ホームレス問題に取り組む株式会社Relight。新たなサブリース事業『コシツ』で、より未然に、より多様な人の支援を

見えないホームレスの課題を解決するべく、ホームレス状態の方を対象とした寮付きの仕事紹介『いえとしごと』を運営する株式会社Relight。昨年新たに、身分証がなくても家を借りることができるサービス『コシツ』を始めた。Relight代表の市川加奈に、『いえとしごと』の変化や、『コシツ』を始めた経緯、理想の社会について聞いた。

【プロフィール】市川 加奈(いちかわ かな)
1993年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒。大学時代、途上国の貧困問題を調査するうちに、日本にも貧困問題があることに気づきホームレス問題の解決を志す。2016年、ボーダレスジャパン入社。2019年、Relight株式会社を立ち上げ、家のない方向け寮付きのお仕事探し『いえとしごと』と、身分証がなくても家を借りられるサブリース事業『コシツ』を運営している。

市川さんの過去のインタビュー記事はこちら:一人一人が自分の将来に希望を持てるように。住まいがない人向け、寮付きの仕事紹介サービス

いえとしごとは、就職に繋がる人が増加

—まず、『いえとしごと』の変化について伺いたいと思います。前回のインタビュー(2020年7月)以降、サービスを利用される方の人数はどのくらい増えましたか?

前回は面談をして就職に繋がった方が110人とお伝えしましたが、今では累計300人以上の方を就職に送り出すことができました。人数が増えたのは、2019年のサービス開始からコツコツ積み上げてきた成果だと感じていますが、最近はメディアに取り上げられることによって、紹介できる企業様の数が増えたことも大きく寄与していると思います。テレビに出るたびに、「うちもぜひ利用したいです」と連絡をくださる企業様がたくさんいます。「もともとホームレスの方への仕事紹介をしたいと思っていたけど、対象となる方にどのようにリーチすればいいかわからなかった」という企業様もいますね。メディアに出ることで、私たちの想いに共感してくださる企業様が多くいることを知れて良かったと思っています。紹介先が増えた結果、「この仕事だったらやってみたい」という利用者の方のニーズも幅広くカバーできるようになり、利用者の増加に繋がりました。

あと、ホームページをリニューアルして、募集が出ている求人情報を見せるようにしました。以前は、まずは面談に申し込んでもらって、面談時にどのような仕事が紹介できるかをお伝えする流れでした。でも、面談するまでどんな仕事ができるのかわからないので、面談した方の半数くらいが紹介に繋がらないという状況だったんですね。そのような方には、代わりに行政のサービスを紹介するなどしていましたが、せっかく時間をもらったのに紹介できる仕事がないというのは利用者の方にも申し訳ないと感じていました。そこで、ホームページ上で、会社名や詳細は伏せ、どのような紹介先があるかを確認できるようにしました。この変更によって、「この仕事をやりたいです」という方が来てくれるようになり、全体のエントリー数は減りましたがその後に進む方の割合が増え、結果的に紹介に繋がる方は増えましたね。

 

—新しく紹介先の企業が増えたとのことですが、取引先の企業と関わる上で意識されていることはありますか?

いえとしごとを利用する上でのメリットとデメリットははっきりとお伝えするようにしています。メリットとしては、課題解決に貢献できることや、単純に戦力が確保できることなどがあげられます。一方で、デメリットとして、全員が就職後も継続して働けるわけではなく、うちの場合は2ヶ月以内にだいたい3割くらいの方は辞めてしまうことがあります。辞めてしまう方の割合を減らすことが私たちの仕事ではありますが、なかなか難しいです。ちなみに、3割辞めるというのは一般的な転職エージェントと同程度の割合です。そのため、1度働いてみないとわからないというのをご理解いただき、現在は1ヶ月経過したら費用が発生するという後払いモデルにすることで、企業様にも気軽にお試しいただけるように工夫しています。また、人によっては最初は少し丁寧に見てあげたり配慮してあげたりした方がいい場合もあるので、その事実はお伝えした上で、どこまでのご状況の方を受け入れが可能かという線引きも事前に丁寧にすり合わせるようにしています。

 

—早期で辞めてしまう方の割合を減らすために、どのような工夫をされているのでしょうか?

就職後の最初の2ヶ月間はフォローに入っています。早期離職の理由として1番多いのが、人間関係の悩みや職場の雰囲気とのミスマッチです。この問題は、こまめに利用者の方に連絡したり、企業様からも何かあれば教えてもらったりして、事前に防ぐ工夫をしています。また、仕事内容が想像していたものと異なっていたなどの理由もあげられますが、企業様によっては現場見学やお試し体験などをさせていただき、防ぐようにしています。

 

—前回のインタビューから変わらず、1人1人の利用者の方と丁寧に向き合われている印象です。一方で、職業紹介のビジネスモデル上なるべくコストを下げながらより多くの人数を就職に繋げることも重要なのではないかと考えました。この2つをどのように両立されているのでしょうか?

削れるところは削っています。うちは会社の規模としては小さいこともあり、ルールに縛られず柔軟に物事を進められます。例えば、大手の人材紹介会社だと、利用者の方の紹介状を作って、職務経歴書・履歴書を作って、面接の日程を組んで……というように工程がとても多く、職務経歴書・履歴書の書き方を丁寧に添削するなど、かなり時間とコストをかけています。一方で、うちは履歴書は用意しますが、企業様も本人に実際に会って人柄を見て判断したいという感じですし、添削などもあまりせず、本人のありのままで企業様とコミュニケーションを取ってもらっています。面談から就職までのサポートの労力が抑えられているので、他の部分に労力をさけているのかなと思います。また、就職後のフォローに関しても、ほとんどの方が特に問題なく働かれるので、「問題ないので大丈夫です」という感じで連絡が終わることが基本で、そこまで時間と労力は要していないというのが実際です。フォローももちろん重要なのですが、それ以前にどのような企業様と繋げるかや、企業様との事前のすり合わせなど、入り口の設計を丁寧にやっていることが、利用者の方からも企業様からも評価されていると感じます。

 

自分で家を借りられない方向けの物件紹介サービス、コシツ

—新しく始められた『コシツ』について教えてください。

コシツは、色々な事情で自分で家を借りることができない方を対象に、うちが借り上げた物件を貸すサブリースの事業です。サービス対象者は、仕事はしているけど、携帯が止まっている、身分証をなくしてしまったなどで、現状はホテル暮らしや友達の家に居候されているというような方たちです。携帯が使えなかったり身分証がなかったりすると、基本的には保険会社の審査が通らず、自分で家を借りることが難しくなってしまいます。そこで、うちが物件をサブリースすることで、家を確保し、身分証を揃えたり貯金をしたりして、生活を立て直してもらうサポートをしています。

 

—どのようにサービスの着想を得られたのですか?

いえとしごとをする中で、自分で家を借りられない方がいるということに気づいたんです。「仕事はしているから仕事の紹介はいらないので、家だけ紹介できないか?」という相談に来る方が一定数いました。でも、いえとしごとはあくまでも寮付きの仕事を紹介するサービスなので、家だけの紹介はできません。みなさん、収入はあって仕事を辞めたいわけではないし、施設やシェアハウスは嫌だという感じで、行政の支援にも繋がりづらい。そこで、物件の紹介だけするサービスに需要があるのではないかと考え、コシツを立ち上げました。

あと、仕事はできるけど自分のお金や生活の管理ができないという方が、こちらも世の中に一定数いるんですね。今ではケータイを使えないと何もできなかったり、クレジットカードやキャッシュレス化などで見えないお金の管理が難しかったりと、自分のお金や生活の管理が以前よりさらに難しくなっています。一方で、核家族化が進んだり結婚せず単身で暮らす方が増えたりした結果、周りに頼れる人がいないという方も増えているのではないでしょうか。コシツの利用者の方も、会社員からフリーランスになる時に社保から国保に変え忘れてしまったとか、運転免許証の更新を忘れてしまったとか、少し管理ができなかったために身分証を失ってしまい、結果として家が借りられなくなってしまったという方たちです。いえとしごとの利用者の方にも同じように、自分の管理が苦手な方が結構いて、就職したけどお金が入ったら全部使ってしまうなどで、生活が立て直せていないという方が一定数います。誰かが少しサポートをする必要があるのですが、職業紹介という立場上、就職した後もずっと生活面に管理や介入をし続けるというのは利用者の方にも抵抗があり、できていませんでした。そこで、コシツでは毎月家賃を払ってもらう必要があるので、その接点を通じて家を紹介した後も毎月継続的に生活のサポートが可能なのではないかと考えたんです。

 

—利用者の方の属性に特徴はありますか?

属性の偏りはあまりないですね。男性も女性もいますし、年齢も20〜50代と幅広いです。仕事もフリーランスの方、会社員の方など様々です。毎月40〜50万稼いでいるなど収入はある方が多いですが、基本的にみなさん貯金はあまりありません。また、いえとしごとでも同様、見た目だけでは”ホームレス状態”だとはわからない方がとても多いです。

 

—サービスを開始してからどのくらいの方に物件を紹介されましたか?

毎月30〜40件ほどのお問合せをいただいていて、そのうち1〜2人が入居を決められています。この3月は繁忙期で5人の方が入居されました。徐々に増えてきています。1年前からサービスを始めて累計15人ほどが入居されています。だいたいみなさん契約を更新して2年間くらいは住み、身分証を揃えたりお金を貯めたりして引っ越していくという感じになりそうです。

 

—一般的な不動産では家を借りることができない方に対して、コシツでは家を貸すことができるのはどうしてなのでしょうか?

理解のある管理会社様にご協力いただいています。利用される方は働かれている方がほとんどなので、勤務地から近いなどの条件があります。そこで、うちが一気に物件を借り上げてその中で選んでもらうというより、利用者の方に条件などを聞いた上で貸せそうな物件をその都度探すという流れです。この流れを一緒にやってくださる管理会社様や不動産の仲介会社様にご協力いただいています。一般的には物件を借りるにあたって保険会社を利用しますが、コシツの利用者の方は保険会社の審査が通らない方たちなので、保険会社の審査をいかに通すかを管理会社様と一緒に試行錯誤しています。また、入居の時点では身分証がなくても、入居後スムーズに身分証が取得できるようにサポートしています。「この書類を用意したらこの証明書が取れますよ」とお伝えしたり、「○日までに取得できると言っていましたが、いかがですか?」とリマインドしたりと、こまめに連絡しています。

 

—協力いただいている管理会社様などはどのように見つけられたのですか?

基本的にはテレアポですね。あと以前、家賃保証会社様と積極的に業務提携を進めていたときがあって、家賃保証会社様は不動産の管理なども幅広くやられていることが多いので、そのときの繋がりも活かせています。また、いえとしごとの紹介先企業様が社宅を借りるために不動産会社様と繋がりがあるので、その繋がりからも広がっています。

 

—家賃を滞納してしまうリスクはどのように回避されているのでしょうか?

そもそも管理会社様や大家さんには、何があってもうちが全部支払うという信用の元でお借りしています。入居者の方に対してやっていることとしては、とにかく連絡することです。毎月家賃払いのリマインドをするのに加え、もし家賃が払えなくなりそうだったら事前に教えて欲しいと伝えています。事前に教えてもらえれば、行政の支援に繋げることも可能だし、仕事を辞めてしまったというような場合は仕事の紹介もできます。とにかくこまめに連絡して「大丈夫ですか?」という声かけをしていますね。なので、今はちゃんと連絡が取れることをコシツで物件を貸す第一の条件にしています。過去に家賃を滞納したことがあるとかは気にしていなくて、それよりもちゃんと連絡が取れる、約束を守れるという方のみ入居OKにしています。具体的には、面談ややりとりの中で、連絡がちゃんと返ってくるか、面談に遅刻しないか、遅刻するなら事前に連絡があるかなどで判断しています。

 

—携帯が使えない方はどのようにコシツを知るのでしょうか?また、どのように連絡を取られているのですか?

携帯の端末自体は持っているけど、支払いができなかったなどの理由で通話機能が使用できないという方が多いです。そのため、無料のWi-Fiなどを利用して、Web検索でコシツを知ったり、その後もメールやLINEでやりとりをしたりしています。携帯の端末をお持ちでない場合も、ネットカフェのPC端末などから情報を知り、ご連絡くださいます。

 

組織化していくフェーズへ

—チーム体制に何か変化はありましたか?

前回のインタビュー時は1人でやっていましたが、今は正社員1人アルバイト1人が入ってくれて、計3人になりました。利用者の方との面談は3人で分担してやっていて、もう1人の正社員メンバーはホームページ周りの業務を担当してくれています。私たちのサービスはウェブ上での集客が基本なのでそこに詳しいメンバーが入ってきてくれてとても助かっています。私の業務は、会社様とやりとりしたり営業に行ったり取材を受けたりなど、外回りの業務が主です。

 

—1人でやられていたときとの違いはありますか?

総じてメリットしかないと思っていますが、難しいところもありますね。私がウェブのことにそこまで詳しくないので、もう1人の正社員が入ってきてウェブ上の集客などの打ち手を増やせるようになったことなど、できることの幅が広がったと感じます。また、人数が増えたことでより多くの利用者の方と面談できるようになったのも良かった点です。一方で、自分が1人でやっていたことを言葉にしてみんなができるようにほぐしていくという作業はとても大変です。でも、この組織にしていく作業は絶対に必要だと思うので、時間を取って向き合っています。具体的には、基準を作って文章化することを心がけています。特に面談などの中心業務では、なるべく主観で判断しなくてはならないことを減らし、対応にメンバーの個人差がないようにしています。

 

目指したいのは、誰もが生きることに悩まなくていい社会

—メディアに出られる機会が増えて、世間からの反応に新たな気づきはありましたか?

ホームレス問題について詳しくは知らない人が多いので、メディアを通してより多くの人に知ってもらえるのはすごく嬉しいです。一方で、私たちの活動が”特別な人がやっている特別なこと”だという認識で終わってしまう場合も多くて、まだまだ想いを伝えきれていないとも感じます。誰しもがいつか家や仕事を失ってしまうかもしれないし、そうならなかったとしても課題に関わっているかもしれないし生み出しているかもしれない。世間一般にとっては、違う世界の話で、今の自分の生活とは関係ないことだと感じられてしまうんだという気づきがありましたね。社会全体で解決していこうという流れを作っていくのは今後の課題だと思っています。

 

—今後の事業展開について教えてください。

いえとしごとはやっぱり対処療法的なサービスでしかなくて、もっとホームレス状態の人が生み出されない、未然に防ぐためのサービスを作っていく必要があると感じています。コシツは、いえとしごとよりも少し前の段階で未然に防ぐことを目指し作りました。仕事をなんとか続けられているなら、家さえ確保できればなんとか立て直せますが、家を確保できなければ何かの拍子に仕事を失うと全て失ってしまいます。全てを失ってしまう前にコシツに辿り着いてもらえるようにしたいです。そして、さらに未然に防ぐためのサービスとして、宿泊施設のようなものを作り、仕事や家がなくなってしまった、もしくはなくなりそうという方が泊まりつつ、相談ができるような場にしたいと考えています。多くのホームレス状態の方にとって事前に相談できる人が周りにいなかったというのは、とても大きな問題だと感じています。家がなくなってしまった方はネットカフェに泊まることが多いので、代用となる宿泊施設を作って、お金がない方も寄付などで1泊は無料で泊まれるというような仕組みにしたいと考えています。

また、サービスを通じてより幅広い方を支援できるようになりたいと思っています。いえとしごとは働くことをメインで考えているので、働けない人が生活を立て直すサポートはできていませんし、働き方の幅もまだ狭いです。一方で、コシツでは、家賃分の収入があれば大丈夫なので、かなり多様な働き方・生き方を許容できるようになりました。加えて、例えば障がい者の方には職業紹介業を通して仕事を紹介するのが難しいので、行政との連携も進めていく必要があると考えています。どこかで「この人は条件に当てはまるから支援できるけど、この人はできない」と線引きしてしまっているのではないかと難しさを感じるときもありますが、より多様な方を支援できるようにサービスを拡大したり、官民連携を進めたりしていきたいです。

 

—改めて事業を通して作りたい社会像を教えてください。

「誰も孤立せず、何度でもやり直せる社会をつくる」というビジョンは変わっていません。ホームレス問題は家を持つサポートをしたら終わりではないので、誰もが孤立せずに相談ができることで生活を立て直すことができるということを引き続き目指していきます。加えて、サービスをする中でいろんな方に出会ってきました。例えば、犯罪の加害者側の方、借金を作って逃げてきたという方。いわゆる社会の理解を得やすい綺麗な貧困状態の人ではない方もたくさんいることに、ホームレス問題の難しさを感じます。でも、そのような、世の中では理解されるのが難しい人でも生きていってほしいと思うので、ホームレス問題の解決を通じて誰にとっても生きることに悩まなくていい社会を作っていきたいです。

 

株式会社Relight https://www.borderless-japan.com/social-business/relight/
いえとしごと https://ie-shigoto.jp/
コシツ https://cocitsu.com/

 

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    interviewer

    細川ひかり

    生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

     

    writer

    堂前ひいな

    心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

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