心理的安全性への誤解と、組織における心理的安全性の向上について考える〈halコラム1〉

近年、組織における「話しやすさ」や「助け合い」といった「心理的安全性の高さ」が事業にもたらす効果が注目されている。スタートアップやベンチャー企業においても、組織開発の観点から、社内の心理的安全性を高めようという潮流があるようだ。一方で、「心理的安全性」という言葉に対する誤解も散見される。今回は、企業における心理的安全性について、hal株式会社の山田瑠人さんにお話を聞いた。

【プロフィール】山田 瑠人(やまだ りゅうじん)

1995年生まれ。大学時代は高校生向けキャリア教育事業の運営など教育に関わる様々な活動に携わってきた。デンマークでの視察から着想を得て、2019年に「対話とウェルビーイングの学校」がコンセプトの生き方テラコヤを創業。対話セッションやウェルビーイングを学ぶワークショップを運営してきた。2021年4月にhal株式会社を設立。企業の組織開発や起業家のメンタルヘルスケアを行っている。

過去のインタビュー記事はこちら:対話を生活のインフラに。自分らしく生きるための人生の学校とは
会社設立時の対談記事はこちら:【山田瑠人×中村多伽】hal株式会社設立。コーチングなどの対話を用いて、誰もが真の安心から生きられる世界を

心理的安全性の定義

「心理的安全性」ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した、「組織の中で対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ」とチームメンバーに共有される信念のことです。そして、これを組織内の人が共通認識として持っている状態が心理的安全性が保たれている・高いと言えるでしょう。企業においては、メンバーが健全に意見を言い合って、より生産性のある仕事ができる状態を指しています。

 

「日本のチームの心理的安全性」を計測した石井遼介氏や慶應義塾大学SDM研究家の前野隆司教授らによると、心理的安全性の因子には①話しやすさ②助け合い③挑戦④新奇歓迎の4つが挙げられると言います。ほとんどの組織において、全てのスコアが高いか低いかというよりは、組織ごとに得意・不得意があります。

 

心理的安全性の4因子がそれぞれどのような組織の状態を指すのか、石井遼介氏の書籍「心理的安全性のつくり方」(2020)では以下のように述べられています。

 

①話しやすさ:「何を言っても大丈夫」「事実は事実として上がってくる」

②助け合い:「困った時はお互い様」「行き詰まったら共有、相談し、支援・協力を求めることができる」

③挑戦:「とりあえずやってみよう」「模索や試行錯誤を歓迎し、そこから学習する」

④新奇歓迎:「異能、どんとこい」「多様性を歓迎し、特定の人が活躍できないということがない」

 

心理的安全性への誤解

「心理的安全性って、ぬるくて甘っちょろいことじゃないの?」

「会社の成果や売り上げにも繋がらなければ、事業の持つミッション・事業を通した課題解決促進にも繋がらないんじゃない?」

心理的安全性に対して、こういった誤解をしている人もいると言います。

 

4つの因子のうち①話しやすさ②助け合いが注目されがちなため、上記のような誤解が生まれやすいですが、③挑戦④新奇歓迎も同様に重要な因子です。例えばなんでも言い合える環境だとしても、自らどんどん新しい挑戦をする人が居なかったり、その人が歓迎されない環境だったりしたら、それは「心理的安全性が高い」とは言えません。

 

定義のところでもあったように、心理的安全性とは「ぬるいコミュニケーション」ではなく、「対人関係のリスク(『これを言うと嫌われるかもしれない』など)を取ってでもお互いのために必要なこと、あるいは組織のために重要だと思うことを言い合えたり、事業に取り組み合えるようなカルチャー」のことです。

心理的安全性と組織の成長について研究されている立教大学の中原先生によると、人材開発への投資は結果的に企業業績を向上させると結論づけられています*。ただ、人材開発への投資がダイレクトに業績に影響を与えるというよりは、作業上の成果やオペレーションの改善を経て、業績に影響を与えるという構造です。このように間接的ではありますが、心理的安全性というのは、実は成果に直結する包括的なパラメーターであり、企業経営の中でずっと大事にされてきたいろんな要素を言い換えた、バランスの取れた概念なのではないでしょうか。
*NAKAHARA-LAB net「で、結局、人材開発への投資は「儲かる」のか?という「香ばしい問い」への答えとは!?」より

 

起業家やマネージャーが身につけるべき心理的柔軟性

参照:ラス・ハリス『よくわかるACT 明日からつかえるACT入門』P19,20

第三世代認知行動療法ACTという領域で、心理的安全性を組織応用する研究をしている石井遼介さんは、心理的柔軟性を高めていくことが、心理的安全性の向上にも繋がるとしています。「心理的柔軟性」とは、心理的に柔軟であるという性質やステータスのことです。心理的柔軟性に関するACTのトリフレックスというものがあり、その名の通り3つの要素をそれぞれ高めてバランスを取ることで、心理的柔軟性の開発に繋がります。

 

3つの要素の解説

 

①オープンになる:本当の考えや気持ちを受け入れる

②大切だと思うことをする:本当に大切だと思うことにコミットする

③今、ここに、いる:それらにマインドフルに気づきを向ける

起業家やマネージャー層が自身の心理的柔軟性を高め、それがチームメンバーに波及していくことで、組織全体の心理的安全性が向上していくと言われています。起業家と言えど、イチ人間なので腹立たしいことや傷つくこともあると思いますが、それらを意識して受け止めていくことが重要になってくるのではないかと思います。

また、社会起業家の場合は、心理的柔軟性の3つの要素の中でも、特に「大切だと思うことをする」に重きを置く方が多いのではないでしょうか。事業を進めていく上で、競合と比較してしまうことは多々ありますが、そういった相対比較ではなく、絶対評価を行うことも重要です。自身が大切だと思うことに対してどれだけコミットできるか、どれだけメンバーをエンパワーメントできるかが、起業家やマネージャー層に求められる役割だと思います。hal株式会社では、そういった「大切だと思うこと」の再定義や、その実現に向けた行動選択を支援しています。

 

今すぐできる、心理的安全性を高めるワーク

組織の心理的安全性を高めていく足がかりとして、簡単にできるワークショップを紹介します。チームメンバーそれぞれが心理的安全性を構成する4つの因子①話しやすさ②助け合い③挑戦④新奇歓迎を10段階評価し、組織に点数を付けたのち、全員でシェアして話し合う方法です。これならば、リソースの限られたスタートアップでもお金や工数をかけることなく、ミーティング1本分ほどの時間で取り組めます。

自身や組織の行動と文化を振り返るという意味で、各因子に対して「そもそも自分たちは、どんなところに心理的安全性を感じるのだろうか?」「自分の日々のマネジメントは、チームメンバーにどう感じられているだろうか?」などと振り返り、対話すること自体が、心理的安全性の向上に向けた現状認識やモチベーションの増大にいくらか役に立つでしょう。

 

メンバーが付けた点数の平均値を取ったり、中央値を取ったりすることで、組織としてどこが弱いのか知ることができます。例えば、新奇歓迎が弱いのであれば、それを改善するために「みんなで事業に関するブレインストーミングをする時間を1時間取ってみようか」というように、どうしたら良いかという施策をみんなで考え、実行していくという簡単なPDCAを、週次や月次で回すだけでもかなりの変化があると思います。

 

「経営者は孤独だ」と言われることがありますが、「これは自分にしかわからない問題だ」と思って抱え込んでいるケースが結構多いのではないかと言われています*。もちろん経営者にしかわからないこともあると思いますが、組織開発に対する課題感に関しては、チームメンバーと共有し、一緒に改善策を回していくことが、ひいては起業家のメンタルヘルスにも繋がると思います。
*櫻本真理note「『孤独』とは、課題を共有できないことである

 

halでは心理的柔軟性の評価も可能な360度リーダーシップサーベイを提供しています。組織周りのカジュアルな相談でも結構です。ぜひご連絡ください!

https://drive.google.com/file/d/16lTgfDjZL6Z8VCAE3t4QTMeqpKC22A5M/view?usp=sharing

hal株式会社 https://hal-dialog.co/

 

〈参考〉

書籍:
石井遼介「心理的安全性のつくりかた」
エイミーCエドモンドソン「恐れのない組織」
ラス・ハリス「よくわかるACT 明日からつかえるACT入門」

Web:
石井遼介「『健全な衝突』を促し、強いチームへと導く『心理的安全性』
NAKAHARA-LAB net「で、結局、人材開発への投資は「儲かる」のか?という「香ばしい問い」への答えとは!?
櫻本真理 note「『孤独』とは、課題を共有できないことである

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。