ファンとの距離をデジタルで身近に。地域の小さなお店をエンパワーする事業づくり
創業時から地域の小さなお店に寄り添い続けてきた、株式会社Daft代表の的場慎一。コロナ禍にリリースしたデジタルギフトプラットフォーム『ハロトコ』をクローズし、現在新たなサービスに挑戦している。現場の声を知る彼だからわかるお店の困りごとや、サービスの検証を行う中で見えてきたことを聞いた。
【プロフィール】的場 慎一(まとば しんいち)写真、前列中央
株式会社Daft代表。学生時代から東京のスタートアップでインターンを行い、その後2019年2月にDaftを設立。非デジタル広告運用プラットフォーム『Tellad』や、新型コロナウイルスの影響を受け、実店舗事業者のデジタル化を支援するデジタルギフトプラットフォーム『ハロトコ』を運営。
的場さんの過去インタビュー記事はこちら:コロナ禍でも迅速に店舗を応援。挑戦者に必要なサービスの拡大を狙う。
もくじ
コロナ禍に迅速な判断でリリースした、ハロトコ
—前回のインタビュー(2020年6月)以降、飲食店前払いサービス『ハロトコ』はどのように利用されてきましたか?
ハロトコをリリースしたのは最初の緊急事態宣言が出た時期で、資金繰りが急に逼迫するお店が多かったんですよね。春に向けてお店の改装をするなど、大きな投資が終わったタイミングで、ズドンと収益がゼロになったというようなお店がたくさんありました。そういう方たちが銀行から融資を受けるまでの繋ぎとか、資金繰りの改善にハロトコを活用してくれました。実際に、ハロトコを利用したことで倒産を防ぐことができたという店舗も2、3軒ありましたね。また、それまではお客さんにお店に来てもらって課金してもらうというマネタイズ方法しかなかったけど、Web上でもお客さんと接点を持ちマネタイズできたことで、過去最高収益を売り上げたというお店もありました。
—その後、2020年の3月にハロトコのサービスを終了されましたよね。どのような背景があったのでしょうか?
最低でも10年後という中期的な視点で考えた時に、ハロトコがずっと価値があって愛されるサービスとして残るイメージが掴めなくなってしまったんです。前払い式のデジタルチケットは、クーポンのように割安な価格で販売し、その後のリピートに繋げるという流れを考えていたのですが、実際はお客さんがクーポンを購入したお店にリピートする確率が年間を通してかなり低かったんですよね。僕たちはお店のLTV*の最大化を仕組み化するようなサービスを作りたかったはずなのに、このようにリピート率が低いことによって最小化してしまっているというジレンマがあって、サービスを終了する決断をしました。
*LTV… 顧客生涯価値。ある顧客から生涯にわたって得られる利益。
—事業を転換される中で大変だったことはありますか?
LTVの最大化をどうしたら実現できるのか、イチから考え直すのには苦労しました。進めていくうちにいろんな課題が見えてきて、どの課題がセンターピンなのかを模索するのは大変でした。あと、ハロトコのサービス自体は伸びていたので、そこでやめるという意思決定をするまでに結構悩んだかなと思います。
Webサービスの仕組みを実店舗経営に
—新サービス『Heyman(ヘイメン)』はどのようなサービスですか?
アプリやWebサービスの概念を実店舗に持ち込むようなサービスです。Webサービスって、お客さんとの接点をWeb上で作り、会員登録してもらうことでリスト化し、どこにいてもどんな時間でもマネタイズできるという仕組みになっていますよね。また、お客さんがどういうチャネルから入ってきたのか、どのくらい回遊しているか、どこで離脱しているかとか、そういうログがデータベースに溜まっていきます。ログが溜まれば解析が可能になり、解析ができれば改善策が打てるようになります。そのようなログとデータをもとに自動化を実現したり、お客様により良い体験を体型的に提供可能になります。このようなWebサービスで可能なことを、プログラミングなどの初期投資なしで店舗でも活用できる仕組みがHeymanです。現在は、プロトタイプを開発し、神戸の古着屋や明石のホテル内のレストランなど3店舗で検証を行っています。
—どのようにサービスの着想を得たのでしょうか?
創業時から小規模店舗の経営者とコミュニケーションをとることが多くて、その時から情報格差によって引き起こされる失敗や課題があるなと思っていました。例えば、飲食店がSEO業者に20~30万円払ってホームページを作成してもらっているとします。検索も1位をとれていますが、その結果が売り上げに貢献しているかはいまいちわかっていない状態です。それで相談を受けてちょっと中身を見てみたら、月間の検索ボリュームが10くらいのキーワードで1位をとっていたんですよね。ホームページを作ったら勝手に集客ができると思っていたり、データが大事ということはわかっているけどどう収集してどう活用したらいいのか全くわからなかったり。結果、客単価と客数だけを追っている。そういう小規模店舗がたくさんあるんですよね。そういう困りごとに対して、お客さんの動きを計測できる環境を構築したり、お店以外でもお客さんとコミュニケーション取れるようにしてLTVを高めたりする。つまり広告宣伝費を可能な限り抑えてリピーターを増やすことで持続可能な利益創出の仕組みが必要だと思いました。でも、実店舗経営では自分たちで開発する費用は割けないし、外注して作っても運用・改善コストを割けないので、1利用者あたりの単価は低くとも×1万ユーザーのような、より多くの方々に価値提供をすることで成り立つビジネスモデルであればなんとか解決できるのではないかと思い、このサービスに至りました。
—コロナ禍で実店舗経営にどのような変化があったと思いますか?
コロナ前は、業界特化メディアなどに掲載して課金しておけば、ある程度売り上げが上がっているような状態でした。加えて、100店舗くらいにヒアリングしてみて感じたのは、どんな業種でもリピーターは2割程度で残りの8~9割は新規のお客さんで回しているということだったんですよね。しかし、コロナ禍で新規のお客さんがどんどん減っているので、経営が上手く回らなくなってきたというのが変化ですね。だから既存顧客の最大化が重要になってきます。今後も、大規模チェーン店などにおいては、以前と同様の新規顧客メインで売り上げをあげるモデルが残っていくと思いますが、小規模なお店は既存顧客のLTVを高めていくようなモデルを採用し続ける必要があるのかなと思っています。
ユーザー検証で見えてきたこと
—各店舗に来るお客さんにとっては、どのようなメリットがあるんでしょうか?
まだプロトタイプの段階ですが、お客さんは一度サービスに登録すると、店舗を訪れたときに店頭の端末に電話番号を入力するだけでチェックインが記録されます。それでお店をフォローする機能を使うと、独自の会員プログラムに参加できます。このプログラムには、ポイント制、スタンプカード、累計決済額に応じた特典利用などが含まれています。いろんなお店でポイントカードを提示するのって結構面倒くさいじゃないですか。そういう煩わしさがないのはメリットですよね。その他にも、フォローしたお店のシークレットセール等の特別な情報を受け取れる機能もあります。
—どのようなお客さんに利用されていますか?
Heymanを介してお店を利用するというよりは、それぞれのお店に訪れる新規・既存のお客さんが使ってくださっています。明石のホテルでは、60%くらいが40歳以上で、年齢が高い層にも使っていただけるのは意外でした。ちなみに最高齢は90歳らしいです(笑)。
—検証をする中で、面白かった発見などあれば教えてください。
お店からユーザーへの配信を週2~3回程度やっているのですが、ブロック率がゼロなんですよ。開封率もかなり高いのでこれには結構びっくりしました。好意的に思っているお店の情報はどれだけ目についても煩わしくないんだなという発見でした。また、この配信を見てからお店に来たお客さんとその話題で盛り上がるということもあったらしくて。面白い体験だなと思いました。
—このサービスでいけるな、貢献できているなと感じた瞬間はありますか?
まず、検証を実施している3店舗とも数値が伸びているということです。明石のホテルは検証3ヶ月目なんですが、リピーター率が毎月右肩上がりに伸びています。毎週ミーティングをしていますが、初週からお店の中でお客さんから良いリアクションがあったとか、こういうポイントが貯まるサービスが欲しかったと言われたとか、そういう報告を受けるのはすごく嬉しいですね。加えて、検証を進めるにつれてテストユーザーの熱量が上がってきているのを感じます。サービスを利用してこういうところに困っている、というようなフィードバックの頻度と回数がどんどん増えてきていて。良いサービスだと思ってガンガン使ってくれているのが伝わってきたことは、この領域に張りたいなという確信に繋がりました。
スモールビジネスの可能性を信じる
—ベンチマークにしたサービスはありますか?
ネットショップのBASEや、店舗運営のデジタル化をサポートするSTORESなどが好きで、サービスの根底にある思想や、その思想に基づいたサービスデザインをベンチマークにしています。これらのサービスは、個人とかスモールチームの可能性を誰よりも信じてプロダクトを磨き、エンパワーしているんですよね。そのような思想に基づいて顧客に向き合い、とにかくシンプルで実用的なプロダクトを作っていて。提供価値は違うけど、僕たちも小規模店舗の可能性を誰よりも信じてブーストしていくプロダクトを作りたいと思っています。
—地域の小さなお店をサポートすることにこだわる理由を教えてください。
お店を作ったり起業したりと、自分で旗揚げしている人が好きで応援したいという気持ちがあって。そういう人たちと飲みに行ったりするのもすごく楽しいんですよね。あと、小さなお店と創業時から密に関わっていて実態をよく知っているので、自社の提供価値が最大化できる場所として軸足を置いているという感じですね。
利益と顧客価値、両方の最大化を目指して
—このタイミングで出資を受けられたのはどうしてですか?
「10年この領域で張れる」という気持ちが固まったんです。以前から投資のオファーをもらうことはあったんですが、バイブスが上がっていなくて。社員にもそれならやめたほうがいいって言われたり、投資家に対しても不誠実だと思って受けなかったんです。でも今は、絶対にやり続ける確信が生まれたのでこのタイミングで出資を受けました。
talikiファンドを選んだ理由は2つあります。1つはLPをフル活用するファンドだということです。丸井グループや京都信用金庫などとDaftのサービスはかなり親和性が高いと思っているので、LPの方々のお力を最大限に借りたいなと思っています。もう1つは、いろんな投資家の方とお話する機会があって、「投資後はこういうサポートします」と言ってくださったんですが、そういうサポートをtalikiは投資前からしてくれていたなと思ったんです。今後少なくとも10年背中を預けて一緒に頑張っていくことを考えた時に、talikiから投資を受けることを決めました。
—今後の事業展開について教えてください。
会社の利益を最大化すれば、それだけ投資できる額も増えるじゃないですか。最終的には、うちが利益をあげればユーザーの利益も伸びるし、周辺領域にも投資の循環が回るというところを目指しています。利益の最大化と顧客価値の最大化をシーソーゲーム的にやるのではなく、両輪しっかりと回していきたいです。
Heyman サービスページ https://lp.heyman.cloud/
Heyman iOSアプリ https://apps.apple.com/jp/app/heyman/id1598863753?l=en&fbclid=IwAR2sASbU-ABn_1uiAkdF0SLp9IxigH-VsuxmJd3tHGnw4SDkjKYwcSBR8Bg
株式会社Daft https://www.corp.daft.co.jp/
interviewer
掛川悠矢
記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。
writer
堂前ひいな
幸せになりたくて心理学を勉強する大学生。好きなものは音楽とタイ料理と少年漫画。実は創業時からtalikiにいる。
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