小型EV船の自律航行技術で水上モビリティを変革。水上体験の素晴らしさを広め、離島の生活を守る

日本の離島では過疎化や少子高齢化が進み、島民の生活を支える水上航路の担い手がいないことが問題になっている。株式会社エイトノットは、複数台の自律航行小型EV船をネットワーク管理し、必要なときにすぐに水上モビリティが利用できる環境を構築することで、この課題を解決しようとしている。2023年に物流サービスとして社会実装、2025年には旅客を乗せた運用の実現というロードマップを描く。CEOの木村裕人に、2021年8月から10月にかけて行った実証実験や、自律航行技術を社会実装する上での戦略などについて聞いた。

【プロフィール】木村 裕人(きむら ゆうじん)

株式会社エイトノットCEO。アメリカの大学を卒業後、新卒でアップルに入社。その後デアゴスティーニ・ジャパン、バルミューダと2度の転職を経て、ロボットのプロダクト開発に携わってきた。2021年3月に株式会社エイトノットを創業。学生時代からダイビングやSUPなどのマリンレジャーが好きで、小型船舶の操縦免許も保有している。

水上体験の素晴らしさを広め、離島の生活航路も守りたい

ーまず、起業の経緯を教えてください。

僕がもともと海が好きで、水上体験の素晴らしさを色々な人に感じて欲しいと思ったのが、水上モビリティとロボティクスやAIを掛け合わせた会社を創業した最初の理由です。

「海ってとても広いけれど、遊ぶ上での自由度が少ない」。ボートを借りて海に出たりして遊んでいる中で、このように疑問を感じたことがありました。海に出ても目的地になるような場所は多くないですし、車のようにコインパーキングがあって自由に船を停められるわけでもありません。日本は海に囲まれた国だけれど、細かな制約があって、海に対して親近感を抱きにくいのではないかと思ったんです。僕は水上体験の素晴らしさを、もっとたくさんの人に感じて欲しくて。僕が前職までで関わってきたロボティクスやAIの技術を使って、水上移動が誰でも気軽に使えるような世界を作ることができれば、その夢が実現できるのではないかと考えました。

そのような世界を実現できれば、社会課題の解決にも役立つということが、色々調べている中で分かってきました。日本の離島では船員さんの高齢化などで、生活航路と言われる離島の足になる便の維持存続が難しくなっています。大分県津久見市では、実際に2022年の9月に生活航路の事業者が撤退するというニュースも出てきています*。大分県の1つの航路だけの問題ではなく、日本全体の離島で高齢化によって生活を維持できなくなるタイミングが来るでしょう。実際に現地に行って色々な方にお話を伺いましたが、「自分たちの生活をこれからも同じ形で続けていけるとは思えない。思い入れのある土地に住み続けたいけれど、本土に渡って老人ホームに入ることも考えないと」としんみりと語っていたのが印象的でした。自分が住みたい場所に住むというのは当たり前のことだと思っていましたが、それができなくなる可能性があるということを知り、何とかしないといけないと感じました。航行の自律化の技術によって解決ができるのであれば、と思い、現在取り組んでいるところです。

*毎日新聞「船員不足、離島航路に影 運航会社撤退、後継探し難航 津久見 /大分」2021年9月25日

 

ー素人目には、船を自律航行させる技術の開発というのはとても難しそうに感じます。

細かい技術面に関しては、先行している車やドローンの自動運転の技術の応用が効くんです。我々のゴールは自律航行の技術を作ることではなく、社会に実装してユーザーさんに使っていただくことです。なので使えるものはフル活用して、安く早く実用的な技術を作るということに重点を置いて開発をしています。

社内のメンバー全員がロボットに対して専門知識を持っているので、プロダクトのコンセプトとしては「船をロボット化する」というところを意識しています。船という既存の形にとらわれず、水上モビリティのロボットとして、制御しやすく使いやすいものを作れるよう取り組んでいます。

 

ー離島で地元の方にお話を聞く機会があったとのことですが、具体的にはどこに行かれたんでしょうか?

2021年の8月から10月にかけて瀬戸内海で実証実験を行いました。具体的には広島県の大崎上島という、橋のかかっていない完全離島と、大崎上島からしか行けないいわゆる“2次離島”と言われている生野島という島です。そこの方にはじっくりお話を伺うことができました。

 

ーどうして実証実験の場所として大崎上島を選ばれたんでしょうか?

3つ理由があります。

1つ目は開発における理由で、自律航行の技術を作るにあたって、初期の実験はある程度海峡が穏やかな場所で実施したいという希望があったんです。瀬戸内海という環境は希望にぴったりでした。2つ目はビジネス的な側面で、ある程度人口の規模のある島がよかったという理由です。自律航行の活用方法を検討するにあたって、人が全然いないところだと取れるデータが少なくなってしまい、実証実験としては効果が薄いですよね。大崎上島は7000人くらいの人口規模があるので、この条件も満たしていました。3つ目は、CTOの横山が大崎上島にある広島商船高等専門学校に通っていたので、人脈や土地勘があったためです。最初の実証実験の場所としては適切だったと思います。

 

実証実験で得られた成果、今後のハードル

ー実証実験を終えて、得られた最も大きな成果は何でしょうか?

ユーザーの方に、自律航行技術でご自身の生活がどう変わるかということを想像してもらえたことが非常に大きかったと思います。やはり言葉だけで「自律航行の技術を作っているんです」という話をしても、実際のエンドユーザーさんにとってはどうでもいい話で。それよりも、この技術があるとどんなサービスができて、自分の生活にどんなポジティブな影響があるのかというところを感じていただく必要があります。この点を実験段階とはいえお示しできたというのは大きな成果でした。

 

ー実証実験を行いつつ、地域の住民の方々とはどのようにコミュニケーションを取られていたんでしょうか?

コロナ禍における制約はありましたが、オンライン面談や電話で「こういうことをやろうと思っています」というお話をこまめにしていました。そのこともいい方向に働き、今回の実証実験ではすごくいいチームができたなと思っています。実証実験自体は広島県の「D-EGGS PROJECT」というアクセラレーションプログラムで採択していただいてスタートしたのですが、大崎上島の役場の方、広島商船高専の教員や学生さん、日用品の販売をしている地元のスーパーの方、生野島の住民の方と協力して進めていきました。少し前までは赤の他人だった人たちと、「みんなで一緒に文化祭を盛り上げていこう!」というような雰囲気のチームを作ることができました。

 

 

ーそれぞれの関係者の方たちは、どんな役割を担われたのでしょうか?

役場の方は、地元に連携を作っていく上で色々な調整をしていただいて、チームの土台を作るところに大きく寄与していただきました。町長さんを筆頭に「町としてバックアップします」ということをしっかり打ち出してくださったので、関係各所にスムーズに入っていくことができましたね。最初は漁協さんや警察消防、島民の方々に挨拶して回ったのですが、「広島県も役場も協力しているらしいし、一緒にやってみるかな」というようにスムーズに話が進みました。広島商船高専に関しては、彼らなしでは実証実験ができなかったというくらいサポートをしていただきました。僕たちはロボットの専門家ですが、海や船に関してはまだまだ勉強中な部分があり、彼らの知識は自律航行をさせる上でかなり重要でした。例えばどこだったら安全に船を走らせることができるかという海図を作る必要があったのですが、完全に学生さん主体で調査を行っていただきました。他にも学校の持っている桟橋を使わせていただくなどハード面でも全面支援いただき、実証実験を進めることができました。

 

ー逆に、今後ハードルになりそうな部分はどんなところでしょうか?

実証実験前から予想していたことではありましたが、離島での運用だけでビジネスを成立させるのが難しい側面もあると感じましたね。最初に誰が船を買ってシステム導入をして、誰が運行をするのか。それで本当に収益が得られるビジネスになるのか。やはり離島だけに絞ると成長速度が落ちてしまうという懸念があります。離島以外でも運用する選択肢を視野に入れていく必要があるということが、実証実験を経て分かってきました。

 

実績を積み上げ、一つ一つ障壁をクリアしていく

ー既存の生活航路がなくなると、人の移動はもちろん、モノの移動も難しくなりますよね。物流のサービスとしても展開していくことは考えていらっしゃるんでしょうか?

マイルストーンとしては最初にモノの移動があります。具体的には2023年の後半に自律航行船を使った物流サービスの展開を目標に置いており、2025年に旅客を乗せたサービスへ展開するというステップを考えています。理由としては技術面と法律面の2つの理由があります。

技術面では、いきなり人の命をお預かりしてモビリティを動かすというのは安全面の設計上難しいところがあるので、まずはしっかりモノを運ぶ技術を高め、その技術を旅客を乗せたサービスに展開していくという形がいいだろうと考えたためです。また法律面では国土交通省をはじめとした国や自治体に働きかけをしていく必要があり、そのためにもしっかりと実績を積み上げなければなりません。つまり最初はモノを運び、しっかり運ぶことができたという実績を作る。その技術を使っていたら人を輸送するニーズも見えてきて、僕たちの技術で実現ができるので、それに合わせた法律を整備してくださいという提案の仕方をしていこうと考えています。

 

ー法律のお話もありましたが、規制などがあり、交通の業界は新しい技術でスタートアップが入っていくのが難しい業界なのではないかと思います。木村さんの目から見て、どのような参入障壁があるとお考えですか?

できない理由を探すのは簡単な業界だと思います。技術面の問題よりは、規制や既存の仕組みなどが理由で全く進まなくなってしまう可能性はあると思いますし、我々として現在掲げているビジョンが全部実現できる確証があるかどうかと言えば、断言はできません。とはいえ僕たちとしても難しいから辞めますというつもりはないんです。僕もメンバーも、なんとしてもやり遂げるという覚悟で創業していますので、一つ一つハードルを乗り越えていければいいと思っています。

ただ、これまでの実証実験などを通して風潮が変わってきたと感じる場面もありました。例えば、実証実験のことを知った中国運輸局の方が視察にいらっしゃっることがありました。社会実装に必要なことがあればご協力いただけるというお話もいただき、流れとしては大きく動き出そうとしているところで、必要としてくださる方がいらっしゃるということに関しては確信を持っています。

 

環境へ配慮したことが、ユーザー体験の向上にも繋がった

ーEV船には将来的に太陽光パネルを搭載し、ゼロエミッションを謳われていますよね。従来使われてきた、既存の船舶はまだまだ電動化ができていないんでしょうか?

大型船に関しては電動化は難しいと思います。バッテリーの容量と、船が必要とする出力のバランスで電動化ができるかどうかが決まりますが、バッテリーを巨大化すればするほど船が重くなってしまうので電力で大型船を動かすことはできない。それで海運業界では、水素エネルギーや燃料電池に舵を切る動きが盛んになってきています。一方で僕たちの開発しているような小型船は、長距離運行には向いていませんが、電動化することは可能です。離島部の近距離交通や物流というところでは、十分に実用可能だと思います。最初は陸上でバッテリーを充電して走らせるというオペレーションになると思いますが、将来的には搭載しているソーラーパネルで運行中に充電し、できる限り陸上からの充電なしにオペレーションができるようにしたいと考えています。

 

ーゼロエミッションを打ち出されていることに対して、世の中からはどんな反応がありますか?

自治体の皆さんからは「これからはゼロエミッションだよね」というように前提としてお話していただいています。それから、実証実験の中で印象的だったのが、「船が静かでいいよね」「燃料の匂いがしなくていいよね」という反応をいただいたことです。従来はエンジン音がうるさくて会話をするのもままならなかったり、燃料の匂いで気持ち悪くなってしまったりすることがあったんですよね。全く意識していなかったことだったのですが、電動化したことがユーザー体験の向上にも繋がっていたんです。

 

水上交通から新しい経済圏を

ー交通というハードルの多い領域でありながら、メンバー全員がやり遂げる覚悟を持たれているというお話がありましたね。チームの皆さんが士気高く関わられている要因はどんなところにあるんでしょうか?

みんなバラバラのモチベーションを持っていて面白いんです。私は水上体験の素晴らしさを伝えたいという思いが強くて自律航行に関わっていますが、例えばCTOの横山はロボットの専門家としてずっと働いてきて、ロボカップの世界大会で優勝経験もある人材です。なんでもロボット化したいという想いが強い人間ですね。船をロボット化するという初めての挑戦を、何としても自分が成功させたいそうです。それから堂谷という共同創業者はサーフィンなどマリンレジャーが大好きで、かつ組織づくりのプロフェッショナルでもあります。自分の理想とするチームを作りたいというところに対してモチベーション高く取り組んでくれています。それぞれが個々に専門性を持っていてバラバラなように見えるのですが、海とロボットという共通項で繋がっていて、そこが我々の強みだと思っています。

 

ー今後広島以外では、どんな地域で社会実装を進めていく予定でしょうか?

広島ももちろん継続してやっていきますが、2022年中には静岡県の浜名湖で、観光用途の自律航行船として活用できそうか実証実験を行う計画もあります。率直に言うと、離島の生活航路で人を乗せて運行するようになるよりも、観光用途の実装の方が早く実現できるのではないかと思っています。生活航路はもし一度実装してから止めてしまうようなことになれば、離島の人々の足がなくなることになってしまいますよね。より慎重な運用が必要になるということで、もちろん最終的には取り組んでいくつもりですが、社会実装のしやすさの点では観光用の方が早いという想定をしています。

 

ー今後の事業展開について教えてください。

3月に創業して、半年強くらいで自律航行の技術は形になってきました。次のステップはどんなユーザーが使ってくださるのか、どのような形であればユーザーの課題を解決することができるのかを考えることで、2022年に取り組んでいきます。そこが形になればプロトタイプを作り、導入を進めていくことになりますが、2023年の後半には物流サービスとして社会実装を行っていきたいと思っています。そして2025年には旅客サービスとしての展開も進めていきたいですね。ちょうど大阪万博という大きなイベントも控えており、規制緩和のチャンスだと思っているので、使える技術としてお披露目できればと思っています。

 

ー最後に、事業を通して目指したい社会像について教えてください。

日本は世界でも稀に見る少子高齢化が進んでいて、今まで当たり前にできていたことが難しくなってくるというのが目に見えていますよね。今の流れが今後さらに進んだ時、今の暮らしを維持するにはどうしたらいいかと考えると、ロボティクスやAIの技術を活用して、人が介在しなくてもオペレーションを維持できる仕組みづくりが必要です。我々は水上交通という分野で技術を使い、社会インフラを支えていきたいと思っています。

また個人としては、やはり水上体験の素晴らしさを多くの人に感じて欲しいんです。さらに発展した話としては、水上航行を利用した新しい経済圏を作りたい。歴史上、電車や道路が敷かれてその周りに家や商店ができ、色々な経済圏が発展していきましたが、海でも同じことができるのではないかと思います。実証実験を行った瀬戸内海では、多くの離島に観光資源がありますし、人が少なくなってしまったところには、例えば船でしか行けないレストランを作って人を呼び込むとか。新しい体験を水上交通から発信していって、人々の暮らしの中に常に水上交通というオプションがあるような世界が実現できれば嬉しいです。

 

株式会社エイトノット https://8kt.jp/

 

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interviewer

細川ひかり

生粋の香川県民。ついにうどんを打てるようになった。大学では持続可能な地域経営について勉強しています。

 

writer

掛川悠矢

記事を書いて社会起業家を応援したい大学生。サウナにハマっていて、将来は自宅にサウナを置きたいと思っている。