捕獲から販売までを一貫。シカを丸ごと活用し、獣害の削減と地域の活性に取り組む

獣害を解決するべく起業を決意した株式会社RE-SOCIALの笠井大輝。前回のインタビューでは、日本のジビエが抱える問題や、師匠の元で解体・加工を学んだ修行について話を聞いた。その後ジビエの販売を始め、ハラル認証の取得・加工商品の開発といった取り組みも行なっている。本インタビューではRE-SOCIALのジビエブランド『やまとある』の人気の秘密や、今後の展望に迫る。

【プロフィール】笠井 大輝(かさい だいき)

龍谷大学政策学部卒業。大学在学中に社会課題解決を研究するゼミに所属し、獣害被害を解決するために起業を決意する。2019年11月に同じゼミの仲間2名と株式会社RE-SOCIALを立ち上げ、京都府笠置町を拠点として、獣害を引き起こすシカやイノシシを食肉加工して販売する事業を開始した。ハラル認証を取得しているほか、最近は加工食品やペットフードの開発・販売も行っている。

 

笠井さんの過去インタビュー記事はこちら:日本のジビエのイメージを変える。野生動物の命を生かすため師匠に学んだ技術とは

捕獲後は生きたまま加工場まで運んでくる

ー前回のインタビュー(2020年6月)では、徳島の師匠の元で解体や加工を学ばれたというお話を伺いました。それ以降はどのようなことに取り組まれてきたのでしょうか?

まずジビエを流通させるためには保健所の営業許可を受けた精肉加工場を立てる必要があるのですが、その加工場が2020年10月に完成しました。それ以降、実際にお肉の販売を始めています。事業を構想していたのは新型コロナウイルス流行以前だったので、インバウンドの受け入れが多い飲食店やホテルに向けたtoB販売に注力しようと思っていました。イスラム教の方も多く、京都府下でもハラル認証のある食材が少ないという課題があったので、販売先を増やそうと2020年の12月にハラル認証を取得したんです。しかしコロナ禍ということで飲食店向けの販売が伸び悩むようになりました。そこで、一般消費者に向けたECサイトでの販売を強化しようと、味のついた焼肉用のお肉や、鹿肉ソーセージ、鹿肉ハンバーグといった商品の開発を進めてきました。一般の方にジビエを受け入れてもらいやすくするためには、ブロック肉よりもっと気軽に食べられるようなものでないといけないなと思って。例えば、家に鹿肉のブロックがドーンと送られてきても料理の方法を迷っちゃいますよね(笑)。そういった商品を増やすうちにtoCの売り上げが伸び、当初はtoBで想定した売り上げをtoCで補えるようになりました。

その他に、骨と内臓を活用したペットフードの商品開発や、鹿革を使ったプロダクトの開発にも取り組んでいます。実はシカは体重の2割程度しかお肉が取れないんです。残り8割の骨や内臓は捨ててしまえばいいのかというと、そうでもなくて。「ジビエだけで本当にシカを有効活用していると言えるのか?」という葛藤がありました。なので、お肉以外の部位も有効活用できるような商品開発に注力したいと思っています。

 

ーシカを精肉加工する際の工程を教えてください。

僕らの場合、捕獲から解体・販売までを全て一貫して行なっているので、まずシカを捕まえるところから始まります。ただ待っていたら捕まるものでもないので、餌を山に撒いたり、シカやイノシシがいるところを探して罠を仕掛けたりしています。そしてその罠に動物がかかるまで毎日見にいくような感じです。そうしてやっと捕まえたシカを、生きたまま加工場まで運ぶ、いわゆる『生体搬送』を行います。一般的な方法だと、捕獲した時点で命を断ち、血抜きをしてから加工場に運ぶので、生体搬送は僕らの特徴的な方法だと言えます。生体搬送の方が新鮮で、衛生的にも良く、血抜きがしっかりできるという利点があります。

 

ー生体搬送とそうでない場合の違いについてもう少し知りたいです。

生体搬送の場合、シカを運んできたらそのまま一時的に飼育する場合と、解体する場合の2パターンがあります。どちらにせよ加工の際には生きたまま頸動脈を切り、血抜きをすることになります。心臓が動いている状態で血抜きをするので、心臓のポンプの作用で最後まで血が抜けていきます。一方、一般的な加工方法の場合は心臓を槍のようなもので刺したり銃で撃ったりして、動物にとどめを刺してから血抜きを行うので、全身の血が抜ける前に血抜きが止まってしまうんです。シカやイノシシは捕獲の際にとても暴れるので、安全のためにもよく行われる方法ですが、お肉の質を考えると生体搬送が良いと言えると思います。

 

ー血抜きをしたあとは、どのように加工されるのでしょうか?

生きたまま工場まで連れてきて血抜きをしたら、一般的なお肉の精肉方法と同様に皮を剥いて内臓を出します。そうして骨付きのお肉の状態になったところで一定期間熟成させます。熟成が終わったら、例えば生ジビエなら形を整えてパック詰めしますし、生ジビエの注文が入っていなければブロックの冷凍にしたり、ソーセージやハンバーグ、焼肉用鹿肉といった加工品にして販売する流れです。

生きたまま連れて帰る生体搬送

 

生体搬送するからこそ実現した冷蔵の生ジビエ

ー続いてジビエブランド『やまとある』について伺っていきます。生ジビエが大変人気で、『やまとある』の特徴的な商品だと思うのですが、そもそも生ジビエとは何ですか?

ジビエは山奥で獲ってから消費者の手に届くまでにどうしても時間がかかってしまうので、基本的には冷凍の商品が多いんです。先ほどもお話した通り、一般的な方法だと捕獲した段階で血抜きをして加工するので、その場で解体し、冷凍してストックしていくしかありません。一方、『やまとある』の生ジビエは冷蔵の状態でお届けする商品になっています。僕らは捕獲したシカを一時的に飼育しているので、加工のタイミングを選べるんです。注文があれば解体するという仕組みになっているので、解体する時にはそのお肉がどこにいくか決まっている状態です。注文に合わせて捌くことで、常に新鮮なものを提供できるようになっています。

ジビエも新鮮なまま流通できるんだということをアピールするために生ジビエという名前にしてみたところ、大きな反響がありました。他の商品でも冷凍のものと冷蔵のものが並んでいたら、何となく冷蔵の方が新鮮な感じがしませんか。また、冷蔵で買って食べきれなければ自分で冷凍することもできるので、料理や味の選択肢の幅を広げることもできます。そして何より、栄養素が高いという鹿肉の特徴をそのまま生かすことができるのが冷蔵の強みです。冷凍してしまうと、どうしても栄養が100%ではなくなる。そういう面でも冷蔵の方が選ばれやすいのかなと思います。ポケットマルシェという産直型のECサイトで販売しているのですが、ジビエジャンルでは生ジビエが大変人気で、『やまとある』の1番のヒット商品になりました。

 

ーソーセージやハンバーグといった加工商品も販売されていますね。商品開発もご自分でされているのでしょうか?

商品開発も自分たちで行っています。鹿肉に馴染みがあって特性をよく知っている自分たちでやるのがベストだと思って、捕獲から解体、商品開発まで一貫して行っています。また、僕が高校時代、大学時代とずっとフレンチレストランでアルバイトをしていた経験も大きいと思います。レシピを考えることにも難しさを感じるわけではないので、基本的には全部自社でやる形を取っています。

 

ーブランドに込めた想いを教えてください。

会社全体として「生態系サービスに最大限の価値創造を追求し、地域社会から世界へイノベーションをもたらす」という理念を持っており、地球のめぐみに対して最大限の敬意を払い、価値を見出していこうとしています。シカもこれにかなり当てはまるんじゃないかと思っていて。僕らが拠点である笠置町に来る前までは、駆除されたシカはそのまま山に捨てられるような状態でした。これは笠置町に限った話ではなく、全国で同様に、捕獲されたシカやイノシシの9割はそのまま捨てられています。シカは畑を荒らす害獣で、生態系における適切な個体数を考えると駆除する必要がある。でもきちんと処理すると美味しいですし、みなさんに買っていただけます。僕らはシカが捨てられている状況を変えて、最大限の価値創造をしていきたいと思ったんです。そういう意味で、「山と共にある」から『やまとある』というブランド名にしました。僕ら人間が自然の一部として、生態系の中での役割を果たしていくべきだという想いも込められています。

 

toB・toCそれぞれに合った売り方を模索

ー実際の購入者はどのような方ですか?

フレンチやイタリアンは鹿肉をよく使うので、toB向けの販売はフレンチやイタリアンのレストランやホテル関係のお店が多いです。また、地元の食材を使いたいというお店の方が購入してくださっています。

一般のお客様に関しては、イベントなどオフラインでの販売を通した印象は30~40代の女性が多いかなと。普段から健康に気を遣われていて、鹿肉が身体にいいという情報をキャッチされた方が多いですかね。鹿肉って他のお肉と比べるとどうしても値段が張ってしまうので、健康的な食事を心掛けている方の中でも、ある程度お金に余裕がある方が買ってくださっているのかなと思います。

 

お客さんはどこで『やまとある』を知るのでしょうか?

toBに関しては、横の繋がりで増えていくことが多いです。1つの店舗との取引から、その店舗のお知り合いのお店にどんどん広がっていく感じです。ある有名なお店と取引があったのですが、有名店って飲食店を経営されている方もよく食べに行くんですよね。そうするとメニューの「笠置町の鹿肉ステーキ」の文字を見た方が、僕らのことを調べて連絡してくださって。toBはほとんど営業をせずに販売できています。

toCは、クチコミとイベント参加が主なきっかけになっています。例えば先述したポケットマルシェさんは全国的なECサイトなので、「クチコミを見て買いました」という方が各地にたくさんいらっしゃいます。また、僕たちはオンライン販売だけでなく、1週間に1~2回はどこかのイベントに出店して対面で販売しています。事業を始めた経緯や鹿肉の特徴などを直接お伝えできるので、より興味を持ってもらえますし、まず試しに食べていただくこともできる機会となっています。イベントで買ってくださった方が、その後はオンラインで購入してくださることも多いです。

 

ー日本では、鹿肉を食べることはまだまだ珍しいと思います。マーケティングで工夫していることはありますか?

鹿肉を食べることは、実は世界的にはポピュラーで、数年前に大阪で開催されたG20サミットのメインのお肉料理に使われたのも鹿肉だったんです。主にヨーロッパでは、鹿肉は王族や貴族が食べるイメージが強くて、お祝い事の場などでは鹿肉が選ばれます。そういう背景もあり、日本でもフレンチやイタリアンのレストランで鹿肉がかなり使われています。ただ、国産の鹿肉を販売している事業者がまだまだ少ないので、海外産の鹿肉を使用しているお店が多くなっています。そこで僕らは、国産鹿肉の需要があるところに対し販売を強めていければと思っています。

もうひとつ僕たちが訴求しているのが、鹿肉が持っている栄養価の高さです。鹿肉は、鶏肉の栄養素をもち、牛肉のような味わいであると言われています。なのでダイエットやフィットネスに取り組まれている方、アスリートなどは、普段から鹿肉を食べている人も多いそうです。さらに、産前・産後の方など、栄養の高い食事を必要とする方にとっても良い食材なのではと考えています。こういった方々に、僕たちの情報がちゃんと届くようなマーケティングに力を入れています。

 

ー味を向上させるためにアミノ酸についても研究されているとお聞きしました。

「うま味成分」という言葉をよく聞くと思うんですけど、うま味成分って一体何かというとアミノ酸のことなんです。アミノ酸が多ければ多いほど、美味しさを感じるようになっています。ではアミノ酸はどうやって生成されるかというと、タンパク質が変性することで生成されます。鹿肉はこのタンパク質を多く含んでいるお肉です。実はお肉を一定期間熟成させることで、タンパク質がアミノ酸に変わっていきます。なので、シカを捕まえて解体してすぐに食べる場合と、熟成させてから食べる場合では全然味が違います。これは牛肉や豚肉でも同じことなのですが、鹿肉はタンパク質の量が多い分、熟成がかなり重要です。どのくらい熟成するのが良いのか研究し、こだわって熟成しています。

 

独自の生産方法でハラル認証を取得

ーtoBへの販売拡大のためにハラル認証を取られていますが、ハラル認証を取るのは難しいのでしょうか?

ハラル認証を受けるのはかなり難しくて、お肉であればイスラム教の人が血抜きをする必要があるんです。しかも生きた状態のまま血抜きをしないといけないという縛りがあります。1つ目のハードルに関しては、たまたまイスラム教徒でシカを捌く資格を持っているバングラディシュ人の従業員を雇うことでクリアしました。本当に偶然の出会いだったのですが、彼はカタコトながらも日本語も喋れます。イスラム教徒で、シカが捌けて、日本語も喋れる方って日本全国を見ても数人しかいないと思うので、彼との出会いが大きかったですね。2つ目の生きたまま血抜きをすることは、元来から生体搬送をしていたので実現できる内容でした。

 

ー生きたまま血抜きをするのがイスラム教の戒律ということですね。

まさにその通りです。ハラル認証のお肉を作るときは、彼がイスラム教の言葉を唱えながら、戒律に則った方法で鹿を解体していきます。他にもいくつか守らなければいけないことがあって、例えばハラルのお肉を解体する加工場にアルコールを持ち込んではいけないことになっています。そういった戒律に気をつけながら、ハラル認証のお肉を作っています。全国的に見ても、鹿肉でハラル認証を取っているところはあまりないのではないでしょうか。

 

シカを丸ごと活用し、地域の活性化を目指す

ー地域の獣害に課題を感じて事業をスタートされていますが、これまで事業を続けてきて何か変化はありましたか?

基本的にはもっと捕獲しないといけないです。今、京都府下では野生のシカが本来存在しているべき数の7~9倍いると言われているのですが、これが1年間でさらに1.3倍増えていっています。これは自然増加率と言われ、イノシシなども同じような倍率で増えているようです。つまり最初に1,000頭いたとしたら、次の年には1,300頭になるわけで。増加分である300頭を常に捕り続けても、数が減ることはないんです。

僕たちは、獣害が出ている地域に罠を仕掛けて、シカを捕獲しているので畑などへの被害自体は減っているのですが、山全体で見ると個体数はまだまだ減らせていないというのが現状です。獣害と個体数のどちらも減らしていくことが、日本全国で今後も求められることだと思います。

 

ー今後の事業展開について教えてください。

まずお肉の販売という観点では、生産量を増やして、販売も拡大していきたいと思っています。笠置町で取れるシカの量が毎月捌けている(はけている)状態なので、生産量をあげてより多くの人に届けていきたいです。元々笠置町内で始めた事業ですが、この春から笠置町に加えて両隣の南山城村、和束町と、さらに隣の木津川市の4市町村に範囲を拡大して事業を進める予定なので、取り扱いの量も3~4倍になるかなと思います。なので、販売も強化してどちらも増えるようにしたいですね。

お肉以外の部位の活用という観点では、ペットフードと鹿革の商品開発を継続していきたいです。お肉だけでなく、骨や内臓にも栄養がたくさん含まれており、ワンちゃんにとっても健康的な食材です。鹿革もとても柔らかくて、最近では「レザーのカシミア」という風に言われたりします。とても上質な革なので、こちらも商品化して広めていきたいですね。

最後に、これらの事業にどんどん地域の方を巻き込んでいきたいと思っています。ペットフードの開発や鹿革の活用に関しては、すでに何名かにお声がけしているのですが、地域に雇用を生み出していければなと思います。

以上の3つをもって、将来的には鹿が一頭丸ごと何かの形に変わって流通していくことを描いています。鹿を活用する過程で、消費者の生活を豊かにすることはもちろんですが、獣害を減らしながら雇用も生み出し、地域を活性化できる会社になりたいです。

 

株式会社RE-SOCIAL  https://www.resocial-kasagi.com/

 

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interviewer

堂前ひいな

幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

 

writer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。