世界から評価されるCOVEROSS®、アパレルから世界を変えていく。
ファッション業界では、大量生産・大量廃棄が行われ、『世界で2番目の環境汚染産業』と風刺されるほど環境負荷が高い産業だと言われている。また、安価な製品を生産するために劣悪な労働環境や児童労働などの社会的な歪みが存在している。hap株式会社の鈴木素が展開するCOVEROSS®は、人にも環境にも優しいサスティナブルファッションという新しいファッションのあり方を世の中に提示している。COVEROSS®を通じて、どのような世界を実現したいのか、そして私たち消費者に伝えたいことを伺った。
【プロフィール】鈴木 素(すずき もと)
hap株式会社CEO。大学卒業後、繊維の商社に7年間勤め、2006年にhap株式会社を設立。世界初の快適多機能性素材「COVEROSS®シリーズ」を手掛け、オリジナルアパレルブランドBLUEYの展開、ファッションの提案・企画・生産管理も行う。フィンランドのサーキュラーエコノミー開発団体『telaketju』に日本企業で唯一加盟している。
もくじ
世界から高く評価されているCOVEROSS®シリーズ
ー現在の事業について教えてください。
株式会社hapでは主に4つの事業に取り組んでいます。1つ目が、環境配慮多機能性素材「COVEROSS®(カバロス)」シリーズの開発です。人間にも地球にも優しいことをテーマに素材開発から製品化まで漕ぎ着けました。その技術は海外で高く評価され、現在では逆輸入のように日本にも普及しつつあります。2つ目は、アパレルOEM/ODMです。この事業では、COVEROSS®を使用したアイテムの製作を可能にしており、百貨店からセレクトショップまで様々なブランドさん向けに提供しています。アウターやカットソーなどの企画を自社で行い、自社の工場で行うことでCOVEROSS®を大きくPRする場にもなっています。3つ目に、オリジナルブランド『BLUEY』の展開です。元々はアメリカで展示会をして販売していたものですが、現在では日本でも販売しています。BLUEYという言葉には青い空や青い海という意味が込められており、伝統的な服作りの中に時代に沿ったディテールの仕様や、素材選びにこだわっています。4つ目は現在コロナの影響で休業しているのですが、『TRAIL(トレイル)』というライフスタイルショップを経営していました。東京の青山にあり自社のブランドはもちろん、SURF AND GREENをコンセプトとしており、塊根植物や多肉植物などの特別な植物や、陶芸作家が手掛けるスタイリッシュな鉢なども商品として扱っていました。
ーCOVEROSS®の性能について詳しくお聞かせください。
COVEROSS®の中にもいくつかシリーズがあります。例えば、COVEROSS®WIZZARDは、10の機能が付いており、吸収速乾、接触冷感、UVカット、透け防止、汗染み軽減、抗菌、消臭、抗花粉、セルフクリーニング、光触媒などが挙げられます。このような技術は世界中どこを探しても自社にしか作れないものだと思っています。実は衣服に付けられる機能は15個あるのですが、この中から用途に応じてどれを掛け合わせていくのかを調節していています。上記以外のものでは、虫除けの機能だったり、冷却、遠赤外線などの機能を衣服に取り付けることができます。
また、このCOVEROSS®の性能付与を1つの工程で終わらせることも私たちのこだわりです。通常、COVEROSS®WIZZARDのような10個の性能を付与しようと思ったら、何回もの加工を行う必要があるんです。しかし、私たちの会社ではこれらを1回で終わらせることによって、無駄なエネルギーをカットし水などの資源の保全に繋げています。
アパレル業界が抱える問題点とは
ーアパレルが現在抱えている課題について教えてください。
今のアパレル業界は服を作りすぎています。通常衣服を作って売るまでには、原料を調達し、素材にして、縫製をする人たちがいて、輸送されて、最終的に商品として売られるというたくさんのプロセスが存在します。しかし、現代はファストファッションが広く流通したことをきっかけに、大量生産・大量消費というサイクルが生まれ、多くの労力が必要なはずの業界に効率化が求められました。これにより不当な労働環境・強制労働が発生したり、日本では禁止されているような化学薬品を扱った服が流通するという健康リスクが生まれたりしたのです。トレーサビリティーがなく、かつそれらが大量に作られ、大量に廃棄される。今でこそ、倫理的な側面も重視され始めていますが、私がまだ前職の繊維の商社で勤めていた2000年代はとにかく洋服を安く大量に作ることが全てで、アパレル業界はこういうものだと思っていました。
現在の地球環境が大量廃棄に耐えきれなくっている中で、従来の生産方法では全く通用しなくなってきます。これからは長い期間、ずっとそのブランドを使っていただけるような作り方や顧客との接し方をする必要があります。また、欧米ではサステナブルファッションへの取り組みがかなり進んでいます。例えば、海洋廃棄物や漁網からできた洋服など、サステナブルな素材を使ったり、北欧では綿生産における大量の水消費に注目し綿製品の製造を削減するブランドなどもあります。
ーhap株式会社ではどのように社会課題に取り組んでいますか?
hap株式会社では、前述のアパレル業界の課題はもちろん、2013年4月24日のバングラデシュのラナプラザビル崩壊事件がきっかけで環境問題を中心としたSDGsにも取り組んでいます。製造過程においても、国内外に限らず倫理面での工場監査を導入しています。工場はバングラデシュ、インドネシア、ベトナム、カンボジアや中国など様々な地域にありますが、自らの足で現地の工場まで出向き、強制労働や違法な化学薬品の使用をしていないかをチェックしています。また環境面では、高い技術によって、水の大量消費を抑える仕組みを可能にしたり、多機能素材のCOVEROSS®シリーズによって長く使ってもらえる商品作りをしていて、この商品を世界に流通させることこそアパレル業界の問題解決に繋がると考えています。
COVEROSS®開発の経緯と戦略
ーCOVEROSS®の開発経緯についてお聞かせください。
COVEROSSは日本の技術ですが、2013年に私と私の師匠(日本人の技術者)とインドネシアで開発を開始し、2016年から販売を開始しました。私自身は文系でしたので、COVEROSS®を作るに至るまでには膨大な量のインプットを行いました。
網羅的な性質を持たせることが重要だと考えていました。しかし、一つ一つの機能性試験を民間で行うと既に存在する規格以外評価が出来ません。そこで新しく開発した機能性能などを検証してもらうため、日本で唯一繊維学部のある信州大学に提案をしました。大学の先生に思いを伝えて、実際に商品を触ってみてもらい、気に入っていただけたところから、今でも共同開発を続けています。
ー素材から変えるものづくりはスタートアップにとって難易度が高いように思いました。開発に踏み込めた理由は何だと思いますか?
最初にCOVEROSS®を開発できたというのが大きいと思います。多くの世界トップ企業が現在、環境に配慮した素材を開発していますが、自社は2016年にはCOVEROSS®の販売を開始しています。さらに素材の種類を増やすのではなく、機能を追加できる形にしてCOVEROSS®一点突破で進めて行ったことが他社と異なる点です。そして重要なのは、追加の機能を自社で開発したことだと考えていて、コストが安く、開発スピードが速いことが自社の強みであると思います。
COVEROSS®を広める戦略
ー現在取り組まれているブランドOEM/ODMについて教えてください。
2020年7月からファッションブランドの『ナノ・ユニバース』、服から服を作る日本環境設計が運営する『BRING』とともに、自然環境に配慮した新レーベル『Meaningful Continuity』を製造・販売しています。日本環境設計の工場で服からリサイクルした再生糸を使い、COVEROSS®の機能性に加えて、ナノ・ユニバースのファッション性を兼ね備えたものとなっています。このようなレーベル作成の背景としては、社会問題に取り組むに当たって、「継続すること」と「周りを巻き込むこと」がが重要だと考えていて、このプロジェクトでは、トレンドで終わらせることなく文化を作りたいと思っています。自社だけで取り組んでもいいのですが、独りよがりになってしまい根本的解決にはならないという思いから協業を決めました。
ー提携先の方々からは、COVEROSS®対してどのようなリアクションがありますか。
やっと日本でもSGDsに対して意識が芽生えてきたことによって、とても反応が良いです。最初は、企業への訴求としては従来の価格でありながら、環境に良いものであることを強くPRしていました。しかし、今では環境に対する負担が重要視されるようになりました。それどころか、ただの業務提携だけではなく、勉強会や講演会などに私自身が呼ばれ環境について登壇させていただくことが多くなりました。
COVEROSS®で社会問題・環境問題を解決したい
ーhap株式会社では社員の方々も社会課題解決に前向きな姿勢が印象的です。何か秘訣などはありますか?
初めは、自分一人だけのマンパワーでやっていました。しかし、私自身が外部の勉強会や講演会に呼ばれるようになって、自社の社員も同伴させ私の話を聴いてもらったり、環境問題での議論に参加してもらったりするようにし、社内でも、環境問題について様々なゲストを呼んで勉強会を開きました。そういう環境にいた社員はサステナブルなファッションについて意欲的になり、その社員の努力が重なり今の私たちがあると思っています。流通を変えるっていう話があったんですけれども、まずは社員から変えていく意識だったりとか、自社の中でサステナブルな製品作りにこだわりを持つことだったりが大事だと思っています。その結果、今年度に弊社で生産する洋服の90%以上にサステナブル素材を使用しています。
ー今後の事業における目標を教えてください。
COVEROSS®の機能をもっと進化させたいと思っています。例えば、水を全く使わないで洋服にあらゆる機能を付与する技術、体調や天候によって洋服の機能をパーソナライズする技術、九州大学都市研究センターの馬奈木教授等とスマートシティでの健康寿命を伸ばすためのスマートウェアの導入などを想定しています。COVEROSS®が、社会問題、環境問題を解決していく未来を作っていきたいと思います。快適性とデザイン性の両方が担保されてる洋服目指し、アパレル業界の大量生産・大量廃棄に対して代わりとなるような生産方法を見つけ出すことが大事だと思っています。
株式会社hap https://hap-h.jp
interviewer
細川ひかり
生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。
writer
馬場健
アートが好きな九州男児です。人の心に寄り添った取材をこころざし、日々勉強中。