株式会社SANCYO、就労支援やあまおう農園で新たな挑戦。生きづらさ・働きづらさのない世の中へ前進するために。
インタビュー

株式会社SANCYO、就労支援やあまおう農園で新たな挑戦。生きづらさ・働きづらさのない世の中へ前進するために。

2022-04-09
#福祉・介護 #農林水産 #雇用創出

「生きづらさ・働きづらさのない世の中を創る」というビジョンのもと、障がい者の就労支援を行なう株式会社SANCYO。この1年半で、新たに就職を支援する部門を立ち上げたり、あまおうの生産・販売を行なう子会社を立ち上げたりするなど、事業を前に進めてきた。代表の嘉村裕太に、子会社ONE GOの設立背景や、組織として取り組んでいきたいことについて聞いた。

【プロフィール】嘉村 裕太(かむら ゆうた)
株式会社SANCYO代表取締役 兼 株式会社ONE GO代表取締役。身近な人が双極性障診断を受けたことをきっかけに起業を決意し、福祉業界に参入した。就労継続支援A型事業所「TANOSHIKA」と相談支援事業所を運営するほか、障がいを持つ当事者が発信するメディア「AKARI」の運営を行なっている。加えて、2020年に株式会社ONE GOを子会社として設立し、あまおうの生産、加工品の販売を行なう。

嘉村さんの過去のインタビュー記事はこちら:農業やITを取り入れた障がい者向け就労支援。意欲に本気で向き合う挑戦とは

コロナ禍でも、新たな事業を展開

—前回のインタビュー(2020.9)からの変化についてお伺いしたいと思います。まず、この1年半を振り返って、コロナ禍ではどのような影響がありましたか?

最初は、事業所での作業がリモートになるといった変化はありましたが、大きなダメージは感じていませんでした。しかし、しばらく経ってから、事業所でのメンバー(利用者)の新規採用が年間を通して少なくなっていることに気がついたんです。新しくメンバー(利用者)が入ってきづらくなったというのが、コロナ禍で徐々に実感した大きなダメージでした。また、TANOSHIKA FARM*の取引先で、毎日10人ほどお仕事に行っていたバジル農家さんとの取引がなくなってしまったことも、大きなインパクトがありました。その農家さんは外食産業への直接販売に力を入れていたので、コロナ禍で外食産業がダメージを受けたことにより、売り上げが見込めなくなってしまったそうです。このように、コロナ禍で仕事が減ったことで事業の見直しを考えたことが、2020年の子会社設立にも繋がりました。

*株式会社SANCYO組織図(2022.4時点)

—TANOSHIKAとして新たに始められたことはありますか?

就職をサポートするための、新たな部署が立ち上がりました。前回のインタビューでは、事業所を卒業し一般就職されるためには、メンバー(利用者)本人が「自己容認できていることが重要」と話していました。もちろんメンバー(利用者)本人の考え方や自信も重要ですが、より多くの方が事業所を卒業し一般企業で働けるようになるには、就職先の受け入れ体制も非常に重要です。就職をサポートする部署ができたことで、受け入れ先企業様へのサポートもできるようになったことが大きな変化ですね。

この部署では、まず、一緒に受け入れ可能な企業様を探したり、履歴書を書いたり面接の練習をしたりといったメンバー(利用者)のサポートをしています。そして、就職した後も最低月1回は企業様や元メンバー(利用者)と面談を実施し、企業様へのサポートもしています。企業様も色々と模索しながら受け入れ体制を整えられているので、対応に悩まれることもよくあるんですね。例えば、元メンバー(利用者)さんが体調が悪いなどの理由から無断でお仕事をお休みされたときに、受け入れ先の企業の方が、次の日に注意をした方がいいのか、そのまま何もなかったかのように対応した方がいいのかと悩まれていたことがありました。人によっては、悪いことは悪いとお伝えした方がいいし、頻繁に体調が悪くなってしまうという前提で関わった方がいいという場合もあります。一概に「こういうときはこうするべき」という答えがあるわけではないので、企業の方の困りごとを具体的に相談いただいて、1つ1つ解決することで、企業様側の受け入れ体制の強化に繋げています。

他にも、元々清掃業を中心に展開していたTANOSHIKA CLEANを、清掃業にとどまらずパソコン作業や倉庫内作業など、より幅広くお仕事を提供するTANOSHIKA PLUSにパワーアップしたり、主にWEB制作などクリエイティブ業務を行なうTANOSHIKA CREATIVEの2つ目の事業所をオープンしたりしました。

 

—事業所の中でも、TANOSHIKA CREATIVEの事業所を新たにオープンしたのはどうしてですか?

CREATIVEのニーズが1番大きいからです。就労支援はTANOSHIKA FARM、TANOSHIKA CREATIVE、TANOSHIKA PLUSの3事業所がありますが、問い合わせ数、その後の見学、体験、面接に進む割合なども、CREATIVE部門が1番大きいんですね。地域のニーズが数字に表れているようです。

 

—CREATIVE部門ではどのように案件を獲得されているのですか?

僕たちから営業して案件を獲得するというより、SNSなどで知ってご連絡いただくことが多いですね。福祉、介護、医療などの領域の企業様って、ホームページを持っていなかったり、昔のまま更新されていなかったりすることが多いんですが、そういう企業様が新しくホームページを作るときなどに依頼いただくことはよくあります。そして最近では、東京のIT企業様からの案件も増えています。こちらは、紹介でお仕事が広がっています。一緒にお仕事をする企業様の中には、うちが就労支援事業所だということを知らない方もいるようです。先日は、うちと一緒に仕事をする中でTANOSHIKAの事業所について知られた企業様がいて、オンラインで事務所見学をしてほしいと言っていただきました。それで、僕がパソコンを持って事務所の中を歩き回ったり、実際に働いている方にプチインタビューをしたりしました。こうやって興味を持っていただけるのは嬉しいですね。

CREATIVE事務所

 

あまおうで挑戦する会社、ONE GOの設立

—2020年に設立された子会社ONE GOについて教えてください。

SANCYOが拠点を置く福岡県久留米市大善寺町で、あまおうや、あまおうを使った加工品の生産・販売を行なう会社です。30年間続くいちご農園『築島農園』と、僕たちSANCYOの共同出資で、SANCYOの子会社として2020年8月に設立されました。現在は、ふるさと納税への出品や自社ECでの販売に力を入れていて、今年のふるさと納税では13万パックものあまおうを販売しました。

 

—ONE GOの設立にはどのような背景があったのでしょうか?

築島農園さんは、オーナーの築島さんが30年前に大手機械メーカーを退職し立ち上げられたあまおう農園です。TANOSHIKA FARMの取引先でもあり、築島さんとは個人的にも連絡を取り合うような関係でした。そんな築島さんは何年か前から農園の後継ぎを探されていたんですね。それで僕たちに農園を継がないかと何度かお話をいただいていました。しかし、築島さんは元エンジニアだということもあって、高い技術と高いこだわりを持って栽培をされていたので、僕たちでは到底その技術を受け継ぐことはできないとお断りしていたんです。そんな中、コロナ禍になり事業の立て直しを迫られたときに、改めて打診いただき、挑戦するタイミングだと思って、引き受けることに決めました。以前から自分たちで農業をやりたいという想いはあったんです。TANOSHIKA FARMは農業の事業所ですが、卒業後の就職先は工場やリフォーム会社、介護業界などの仕事がほとんどで、農家さんに就職するというケースは実はほぼありません。農家さんには障がい者雇用という概念があまり浸透していないので、卒業後も農業をしたいという人が農家さんに就職することが難しく、TANOSHIKA FARMにずっと残っているという状況でした。今回ONE GOをSANCYOとは別法人で設立したことで、TANOSHIKA FARMの卒業生がONE GOに就職するという流れが生まれるようになりました。

築島さんは事業が大きくなったり変化したりすることをすごく楽しまれる方なんです。築島さんが30年間培われてきた技術は引き継ぎながらも、僕たちが多様な背景を持った方を採用したりECなど新たな販路を拡大していったりすることを一緒に楽しんでくださるので、後継経営として理想的だなと思っています。

 

—あまおうの販売だけではなく、加工品の販売もされているのはどうしてですか?

まず、加工品も作ることで雇用を生み出すことができるというのが1つです。僕たちは障がい者の方も含め、多様な背景を持った方を雇用していきたいという想いがあるので、幅広いお仕事を提供していきたいという前提があります。あとは、本当に美味しいあまおうを作っているので、そのあまおうを使った商品も絶対美味しいじゃないですか。自分たちのあまおうで加工品を作るのが純粋に楽しそうだったからというのもあります。

加えて、僕たちが加工品を作る優位性もあると思っています。あまおうを市場に卸さず、ECなどを通じて直接消費者に届けているので、消費者と繋がることができます。なので、新商品を作るにあたって、すでに繋がっているお客さんに調査をして何が求められているかを把握した上で、商品の展開ができるんです。一方で、現状、ふるさと納税で去年は10万パック、今年は13万パック販売しましたが、購入いただいた方の名簿は2次利用ができないというルールがあります。だからふるさと納税で購入いただいた方に僕たちから直接ご連絡することはできないんですね。そこで、今年はふるさと納税の返礼の中にお手紙を添えて、ONE GOのことを知っていただけるように工夫しています。今後は、お客さんに意見を聞きながら商品開発をしていくような方法に完全に移行していきたいと考えています。

 

—ONE GOを経営する中で難しいと感じることはありますか?

SANCYOとONE GO、2つの会社を経営することの難しさを感じます。今は、SANCYOとONE GOで9:1くらいの割合で時間を使っているんですね。だからONE GOの現場には週1〜2回ほどしか行けていなくて。その結果、ONE GOでの文化・土壌作りのスピードは遅くなってしまっていると思うんです。例えば、お子さんの体調が悪くて仕事をお休みしたいとなったときに、ルール上お休みが取れることになっているということと、実際にお休みが取れるかどうかには違いがありますよね。いざ休まないといけないときに、言いづらい職場というのも世の中にはたくさんあります。ONE GOではもちろんお休みはできるんですよね。だけど、そこからもう一歩進んで、「了解です」とだけ返すのではなくて、「お子さん大丈夫ですか?明日もお休みの場合、早めに連絡いただけたら対応しますよ」などと声を掛け合うというのが理想だと思っていて。お休みしたときに不安が残らない、「すみません」と言わなくてもいいというような文化にしたいんです。あと、チャットでは絵文字をたくさん使うことで自分の感情を相手に伝えるようにするとかも大事だと思っています。小さいことですが、こういう意識変化の1つ1つの積み重ねで文化・土壌ができていくと思っていて、僕が時間をかけてその場で実践することが重要だと考えています。そのため、コミットが少ない中ではなかなか思うように進まず、まだ納得いく形にはできていないのが課題ですね。

築島さん

 

チームワークを重視した支援を

—事業所ではどのようなスタッフの方が働かれているのですか?

職種は主に3つあって、サービス管理責任者と呼ばれる資格者・責任者、職業指導員、生活支援員です。職業指導員さんは具体的な仕事を通したサポートをしていて、それぞれの事業所にあったスキルを持った方たちです。IT業界から転職されてきた方など、福祉業界は初めての方がほとんどですね。それに対して、生活支援員さんは仕事以外の生活全般に関するサポートをしていて、福祉経験が長い方が多いです。

 

—就労支援の他に、相談支援の部門があるんですよね。

就労支援は18歳以上の方が対象で、お仕事に関する支援が中心となります。それに対して、相談支援では年齢制限などはなく、子どもから65歳以上の方にもご利用いただけて、お仕事以外の相談で関わる支援になります。

SANCYOの相談支援は、チーム制で運営しているところが特徴的です。相談支援は全国に1000箇所くらいあるんですが、どこも基本的に1〜2人の相談員さんで運営されているんですね。それに対して、僕らがチーム制で運営している理由はいくつかあります。まず、障がいと言っても人によって種類・程度が異なりますし、子どもから大人まで相談に来るため、福祉の経験が長いとしても、全ての相談者さんに対応できるだけの知識を1人でカバーすることは難しいです。加えて、相談者さんの中には異性に対することで悩まれているため、同性の相談員に相談したいという方もいます。なので、幅広い相談に対応できるようにチーム制を採用しています。また、相談支援はとても離職率が高いんです。例えば、お子さんが障がいを持っていて悩んでいるお母さんが相談に来られて、余裕がないためにきつい言葉を相談員さんに言ってしまうというような状況もよくあります。相談員さんとしては力になりたいけど、過度なストレスにやられてしまうことも多々あって。誰かがしんどくなってしまったときにバトンタッチできたり、相談できたりする環境が、相談員さんの働きやすさには非常に重要です。これらの理由から、チーム制を採用することを決め、現在は7人の相談員さんがいます。

巷では、相談支援って儲からないと言われていて、大きな法人が付属で運営していたり、兼務で運営していることが多いんですね。確かに、就労支援に比べると収益は低いんですが、3人以上のチーム制にすることで得られる加算があるため、黒字化も可能です。また、全国で相談支援員さんは全然足りていなくて、1人1人が過重労働を強いられている状況です。これも、チーム制で仕事を分散させることで解決できると考えています。

 

—SANCYOではどのような方と一緒に働きたいですか?

僕たちは、支援は1人ではできないと考えているので、チームワークを大事にしています。だから、シビアにやるところはやる強いチームという認識を持ちつつ、多様な方にとって働きやすい環境を追い求めていきたいです。この考え方に共感してもらえるというのは一緒に働く上でまず大事にしています。加えて、何かしらの課題意識や怒りを持っている方も一緒に働きたいなと思います。例えば、福祉業界を経験する中でもっとこういうことをやってみたいという想いを持った方、自分のお子さんが障がいを持って生まれてきてその子が将来働きやすい社会を作りたいという想いを持った方など。社会を前進させたいという想いがある方と一緒に仕事をするのは楽しいなと思いますね。

あと、経営者は自分のやりたいことに対して嘘をつかないということが、とても大事だと思っています。会社として目指す方向と自分がやりたいことが一致していないと、ずっときついんですよね。自分のやりたいことで多くの方に喜んでもらえるなら、良い意味でわがままであり続けるべきだと思うんです。だから、自分がやりたいことに愚直に向かっていく過程では、自分のできることに集中して、できないことはメンバーに任せられるようなチーム作りをしていきたいと思っています。

 

—これから取り組んでいきたい組織としての課題はありますか?

数字を達成する力はまだ弱いと思っています。数字を達成していくことでできることが増えていくし、より多くの人にサービスを届けることに繋がっていくので、もっと成長が必要だなと思っています。会社としてはまだまだ足りていないことだらけなので、1つ1つ愚直にやっていくしかないですね。

 

関わる人を増やし、世の中を前進させる

—会社として成長するということや、成長の指標をどのように捉えていますか?

まず、できることが増えるということは成長の1つだと思っています。具体的に成長の指標として捉えているのは、会社として関わることができる人数です。最近、TANOSHIKAのメンバー(利用者)の方が100人を超えたんですよ。全国でメンバー(利用者)が100人を超えている事業所は僕が知る限り他に2つしかないんですね。多くの方に利用いただいているということは、地域に必要とされているということなので喜ばしいことだと思っています。

でも同時に、まだまだサービスを届けるべき人たちに届けられていないことも日々痛感しています。去年、久留米市内の全世帯に僕たちの事業所についてのチラシを配りました。そのチラシを見た方からたくさん連絡いただいたんですけど、かなり多くの方が就労支援というものを知らなかったんです。福祉はインフラのようなもので、誰でも使えるものであるべきなのに、利用できる支援があることを知らない人が多すぎることに驚きました。僕はよく、「僕たちが支援している目の前の方々の後ろに、見えないんだけど行列ができている」と表現するんですね。まだ社会には埋もれてしまっているニーズがあるので、目の前の方々の支援は現場の方々に任せつつ、会社の未来や役割をもっと大きく描いていきたいと思っています。

 

—今後の事業展開について教えてください。

ONE GOでは、僕たちにしかできないやり方で商品開発をしていきたいと考えています。僕たちと思想が近い企業様とのコラボ商品も作りたいです。あとは、観光農園もしたいと思っていますし、もっとハウスを増やしてより多くの方を雇用できるようにもしていきたいです。そして、今拠点を置いている久留米市大善寺町を”いちごの町”や、”障がい者雇用の町”として盛り上げられるくらい大きくなるのが目標です。ただ、ONE GOはここ2〜3年で現場の方にお任せできるようにして、僕はSANCYOにコミットできるようにしたいと思っています。TANOSHIKAは就労継続支援A型というサービスですが、就労移行支援というサービスにも興味があります。こちらは、雇用契約を結ばずに2年間で就職に送り出すというサービスです。僕たちとしては、より社会で活躍いただくために一般企業に送り出すということに力を入れたいので、就労移行支援は相性がいいのではないかと考えています。

僕たちが生きている間に課題を全て解決できるかはわかりませんが、ビジョンとして掲げている「生きづらさ・働きづらさのない世の中を創る」はぶらさずに、世の中を前進させていきたいです。

 

株式会社SANCYO(TANOSHIKA) https://tanoshika.jp/
株式会社ONE GO https://onego.co.jp/

 

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    interviewer

    梅田郁美

    和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
    猫になりたい。

     

    writer

    堂前ひいな

    心理学を勉強する大学院生。好きなものは音楽とタイ料理と犬。実は創業時からtalikiにいる。

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