プログラミング教室の枠に囚われず、オンラインでも子どもの居場所を作る。ITeens Labコロナ禍の1年

2014年から子ども向けプログラミング教室を展開してきた、ITeens Lab。2020年にコロナ禍の影響を受け、オンラインに移行した。共同代表の近藤はこの1年を振り返り、オンラインでも子どもたちにとって居場所になるためにはどうしたらいいのかを模索してきたと語る。クラス設計、コミュニケーション、先生としての心得など、さまざまなこだわりを聞いた。

【プロフィール】近藤 悟(こんどう さとし)
子どもプログラミング教室『ITeens Lab(アイティーンズラボ)』共同代表。九州大学芸術工学部音響設計学科卒、同大学院卒。在学中にバンド活動を始め、バンド解散を機にメンバーとともに起業を決意。2014年にITeens Labを立ち上げ、2020年には14教室あった教室をオンラインに移行。2017年にはITキッズフェスティバル『EXA KIDS』を立ち上げたほか、2018年には映画『電気海月のインシデント』のプロデューサーも務めた。


近藤さんの過去インタビュー記事はこちら:会社経営はバンドと同じ。バンド型企業から生まれる子どものコミュニティとは

コロナ禍でIT環境は整ったが、ハードルも多い

—前回のインタビュー(2020年7月)からの1年間で、子どもたちを取り巻くIT教育環境にどのような変化があったのでしょうか?

この1年間は、GIGAスクール構想*1 が新型コロナウイルスの流行によって大幅に前倒しになり、学校でタブレットやパソコンの導入が加速しました。学校外でも、プログラミングに関するNHKの教育番組が放送されたりYouTubeでプログラミングを勉強できる教材が見られたり、子どもたちがプログラミングに触れることができる環境は整ってきたと思います。実際に、ITeens Labに初めて来る子もプログラミングを少し触ったことがあるという子がすごく増えたと感じますね。一方で、学校のパソコンは規制がかかっていてインターネットの恩恵が受けられない、スクラッチ*2 すら禁止されているという声も聞こえてきます。ITを最大限に活用した教育が実現するにはまだまだハードルも多いのが現状だと思います。

*1 GIGAスクール構想:全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み(参考:https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/041700215/
*2 スクラッチ:子ども向け、ブロック型のプログラミング言語。世界中の教育の現場で広く使われている。

 

—近藤さんはこの1年間でどのようなことに注力されてきましたか?

2020年から教室を全てオンラインに移行しました。対面で授業をしていた時から子どもたちにとってのサードプレイスになることを重視してきたので、オンラインでも子どもたちに「自分の居場所だ」と感じてもらえるようにするにはどうしたらいいのかを模索してきた1年間でしたね。

その他にも、ITeens LabとしてYouTube配信を始めたり、別法人で運営しているITキッズコンテスト『EXA KIDS』をオンラインで開催したりしてきました。IT教育の環境が整ってきた一方、急速に変化する環境の中で今後進むべき方向を見失ってしまう可能性も大いにあるのが、転換期の今だと思います。YouTube配信やEXA KIDSは、誰も正解はわからないけれど、僕たちなりの提案をしたり建設的に議論する場を設けたりするために行なっています。EXA KIDSには様々なプログラミング教室に所属する子どもたちが参加しているので、「こういう教育をした結果、子どもがこのように成長した」というような事例を示すことができたり、プログラミング教室同士がお互いの教育方法を参考にしあって切磋琢磨できたりする場となっています。

写真右が近藤さん、左が共同創業者の古林さん

 

オンラインでも、生徒の居場所になる

—教室を1年間オンラインで運営してみてどうでしたか?

オンラインをオフラインの”代替品”とは考えていなくて、オンラインでITeens Labを展開するならどのような形がベストなのかを考えながら進めてきました。その結果、オンラインだからこそできることが見えてきました。例えば、どこに住んでいても参加できるので、今は15~20都道府県くらいから生徒が参加しています。さらに、海外から参加している生徒も何人かいて。シンガポール、マレーシア、アフリカなどに駐在されている日本人の方のお子さんが参加してくれています。いろんな子が同じクラスにいるっていうのが面白いですよね。また、スタッフもリモートなので生徒が自分の住んでいる場所から近い教室を選ぶ必要がなく、全スタッフのリソースを活かして多種多様なクラスを作ることが可能になりました。プログラミングのレベル別クラス、がっつり開発に特化したクラス、デザインや動画編集のクラスなど細分化されていて、時間さえ合えば自分の好きなクラスに参加していいという仕組みになっています。クラスを色々変えることができるようになった結果、コミュニティも流動的になって子どもたちがより多くの人と関わることができるようにもなりました。全体的にオンラインにして良かったことが多いと感じます。

 

—オンラインでどのように授業を実施しているのですか?

メインのプログラミングのクラスでは、zoom上でだいたい10~20人の生徒に対して、2~3人の先生が個別指導をします。みんな進捗はばらばらで、カリキュラムを使いながら生徒に合わせたオーダメイドの指導をしています。

 

—オンラインでコミュニティ感を醸成するためにどんなことを工夫されているのですか?

まず授業では、いきなりプログラミングの練習をするのではなくて、例えばオンラインで人狼ゲームをするなど、コミュニケーションの時間をしっかりと取るようにしています。また、常時使えるオンラインのチャットグループがあり、生徒同士がそこで自由に雑談をしています。「今から誰か一緒にゲームしよう」って生徒の1人が呼びかけて、みんなで一緒に遊んでいるみたいなこともよく見かけますね。他にも、毎週無料で遊べるクラスを開講していて、参加してくれたみんなでゲームをするということもやっています。コミュニケーションの接点をなるべく多く持つことを、地道に行なっています。

 

—子どもたちからはどのような反響がありますか?

オンラインに関しては、良い悪いどちらの声もありますね。正直、オフラインの教室に戻りたいという声もあります。やっぱり授業終わりにみんなでゲームをしてから帰るのが楽しかったみたいです。でももちろんオンラインが良いって言ってくれる子もいますね。あと、以前から引き続き、継続率はとても高いと思います。勉強が忙しくなるから他の習い事はやめるけれどITeens Labだけはどうにか続けたいとか。中学生くらいになると、卒業後はここで働きたいという生徒もたくさんいます。授業を受けているというより、コミュニティに所属しているという感覚が強いんだと思いますね。

最近面白かったのは、YouTubeのライブ配信やポッドキャストに生徒に出てもらうことがあるんですが、そこで生徒がITeens Labについて語ってくれることです。学校で友達が少ないけれどITeens Labは居場所になっているとか、学校の生徒会活動で、ITeens Labで習ったことを使ってそれまでアナログだったものをデジタル化してみたとか、本当に色々な話をしてくれます。

 

生徒の自主性をサポート

—ITeens Labが他のプログラミング教室と違うところはどのようなところなのでしょうか?

保護者の方からよく言われるのは、”自由度が高い”ということです。必ずテキスト通りに進めるというような教育方針を持っている教室もあって、そういう教室が合わなくてやめてITeens Labに来るという子もかなりいますね。また、大規模な教室だと入門レベルまでしか学べないというようなカリキュラム設計になっていることもよくあって、もっと先のことを学びたいけどその教室ではできないからITeens Labに来るという子もいます。ITeens Labはとにかくなんでもやりたいことができるというのが特徴だと思います。

 

—どうして自由度が高く幅広い授業設計が可能になっているのでしょうか?

先生の専門性が幅広いということはあるのですが、それ以上に「先生が教えられないことでもやりたいならやっていいよ」というポリシーが大きいと思います。大学の研究室のようなイメージで、先生は進め方についてアドバイスしてくれたりメンタリングしてくれたりはするけど、そのことについてすごく詳しいわけではないという感じで。先生のできることの中で完結させようとしないからこそ幅が広いんだと思います。

 

—子どもたちが主体的にやりたいことに取り組むために、どのようにサポートされていますか?

前提として、保護者さんがプログラミングをやらせたいというより、子どもが好きでやりたいからITeens Labに通うことにしたという生徒の方が多いです。なので最初からプログラミングをやりたいというやる気がある子がほとんどです。それでも、モチベーションが下がってしまう時は、先生の腕の見せ所です。例えば、シューティングゲームではなくパズルゲームを提案してみるとか、練習問題ではなくオリジナルの作品作りをしてみるとか、他のクラスを紹介してみるとか、各生徒に合わせていろんな提案をしています。

また、クラスの種類が多く、多種多様なことに取り組んでいる子がいるので、他の子の活動や作品を見る機会を多く作るということも意識しています。4ヶ月に1回文化祭を開催していて、1人1人の生徒が自分の作った作品を発表します。スクラッチはもちろん、HTML、CSS、Javascript、pythonなどいろんな言語をやっている子がいるし、3Dゲームを作っている子がいたりイラストを書いている子がいたり、本当に多様な作品が見られます。文化祭を通して、「プログラミングでそんなこともできるんだ」とか「自分もそれやってみようかな」とか刺激を受け、それが次の作品作りなどに繋がっているのかなと思います。

 

—先生方のマネジメントや研修はどのようにやられているのですか?

先生としての心得を、僕や中心メンバーでまとめ、それを伝えています。例えば、(1)まずは生徒に挑戦させて、自分で失敗しながら学んでもらうようにする、(2)やる気がなかったり真面目にやらなかったりするのはその子の特性ではなく、何かがひっかかっているだけなのでそのひっかかりをとってあげる、(3)40%くらいは強制して60%は自由にする、などがあげられます。

ITeens Labの先生としての心得や教室の空気感さえわかってもらえればあとはかなり自由ですね。余計な仕事もないですし、勤務時間も自由。生徒に良い教育ができればOKというスタイルでやっています。最近はSNS経由でITeens Labに興味を持って応募してくれる人が増えていて、働き手には全然困っていないですね(笑)。

 

プログラミング教室の枠を超えて

—今後の事業展開について教えてください。

“プログラミング教室ではなくなりたい”と思っています。正直今やっていることもプログラミングに限ったことではないんですよね。動画編集やデザインなど、ITやクリエイティブに関わることならなんでもできる教室を目指しています。音楽制作とかもやりたいですね。幅を広げてニッチなこともできるようになるためには、生徒の数や幅を増やしていく必要があります。価格で他社と競合するのではなく、完全に唯一無二な”プログラミング教室ではない何か”の枠を取りにいきます。そして引き続き、子どもたちの居場所になれるようなコミュニティにしていきたいと思います。

ITeens Lab https://iteenslab.com/

 

 

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    interviewer

    掛川悠矢

    記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。

     

    writer

    堂前ひいな

    幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。

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