環境問題を伝えるメディアとしての大豆ミート。環境に配慮することが当たり前の社会を目指して
2021年から始まった大豆ミートブランドSOYCLE。代表の白坂大作は2020年に子どもに大きな病気が見つかったことをきっかけに、子どもの未来、中でも気候危機と健康に関心を持ち、事業を立ち上げた。「環境に配慮したライフスタイルを日本のスタンダードに」するために、まず食の切り口から誰もが環境問題にアプローチできるような取り組みをしている。それまでの経歴とは異なる分野でブランドを立ち上げるにあたって、困難だったことやその乗り越え方、目指している社会、今後の展開について話を聞いた。
【プロフィール】白坂大作(しらさか だいさく)
株式会社上向き代表取締役。フィットネス業界・事業プロデュース業等の経験を経て起業。事業の大きなテーマを「社会課題の解決×デジタルテクノロジー」と位置づけ、株式会社ボーダレス・ジャパンが運営する「ボーダレスアカデミー」にて本格的なビジネスプランに着手。ミッションである「環境に配慮したライフスタイルを日本のスタンダードに」の実現に向け、大豆ミートに関する事業を展開。
もくじ
発芽大豆を使った日常に取り入れやすい大豆ミート
—現在の事業について教えてください。
日本の中で環境に配慮することが当たり前の社会をつくっていきたいという思いがあり、「環境に配慮したライフスタイルを日本のスタンダードに」をミッションに掲げています。それを具現化するための手段の1つとして、大豆ミートブランド「SOYCLE/ソイクル」を展開しています。
—現在の商品ラインナップはどのようなものがありますか?
現在販売しているのは「発芽大豆フレーク」です。これは大豆ミートを乾燥させたフレーク状のもので、お肉で例えるとミンチのようなものです。臭みがすごく少ないので、サラダにかけてそのまま食べられたり、お椀に注いだお味噌汁にさっとかけるだけで、ふやけて食べられる状態になったりと、手軽に普段の食事に取り入れられるものとなっています。また、今年の3月末頃にブロックタイプの商品の発売を予定しています。歯応えのあるお肉のようなもので、フレークと同様に乾燥した状態でお客さまに販売する予定です。
ー商品に使用されている発芽大豆について教えてください。
簡単に説明すると、一般的な大豆ミートは、大豆から油を搾り取った後の残り物でつくられる「脱脂大豆」というものを使っています。脱脂大豆はまだ栄養価がありますが、本来家畜の肥料などにされていました。これをどうにかできないかという思いから、大豆ミートはつくられたんです。ただ一般的な大豆ミートには、味と食感に少し違和感があること、大豆特有の青臭さ、肉に見劣りする機能性・栄養価という3つの課題がありました。
これらの課題を乗り越えるため、私たちの大豆ミートには、大豆を発芽させたものを使用しています。大豆というのはあえて少しストレスを与えながら育てることで、頑張って生き延びようとして芽が出るのですが、芽が出た瞬間に栄養価やうまみ成分が一気に増加するんです。この、あえて大豆にストレスを与える栽培方法の特許を原料メーカーのDAIZ株式会社(以下DAIZ)が取っていて、私たちはDAIZさんの大豆を使用しています。だから、うまみ成分が豊富で、臭みが少なく、そして栄養価も非常に高いというのがソイクルの商品の特徴です。
また、ソイクルの大豆ミートは味がほとんどしません。通常の大豆ミートは大豆特有の臭みを消すためにいろんなものが添加されていることが多いです。しかしソイクルはお客さまが自分で味付けするほうが安心していただけるのではないかと考え、味などの添加物を付け加えず、乾燥した状態でお客さまにお届けしています。そのほうがお客さま自身で簡単につくれて、大豆ミートを日常に取り入れやすいのではないかと思っています。
ソイクルを使用したカレー
ー商品がどのように環境に良いことにつながるのでしょうか?
例えば、大豆と牛肉の生産面を比較したときに、牛肉は1キロを生産するために水20トンが必要だと言われています。一方で、大豆は2.5トンの水で済みます。同様に温室効果ガスの排出量は、牛のゲップに含まれるメタンガスがCO2の25倍の温室効果があると言われている一方で、大豆は10分の1の温室効果ガスで済みます。このように、牛肉に限らず動物性の肉を大豆にすることで、環境負荷へのインパクトが変わってくるというのが1番大きいです。
環境問題を伝えるための大豆ミート
ー現在はECをメインに販売されていますが、何か意図はあるのでしょうか?
基本はECで、一部は店舗に置いているという形です。基本的にECで展開をしているのは、僕らは商品を買ってもらうことがゴールとは思っていなくて、商品をきっかけにして環境問題をお伝えすることが重要だと考えているからです。ソイクルという商品を販売している会社というよりは、環境に配慮したライフスタイルを日本のスタンダードにする活動をしている会社という感覚が僕は強いんですよね。
ソイクルは商品でもあるんですが、1つのメディアとして考えています。だから、商品を販売するときに、この商品はどういう文脈で出ているのかというのを伝えたいんです。
現在ECで購入すると、広報パンフレットや僕の挨拶文が商品と一緒に届きます。あとは季刊誌を2ヶ月に1回出しているんですが、季節に合わせたソイクルを用いた料理のレシピを紹介していたり、環境に配慮した商品やサービスを僕らが紹介していくという取り組みをしています。ソイクルを買ってくださった方に「こんなに簡単なアクションでも環境に対して何かできるんだ」というのを知っていただきたいと思っています。
商品に同封されている季刊誌
想いを伝え、信頼を築く
—そもそも事業を始めるまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか?
以前、会社に勤めているときに、世の中には環境問題や社会課題を解決する事業領域があることを知り、いつか社会課題にアプローチする事業をしたいと考えていました。そのため起業の準備としてボーダレス・アカデミーでソーシャルビジネスを体系的に学んだのち、2019年、自分の37歳の誕生日に起業しました。起業して半年間は広告事業の経験を活かしてコンサルティングの仕事をしつつ、これからどうしていくべきか考えていました。しかし、2020年3月のコロナが広がってきた頃に、息子の病気が発覚しました。そこから「子どものためになるような事業をつくる」「環境問題を食の切り口からアプローチする」という事業内容に定まりました。
—起業を決意して、最初は何から始めましたか?
自分が描きたい世界や、目指したい社会をイメージすることを1番最初にやりました。もう少し具体的に言うと、どんな課題を解決したいと思っているのか、それを解決したらどんな未来を描けるのかというビジネスのコンセプトつくりを徹底的にやりました。
ー これまでのご経歴とは異なる分野で、どのようなことが大変でしたか?
これまでの経験から、どういう風にすれば売り上げが上がっていくかという漠然としたビジネスモデルは知っていました。他にも、商品をどのようにつくり上げていくのかというクリエイティブ関連のフローもわかっていたので、その辺りは事業に活かせたのかなと思います。
しかしいざ実際に事業をするとなると、例えば商品を梱包してくれる会社から印刷会社、原料メーカー、運送会社やシステムまで、全て自分でやらなければいけない。全て0からやってみるというのはかなり大変でした。特に、業界の単価の水準も知らないので、これが果たして高いのか安いのかという判断がしにくかったです。あとは業界で自分に信用がない状態なので、例えば取引をするときに1000枚以上発注しないと印刷できなかったり、前金を払わないといけなかったりして、そういったところは結構大変でしたね。
ただ、印刷会社であっても物流会社であっても、結局「人」の「1対1の付き合い」なので、「なんで僕がこの事業をやろうと思っているのか」というのを必ずプレゼンさせてもらいました。そうして事業の背景を知ってもらえると、「お手伝いさせてください」と言ってくださる企業さんが多かったです。
DAIZ株式会社との出会いとこだわり抜いた大豆ミート
—大豆ミートメーカーのDAIZ株式会社との出会いはどのようなものでしたか?
まず、僕がこれから事業を通じて環境問題に対してアプローチしていくと考えたときに、自分で原料からつくってしまうと、それに時間を取られて、環境問題の解決のスピードが遅くなってしまうと思ったんです。また時間も資金もそこまで潤沢にあるわけではないので、原料メーカーにOEMでつくってもらったほうがいいという結論に至りました。そこで国内・国外のメーカーに関わらずいろんな大豆ミートを食べて、味だけではなく、パッケージデザインの観点も含めていろんな視点で既存の大豆ミート商品を評価していきました。
そのように原料メーカーを選定していく中で、知り合いの先輩経営者の方に紹介していただいたDAIZさんの大豆ミートが抜群に美味しかったんです。ぜひ使わせてほしいと交渉に行きましたが、DAIZさんは、基本的なビジネスモデルがBtoBなので、小ロットは対象にしていないんです。だから最初に伺ったときは、「よくわかんないお兄ちゃんが来ちゃったなあ」という感じの印象だったと思います(笑)。でも、そこでも環境問題の話や、僕がDAIZさんの大豆ミートを使いたいと思った経緯の話をさせていただいた結果、「事業に共感できるので一緒にやりましょう」と言ってもらえました。
毎日の意識の積み重なりが未来をつくると信じて
—今後の事業展開を教えてください。
環境問題は取り組めば取り組むほど、自分ができることはすごく微力だと感じる瞬間が多くて、この事業サイクルでいろんなものが綺麗に解決できるとは思っていません。でもそれを客観的に捉えながら、どうすれば僕たちの商品や事業を入り口にしてポジティブな影響が与えられるようになるだろうかと考えたときに、やっぱりいろんな企業と共同してやることが必要なんじゃないか、というのが今の1つの結論です。だから「2030年までに420万人が参加するECOコミュニティを創る」というのを今の会社のビジョンにしています。420万人の理由は、社会運動は人口の3.5%が参加すると成功すると言われていて、日本の人口である約1.2億人の3.5%に当たるからです。
本質的に地球温暖化を止めるためのアクションとして僕が2030年までにやるべきことは、他社も含めた環境に配慮した事業を束ねて、そのお客さまの輪を広げていくことなんじゃないかと思っています。ソイクルの商品を買ってくださった方に、他社の環境に配慮した商品を紹介しているのはその取り組みの1つでもあるんです。 環境に配慮した商品やサービスは世の中にたくさんありますが、それらの事業に関わる人たちが互いに紹介し合うことで、事業者も嬉しいし、お客さまも環境に配慮した商品を見つけやすくなるんじゃないかなと思ってるんです。そういうコミュニティをつくっていくというのが今後のビジョンです。
—事業を通して実現したい社会像を教えてください。
環境に配慮することが当たり前である世の中にしていきたいと本当に思っています。それは電車や車に乗らないなどの無理をすることではなく、まずは関心・意識を持つことだと考えています。結局我々大人の毎日の積み重ねが未来をつくっていくわけで、良いことが積み重なるように意識に働きかけをしていくことで、今想定される最悪なシナリオではなくなると信じています。例えば、「ご飯を残すのは食品ロスの問題だよね」というような意識があればそんなに多く頼みすぎることもないだろうし、そういう意識がきちんとある大人たちが多く住む世界をつくっていきたいですよね。結果的に環境に配慮したライフスタイルというのが当たり前になって、温暖化という問題も過去の笑い話ぐらいになれば1番嬉しいです。
株式会社上向きhttps://www.uwamuki.co.jp/
大豆ミートブランド「SOYCLE(ソイクル)」https://soycle.com/
interviewer
掛川悠矢
記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。
writer
梅田郁美
和を以って貴しと爲し忤ふこと無きを宗と爲す。
猫になりたい。
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社会課題に取り組む起業家のこだわりを届ける。
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