一人一人が自分の将来に希望を持てるように。住まいがない人向け、寮付きの仕事紹介サービス
ホームレス状態とは路上生活をしている人だけを指す言葉ではない。本人ですら無自覚な「見えないホームレス状態」の人をサポートするべく、Relight株式会社を設立した市川加奈。そんなホームレス状態の方を対象とした寮付きの仕事紹介「いえとしごと」の運営、そして関係者との密な関係性を築く彼女にサービスのこだわりを聞いた。
【プロフィール】市川加奈(いちかわかな)
1993年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒。大学時代、途上国の貧困問題を調査するうちに、日本にも貧困問題があることに気づきホームレス問題の解決を志す。2016年、ボーダレスジャパン入社。2019年、Relight株式会社を立ち上げ、家のない方向け寮付きのお仕事探し「いえとしごと」を運営している。
もくじ
変わりゆく日本のホームレスのあり方
ー現在の事業内容を教えてください。
住まいがないホームレス状態の方や住まいを失いそうな方向けに、寮付きのお仕事紹介をする「いえとしごと」というサービスを運営しています。基本的にはウェブで繋がり、ホームレス状態の方と面談をして、会社を紹介し、彼らが生活を立て直せるという一連のサービスをワンストップでやっています。
日本が定義する「ホームレス状態」って路上生活をされている方なんですよね。河川敷や駅で寝ている方を「ホームレス状態」と表しているのですが、10年以上前からそのあり方は多様化しており、ホームレス状態の人たちの現状もなかなか見えづらくなってきています。現在はネットカフェやマクドナルドなど、雨風をしのげる場所が簡単に手に入るので、路上で生活している人は少なくなり、そのかわりに住所不定の人が増えています。
そのため、「いえとしごと」のホームページでは一回も「ホームレス」という単語をいれていません。ホームレス状態の方々と状況としては同じなんですけど、本人たちは自分のことをホームレス状態とは思っていないので。そういった彼らがインターネットで調べる言葉からうまく「いえとしごと」に繋がり、自然と支援に繋がり彼らの生活を立て直していた、という状態になるようにサービスを運営しています。
ー市川さんがビジネスでホームレス問題を解決しようと思われたのはなぜですか?
持続性という面で、寄付よりもビジネスで継続的にできる仕組みを作りたかったからです。
きっかけは二つあって、一つ目は学生時代に、健康食品を一食購入するとアフリカの学校給食を一食寄付できる認定NPO法人「TABLE FOR TWO」で活動したことです。直接的なお金での寄付も素敵な試みだと思うんですけど、寄付しようというマインドがないとそもそも関われない。一方で、購買行動の中で無意識的に学校給食が寄付できる仕組みが美しいなと思い、そのような仕組みを私もつくりたいと思うようになりました。
二つ目は、学生時代に家族が病気になったことです。看病のため外に出れない時もあり、サークルやボランティア活動が一切できないときや、アルバイトに行けず金銭面的に厳しいときもありました。その時に活動が仕組みになっていないと続けられないんだなと実体験で感じました。ビジネスで、かつ関心のあったホームレス問題の解決ができればと思い、ボーダレスジャパン入社し、現在に至ります。
就職ではなく生活を立て直すことが目標
ー「いえとしごと」を利用される方はどのくらいいらっしゃるんですか?
2019年4月から事業を始め、10月に法人登記をしました。現在事業を初めて1年4ヶ月ですが、これまでの問い合わせ件数は2,000件を超えていますね。ただ金銭的に厳しく緊急の支援が必要な方には行政を紹介したり、住んでいる場所が遠く対面で会えない人もいたりするので、実際に面談をしてお話を詳しく聞いた人は300人ぐらいです。そこから就職に繋がった人は110人ぐらいなので、その数を増やすための方法を模索しながらやっています。
ー面談された中で就職できる方と就職できない方の違いはありましたか?
人それぞれというのが一つの答えなんですけど、傾向として「いえとしごと」で紹介できる仕事と、ホームレス状態の方々のやりたい仕事が一致しない場合はあります。「ピンチな状況においても仕事を選んでいるのは自己責任」とか言われてしまうこともあるのですが、私は仕事を選んでもいいんじゃないかと思っています。就職することがゴールではなく、その先の生活を立て直すことがゴールだと思っているので。それができない仕事に無理やり就いて継続できなかったら、私たちも事業として成立させづらいですし、就職先の会社さんにもご迷惑をおかけするし、なにより本人も自信を喪失してしまいます。
面談中に「なんで働きたいの?」「一応社会保障のある日本社会でなんで働くの?」みたいなことを聞いたりもします。働きたいという思いがあるのは本当に素晴らしいことなのですが、一人一人お話を聞いた上で、支援団体や行政、他業種の紹介など、その方にあったベストな方向性を常に考えています。
ー「就職ではなくその先を立て直すことが本来の目的」とおっしゃっていますが、市川さんはどうなったら「立て直せた」と判断するのですか?
うちに相談に来る人って、目の前のことをとにかく考えていることが多いんですよね。困窮すると、「今日どうしよう」「明日どうしよう」という世界で生きているので、うちのサービスを使って生活を立て直したことで、その先のことを考えられうようになるというのが、立て直すという意味での一つのゴールかなと考えています。
将来の夢を抱ける人ってすごくいいなと思っていて。大きな夢じゃなくても、「アイドルのライブに行くために今月働こう」など、未来の楽しみ=目標や少しずつ先のことを考えられるようになって欲しいなと。生活を立て直した後はそういった自分の人生が歩めると思うので、うちでは一人一人が自分の将来に希望が持てるように、生活を立て直すまでのお手伝いをしたいなと思っています。
対等な関係性と日々のコミュニケーションを大切に
ー他社の人材派遣サービスとは違う、「いえとしごと」ならではのポイントはありますか?
安心感を提供しているところだと思います。「寮付きがメインですよ」「携帯がなくても大丈夫ですよ」「身分証が揃っていないなら揃えるところからやりましょう」と安心材料を打ち出しています。ホームレス状態の方々はお金がない中、交通費もかかるので複数社受けられないんですよね。「所持金もほとんどないので明日受からないとやばい」という感じなのでウェブ上でも面談でも安心感を出すよう心がけています。
あとは相談に来る方々、本当に困り果てているタイミングで相談に来るのでとても心配なんです。所持金がない中でいかに早く会社さんを紹介し、働いて生活を立て直してもらえるかが勝負になるので、「最短3日で面接ができる」などスピード感も重要視しています。
ー市川さんが「いえとしごと」を利用されるホームレスの方々との付き合い方で工夫されていることはありますか?
とにかくフランクに話しています(笑)。何より元気になって帰ってほしいんですよね。皆すごく落ち込んでいる状況で来られるので、たとえ何も解決につながらなかったとしても、少し気持ちが楽になって次に進みたいなと思ってもらえるような話し方や、共感したり肯定したりするようにしています。
もう一つは、色々な状況の方が来られるので、年齢や性別で判断せず人として敬意を払って接することです。セクシャルマイノリティの方や、年齢も15歳から60代の方までいらっしゃいます。15歳の子にも敬語を使い、60代の人にも上下関係のない、相談がしやすい対等な関係になるよう意識して話しています。
ーこれまで印象に残っているホームレス状態の方々を教えてください。
一人一人が濃すぎて誰が一番っていうのは選べないんですけれども、どっちかというと就職された人よりも就職されなかった人の方が印象に残っています。
所持金2円で身動きが取れない人がいたり、LINEで仕事の紹介の話をしていたのに「今から海に行ってきます」と急に連絡が途絶えた家のない人がいたり、疾患や障害を持っていらっしゃる方もいて。私に何ができたんだろうと考えますね。この前面談した方も「実は文字が読めないんだよね」と面談の最後の方に教えてくれて、こちらの当たり前が当たり前じゃないっていうのを常に感じます。
自社だけでホームレス問題は解決できない
ー「いえとしごと」を利用して就職された方々とは、今でも連絡を取っているのですか?
定期的に本人にも「元気ですか?」と連絡します。あと、うちは紹介する会社数が他の人材紹介よりも少ないので、会社さんにも「〇〇さん元気にやってますか?」と聞けちゃうんですよね。連絡が取りづらい人には、会社さんに聞いたり会いに行って確認するのですが、会社の各担当者さんとはほとんど毎日連絡を取っています。
うちはホームレス問題に対する想いを伝え、それに対して共感した会社さんとしか取引していません。「ホームレス状態」と聞くとマイナスのイメージをもたれることもありますが、逆に彼らは「ホームレス状態」なだけなので、状態ではなくその人を見て採用してくださいと話しています。バイトしたり家を持つとただの〇〇さんになりますよね。逆にホームレス状態じゃなくても、途中でいなくなっちゃう人たちはいるので、仕事において、ホームレス状態かどうかはあまり本質ではないと思います。「本当に生活を立て直したいという想いが強くあるかだけを問います」という会社さんが多いです。
ー今後目指したい社会や目標を教えてください。
ホームレス問題を解決するために、「いえとしごと」のサービス以外も展開していきたいと考えています。「いえとしごと」は、仕事をすぐ紹介してすぐ働ける人に限られてしまう特徴があるので、それを望んでいない人のサービスにはなっていません。週5フルタイムが難しい人には、トレーニングとして週2から初められるようなサービスを作れないか考えているところです。もともと色々な形で色々なサービスを作っていかないと、と思っていたので社名の「Relight」とサービス名の「いえとしごと」が別になっているんです。
一方で、社会構造が変わっていかない中でホームレス状態の方々のみに応急処置のような事業をするのは、転んで傷ができたところにひたすら絆創膏を張るような事業でしかないと思っていて。そもそも転ばないような仕組みや、怪我しないようマットを周りに敷けるような仕組みなどをつくっていきたいと思っています。そのために自社だけじゃなく、支援団体や行政の方々と一緒に活動していきたいですね。
いえとしごと HP https://ie-shigoto.jp/
interviewer
細川ひかり
生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。
writer
河嶋可歩
インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。
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