小型のドローンで日常的な水中へのアクセスを可能に。水中インフラ管理の現場に寄り添うプロダクト開発

水中インフラ管理の現場は機械化が進んでおらず、人が潜ることが求められている。しかしその現場は、時に命を落としてしまうような事故が発生するリスクを伴う。この課題に対して、小型の水中ドローンを使った自動化に取り組むのが株式会社FullDepthだ。代表の伊藤昌平が水中インフラ管理のニーズに辿り着いた背景や、事業を通して目指したい未来について聞いた。

【プロフィール】伊藤 昌平(いとう しょうへい)
株式会社FullDepth代表取締役社長。筑波大学第三学群工学システム学類卒業。大学在籍時よりベンチャー企業においてロボット開発に携わる。2014年に独立、株式会社FullDepth(旧:空間知能化研究所)を創業。2020年11月、国土交通省「海における次世代モビリティに関する産学官協議会」に委員として参画。2021年2月MITテクノロジーレビュー主催の「Innovators Under 35 Japan 2020」発明家部門受賞。1987年生まれ。

ロボットで簡単に深海を見たい

—現在の事業概要を教えてください。

日常使いできる水中へのアクセス手段を提供することをミッションに掲げ、産業用の小型水中ドローンの開発と提供を行なっています。加えて、水中ドローンに記録された情報をリアルタイムで確認したりデータを蓄積したりできるプラットフォームの提供もしています。

 

—どのような経緯で今の事業に至ったのですか?

昔からロボット開発が好きで、将来の仕事にしたいと思っていました。それとは別に、深海魚も子どものころから好きでした。ある時、自分の好きな深海魚の映像をテレビで見かけて、その映像を撮影したのがロボットだということを知ったんです。それがきっかけで将来は自分で作ったロボットで深海魚を見たいと思うようになりました。でも、水中ロボットを開発するのにはすごくお金がかかるんですよね。だから当時は、ロボット開発の仕事を受託しながら、趣味で水中ロボットを作るためにお金を貯めようと思っていました。相談する中で、ある経営者の方に「そもそも伊藤さんは何がやりたいんですか?」って聞かれて、「自分の作ったロボットで深海魚を見るためにお小遣いを貯めたいです」と言ったら、「なんで最初からそれを事業にしないんですか?」と言われたんですよね。「たしかに」としか言えなくて(笑)。同じ時期に、大学の同期でかつ現在の共同代表である吉賀にも「1番やりたいことは何なの?」って聞かれて。このように本当にやりたいことは何なのかと問いかけてもらったことがきっかけとなり、今の事業を考え始めました。

水中ドローン「DiveUnit300」で撮影した魚

 

—そこからどのように社会のニーズを見つけられたのでしょうか?

深海を調査するためには、1日1000万円くらいかけてロボットと専用の調査船を使うのが一般的でした。でもそんなの個人には到底できない。とにかく簡単に深海を見たいというのが自分のやりたいことだと思って。最初は、自分と同じように簡単に深海を見たいと思っている人がいるはずだという仮説で調査を始めました。市場調査の結果、たしかに水族館の方や研究者の方に、深海を簡単に見たいというニーズがあることがわかりました。しかし同時に、海で工事をされる方、建設コンサルの方、水産養殖の方など水にまつわるさまざまな職業の方にお話を聞く中で、わずか数メートルの水中ですら未知の世界であり、そこで過酷な作業をされている方がいるということを知ったんです。

 

危険を伴う水中インフラ管理

—水中インフラ作業の現状や課題を教えてください。

ダム、発電所など水中のインフラを点検する作業は私たちの生活を維持するのに必要不可欠です。しかし、日常的に水中のインフラを点検するには、人が潜るしかないというのが現状です。水中は光が届きにくく、天候状態で泥や砂などの濁りにより視界が遮られることが少なくありません。目の前10cmのところが見えない中、手探りで作業するような危険な環境で行われているケースもあります。例えば、数年前にダムの点検の際に、下流に放水するためのゲートが開いたままになっていて、点検のために潜った方が吸い込まれて亡くなってしまうという事故がありました。このような危険を伴う作業が求められるにも関わらず、今後さらにインフラの老朽化が進み、水中インフラ点検の需要は高まることが予想されます。

また、これまで水中インフラは、何か問題が起きてから修理するという方法を取らざるをえなかったんですよね。これからは、問題が起きてからではなく、予防保全に切り替えていこうという方針が国土交通省から提示されています。さらに、最近では、洋上風力発電を増やすことが日本政府により計画されています。洋上風力発電の設置、維持管理には水中での作業が不可欠です。このように水中での作業需要は高まっていくことが予想される一方で、現状は危険を伴う現場であり、かつその担い手は減少傾向にあります。現在人が担っている作業を機械化し、水中へのアクセス手段を増やしていくことが確実に必要になってくると考えています。

 

—これまで水中インフラ管理の現場に、小型水中ロボットが導入されてこなかったのはなぜですか?

まず、技術的な壁があったために、大きな仕事をするのであれば大きなロボットでやるし、人が入れるところの作業は人がやるというのが業界の慣習となっていました。現場の人にお話を伺ったところ、小型のロボットは少しでも波があると流されてしまったり浮いてきてしまったりして、全然仕事にならないとのことでした。水中ロボットは一般的にケーブルで繋がれているのですが、このケーブルが水の流れを受けて引っ張られてしまうということを分析によって突き止めることができました。この結果を踏まえて、私たちはケーブルをとにかく細くして引っ張られないだけのバランスを整えれば波がある環境でも使えるという技術的な仮説のもと開発を進めました。また、実際にお客様の現場で動くということをお見せするということがとても重要で、日本各地の現場でデモンストレーションを実施し、現場のニーズに対してソリューションを展開していくことで、市場がほぼなかったところから多くのお客様に導入いただけるようになったのではないかと思います。

 

—開発において苦労したことはありますか?

もともと受託開発のロボット開発エンジニアだったので、とにかくこれでできそうという仮説を持ってお客様のところに行き、1つ1つ試すというスピード感は自分の強みだと思います。一方で、商品として売るということを考えると、絶対にミスをしない商品の信頼性がすごく大事になってきます。何か問題があったら直しながらやるのではなく、いつでも確実に動いてくれる必要がある。この信頼性を担保するには、さまざまな設計や試験、評価をしなければいけません。試作品を作るということと商品を作るということのギャップがあり、最初は苦労しましたね。このギャップは、規模拡大とともに経験者を採用し乗り越えることができました。

 

現場の声に寄り添う開発やコミュニケーション

—FullDepthの強みは何だと思いますか?

小型だけど小型すぎないというのが強みだと思っています。私たちの商品は、人が持ち運べる、特別な機材を使わなくても運用できる、最大サイズになっています。重量は28kgで二人で運用可能です。水中を音波で可視化する装置や軽作業が可能となるアタッチメントなど、調査に必要なものをある程度積むことができます。ただ、従来の大型のロボットにつけるような腕をつけたり重いものを持ったりはできません。一方で、海外のもっと安くて小さなドローンはライトを1個つけることさえ結構難しい。だから、ちょうどよいサイズであることは重要なのです。空中ドローンの中に産業用ドローンというジャンルがあります。映像を撮影するような超小型ドローンと、農薬散布や航空計測などをまとめて行なっている小型飛行機の間をとって、ドローンを少し大きくして何かしらの機能を1〜2つだけ搭載したものが産業用ドローンです。この産業用ドローンの水中版が私たちが目指しているところだと考えています。

もう1つの強みは、トラブル対応です。機材が壊れてしまったときに修理に2ヶ月かかるとなると、日常的に使うのは難しいですよね。万が一壊れてしまったらすぐに代替機を用意させていただき、現場を止めないということにとてもこだわっています。トラブルの即時対応はドメスティックに展開しているメーカーだからこそできることでもあります。このサポート体制はお客様にも高く評価いただいています。

 

—営業において意識されていることは何ですか?

水中インフラ管理の現場には、失敗が許されない仕事やその人にしかわからない仕事などがたくさんあります。そのため、なるべく現場に直接足を運び丁寧に現場の方のお話を伺うことを意識しています。お客様が最終的にどうありたいのかということを聞き、それを前提にコミュニケーションをとっています。養殖で美味しいマグロが育てたいというお客様にとっては、ドローンが時速何kmで動けるかというような技術的な話は気にならないわけですよね。

 

—エンジニアとしてプレイヤーであったところから、経営者になる上で難しかったことはありますか?

私は独立前も1人で働くことが多かったので、自分にとって経営者になることは初めてチームで働くということでした。自分ができないことをゼロから学ぶのではなく、すでに知っている人、できる人に入ってもらう方が効率もいいし、最終的にお客さんに届くものも良くなります。そして私自身も自分の得意なことに集中できます。こうやってメンバーが増えていくことで、私、伊藤昌平としてではなく、株式会社FullDepthとしてできることが増えていくありがたみは今でも感じています。同時に、目指す未来を達成するにはもっと大きなチームにしていかないといけないということも日々痛感しています。

 

地球と上手く付き合っていくために

—今後の事業展開について教えてください。

日常的に水中にアクセスできるような手段を提供するためには、技術的に誰でも使えるようにするということが重要です。現在はラジコンのように操作できるのですが、さらに進んで、水の中にロボットを投げ込むだけで自動で情報を取ってきたり作業をしてきたりしてくれるというような、自動化をしていきたいと考えています。ゆくゆくは水中の情報が自動でロボットによって可視化され、Googleで検索すれば簡単に欲しい情報を得ることができるというような”水中のネットワーク化”を目指したいですね。

 

—事業を通してどのように社会にインパクトを与えたいですか?

水中のアクセス可能な領域が広がることは、さまざまな方法で社会的なインパクトに繋がると考えています。例えば、水産資源。サンマの乱獲によって、次の年にサンマが獲れなくなるというようなことがたまにありますよね。でも、水中のデータがあることで「今年はこうしておけば来年は大丈夫」というようなことが示せて、水産資源の維持管理がしやすくなります。さらにマクロな視点では、長期の気候の変化が予測できる可能性もあります。暖冬や冷夏などの気候の変化には海の中の温度変化が大きく寄与していると言われていますが、海の中の温度変化はブラックボックスなんです。水中のリアルタイムのデータがあることで、長期の気候変化を予測し、それに備えた作物を育てる準備をしておくということが可能になるかもしれません。地球の7割は海であるにも関わらず、人類はその水の中のことをほとんど知りません。私たちが今後も長期的に地球で暮らしていく上で、水の中を情報化することが必要不可欠になるのではないでしょうか。

 

株式会社FullDepth https://fulldepth.co.jp/

 

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。