誰もが主体的に理想の暮らしを選択するサポートをしたい。人口減少に対応できる、持続可能なまちづくりを

20年後には全国の自治体のうち約半数が消滅してしまう可能性がある。この課題に対して取り組むのは、新潟県湯沢町を拠点にまちづくり事業を行なうきら星株式会社。代表の伊藤綾に、「儲からない」と周りに反対されながらも事業化することができた経緯や、理想のまちづくりについて聞いた。

【プロフィール】伊藤 綾(いとう あや)
きら星株式会社代表取締役社長。学生時代に、フジロックフェスティバルで新潟県湯沢町を訪れ、バブル後期の賑わいから衰退した様子を見て、「まちづくりをライフワークにしたい」と志す。前職では、イオンモール株式会社にて、全国の大規模商業施設の開発やリニューアルに携わる。その後、ボーダレス・ジャパンの一員として2019年に起業。

消滅していく地方都市

—現在の事業について教えてください。

きら星は地方で暮らす人を増やすということをミッションに掲げ、移住にフォーカスしたまちづくりを行なう会社です。本社は新潟県の湯沢町にあります。主な事業は2つあって、1つ目は自治体の移住相談窓口を受託運営するBtoG事業です。窓口の設置までは必要ないけどサポートが欲しいという自治体さんに対してコンサルティングという形で関わることもあります。そして、2つ目は移住者と地元の企業さんをマッチングする職業紹介サービスです。地域で仕事に就く方に加え、テレワーカーも働けるように、廃校になった保育園を町から借りて、シェアオフィスとコワーキングスペースの運営もしています。その他にも、地域の特性に合わせて地方暮らしに必要な事業をどんどん生み出していくような会社になります。

 

—事業を通して取り組まれている、消滅可能性都市の問題について教えてください。

現在、全国の自治体1900のうち、896の自治体が2040年頃には消滅してしまう可能性があると言われています*原因として、出生率が低いために地域の中で人が再生産されないということがあげられます。地方にも人はいるんだけど高齢者が中心で、若い人は進学や就職で地域の外に出て行ってしまうことが問題なんですね。例えば新潟県でも新潟市のように学校や働く場所がある中核都市は、地方でも人をたくさん集めることができています。一方で、そのような中核都市から距離が離れている中山間都市のような地域が、主に消滅可能性都市とみなされています。

* 増田寛也. 「『地域消滅時代』を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について」. 国土交通政策研究所「政策課題勉強会」, https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-141105_2.pdf 

 

—消滅可能性都市では、住んでいる方にとってどのような課題があるのでしょうか?

教育、交通、医療福祉など、さまざまな課題があげられます。例えば、教育。学校がどんどん統合されています。学校が統合されると、30分くらいかけてバスで通わないといけない子がでてきたり、何かあったときは親が送り迎えしないといけなかったりと、生活は不便になりますよね。また、交通に関しても、人がいないために、バスの路線が減ったりタクシーが運営できなくなったりしています。このような状況では、自分で運転ができる人以外はその地域に住み続けられません。そして、医療福祉に関しても、地域医療の担い手は大幅に減少していて、大きな病院の人手不足はもちろんですが、町の中の小さなクリニックでは従事者の高齢化が進んでいます。

さまざまな領域での課題をあげましたが、私が1番ネックだと思っているのが、生産年齢人口が減ることによって税収が減ってしまうことです。多くの地方都市で、人も増え経済も高度成長している時期に作った公共施設などが維持できなくなっているにも関わらず、なくなると不便だからという理由で、現在の町の人口規模に見合わないような開発や維持管理を続けてしまっています。そこで、働く世代の人たちを移住させ町の人口構成を変化させていくことによって、自治体の構造に変化を生み出せると考えています。

湯沢町

 

移住相談窓口の受託をビジネス化する

—現在の事業モデルはどのような経緯で作られたのですか?

従来の移住相談は、自治体の職員さんが相談窓口を設置して受ける、もしくは地域おこし協力隊の方が受けるというような形でした。しかしこの形では移住する人を増やすのはなかなか難しいと思ったんですよね。なぜかというと、まず自治体の職員さんが相談を受けている場合、職員さんは3年程度で人事異動してしまうのが一般的なので、部署の中でノウハウが溜まりづらい。加えて、相談してくれていた方と移住後も長く続くような関係性が築きづらいことが考えられます。また、地域おこし協力隊の方の場合、その方が持っているネットワークやノウハウの中でしか移住者のサポートができません。例えば、職業紹介。働く世代を移住させる上で、仕事を紹介できるかどうかが1番のネックとなります。しかし、職業紹介事業は許可を取得した事業者のみが可能であり、許可を取得するのには大きな資金が必要なので、個人が実施するのは難しいです。

従来の移住相談の限界を感じ、相談窓口を通して移住する人を本当に増やすためには、会社組織がBtoG事業としてやるべきだと思いました。相談のノウハウやスキームは横展開しつつ、地域の情報を足し込むことで、良質なサービスが提供できる移住相談窓口を全国に増やしていくことができます。それが地方に人を増やすことにつながると考え、今の事業モデルに至りました。

 

—これまで、移住相談の窓口を民間で受け持つ企業がなかったのはどうしてなのでしょうか?

端的にいうと儲からないからです。例えば、大手の人材会社さんはたくさんの人を紹介して企業から紹介料をもらうことでビジネスが成り立っています。一方で、地方では紹介できる企業のマーケットが小さいし1社が出せるお金もとても少ないです。さらに、移住をサポートするということは、お仕事を紹介して終わりではなく、家族で移住される方に学校環境について説明したり、どのような家に住むのが良いかアドバイスしたりすることでもあるので、高度な専門知識と幅広い興味が求められます。そのため、わざわざ大手人材会社が地方で人材紹介をして移住をサポートするなんて非効率的だからやらないわけです。でも、ソーシャルビジネスは儲からない、誰もやらないマーケットだからこそやることに意義があると思っています。

 

—「儲からないから誰もやらない」という地方への移住相談において、ビジネスを成り立たせるために、きら星ではどのような工夫をされているのですか?

まず、社内での情報の蓄積や可視化による仕組み化を進めています。相談者の方のデータベースを作る、やりとりはLINE@などで見える化することで、どのような人に対してどのようなアプローチが必要かを社内で情報共有しています。

また、仕事を受ける際は営業利益が15%程度確保できるものという線引きをしています。かなり幅広い仕事を受けていますが、地域からボランティア的な仕事依頼もたまにあってそういう場合はきちんとお断りをするようにしています。自分たちで新たにサービスを始める際も同様です。最初から基準には達していなくても将来的に伸びていくであろうサービスの場合も、最低でも赤字にはならないということは意識していますね。

 

—地方創生では関係人口を増やすことに焦点を当てた事業が多いと思いますが、きら星が移住に着目したのはなぜですか?

町というのは人が住み続けないとすぐにダメになっちゃうんですよね。空き家問題とかも同じで人が住み続けないと家って悪くなってしまいます。もちろん、観光客をたくさん呼び込んでお金を落としてもらって観光業で成り立つということも必要な手段だとは思います。でも、例えば祭りのような風習や食文化など、人がその町に住み続けることによって初めて維持できることがあると思ってるので、移住支援にこだわっています。

 

移住者と町の人、双方との丁寧なコミュニケーション

—移住相談はどのような流れで進むのでしょうか?

まずは、LINEなどで、どのような地方暮らしが理想か、現状はどのような暮らしをしているのかなどをお伺いします。二拠点生活がしたい、テレワークで仕事をしたい、家族も一緒に移住したいなど、さまざまな移住の形があります。その後、可能であればzoomなどで面談をさせていただきます。テキストだけでは伝わらない情報などもあるので、顔を合わせてお話を伺えたらと思っています。オンラインでお話させていただいたら、今度は地域に来てその地域の暮らしが自分に合うのかを確かめる、お試し移住をおすすめしています。お試し移住の中では、移住希望者の方と興味が合いそうな町の方を紹介していて、町に親近感を持ってもらえるようなコミュニケーションを設計しています。

 

—職業紹介のプロセスについても教えてください。

一般的な職業紹介では、サイトに登録後エージェントの方から連絡がきて、理想や条件などのヒアリングとそれに基づいた会社の紹介をメールなどでやりとりします。エントリーする場合は履歴書を出して日程調整をして面接を設定するという流れです。このようなプロセスでは、面接にいかにスピーディーに繋げることができるかが重視されています。一方で、うちは事前のミスマッチをいかになくすかを大事にしているので、面接の前に面談を入れてもらっています。また、可能であれば現地で会社の見学をしてもらうこともあります。面談と見学を挟むことでかなり工数はかかりますが、会社の理解が深まって志望動機も固まるし、面接を受ける前にお互いの人となりを理解することもできます。遠回りに見えますが、結果として採用にも繋がりやすいんですよね。

 

—一般的な職業紹介と比較して、ビジネスモデルにも違いがあるのでしょうか?

年収の30%がフィーになるという形が一般的な職業紹介のビジネスモデルですが、地方ではこれに対応可能な会社がほぼないため、フィーの体系を柔軟に変えています。具体的には、年収の10~30%と、応募の難易度や、エントリーした方の経験などを踏まえて、こちらから打診をさせていただいています。また、湯沢町でも年間200件くらい求人数はあると想定していますが、現在私たちが取り扱っている求人件数はその10%程度なので、今後案件を開拓していくことが課題だと感じています。

 

—ホームページでは先輩移住者の声にたくさん触れることができますね。一方で、移住には至らなかったケースについても伺いたいです。

例えば、実はすごく教育に対してこだわりが強かったということに、移住を検討する中で気づいたという方がいました。田舎だったら子どもをのんびり育てられそうという気持ちで移住をご検討されていたご家族。田舎暮らしは自然の中でのびのび育つというメリットはもちろんありますが、高校は町外に出ないといけないとか、いわゆる進学塾みたいなものはないとか、場合によってはデメリットになる点もあります。そのような話をしたり実際に現地を見に来てもらったりする中で、やっぱり「うちは田舎暮らしは違ったかも」ということでそのご家族は移住をやめる決断をされました。

私たちは地方で暮らす人を増やすということをミッションに掲げていますが、全員が地方暮らしをするべきと思っているわけではなく、一人一人が自分にとってちょうど良い場所で暮らせる社会になればいいなと思っています。地方への移住にはもちろん向き不向きがあると思うので、マッチングを重視して、地方で暮らしたいと思った人には最適な情報が提供できるようにしたいです。

 

持続可能なまちづくりを

—伊藤さんにとって理想のまちづくりとはどのようなものですか?

今後日本全体で人口が減っていくことは紛れもない事実なので、人口が減っても対応ができるような地域社会を作ることが理想だと考えています。具体的には、コンパクトシティのように都市機能が揃っているところになるべく集住し、地産地消で物事が回っていくような地域づくりを目指したいです。基本的なライフラインですら届きづらいような限界集落には、持続的に人が住み続けるのは難しいですよね。廃村が生まれてしまうことと、町を維持すること、このバランスが大事だと思っています。

一方で、これは地方都市だけの課題ではありません。現在日本には、人口が増えすぎてしまっているような都市もあります。例えば、私が以前住んでいた千葉県流山市では、小学校が足りずプレハブの教室に通うというような状況が発生していました。そして、今は人口の急増に合わせて公共施設やマンションなどをどんどん建築していますが、いずれはこのような地域も日本全体の人口減少の波に飲まれていきますよね。そうなったときに、一度作った建物を壊すのは大変だし、マンションのような区分所有の建物に関してはなおさら難しい。将来のことを考えず無計画に開発を進めるのではなく、住宅地を広げすぎないとか、古いものを壊してそこに新しく建てるとかを意識しながら、人口に合ったまちづくりをしていく必要があると思います。

 

—今後の事業展開を教えてください。

現在は新潟県の湯沢町を中心に活動していますが、3年間で培ってきたノウハウを今後全国に横展開していきたいと思います。横展開していくに当たって、地域ごとの特色が多様であることはとてもプラスに捉えています。バリエーションが増えるほど、移住者の方の幅広い理想に対してより適した紹介が可能になるからです。一方で、地域の特色が見えづらかったりよそものを受け入れる文化がなかったりするような場所は、事業展開の障壁になるかなと思っています。

また、地方で暮らす人を増やすためには、町の中のサービスを増やして不便のない暮らしを実現することが重要になると考えています。地域の中でエネルギーや食料が自給自足できるようなエコシステムを目指したいですね。エネルギー会社や食料の生産者など、エコシステムを作っていく上で欠かせない人たちや、地域のニーズを埋めるような起業家を増やすことに力を入れていきます。これが、もともと地域に住んでいる人、移住者の両方にとって暮らしやすいまちづくりにつながると思っています。

 

—事業を通して実現したい社会像を教えてください。

一人一人が理想のライフスタイルを自分の好きな場所で実現できる社会にしていきたいと思っています。そのためには、自分はどういうことが好きで、誰とどこでどんな暮らしをしたいのかを答えられるような主体的に自分の人生を選択できる人を増やしたいですし、そういう方が望んだ場所で暮らせるようなサポートを事業を通じてやっていきたいです。

湯沢町

 

きら星株式会社 https://www.borderless-japan.com/social-business/kirahoshi/
ロカキャリ http://locacary.com/

 

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。