向けのワークショップを展開しています。私たちのワークショップの1つでは、着なくなった洋服を切ってリサイクルの機械に入れると、20分後には定規やコップを作ることができます。今回のPOPUPでも実際に体験いただけます。
このワークショップでは、洋服を回収に出してリサイクル依頼するのと違い、洋服がどのようにリサイクルされ、何になるのかを目の前ですぐに見ることができるというのがポイントです。また、特に子どもたちにとっては、分別の仕方自体勉強になりますし、製造・販売の過程についても学ぶことができます。家族みんなでアパレル業界のごみ問題や作りすぎの問題について考え、洋服をより大切に使っていただけるような機会にできればと思っています。
でも、やっぱりまずは売れる商品を作らないとサステナブルな取り組みも続かないので、値段は少し高くなってしまうとしても、デザインや機能性がいい商品を作るのが一番重要だと思います。
タカ:ありがとうございます。コストだけを考えるとサステナブルにしない方が良いからこそ、いかに高付加価値の商品にしていくかが重要ということですよね。多くの社会起業家の方がぶつかっている壁なのかなと思いました。
長田:私たちが環境負荷、人的負荷を小さくするために取り組んでいることは2つあります。1つ目は、コオロギのようなサステナブルな原料を使うということです。そしてもう1つは、パッケージにバイオマスペットを使ったり、簡易的な包装にするということです。
今後、社会全体でやっていくべきだと考えていることとしては、その商品がどのくらいサステナブルなのかということを、統一された規格で定量的に可視化することです。企業向けに、サプライチェーン上の温室効果ガス排出量を可視化するといったサービスはありますが、このようなサービスが一般消費者向けにも広がっていくことが必要だと思っています。加えて、可視化されたものに対する消費者のインセンティブ設計も重要になります。例えば、独自トークンやWeb3のような仕組みを使って金銭的インセンティブを設計したり、消費者のエコ度合いを可視化して承認欲求がみたされるような仕組みにしたり、人間の根源的な欲求をサステナブルなものと結びつけていくことが必要になってくるのではないでしょうか。
機能面での魅力を感じてほしい
タカ:今回のPOPUPを開催する有楽町マルイは、特に20〜30代の女性の方が多く来店されます。そのような方がみなさんの商品を日常的に取り入れる上で、どのようなアピールポイントがありますか?
長田:コオロギって実はすごく美味しいんですよね。ナッツみたいな風味で、苦味もほとんどありません。割とどんな食品に入れても調和して良い風味を出すことができます。普段食べている食事の原料の一部にコオロギが入っていることで、サステナブルな暮らしができるだけでなく、食品としても美味しいという点がポイントですね。
タカ:私もコオロギ食べてみたことあるんですけど、旨味が多くて美味しいですよね。環境やサステナブルに対しての意識が高い方は、美味しさなどの機能面も加味して商品を選ばれている印象なので、サステナブルであることだけではなく、機能面をアピールするのは大事なんだろうなと思いました。
鈴木:私たちは大学などと共同研究を進めていて、さまざまな機能をアパレルに取り入れるにはどうしたら良いのかを研究しています。汗をかいてもべたつきにくい、抗菌、消臭などの機能を始め、着るだけで血液循環が良くなって健康につながったり、生理痛が軽減できたり、アンチエイジングにつながったりという機能は、特に多くの女性が求めているのではないでしょうか。
ただ、私たちはそれらの機能を押し出してアピールするということはあまりやっていないんですね。それは、良い機能は謳わなくても付けておけばいいと思っているからです。実際に着てみて、着心地や機能に満足していただける洋服を作りたいと思っています。とにかく安く買って使い捨てるというような時代の流れに逆らって、大切に着続けないと損だと思ってもらえるような洋服を作りたいですね。
タカ:とても面白いです。機能、品質、デザイン性などの付加価値をしっかりと体感して、お客さんに「気に入ったから使い続けたい」と思ってもらえるようにすることが大事だということですね。
空賀:コーヒーはコモディティ化しているので、機能性で差を付けるのは難しく、toCにおける私たちの課題だと感じています。
ただ、1つこれからやっていきたいと考えていることとして、生産者と消費者のお互いの顔が見える関係性を築くということがあります。コーヒーは生産者と消費者が海をまたいで離れているため、お互いの側で何が起こっているのかわからないというのが現状です。しかし、テクノロジーも活用して、生産者と消費者のつながりをよりシームレスにすることは可能だと思うんです。
現在は、定期便で生産者からのメッセージをお客さんにお届けしています。今後は、消費者側から生産者側へのアクションも作っていきたいと考えています、例えば、私たちのコーヒーを飲んだお客さんがSNSで感想をシェアしてくれて、それが生産者に届けば、生産者にとっては大きなモチベーションになります。消費者と生産者の良い循環や関係性を増やしていきたいです。
タカ:素敵ですね。みなさんのお話を比較して、例えば新しい技術や産業においてはサステナブルであることよりも、その新しさから生まれる機能性が消費者にとっての価値になる。一方で、コモディティ化したものは、機能性で差を付けるのが難しいからこそ、自分と紐づくことが価値になりうる。1杯コーヒーを飲んでSNSに感想をあげるだけで、すごく喜んでくれる人がいるって、自分にとっても嬉しいことで、結果としてその商品の価値につながるんだなと思いました。
領域の枠を超えて、暮らしに取り入れる
タカ:これまで商品やその背景についてお話してくださいましたが、最後にお互いの商品に対する感想やアイデアがあればぜひ教えてください。
長田:まず、私自身前職がアパレルの商社だったこともあり、鈴木さんが取り組まれていることのすごさをより実感しました。アパレルでは特に、一般消費者がサプライチェーンまで遡ってサステナブルな取り組みについて認識するのが難しいと感じます。だからこそ、この取り組みの素晴らしさを分かっている人からどんどん取り入れて広めていくことが重要だと思うので、私も鈴木さんの作られている商品を積極的に私生活に取り入れたいと思いました。
そして、空賀さんのお話を聞いて、コーヒーはコモディティ化しているからこそサステナブルであることが差別化の要因になりやすい領域なのではないかと思いました。普段飲んでいるコーヒーを置き換えるのってすごくハードルが低いことだと思うので、こちらもぜひ私生活に取り入れたいです。
空賀:私はTシャツが好きでよく着ているので、鈴木さんの商品はぜひ使ってみたいと思いました。機能性が高いのはもちろん、大手のアパレルブランドさんも含めて、実はいろんな商品に使われているというのが素晴らしいですね。自分の親の世代にも紹介しやすいし、プレゼントとしてもあげやすいなと思いました。
長田さんの商品に関しても、プロテインは普段からとっているので、日々の生活に取り入れたいですね。コオロギは以前食べたことがあるんですが、美味しかったのを覚えていますし、サステナブルの観点からも、今後コオロギのタンパク質は積極的にとっていきたいと思っています。同年代ではプロテインをとっている人もすごく多いと思うので、共感してくれる人は多いのではないでしょうか。
鈴木:今回、食の分野のお二人とお話しして、領域の枠を超えて協業していきたいと思いましたね。
サステナブルやSDGsといったことに対して、こじんまりと持続的にやるのではなく、領域も年齢も関係なく、みんなで一緒に大きな夢に向かってわくわくして取り組んでいきたいです。企業として責任を全うしつつ、いろんなセクターを巻き込んで、新しい枠組みで取り組んでいけたら面白いのではないでしょうか。
タカ:今回の「食と暮らし」というテーマの中でも、領域を超えた連携が生まれるのを楽しみにしております。ありがとうございました!
hap https://hap-h.jp/
COVEROSS https://coveross.jp
ODD FUTURE https://www.oddfuture.net/
GOOD COFFEE FAMRS https://www.goodcoffeefarms.com/
【インクルージョン×将来世代を紡ぐ起業家feat.taliki ~明日へつながる、やさしい暮らし~】
場所:有楽町マルイ 1F カレンダリウム
期間:9月10日(土)~9月16日(金)
営業時間:11:00~20:00
※最終日のみ19:00閉店
さまざまな社会課題解決に取り組む企業6社が期間限定POPUPを開催いたします。起業家たちが紡ぐ「未来のスタンダード」を、商品を通してのぞいてみませんか?ぜひこの期間に、有楽町マルイへお立ち寄りください!
詳しくはこちら:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003012.000003860.html
writer
堂前ひいな
心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。
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