会社経営はバンドと同じ。バンド型企業から生まれる子どものコミュニティとは

福岡を中心に、子ども向けのプログラミング教室を運営する近藤悟。バンドマンとして活躍した経験を意外な形で会社経営に昇華させる彼に、会社として目指す姿や子どもの学びのゴールについて話を聞いた。

【プロフィール】近藤 悟(こんどう さとし)
九州大学芸術工学部音響設計学科卒、同大学院卒。在学中にバンド活動を始め、バンド解散を機にメンバーとともに起業を決意。2013年に子どもプログラミング教室「ITeens Lab(アイティーンズラボ)」を立ち上げ、2020年には14教室あった教室をオンラインに移行。2017年にはITキッズフェスティバル「EXA KIDS」を立ち上げたほか、2018年には映画『電気海月のインシデント』のプロデューサーも務めた。

 

バンドの役割は会社経営にも通じる

―大学では音響を学んでいたそうですが、専攻を決めた理由を教えてください。

中学校からギターをやっていて、高校では吹奏楽をやって、とずっと音楽に関わってきました。大学でも何かしら音楽に関わる勉強をしたいと思い、九大の芸術工学部を第一志望、第二志望は専門学校、というように興味ははっきりしていました。

 

―その後、バンドマンを経てIT教育の分野で起業されましたが、バンドの経験とビジネスの世界はどのようにつながったのでしょうか?

僕たち、会社の構成がバンドっぽいんですよ。例えば、ワンピース型の組織づくりとかありますよね。それぞれに得意な分野があって、ルフィーの苦手なところをみんなで補うみたいな。それで言うと、僕たちはバンドを参考に組織づくりをしている感覚があります。

元々、バンドのボーカルとギタリストの僕で立ち上げた会社なので、会社においても代表はボーカルでフロントマン、共同代表の僕はギタリストっぽい役割で、バンドそのままです。ただ、2人でやっていると、ボーカルとギタリストという性格が反映されて、攻めは得意だけど守りは苦手で。そこで、社員としてドラマーの人を入れたんですよ。そうしたら総務的な役割を果たしてくれて、会社のバランスがよくなりました。バンドの役割って、けっこう性格が出るんですよ。派手なギターやボーカルばかりでは音楽は成り立たないので、ドラマーやキーボードの役割も必要です。バランスの大切さは、会社経営においても強く感じています。

事業を曲と考えると、カバー曲はやりたくないんですよね。カバー曲でステージに出るんじゃなくて、オリジナル曲で勝負したいです。ここが儲かる領域だからってテンプレートに乗っかるのはカバー曲と同じだと思っていて。そうではなく、事業においても自分たちでオリジナルを作りたいと考えています。

 

子どものサードプレイスとしての教室の役割

―子どもプログラミング教室「ITeens Lab」を始めた経緯を教えてください。

教室を始めた2014年は、子どもたちのIT教育はほとんど認知されていませんでした。プログラミング教室ってなると、東京の超先進的なところが大人向けにやっている程度でしたね。時流としてIT業界が伸びると言われていて、これからIT技術とかITリテラシー、サイバーセキュリティといった分野が国の力に直結するとも言われていました。海外の事例を調べていると、日本がかなりIT教育で遅れを取っていることがわかり、これをやらないわけにはいかないとIT×教育で起業することに決めました。

バンドでも社会的なメッセージを発信することが多かったので、起業においても社会を良くしたいというメッセージはあまり変えたくないと思っていました。そういう思いも載せられる事業として、IT×教育という分野にたどり着きました。

ITeens Labは、小学3年生〜中学3年生(一部小学1年生〜)を対象に、個別指導で子ども一人ひとりに合わせたカリキュラムでプログラミングを教えています。それぞれの子どもの得意なことや苦手なことを把握し、カリキュラムやゼミの内容を最適化させていく個別指導が強みです。

 

―ITeens Labでは個別指導やオーダーメイド型の教育を重視していますが、その理由を教えてください。

基本的に、その子が幸せになるかどうかですよね。こうした方がいいという世間一般的な考えよりも、その先に子どもの幸せがあるかどうかを真剣に考えています。

例えば、今苦手な分野を頑張って勉強するという手法があるとして、最終的にその子のためになるなら、僕たちは嫌われ者になってもいいという判断もできるので。今喜ぶか嫌がるかというよりは、もう少し長いスパンで考えるようにしています。

 

―ITeens Labに通う子どもたちにとって、教室はどんな場になっているのでしょうか。

サードプレイスとしての役割は大きいですね。特に、引きこもりや不登校の子にとって、教室が果たす役割は大きいみたいです。パソコンはすごくやっているけど学校は行かない子って、お父さんお母さんもどう判断したらいいかわからないんです。悪いとは言わないけど、このままでいいのかなという家庭の悩みを抱える中で、教室は子どものサードプレイスとして第三者と関わる場になっているようです。

子どもがやりたいことに取り組む中で、子どもはすごく楽しそうだし、自信も付く。そうすると、この子はいい方向に向かっているなと家族も自信が持てて、家族関係が円満になるという事例は何パターンも見てきました。

 

保護者を巻き込み、教室全体をコミュニティに

―ITeens Labでは、子どもとのコミュニケーションにおいてどんな工夫をされていますか?

オンラインでチャットグループを作って、教室にいないときも子どもと直接コミュニケーションを取れるようにしています。子どもに連絡しないといけないときに、保護者を経由するとどうしても事務的なメッセージになりがちなので、保護者から離れてコミュニケーションを取れる状態を作ることが大切です。保護者のいないところで子どもは成長すると思っているので、なるべく保護者から離れた状態を作るようにしていますね。

保護者向けには、オンラインサロンのような別のコミュニティを作っています。その方がめちゃくちゃ話が早くて。保護者も子どものやっていることに意識がある状態だと、子どもが何か新しいことを始めるのはすごく楽なんですよ。特にプログラミングだと、子どもが何やってるかわからないけどお金だけ払うという状況が起きやすいんですが、それでは学習の効果が低くなるのでもったいない。せっかくなら、子どもがやっていることを家族で応援する方が何倍も効率がいいので、最近は保護者もその仲間に巻き込んでいっています。

 

―オーダーメイドとはいえ、教室全体がコミュニティなんですね。

僕たち、もうプログラミング教室ってあまり言いたくなくて。習い事ではなくて、どちらかと言うとコミュニティなんですよね。

大学の研究室のようなコミュニティをイメージしています。自分で授業を選択して、先生が丁寧に教えてくれるというよりは、自分が知りたいことを聞いたら教えてくれるというような。最終的には研究室のような形が学びのゴールかなと思っているので、子どもに教え込みすぎないことは意識しています。「横のやつも別の分野だけど頑張ってるから俺も頑張ろう」みたいな、そんなスタンスがいいと思っています。

 

―ITeens Labでは、教室を卒業した生徒がスタッフとして働いていると聞きました。

教室は中学3年までですが、卒業した生徒がそのまま先生になることが多いです。ITeens Labの居場所が、子どもたちのアイデンティティになっていて。例えば中学校の生徒が、Twitterで「うちの教室の生徒増やすためになんかできんかな」ってつぶやいてるんです。ここに所属してるんだぜ、みたいな帰属意識を形成しているのは大きいと思います。教室に入ったときから、高校生スタッフのお兄さんに憧れて「俺も卒業したらスタッフやる!」と言っていた中学生の生徒もいました。その子は卒業して、今は念願のスタッフをやっています。

正直、プログラミングにめっちゃ詳しいおじさんが教えるよりも、身近なお兄さんが教える方が子どもたちは取っ付きやすいんです。プログラミング教育自体が、教えられて暗記するものではなく、自分で調べながらやるものなので、子どもがその姿を間近で見ることで受ける影響は大きいと思います。高校生にとっても教えることでさらに様々なスキルが身に付くので、スタッフになることが卒業生のためになればいいなと思っています。

 

ビジネスとカルチャーを横断し、新しい会社のあり方を見せる

―近藤さんは、ITeens Labに限らずイベント開催や映画プロデューサーなど様々な分野で活躍されていますが、活動を決めるときの軸はあるのでしょうか?

計算づくで活動を決めるというよりは、その時々で楽しそうなことをやるというスタンスです。その上で、自分が参加することでその活動がよくなるものならやると決めています。自分が入ることで面白くなるだろうし、自分も楽しいっていう感覚、つまり三方よしの関係かどうかは大切にしていますね。

多くのコミュニティで活動しているからこそ、横断性や振れ幅を出せると思っています。ビジネスとカルチャーって分断されがちなんですが、そこを横断できる人は珍しいので、僕はその横断性が強みだと思います。

 

―それぞれの活動において成果を出す上で、どんなことを意識していますか?

どの活動も続けられたのは周りのおかげで、僕一人でやっていることは大抵続かないです(笑)。
意識しているのは、自分がいいと思わないことはやらないこと。自分でやりがいを感じられなかったり、これ俺じゃなくてもよくない?っていうものはばっさり切ります。

あとは、やるならちゃんと失敗するまでやりきることが大事だと思います。世の中に出した上で反響がなかったならまだしも、判断すらされなかったプロジェクトはめっちゃ嫌ですね。自分でいいと思っていても、反響を受けるまで行かないのはモヤモヤします。ちゃんと失敗すれば、けっこう財産が残るんですよ。やれることやって爆死すれば、死に様は周りの人がけっこう見ていてくれるので。

 

―最後に、これから近藤さんが目指したい社会や世界観を教えてください。

もっと会社をバンドに寄せていくことをやりたいです。事業自体がイケてるっていうのはもちろん大事ですが、DOING(何をするか)よりもBEING(どう在るか)がイケてるっていうのを追求したい。

働き方や会社のあり方がかっこいいってことこそ、子どもに見せられる背中だと思うので。「こんなんやってていいんだ」「こんな大人もいるんだ」と子どもが思えるように、自分がいいと思うことを全部見せていきたいなと思います。

ITeens Labホームページ https://iteenslab.com/

 

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    interviewer
    河嶋可歩

    インドネシアを愛する大学生。子ども全般無償の愛が湧きます。人生ポジティバーなので毎日何かしら幸せ。


    writer
    田坂日菜子

    島根を愛する大学生。幼い頃から書くことと読むことが好き。最近のマイテーマは愛されるコミュニティづくりです。

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